キリンチャレンジカップ2013
2013.08.14(水) 19:24キックオフ(宮城/宮城スタジアム)
日本代表 2-4(前半0-2) ウルグアイ代表
得点 ディエゴ・フォルラン(27、29)、ルイス・スアレス(52)、香川真司(54)、アルバロ・ゴンサレス(58)、本田圭佑(72)
――コンフェデレーションズカップの後、久しぶりに国内に強チームを迎えてのキリンチャレンジカップでしたが完敗でした。守備の固いウルグアイを相手に柿谷曜一朗を加えたFWがどんなプレーを見せるかを楽しみにしていましたが、前半27分と29分に2点を奪われ、後半は2点を取ったが2点取られて結局2-4でした
賀川:まさか攻撃の方に意識がいって、守りへの気配りを忘れたわけではないだろうが、試合前の相手チームの説明や、攻守の約束ごとなどはどうしていたのかな。そんなことを思うほど不思議なものでした。
――1点目を奪われたのは、左サイドのスアレスの突破からでした
賀川:これは日本の柿谷と岡崎慎司の2人の右サイドの攻撃を防ぎ、そこからスアレスの前へボールを送った(パスを成功させた)背番号3のCDFディエゴ・ゴディンのうまさが生きました。まことに「理屈にかなった」パスでした。
――と言うと
賀川:大事な場面だから少し長くなるけど話しておきましょう。27分のウルグアイの先制ゴールですよ。ことの起こりは日本の攻撃を防ぐところからですが、その日本の攻めは右サイドのタッチライン、ハーフウェイラインあたりの内田篤人のスローインから始まるのです。
――(1)内田が内側にいた柿谷に投げた(2)柿谷はゴディンを背にしてトラップし、外から内へ入ってきた岡崎にパスを渡した(3)岡崎は彼をマークするマルティン・カセレスの内側を抜こうとした(4)しかしCDFのゴディンが奪い取った
賀川:(5)おそらく岡崎が最初のタッチで持って出ようとしたのをゴディンが奪ったのだろうが、ゴディンは岡崎のタックルを避けるためにワンタッチでタッチラインの方へ大きくボールを動かした(6)そしてそのボールに回り込むようにして右足を踏み込み、左足でキック、前方へ高い球を送った。それが見事な40メートルのパスとなった。(7)ボールは内田の頭を高く越え、ハーフウェイラインを越えて12~13メートル日本側へ落下した。
――(8)そこへスアレスが走りあがっていたというわけですね
賀川:ルイス・スアレスというFWはプレミアリーグの名門リバプールで得点もしっかり取っている。彼とディエゴ・フォルランの2トップはおそらく試合前から日本のDF陣には脅威だったはずですよ。
――そのスアレスがゴールの落下予想地点へ走り出した時、マークする吉田麻也はうしろから追う形となった
賀川:一流のストライカーが相手の裏を取る動きにはいつも感心するのだが、この時もスアレスは吉田との位置をしっかり見ていた。(1)の内田のスローイン(つまり日本ボールの攻め)の時に吉田がDFラインから少し前へ出るのを見ながら吉田より1メートル日本ゴール側にいて、吉田の動きに合わせて少し戻り、ゴディンがボールを奪った瞬間に中に視線を移して(今野泰幸の位置から自分がオフサイドではないことを確認)、ゴディンのキックの瞬間には反転してスタートしていますよ。
――吉田がスアレスの後方からではなく、前に出ていたのは
賀川:味方ボールの攻撃の時だから、相手から離れてボールを受けられる位置を探していたのかもしれない。まあ、このクラスのFWがいるときは普通はもう少し慎重なポジションどりになるものだが、「攻め」に頭がいっていたかもしれない。いずれにせよスアレスの位置を頭の隅に入れていたはずのCDFゴディンの奪ってすぐのターン、キックでスアレスは吉田を置いてけぼりにして突進した。原稿用紙3枚でこの場面を書いているが、ほんの2、3秒のことですよ。
――(9)スアレスは一気にドリブルしてペナルティエリアの左角のうちに入り、そこから中央やや後方のフォルランへパス
賀川:フォルランのマーク役、今野はスアレス側に引き付けられ(もちろんフォルランのコースを意識しただろうが)フォルランはゴール正面10メートルでダイレクトシュートした。いったんスアレスに身構えることになったGK川島永嗣に、このシュートを防ぐ手立てはなかった。
――テレビ解説でディフェンダーはフォルランに絞るべきだという人もいました
賀川:その手もあったかもしれないが、さてどうだろう。スアレスはパスを出す前にもスピードを緩め、今野の足の間を通す余裕を持っていたね。
――賀川さんがゴディンのパスを蹴ったタイミングにこだわるのは?
