フル代表

2019年6月9日 日本代表 対 エルサルバドル代表

2019/06/11(火)

2019/6/9(日)日本/宮城県・ひとめぼれスタジアム宮城
日本代表 2-0(2-0) エルサルバドル代表

――久保建英の話はのちほど、たっぷりお伺いします。2戦続けて3バックで臨み、この試合では追加招集のFW永井謙佑が2ゴールを挙げました

賀川:永井はとても脚が速い選手で、2012年のロンドン五輪代表でしたね。このクラスの選手は本当にレベルが上がっています。自分たちの年齢層の日本代表のサッカーというのを彼らなりに持っているような印象を受けます。これまでの代表からメンバーが入れ替わっても、自分たちの特長、個人技に合わせたやり方を周囲が理解しています。従来の日本代表のサッカーの中に彼らなりの力に合わせたプレーがありました。永井のスピードもそのひとつ。だから見ていて安定感がありました。新しい日本代表だから、コンビネーションプレーがどうこうというのでなく、彼らの世代なりの呼吸というのが自然に出ている感じがしますね。

――前半19分の永井のゴールは冨安からのフィードを受けたカウンターでした

賀川:1点目も前半41分の2点目もサイドから縦に、ペナルティーエリアの根っこの深いところまで入り込んで、そこから中に入っての決定機でした。定石的ではあるけれども、定石的なことが新しいチームになって、顔ぶれが変わっても、できている。これまでの代表のサッカーのやり方に対する積み上げを感じますね。安心して見ていました。

――代表のFWはロシアW杯で活躍した大迫が抜け出ている感じで、次の名前が出てこないような状況でした。追加招集で得たチャンスを生かした永井は期待できますね

賀川:相手が遅すぎるのか、永井が速すぎるのか、とにかく自分の特長を出していました。あれだけの走力があって、国際試合でも一歩一歩、常に優位に立てれば、自信になるでしょう。単に速いだけでなく、トップスピードでボールを受けるときでも、あまりミスをしません。個人的な技術力も上がっているのでしょう。サッカーはこういうときは、やっている選手はおもしろいものです。見ている我々もそうです。相手は大変ですが。スピードがあるので、代表では途中出場の切り札タイプに分類されそうですが、2ゴールと結果を出したわけですし、スタメンを狙う気概でやってほしいですね。もちろん本人もそのつもりでしょう。

――FC東京の先輩、永井が前半で2点を奪ったので、森保監督は18歳久保建英を出しやすくなったのでは。後半22分からの登場でした

賀川:もっと久保を見たかったと思った人が多かったかもしれませんね。森保監督なりによくよく考えて、うまくA代表デビューさせましたね。

――94歳からみた18歳はいかがでしたか

賀川:落ち着いていますね。後半28分、右サイドでボールを受けた最初のプレーでドリブルをしかけて、左に持ち替えて、シュートまでいきました。シュートもインステップで蹴っていました。あの角度で低いボールならば、だいたいGKの守備範囲にいくので、引っかけ気味に、もう少しボールの下を蹴って、GKから遠いサイドのゴールの上を狙うような余裕があれば、たいしたものでしたが。そこまでできるかと思っていましたが、そこまで求めるのはぜいたくで、欲張りというものでしょうね。ファーストタッチからとにかく落ち着いたプレーの連続でした。ソツがない。入ってから20数分、ほとんどミスがなかった。うまいです。

――出てからしばらく久保にボールが集まってきませんでしたが、そのシュートを打ってから久保を経由しての攻撃が増えました

賀川:代表でレギュラーを争う同じような立場の選手は競争しているわけですから、自分がシュートを打って点を取ってアピールしようと思っているでしょう。久保のことなんか考えていないでしょう。もうひとつ上の世代で実績のある大迫らは久保にボールを渡して、どんなプレーをするのか見たいというような考えがあったかもしれませんね。

――長くサッカーをみておられます。久保のような若い選手で印象に残っている事例は

賀川:釜本邦茂の10代のときと比べてどうや…という話になりますが、日本のレベル全体が上がっているので、単純に比較しにくいですね。釜本の場合は身体能力がずば抜けていた。体が強くて、ヘディングも負けない。グラウンドにドーンという存在感があった。天性のボールをとらえる力はありましたが、技術的にはこれからの選手だった。この素材をサッカー界としてどう伸ばしていくか、という存在でした。久保はサイズ的には普通の大きさですが、技術面で今のA代表の連中と比較すると、ボール扱いならば、上回るぐらいうまい。その上落ち着いていて、判断もよくて、常に周りを見ている。若いのに守備力もそこそこあって、相手のボールを奪い返しにいく。見ていて楽しいですね。と言ってもまだ18歳ですよ。23、24歳の代表レギュラーの中に入って普通にプレーしているわけですから。並の選手ならあそこに入っただけで、ボールを止め損なったり、ミスの1つ2つをやってもおかしくないです。ブラジルのネイマールも2014年のブラジルW杯のとき、チームで最年少でしたが、彼が引っ張っていました。どこの国にもそういう選手がいましたが、これまで日本にはいませんでした。久保のおかげで日本のサッカーの楽しみが広がりました。長生きするものですね。森保監督はがらりとメンバーが替わる南米選手権では中心選手として起用するのでしょうか。本気の南米勢を相手にどんなプレーを見せてくれるのでしょうか。楽しみですね。

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2019年6月5日 日本代表 対 トリニダード・トバゴ代表

2019/06/06(木)

2019/6/5(水)日本/愛知県豊田市・豊田スタジアム
日本代表 0-0(0-0) トリニダード・トバゴ代表

――お住まいがある神戸で開催され、久々に取材に出かけられた3月26日のボリビア戦以来の代表戦でした

賀川:ボリビア戦の試合後の記者会見で、森保監督から花束をいただきました。しばらく部屋に飾っていました。2週間ぐらい咲いていたのかな。上等な花だったんでしょうね(笑)

――0-0でした。サッカーは得点がなかなか入らないスポーツなので、代表戦でもこういう結果になることがあります

賀川:ひとつひとつのプレーをみれば、得点が入りそうなムードはありましたが、90分を通して振り返ってみると、相手のペナルティエリア奥深くまで入り込んでのチャンスというのは、少なかったですね。シュートシーンはありましたが、近くに相手がいることが多かった。相手の前でずっとボールを回していましたが、シュートチャンスを作る前のところで、相手の逆を取るプレーなどをしていないから、ボールはずっとつながっているけど、最後のシュートのところでも相手がちゃんといました。入らないわけです。日本は、新しいチームになっても、誰が入っても、ボールを回してつないで…というやり方はある程度できますが、最後のところという課題は常にありますね。これだけ押し込んでボールをキープして攻め込んでいるわけには、スリリングな場面が少なかった。相手のゴール前にパスが通るとか、誰が見てもチャンスというような、思わず腰を浮かすようなチャンスのシーンが、案外少なかった。攻めているときに全部相手をパスで交わしながら攻めているわけですが、誰かがそこで個人の力でこじあけるという気構えを見せない限りは、相手のDFに変化は起きないわけですよ。パスサッカーのうまさは見せたけれども、それだけではなかなか点が入りません。

――トリニダード・トバゴはいかがでしたか?

賀川:うまかったですよ。これだけ日本に走られても1人1人がついてきているわけですから。終盤に脚をつる選手が多く出たのも、それだけがんばって走っていたからで、決して弱いチームではなかった。向こうのCK、FKは3、4本ちゃんとヘディングで合わせていました。日本が圧倒的に攻めてチャンスの数も多かったけれど、ちゃんとシュートまでいったかと考えれば、スコア通り五分五分といえる試合でしたね。それでも相手はアウェイのチームなので、見ている側とすれば、日本はもうひとつ崩してもらいたかった。もうひとつ崩す場合には、どこかで無理しないといけない、個人的に逆を取るとか、1対1で勝負するとか、相手の意表をつくプレーが2つぐらい続くと最終的なマークがずれるわけです。味方もえーっと思うようなプレーをしないと膠着状態をやぶることはできません。パスを回しているうちに最後誰かがフリーになるなんてうまいことはなかなか起きないわけですよ。サッカーのおもしろいところとはそういうところです。

――森保監督になって初めて3バックを試しました

賀川:3バックというのは相手が2トップできたときに有効で、2人のFWを2人のDFでマークした上に1人守るDFが余るシステムで、どちらかといえば、しっかり守った上で両サイドから攻めることに重きを置いたシステムです。今の代表クラスの選手はクラブで3バックも4バックもやっているし、戦術理解度も高い。3バックだからどうだということはないでしょう。代表に帰ってきた昌子、売り出し中の冨安、Jリーグ代表の畠中は1対1でしっかりと守っていて、負けることはほとんどなかった。ディフェンスというものは、1対1で相手をつぶせばいいわけですから。日本の中盤でミスがなかったのでやられたというようなカウンターを食らうこともありませんでした。

――堂安は不完全燃焼のようでした

賀川:堂安ら森保監督が使っている若手はチームに溶け込んでいますね。堂安はもう2年ぐらい代表でプレーしているような雰囲気があります。後半14分、大迫からいいボールをペナルティエリア内でもらいましたが、タイミングが合わず、シュートまでいけませんでした。技術がある選手なのでどんどんチャレンジしてくれたらいいと思います。個人的な強さやボールの持ち方ひとつで、どこかに穴をあけられる選手だと思います。

――前半は中島の積極的なシュートが目立ちました

賀川:チームで一番たくさんシュートを打つ選手ですが、シュート力というところで、もう少しレベルアップしてほしいと感じました。彼の体の強さもあるんでしょうが、あれぐらい試合中にシュートをチャンスを作れる選手ですから、今の代表にとって、彼のシュートがとても大切な武器になる。だからシュート自体をもっと練習する必要が出てくるでしょうね。彼に限らず、日本代表クラスの選手でも、ペナルティエリアの外から蹴ったシュートが、ゴールに近づいてやや失速することがある。ゴールに近づいてから、さらに伸びるとか、落ちるとか、変化球になったりしないと、日本人の普通の力で蹴ったのではなかなかミドルレンジから入らない。FWでもMFでもシュートの力量というものは自分で1日何十本と個人練習した数によって決まるものです。シュートにはそれぞれの選手の癖があります。その気になって練習して、こういう蹴り方をすれば、こういう軌道のボールが行く、といった具合に自分の癖を自分で使えるぐらいになれば、得点力はおのずと上がります。最近の日本人は高校時代ぐらいから戦術練習が増えるので、シュートの個人練習が多くないのかなという印象があります。

――18歳久保建英はベンチ外でした

賀川:楽しみにしていましたが、これからチャンスがあるでしょう。Jリーグであれだけのプレーをしていますし、注目もされています。森保監督なりの配慮なのでは。サポーターは見たいでしょうが、まだ若いし無理に出すこともない。それは監督の胸一つ。U-20W杯にもトゥーロン国際にも出さずにA代表に招集しているわけですから、9日のエルサルバドル戦(宮城)や南米選手権でプレーする機会はあるでしょう。楽しみは先の方がいいものです。

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2019年3月26日 日本代表 対 ボリビア代表

2019/03/27(水)

2019/3/26(火)日本/兵庫県神戸市・ノエビアスタジアム
日本代表 1-0(0-0) ボリビア代表


――ボリビア戦は賀川さんのお住まいがあり、生まれ育った神戸での開催。久々に会場で取材されました


賀川:スタジアムで日本代表を取材するのは、2014年ブラジルW杯以来ですから、5年ぶりになります。テレビでは欠かさず日本代表の試合は見ています。最近のテレビは画質がよくなっているので、試合の隅々までよく見えますが、スタジアムはやはりいいものですね。試合の全体像が見えるし、お客さんの反応もダイレクトに伝わってきます。このノエビアスタジアムはかつての神戸中央球技場で、当時は少なかった陸上トラックのない球技専用のスタジアムでした。芝生の手入れが行き届いていました。大阪万博があった1970年にエウゼビオがベンフィカの一員として来日し、日本代表に3-0で勝ちました。当時のエウゼビオの個人プレーはまるでマジックのようでした。