賀川:相手のDFの守備ラインの裏へボールを送り込むスルーパスは時には短く、鋭いものもあれば、浮かせて裏へ落とすものもあり、またこのゴディン、スアレスのように長いパス、いわゆるロングボールに近いものもあるが、大切なのはそのパスを出すタイミングなのです。そしてそのタイミングを相手に悟られない、相手の読みを狂わせるボールを蹴る姿勢があると私は考えています。もちろん私だけの考えではありません。おそらく世界共通の話です。
――この試合でもそれがあったと
賀川:そう、後半の日本の1点目を思い出してください。これは真司のパスが右へ渡り、そこから左へゴールが動いて遠藤が左でキープします。そして中央の本田へスクエアパス(横パス)を送った時、この相手のDFラインの前を通ってきたボールを本田がワンタッチでボールを浮かせて前へ送りました。
――ダイレクトパスでした
賀川:しかも本田の体は左へ向いていたでしょう。もちろんこの本田の姿勢は左利きの彼にはボールを扱う得意の姿勢ではあるのですが、そこから出てきたダイレクトの浮き球がDFラインの背後に落ちた時にウルグアイのDFは一瞬混乱しました。GKフェルナンド・ムスレラが飛び出し、岡崎ともつれてボールが左にころがり、そこに香川真司がいてノーマークで誰もいないゴールにシュートを流し込んだのです。
――ダイレクトのパスというタイミングの読みにくいパスが効いた
賀川:そう、遠くても近くても、原則的には同じなのです。同じことがこの日の相手の4点目にもあったでしょう。ウルグアイがキープして攻め続けたあと、ニコラス・ロデイロがペナルティエリアいっぱいからフワリと浮かしてゴールポスト近くへ落とし、3人のDFの裏を突かれ、飛び出したGK川島は取れずにアルバロ・ゴンサレスのヘディングで4点目がゴールに飛び込みました。
――日本の失点の3点目は吉田が相手のクロスを左足で蹴ったボールがスアレスに渡って決められました。これで吉田を責める声が大きくなりました
賀川:吉田は左サイドキックでクリア(あるいはパス)しようとした。スローで見ると、左足がボールに当たる前にインステップで当てる角度を変えているから、ひょっとすると遠藤あるいは別の仲間にパスしようとしたのかもしれません。
――もしそうだとしても、それを失敗したのだから、やはり責任は問われるでしょう
賀川:まあそうですが、ここで面白いのはスアレスはいわば吉田からもらった、棚からぼた餅のチャンスをしっかり決めたことです。私たち1930~1940年代の旧制中学生は1試合で3点は絶対取るのだと言っていました。それは(1)FK、CKの停止球からのチャンス(2)自分たちのパス、あうんの呼吸がつながった時のチャンス(3)相手のミスによるタナボタのチャンスが1試合には3回あって、それを決めることだと教えられ、また実行してきました。
――それはレベルの低かった時代という人もいます
賀川:今の、このレベルの高いウルグアイ代表と日本代表の試合にもタナボタがひとつずつあった。ひとつは吉田のパス。もうひとつは、ウルグアイDFのキックが仲間に当たってゴールの方へころがり、前に出ていた岡崎がノーマークでシュートチャンスを持ちました。
――このタナボタのノーマークシュートを岡崎はゴールキーパーの上を抜こうとして失敗。そのリバウンドを取った香川のシュートもGKの正面でした。そういえば、相手はフォルランが前半にすばらしいFKを決め、後半に本田がいいFKシュートで2点目を取りました。
賀川:日本はタナボタを決めていれば3得点です。さらにFKから本田-香川でノーマークシュートのチャンスをつくりました。
――相手のファウルが増えていた時、いい位置でのFKが日本にあった。本田のFKがこわいものだから、本田がボールを置くのを何とかいやがらせをしに3人が近くに集まってきた
賀川:それを本田は逆手にとって、近づいてきた相手の間を短く通す「すばやいFK」をDFの裏へ流し込んだ。
――本田の意図を察した香川がノーマークでボールを取り、奪いに来る相手を右にかわしてシュートした
賀川:そのシュートはGKに当たった。この時、香川の右へ岡崎と柿谷が並んで走りこんでいたのに…
――香川のミスですかね
賀川:このところ、真司のシュートは決まっていない。この試合でも日本の20本のうち、彼は6本シュートし1点だけ。率としては悪くはないが、あれだけいいポジションに走りこむ能力と、すばらしいボールの処理能力を持ちながらだから、本人のためにも代表チームのためにも、もったいないことだ。