――森保監督はコロンビア戦から先発11人を入れ替えました


賀川:代表選手や代表候補クラスの選手のレベルは上がっているので、ガラッとメンバーを入れ替えても、大きな戸惑いや混乱はなかったようです。経験が豊富な香川がキャプテンマークを巻き、前線で多くボールに絡んでいました。ボリビアの守りが堅かったので、大きな見せ場はなかったですが、森保監督が試合後の記者会見で「相手を間延びさせたり、疲労させたり、嫌なところをついていくことはできていた」とコメントしたように、彼の特徴がよく出ていました。彼はペナルティーエリアの外でボールをもらって、チャンスをつくるのが非常に上手な選手です。さらに誰よりも速いタイミングでペナルティーエリア内に入ってきて、ゴールを奪うことができる選手でもあります。前半は香川がもう1人ピッチにいれば…と感じるシーンもありました。今回代表に復帰した香川を中心としたチームを作っていくのであれば、周囲との連係などを監督も含めて事前に話し合っていくことが大切になるでしょう。


――前半からボールは支配していましたが、決定機は作れませんでした


賀川:確かに最後のシュートをどうするかというのが、なかなか見えませんでしたね。相手のサイドに入ったら、少々無理をしないと、しっかりと守っている相手を打ち破るのは非常に困難です。狭いところからでも、強引に1人で抜きにかかって、ドリブルを仕掛けるとか、突然スピードアップするとか、ダイレクトのパスを2、3本通すとか、敵陣で摩擦を起こさないことには、変化は生まれません。日本の選手は技術が上がり、ボールの扱いが達者になりました。しかし、サッカーは足でボールを扱う競技。手でボールを扱うようにきれいに時間をかけて攻めると、その分、相手も時間と人数をかけて守ることができるわけです。GKは心構えもできます。足でボールを扱う競技なんですから、ある程度のところまで来たら、エエ加減にエイッと蹴ってもいいわけですよ。欧州の選手なんて結構そういう形でゴールを決めています。


――中島、堂安、南野を投入し、試合が動きました


賀川:森保監督の起用が当たりましたね。ボリビアも複数のメンバーを代えてきたので、日本が優位だった試合の流れが一時的に止まり、チャンスと見たボリビアが攻勢に出て、試合の流れが変わりました。この試合初めてといっていいカウンターから後半31分の中島の先制点になりました。ペナルティーエリア左でボールを受け、右に切り返してもマークを外せませんでしたが、そのまま強引に打って、相手のまたの間を抜けていきました。こういった思い切りのよさは、こう着状態を打ち破る有効な手段になります。不十分な形であってもチャンスと見たら仕掛ける、今という時をつかむ…ということが、ゲームのどの段階においても大事なことになります。これはサッカーのうまいへたとは別の感覚で、そういう気構えで試合をしないと勝てません。


――サッカーはいくらパスをつないでも、ゴールにはなりません


賀川:だから、ある程度のところまで攻め込んだら、強引さも要ります。ボールを失っても、すぐに取り返せばいいわけで、敵陣で奪い返せば、相手は前がかりになっているので再びチャンスになりやすいわけですから。相手も防ごうと必死なわけで、パスをつないでいるうちに、いつかスキができるというものでもありません。


――お疲れが出ていませんか


賀川:少々寒かったですが、大丈夫です。楽しかった。日本サッカー協会の関係者や懐かしいライター仲間に久々に会って話をすることができました。後輩の若い記者やライターさんにもたくさんあいさつしてもらいました。記者会見が終わると、森保監督からは花束をいただきました。取材にきて花束もらうなんて不思議な感じでしたが、お心遣いに感謝しています。広島は東洋工業(サンフレッチェ広島の前身)のころから、代表選手がいなくても、勝つためにチームでしっかりと守って点を取るサッカーをして、日本代表の選手が半分ぐらいいる東京や大阪のチームと張り合ってきました。いい選手や指導者が出てきた土地柄でもあります。その広島から生まれた代表監督なんですから、大いに期待しています。サッカーは地球のどこでもやっていて、世界で一番人気があるスポーツ。それがおもしろくないはずがない。そのおもしろさをどうやって伝えるか。それがこの仕事もおもしろみであり、難しさでもあります。

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2018年11月16日 日本代表 対 ベネズエラ代表

2018/11/19(月)

2018/11/16(金)日本/大分・大分銀行ドーム
日本代表 1-1(1-0) ベネズエラ代表

――ワールドカップに出たことがないベネズエラでしたが、なかなか手強い相手でした

賀川:南米のいわゆる御三家、ブラジル、アルゼンチン、ウルグアイには歴史的にも伝統的にも実力的にも少し及びませんが、日本よりもFIFAランクが上位(26位)のチームであります。人口2500万人ぐらいの国ですが、世界一厳しいと言われる南米予選でもまれているので、全体的にレベルが高く、個人も力がありました。南米の北の方に位置する国は米国の影響を受けて、野球も盛んです。ドミニカ共和国と並んで大リーグや日本のプロ野球にいい選手を送り込んでいますが、どちらかといえば少数派。隣国と同じで楽しみはサッカーしかないといってもいいお国柄という印象が強いですね。

――先月ウルグアイを倒したこともあり、立ち上がりから、積極的に攻めました。その中で前半39分中島のFKから酒井宏の先制ゴールが決まりました

賀川:しっかりと中島がコントロールした球を大外から飛び込んできた酒井宏が落ち着いて決めました。長い距離を走ってうまくマークを外していましたね。前半から大迫が中央でしっかりとボールを受けて、中島、南野、堂安といった若いアタッカーにボールを配して攻撃をつくるという形が、ウルグアイ戦に引き続きできていました。常にボールを前に運ぼうとする上に個人技に優れた中島、堂安のドリブルは相手にとって非常にやっかいです。1人2人なら簡単に交わすことができるので相手はファウルでもしないと止められない。その結果、ゴール前でのセットプレーのチャンスが増えているのでしょう。これで森保監督になって4試合目。これからどこでボールをキープして、どこで点を取るのか、チームの形が見えてくるでしょう。

――後半は追加点が入らず、終盤PKで追いつかれました。森保監督になっての4連勝とはいきませんでした

賀川:後半は入れ代わり立ち代わり、選手交代をしましたし、森保監督はいろんな選手をテストしたいのでしょう。選手の動きの量はこれまでの3戦と変わらず相手よりも多かったですし、ロスタイムには吉田麻也をゴール前に上げて、勝ち越し点を狙いにいきました。1対1でも勝つ、チームとしても最後まで勝利を目指す姿勢は見えました。今回ホームでしたが、この相手ならアウエーであっても動きの量で負けなかったでしょう。ある時間帯は押し込むことができるわけですが、押し込んで跳ね返された場合、その次にきたボールを攻撃に出るところで、どういう変化をつけることができるかというところが、前線の選手の課題になってくるでしょう。

――1メートル97のGKダニエル・シュミットが代表デビュー。大柄ですが、足下も安定していました

賀川:ここまで大きな日本のGKはこれまでいませんでした。ハイボールへの処理などは安定していましたね。吉田麻也が1メートル89、冨安健洋が1メートル88とこれまでにないサイズの選手がそろってきました。大型GKが登用されることで日本の国際試合での守り方が違ったものになってくるかもしれません。

――GKといえば、長く代表を引っ張ってきた川口能活が現役を引退しました
賀川:そうでしたね。彼はサイズがありませんでしたが、抜群の反応力とジャンプ力、ディフェンス陣への指示など、目を見張るものがありました。なによりもGKとして大切な気の強さがありました。それが一番です。若いころから国際試合に出場していたので、経験豊かで、ビッグマッチに強かった。GKは野球でいえば捕手のようなもので、地味で縁の下の力持ちのイメージがありましたが、彼の代表、クラブでの長い活躍で新しいGK像というものを作ってくれたのではないでしょうか。GKは最後も砦であり、守りの中心であり、攻撃の第一歩になります。彼にあこがれてGKを始めた子供たちもいたでしょう。身体能力のある大柄な選手が育ってきたのは彼の活躍とは無関係ではないと思いますよ。

――大分では久々の日本代表の試合でした

賀川:2002年W杯のときにやり手の知事さんががんばって作ったスタジアムですね。渋滞など、運営面での課題があったようですが、W杯の遺産がこうやってしっかり受け継がれていくのは非常にいいことですね。J2の大分トリニータも来季J1に上がってきますし、がんばってもらいたいです。


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2018年9月11日 日本代表 対 コスタリカ代表

2018/09/13(木)

2018/9/11(火)日本/大阪・吹田スタジアム
日本代表 3-0(1-0) コスタリカ代表

――森保監督の就任初戦でした。ガラッとメンバーが若返りました

賀川:やはり日本代表の試合は面白いですね。展開が早くて、ひとつひとつの技術も高いので、ミスがない。スピード感もあって、全体的なレベルが非常に高いですよね。欧州の人から見たら、落ち着きのないサッカーと言われるかもしれませんが、僕らからすれば、楽しめますね。森保監督は広島育ちで、サンフレッチェ広島の前身の東洋工業(マツダ)は、昔からボールをつないで、全員がひとりひとりが守備をしっかりとして、労力を惜しまないというチームでした。その伝統を持っている生え抜きの選手が監督をしているわけだから、代表チームもそういうスタイルになりますよね。

――森保監督は93年のドーハの悲劇のときに有名になりました。うまさもありますが、とにかく一生懸命な選手というイメージがありました

賀川:広島の選手らしいですよね。今回代表監督になって、選ぶ選手はうまいわけだから、攻撃も守備も一生懸命にやるというスタイルが代表に浸透できれば、より楽しみです。
――誰に注目されていましたか?

賀川:新しく選ばれた堂安と中島です。2人ともよかったですね。よく動くし、積極的でした。両サイドがその気にならなければ全体が前がかりになりませんから。サイドでのボールの持ち方とか従来の日本代表のいいところを持っていました。あの2人がしっかりとしているので全体の動きの量にもつながります。ハーフタイムにこの動きの量が続くのかどうかと思いましたが、要らぬ心配でした。

――OG、南野、途中出場の伊東が終了間際に決めて、3点入りました

賀川:この試合はどの選手も点を取ろうと攻撃に絡む選手たちは積極的でした。だから3-0という結果になったのでしょう。新しい日本代表としては先が楽しみな試合になりましたね。攻めて点を取るという気構えがチーム全体にあったので、面白く見ることができました。日本代表を応援するサポーターにとっても楽しい時間になったでしょう。北海道地震で1試合中止になったのは、やむを得ないことですが、非常に残念でした。攻撃する選手がシュートを打って点を取るということが前面に出てこないとチームが活気づきません。よく攻撃的にいかないといけないとはいいますが、1人1人に「やったろか」という気がなければ、そうなりません。このチームはそれが見えて、勢いがありました。見ていて非常に楽しかったですね。もちろん、相手との力も関係もありましたが、取れるチャンスがあったら取りに行く、シュートを打っていくというのが見えました。相手が強い試合もあるので、いつもそれができるかどうかは分かりませんが、攻める、点を取る、そのために自分でシュートを打つ。シュートも自分が決めるつもりでみんな打ってましたね。

――中島、浅野はW杯に選ばれなかった悔しさもあったでしょうね

賀川:この2人は特に積極的でしたね。

――1点目はOGだったので、南野が森保ジャパン、ゴール第1号になります

賀川:南野はC大阪にいたときから、もう代表に入ったのか、まだ入ってないのかというクラスの選手とみていました。力はあるし、もともとうまい選手。こういうところで実績を積んで、経験を高めてもらいたいですね。

――堂安と南野はボールの扱いが非常にうまい。

賀川:自信満々ですね。うまい選手がそのうまさを発揮できるのが一番大事なことですから。この2人に限らず、最近は代表の候補になる選手は技術はあるし、走力もある。試合前の整列で並んだときに、思ったよりも身長差があるな、相手の方が大きいなと思いましたが、試合が始まったら、守備の競り合いでも攻撃でもまったくハンディにならなかった。新しく選ばれた選手も十分やっていける力があるというのを見せてくれました。今度の代表は新しい監督の下での第1戦でしたが、試合内容を見て、ファンは安心したでしょう。Jリーグでやっている、伊東、天野らもいいプレーを見せてくれました。