――なぜでしょう
賀川:先のタナボタのリバウンドのシュートも無理な体制で打っている。本田とのあうんの呼吸のシュートを相手ひとり右へかわした後、無理な体勢(この形で蹴れば、GK正面へしかボールはゆかないというのに)で蹴っている。自分で点を取りたいのはわかるが、後者の時はやはり有利な仲間へパスするという原則を忘れている。
――タナボタの話は
賀川:裏でボールをもらった岡崎がGKの上を抜こうとしたでしょう。上を抜くボール、つまり浮き球を蹴るにも、もっと楽な構えがあるはずでしょう。そしてまた片言隻句でよく言っているとおり、上を抜くよりもゴールの幅を使う方がやさしいはずなんですよ。
――ウルグアイ戦では、FWがボールを取られた後がピンチになることをまず学びました
賀川:サッカーの常識ですが、先制されたゴールだけでなく、いいFWを持つチームはそのFWへ供給するタイミングも上手になります。日本は人数をかけて攻めるから、奪われた時は一気にピンチになります。この対策をしっかりしておかなければ、いつでも同じ点の取られ方をするでしょう。
――1対1の強さも浮き彫りになりました
賀川:これは半永久的な課題で、組織プレーを高めることと個人力をアップさせることは決して相反することではなく、両方を上げていくことです。特にボールを奪う力は個人的にもっと工夫が必要でしょう。守備力の向上は世界的に見ても攻撃力アップよりは早いはずですが、この分野で足踏みしているというのも面白いことでしょう。
――攻撃は
賀川:両サイド、DFなのかMFなのかそのポジションは別として、サイドからの意識をもっと高める必要はあります。香川が自ら左サイドへ上がっていくこと、右へボールを散らすことをきちんとやれるように来ているけれど、ここでの攻め手をもう少し増やせばいいでしょう。ただし、外からのクロスの精度を高めるだけでなく、外から内へ入ってくる選手のシュート力、シュート意欲をもっと高めなければ相手の脅威にならないでしょう。日本のもうひとつ格上のスペイン代表は、ここの強さがない分、同じスペイン流でもバルサに比べると攻めの幅が狭く、そのために苦労しています。
――柿谷は
賀川:柿谷の登場でテレビでも新聞でもボールタッチ、ボールコントロールのすばらしさと、その効能が語られるようになりました。その意味では彼の功績は大きいと言えます。
――本当は本田や香川があらわれたときに同じ話題になってほしい気がしましたが
賀川:それはともかく、彼が代表に入って役立つためには、その持っている素質を生かす体や早さ、そしてシュート能力などがいよいよ問題になってきます。日本代表では香川真司がシュートの居残り練習をしていると聞くが、残念ながらその練習がどうなのか見ていません。彼ほどの選手があの程度のシュート感覚でいることの方が私には不思議なのです。この点については前から考えていることもありますが、いまはもう少し真司の伸びしろを見てみたい。
――マンチェスター・ユナイテッドというビッグクラブに入って、彼の身辺もとても忙しくなりました
賀川:当然のことながら、J2にいた時のように純粋にサッカーだけに打ち込める環境ではないでしょう。本来なら、こうなる前にもう少しレベルアップしてほしかったのだが…
――柿谷にもそういう時期が来るかもしれません
賀川:いまはひたすらパスを受け、パスを出し、シュートを決めることに打ち込んでほしいものです。道草を食った彼は香川より2年遅れていることがプラスになってほしいと考えています。
――豊田陽平というストライカーについては
賀川:ウルグアイ戦では柿谷ももう少し時間がほしいと思ったくらいですから、豊田は時間が短くて気の毒でした。自分の役どころを心得ている動きを見せていました。苦労してきた選手だから、チームワークの考えはしっかりしていると思います。定評あるヘディングが身長のある外国DF相手にどんなふうに力を出せるのかは見たいし、右のシュートは上手だが、左がどの程度なのかも知りたいところです。
――ストライカー候補のいいのがあらわれたから、賀川さんには楽しみが増えましたね
賀川:この後の長居でのグアテマラ戦、横浜でのガーナ戦といった9月のキリンチャレンジがとても楽しいものになると思っています。