――日本代表としてのロシアW杯からの継続は見られましたか

賀川:西野監督からのサッカーの流れが切れていないですよね。次につながっているというのははっきりと感じました。メンバーが替わっても、切れ目がないですよね。ディフェンスでも吉田ら古手の連中が呼ばれていないので、槙野が中心になっていましたが、ロシアのメンバーと比べてレベルが落ちたということもないですからね。前と同じ水準の守備力を維持していると感じます。スタートの時点でほぼロシアと同じレベルをキープして、しかも年齢が若いわけですから、これからの上積みが見込めます。希望があるというか、楽しみが大きいですね。サッカーはこれだけ盛んになっているわけだから、どんどんいい選手が出てくるのは自然なのですが、代表クラスの選手のレベルでもそれが続いているという感じがします。今度の代表は全体としてボールのあるところへ、複数の人間が動いて、そこで相手のボールを取り、取ったらすぐ展開するというサッカーを休みなくやっていました。久しぶりに気分のいい試合でした。サポーターのみなさんもそうでしょう。

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2017年10月10日 日本代表 対 ウクライナ代表

2018/03/29(木)

8/3/27(火)ベルギー/リエージュ
日本代表 1-2(1-1) ウクライナ代表

――23日のマリ戦から前線のメンバーを入れ替えて臨みました。マリと同様、ウクライナはロシアW杯に出ないチームですが、非常に強かった

賀川:日本が1964年の東京オリンピックを目指して強化をしている時期に、いつも相手をしてくれたのが、旧ソビエト連邦内にある代表クラスのチームでした。胸を貸してくれて、準備のためにいい対戦相手になった。ウクライナは昔からサッカーが盛んで強い地域でした。ソ連のチームは個人技がしっかりとしていて、動きの量も多い。南米のようにうまいけど、ちょいちょい手抜きがあったり、すきがあったりすることはありません。日本のように運動量が多いし、ピッチを走り回る力もある。真面目にサッカーをやるから日本としては特長を出しにくい。同じようなタイプで、しかも個人個人に力があったので、相性という意味ではいい相手ではなかった。日本よりちょっとずつうまくて強いわけだから。50年後にウクライナとやってみても、同じような感じがありましたね。

――ウクライナはカウンターが非常にうまかった

賀川:非常にオーソドックスな速攻を見せていましたね。日本から見て右サイドは非常に苦労していました。マークをちょっと離しすぎていた感がありました。

――攻撃ではなかなかチャンスをつくれなかった

賀川::日本も攻める場面はありましたが、アジア予選で戦っているのとは違って、攻め込む回数が少なかった。本田が今の日本では一番安定してボールをキープできて、攻撃の芯になったり、きっかけになったりする選手ですが、本田といえども、楽に試合ができない。ウクライナから見て、左サイドの選手はドリブルもうまくて、やられそうな場面がありましたね。欧州の平均的な国とやれば、日本がキープして攻める回数が減るのはある意味当然で、そのためには本番に備えてチャンスの数が多くなくても、それをものにする、点を取っていくことが出来ないといけません。そういう意味ではいい教訓になったと思います。

――本田は6カ月ぶりのスタメンでした

賀川::本田はいつも自分のところにくっついてくる相手を横を置きながらプレーをしていた。日本はほとんどノーマークのシュートの場面はなかなかつくれなかった。本田と香川が同時にピッチいれば、もうちょっと違う展開になっていたかもしれませんが。香川はこのタイミングで呼んでいないということは本番では使わないということでしょうか。

――本田はやはり代表メンバーに入れておいた方がいいですか

賀川::どこのポジションで出ても、ゲームを作れる選手ですから。攻撃のためのボールをひとつ持てる選手ですし、代表メンバーにいないとなれば、ちょっとしんどいでしょうね。本田という選手は周りをみながらボールをキープすることができます。彼のプレーを周りが利用しないともったいないような気がします。彼がボールに触ったときに周りが受けやすい位置にいくとか、ダイレクトでシュートを狙って、本田からのパスをもらえる位置を取るとか、やれることはもっとあると思います。そういう攻撃の形がそろそろできあがっていないといけないのですが、ハリルホジッチ監督はこの試合を経て、直前の合宿でメンバーを絞るつもりなのでしょうね。誰が攻撃の中心になるのか、リーダーなのか、見えてきませんでした。

――他に気になる点は

賀川::吉田麻也がけがで出ていない。後ろを安定させ、前方への指示などを余裕を持って出来る大ベテランが抜けているのはちょっと痛い。彼が間に合うのか、間に合わないのかで、大きく違ってくるでしょう。前の試合でよかった宇佐美をもう少し長い時間見てみたかった気がします。選手の力量、特徴は全部、監督が頭の中に入っているのでしょうが、もう1試合、ガーナ戦(5月30日)をやって、最終メンバーを組み合わせるんだと思います。

――欧州シリーズは1分け1敗でした

賀川::1対1で相手が互角かそれ以上だから、どんどんチャンスをつくれるという形にはなかなかなりません。こういう相手とやって、ぎりぎりの競り合いの中からボールをつないで、どこかで逆をとって、シュートチャンスをつくる、あるいは裏に走り込んでという形がないといかんのですが、ウクライナ戦ではペナルティーエリアの根っこまで攻め込んでいく形が少なかった。どんなに劣勢の試合でも1試合のうち3回か4回のチャンスは訪れます。そこで2点、3点と取っていかないと、なかなか世界では勝てない。ウクライナの寄せが早かったのかもしれませんが、ペナルティーエリアの外から思い切ってシュートを打っていたのは前半17分の植田ぐらいでした。それぐらいの気構えを見せないと突破口を見つけるのは難しい。

――自分たちよりも格が上の相手と対戦するときは、ミドルシュート、ロングシュートが局面打開のカギになる

賀川::ウクライナとの試合では決定的なチャンスはほとんどなかったですね。相手の引きが速いというのもありますが、引いているDFラインの前でボールを回しても、相手はさあ来いと待っているわけですから。引かれても、突っかけていきたい。理想は、引き始める前、相手が後ろ向いているときに突っかけていくこと。ウクライナの2点目がそうでした。

――マリ戦でゴールを挙げ、ウクライナ戦で後半途中出場した中島は思いきったシュートを打ちました

賀川::若い選手はシュートのタイミングが速い。小林悠の落としから中島が放った最初のシュートは前に相手がいても、打っていった。彼のようにゴールが見えたら打っていかないと損ですよ。そうすれば、何かが起こるかもしれない。相手に当たって、方向が変わるかもしれない。パンと軽く蹴るから、何も起こらない。しっかりと足首を固定して、甲にボールを乗せてガンと叩けば、強い球がいきます。GKには専門のコーチがいて、専門の練習を常にしている。それに比べて、FWはどこまで専門的な練習やシュートの数をこなしているのでしょうか。何かあったら、いつでも点を取ったるぞという気構えがある選手は、見ている方も面白いものです。日本に限らずですが、相手の裏に入り込みながら、シュートを打たないで、パスするようなシーンをよくみます。あそこまでいったら何でもいいから、エイと蹴ってほしい。蹴るところがなかったら、そのへんにいる相手の体に向かって蹴ってもいい。相手に当たって方向が変わって入るかもしれない。
――思い切りが必要

賀川::サッカーの戦術、戦略は緻密に練るものですが、攻撃で、特に得点を奪う場面はおおざっぱにやるぐらいでちょうどいいものです。釜本邦茂のようにゴールに向かって蹴ることを生き甲斐に感じている選手がいれば、得点は増えるものです。

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2017年10月10日 日本代表 対 ハイチ代表

2017/10/13(金)

2017/10/10(火) 19:30 神奈川/日産スタジアム
日本代表 3-3(1-2) ハイチ代表

――杉本、倉田、小林祐希、浅野、乾、昌子、酒井高、遠藤、東口が先発し、6日のニュージーランド戦からスタメンが9人入れ替わりました

賀川:ハイチはFIFAランク48位で日本(同40位)よりも少し下のチームでしたが、力はありました。ロシアW杯予選ですでに敗退している国といっても、やはりいつも出ている手慣れたベストに近いメンバーが最初から出ないと優勢に戦えないというのが、今の日本の力ということかもしれません。ハリルホジッチ監督は本番を見据えて、すでに16人ほどメンバーを選んでいるでしょう。それ以外のメンバーを選ぶために、入れ替わり立ち替わり選手を出しましたが、このクラスを相手にやれるかといえば、そうではなかった。それが国際試合というもの。監督は少々点は取られてもいいから、どの選手がどれぐらいできるか、見たかったんじゃないでしょうか。

――前半は倉田、杉本がゴールを決めました。倉田の先制点は賀川さんが常々攻撃の原則とおっしゃるサイド攻撃から。Jリーグで得点ランク2位(16得点)と結果を出している杉本はうれしい代表初ゴールでした

賀川:左サイドの深い位置からの長友のクロスを倉田がニアサイドで合わせました。あれだけ深い位置まで攻め込むと、相手のゴール前に隙が生まれます。クロスというものはニアサイドかGKを越して逆サイドに蹴るか、どちらに上げた方が得点になりやすいかの判断が大切になります。長友、倉田の息が合った先制点でした。杉本は自ら中央に攻め込んだ後、倉田に横パスを出した。その倉田の1対1のシュートがこぼれてきて、左足で押し込みました。ジャストミートしなかったので、少々不格好に見えたかもしれませんが、シュートはゴールの枠内にきちんと入りましたね。杉本はどこかで隙を作って、1対1で自分が優位な場面を作って、シュートまで持ち込むシーンを作り出せたら、得点以上の自信になったでしょう。相手の嫌がるところに入っていけるか。そういう気概があるか、ないかというところはFWにとって大切なことです。

――日本が2-0とリードしながら、ハイチが反撃に出て、一時は2-3になりました。サッカーでは2-0は安全圏ではない、まだまだ危ない点差だとよく聞きます。相手が1点取ると、あと1点で同点だと勢いづき、そのまま逆転されることもある

賀川:勝つためには3点差にしないといけないということはよくいわれますが、1-0であっても、2-0であっても、強い国、チームはそのまま勝ち切る力があるものですよ。日本の場合はそこまで守備の力があるとは言い切れない。だから2点目、そして3点目を取らないと危なっかしい試合になってしまうこともある。Jリーグでディフェンスの選手が1対1で粘る力をつけていかないといけませんね。

――ハイチは攻撃力があった

賀川:体も強いし、何よりスピードがありました。足の速い浅野が仕掛けても、振り切れませんでした。1点目は右サイドからのカウンターを受け、中央の対応が遅れたところに、クロスが入り、簡単にやられてしまった。同点の2点目は予想外のFKのリスタートに選手が反応できず、これもサイドから決められました。一時勝ち越された3点目はペナルティーエリア左の外から昌子の寄せが甘いところを思い切って、右足を振り抜かれました。しっかりとコースを狙ったキックでした。相手のプレッシャーがあまりなかったので、決めた選手からすれば、プレースキックのようだったかもしれません。3点はちょっと取られすぎですね。

――小林祐希はたくさんボールを触っていましたが、いかがでしたか

賀川:よくやっていたと思います。ボールを拾ってから出すのがうまい選手ですね。ただ、相手の攻撃のボールを奪ってから展開したいときに、キープを第一に考えていたんでしょうか、安全にボールを運ぶときがありました。自陣のハーフラインの手前で横パスを受けてから、思い切ったタテパスを出せれば、早い攻撃がもっと増えたでしょう。相手のペナルティーエリアに近いところまでつないでいって、少々詰まっているところへのパスが多かった印象もあります。その付近でボールを持ったときは、パスの構えと同時にシュートの態勢も作って入っていってほしい。そうした方が相手は怖い。力のある選手だから、今よりも早くシュートの仕掛けに入ることはできると思います。

――香川が途中出場して、終了間際に酒井高のシュートのコースを変えて、同点ゴール。後半25分過ぎからは攻撃の主導権を握って、細かくパスをつないで攻めました

賀川:あれだけ味方と相手が狭いエリアに密集していると、どんな名選手でもこじ開けていくのは難しいでしょう。日本はパスを細かくつないで、ディフェンスラインの裏を狙っていましたが、強引にでもシュートを打ちにいって、誰かが前でつぶれた後に、チャンスを見出すやり方の方が、現実的かもしれません。日本の攻撃には香川はやはり必要でしょう。彼がプレーメーカーになるのか、ゴール前で決める選手にならないといけないのか。これからも注目していきます。

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2017年10月6日 日本代表 対 ニュージーランド代表

2017/10/08(日)

キリンチャレンジカップ2017

2017/10/6(金) 19:20 愛知/豊田スタジアム
日本代表 2-1(0-0) ニュージーランド代表

――来年のロシアW杯本番を見据え、メンバー選考スタートの試合。立ち上がりから、日本が攻勢に出たので、何点取るかと思っていましたが、前半は0―0で折り返しました

賀川:これまでのW杯アジア予選でもそうでしたが、ボールのキープ率が高くても、必ずしもたくさん得点を取れるというものではない…というのが日本というチーム。前半はもう少し、両サイドに広がって攻めた方がよかったですね。サイドからの攻撃がなかったわけではないのですが、現実的にはペナルティーエリアの幅の間でサッカーをしていました。横から攻めて、相手のゴール前に隙間を作った方が点になりやすいのは、サッカーの原則。もちろん選手も分かっているのでしょうが、しばらく代表チームとして活動しないと、思いだすまで少々時間がかかりますね。

――サイド攻撃の有効性は普遍的なものですね

賀川:サイドでボールを持ったとき、中に入っていった方がボールを持ちやすいんです。でも、そうすれば、中へ中に入ってしまって、人が密集しているペナルティーエリアに近い場所から攻めることになります。混雑しているところをこじ開けるのは、どんな相手であっても難しい。この試合では前半からボールを支配できたため、まっすぐ相手のゴールに向かっていってしまいましたね。自分たちの攻撃に必要な幅というものを常に頭に入れてプレーできれば、得点のチャンスは増えるでしょう。

――前半8分、いつも気にかけておられる香川の惜しいシュートがありました

賀川:後方からの高いボールにまず大迫が競りました。落下地点に飛び込んだ武藤がつぶれて、ボールが香川の前にこぼれてきた。判断よく、右に切り返して、DFを交わして右足でシュートを打ちましたが、ポストに当たりました。香川はトップ下での出場でしたが、前にいく機会を減らして、もっと後ろでプレーした方がいいかもしれません。本当に膝を打ちたくなるようなパスを後方から出すのがうまい選手。彼がゴール前で得点に絡むよりも、後ろから決定的なパスを出す回数を増やす方が、ゴールにつながる可能性が高まるような気がします。

――先制点は大迫のPKでした

賀川:先制点はPKでしたが、得点がPKだから攻撃はダメだというものではありません。山口のミドルシュートを相手が手と胸で挟んで止めました。止めざるを得なかったので、ハンドになった。あれだけ攻め込んでいれば、どこかでそういう瞬間が出てくるものです。
――大迫は落ち着いていました

賀川:完全にGKの逆をついて、しかもポストに近いぎりぎりのところに決めた。PKは決めて当たり前と思われがちですが、簡単なものではありません。お手本になるシュートでした。

――常々サイド攻撃の重要性を唱える賀川さんの言葉が届いたのか、後半42分、左のサイド攻撃から倉田が決勝ゴールを決めました

賀川:乾というボールを持てる選手が後半途中から入って、落ち着きました。左サイドのぎりぎりまで開いた後、ドリブルでタテに進むから、おのずと幅が広がります。左からの乾のクロスをゴール右にいた酒井宏が折り返して、倉田が大事に頭で押し込みました。あれだけゴール前で左右に振って、ボールがつながってくると隙間ができます。足でなく最初から頭で押し込もうとした倉田の判断は正解でした。足でいくと浮かしてしまう可能性がある。一瞬でも判断が遅れるとおでこでなく、頭頂部にボールを当てて浮かしてしまったかもしれません。

――倉田は代表初ゴール。中盤の争いが激しくなりそうです

賀川:後ろの方のメンバーはだいたい見えてきましたが、前線と中盤にはいい選手がたくさんいます。ハリルホジッチ監督がどういう組み合わせを考えているのか、気になります。来年6月の本番まで、まだ時間はありますが、このコンビならこういうプレーができる…という形がまだ見えてきません。まだ時間はあるので、一番いい組み合わせを探し続けるのでしょうが、監督の頭の中にはイメージはあるはずです。いつごろ固定するのか、注目していきたいですね。

――来月大陸間プレーオフで南米5位とW杯出場権をホーム&アウェー方式で争うニュージーランドは非常にモチベーションが高く、後半は猛攻を仕掛けてきました

賀川:今回のキリンチャレンジ杯にニュージーランドが来てもらえたことは、代表チームにとっても非常によかったですね。点を取られても、ひとつひとつのプレーをしっかりやってくれた。特に先制された後は、雨が強まったこともあり、どんどん長いボールを蹴って攻め込んでくるキックアンドラッシュという戦法できました。日本が苦手にする戦い方です。8月31日のW杯最終予選で対戦したオーストラリアはポゼッションを重視する戦術を最後まで貫きましたが、フィジカルで劣る日本としては単純に蹴ってこられる方がつらい。この戦い方でこられたら、簡単な試合にはならなかったでしょう。ニュージーランドが最後まであきらめず戦ってくれたことで、日本は最後まで気が抜けない試合になりました。

――ニュージーランドではラグビーはオールブラックス、サッカーはオールホワイツと呼ぶそうです

賀川:ニュージーランドはオーストラリアと一緒でラグビーが国技。大柄で子供のころから、走ったり、ボールを奪い合って体をぶつけることには慣れている。そのラグビー王国でもサッカーは盛んで、6大会連続でW杯に出場する日本を相手にこれぐらいやれるということがわかりました。改めて世界の進歩を感じましたね。10日に対戦するハイチもどんなサッカーをしてくるか、楽しみです。

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2017年6月7日 日本代表 対 シリア代表

2017/06/09(金)

キリンチャレンジカップ2017
2017/6/7(水) 19:25 東京/東京スタジアム
日本代表 1-1(0-0) シリア代表

――このシリア戦は、13日に予定されているアジア最終予選グループB対イラク戦をひかえての試合で、スコアは1-1の引き分けでした

賀川:代表の試合はいつもおもしろいですね。この試合もリードされ、追いついて、勝ち越しゴールを目指す形になり、チャンスもあったので、スタジアムの観客はもちろん、テレビ観戦者にも見ごたえがあったでしょう。

――1-1から逆転ゴールが生まれれば、もっと盛り上がったのでしょうが

賀川:日本の同点ゴールは、後半の13分でした。この後の30分間で、勝ち越しゴールを奪えれば申し分なかった。シリア側に疲れがみえて、動きが鈍くなっていましたからね。

――押し込んで、ペナルティエリア内の相手の人数が多くなると、なかなかゴールは奪いにくいものです

賀川:日本のゴールは左サイドを長友がタテに出て、ゴールライン際から中央へグラウンダーのクロスを送り、中央へ走り込んだ今野が決めたものです。サイドから攻めるという基本に沿ったものでした。

――賀川さんがいつも言っていることですね

賀川:相手の守りを崩してシュートの態勢をつくるときに、いろいろなやり方がありますが、シュートする者がボールを横から受ける形が点を取りやすいのです。日本の同点ゴールは、まさにこれでした。

――サイドバックの長友がクロスを出し、ミッドフィルダーの今野が決めました

賀川:昔風にいえば、オーバーラップということでしょうが、現在ではこういう形はよくあります。FWは攻撃のスタートのときから相手のマークにさらられています。第2列、第3列の選手が飛び出したときには、相手もマークしにくいものです。疲労がたまって動きが遅くなるとなおさらです。

――相手を押し込む形になると、ペナルティエリアの少し手前から25メートルラインあたりに相手の防御ラインができて、ディフェンダーが4~5人いる。そしてのその前に、もう一列の守備線がつくられる。これを崩しにかかるという場面がよく見られます

賀川:相手にボールを奪われたとき、奪われた側はすばやく守りの態勢に入ります。守りの人数が少ないうちに攻める速攻ができなければ、ボールをキープして、攻撃の人数を増やすという光景は試合中に何度も見られるでしょう。互いの攻と守の切り替えのなかで、どのように攻める側(ボールを持つ側)が展開してゆくかが、試合の面白さです。この試合でも同点ゴール以外にも日本側にいくつかのチャンスがありました。

――日本の失点は

賀川:後半のはじめ、シリアが攻め込んでシュートし、その後も攻めに出て、右CKの後、右サイドからのクロスをCFのマルドキアンがヘディングで決めました。日本はクロスを送り込む相手へのプレスも弱く、ヘディングも防げなかった。

――点を取られるときは、不思議なほど相手を自由にしてしまいます

賀川:相手の得意の形になっていました。ボールを失ったときに、何人が「ヤバい」と思ったかですね。

――本番を前に、いいクスリになってくれればいいのですが…

賀川:この試合に入る前の選手たちのコンディショニングはどうだったのかな。ヨーロッパ組は長いシーズンが終わった直後で、必ずしもいいコンディションではなかったはずです。

――もちろん、それを確かめるための、この試合でもあるのですが

賀川:ヨーロッパから日本へ戻ってくるのにも長い飛行機の旅があり、時差の問題もある。それを克服するのも、日本代表選手の仕事でもあるのだが。

――選手たちも大変です

賀川:ヨーロッパでプレーする日本代表にとっては宿命のようなものです。この試合でそれぞれの体調を確認し、13日のイラク戦に向けて8日にイランに向けて出発することになっている。

――香川のような大事なプレーヤーの故障もあったが、こういうことがあるのも代表の戦いのひとつでしょう

賀川:今野のコンディションもまだ万全ではないようだが、このシリア戦で監督さんは選手の調子を確認したわけでしょう。

――得点は1点だけですが、ペナルティエリア付近での相手の守りの崩しもいくつか見ることができました。あとは本番までの体の手入れと、コンディショニングですね

賀川:大迫というCFタイプのFWが出てきた。選手たちも伸び盛り、充実期ともに経験を積んできています。

――本番の対イラク戦が楽しみですね

賀川:イラクの国内事情のために、試合はイランの首都テヘランで行われる。開催地を引き受けてくれるイランのサッカー人にも感謝しなければなりません。そういう難しい社会情勢のなかでもワールドカップ予選を開催する、サッカーという競技の大きさを考えながら、代表に声援を送りたいですね。

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キリンチャレンジカップから

2016/11/15(火)

――キリンチャレンジカップの記事で、代表の進歩について「ここまで来た」という言い方をしましたね

賀川:日本代表チームの選手個人の力も、チームワークも相当いいところに来ていると感じました。ピッチ上のそれぞれの局面で日本代表の一人ひとりがオマーン選手とのボールの奪い合いでもほとんど負けることはなかったからです。

――ミスが多いとも言っていました

賀川:はじめのうち、パスミスが多かったのは気になりました。それでも、代表チーム全体としてみれば、個人力もチーム力もずいぶん高くなっていると思いました。

――清武の充実ぶりを評価していましたね

賀川:個人的に清武がレベルアップしたことも、代表進化のひとつです。香川真司がケガなどで調子を落としているときに、同じセレッソの後輩ともいえる清武がトップ下の攻撃リーダーになってきました。

――もともと上手な選手でした

賀川:彼がセレッソに来たときに、香川たちがその上手さに驚いたそうです。彼のトラッピングはいつ見ても、ほれぼれします。相手がすぐ近くにいても、ボールを的確に扱える技術を持つ清武が経験を積んで、中盤で幅広く動き、ゴールにつながるパスを出し、自らも走って攻撃のリーダーを演じました。

――「伸びている」という勢いがありました

賀川:伸び盛りのプレーヤーがいると、チームが上向きになるので、とてもうれしいことです。そのことを清武は見せましたね。本人の能力からみれば、まだ上にゆくでしょうから、サウジアラビア戦のような重要な試合で、いい働きをしてくれるでしょう。

――山口蛍もいい働きをした

賀川:長谷部のようなベテランもいる日本の守備的MF陣に、これも伸びしろのある山口が加わってきました。ときにパスミスもありましたが、日本のMFグループでの明るい成長のひとつです。

――ハリルホジッチ監督が予選を通じてメンバーを数多く起用してきた成果があった

賀川:予選の、絶対に勝たなければ、という試合が続く間に、キリンチャレンジカップのような親善試合で選手の組合せをテストできるというのは、いまの日本代表にとって、とてもいい本番への準備になります。

――15日のサウジアラビア戦はどう見ますか

賀川:埼玉スタジアムというホームでの試合です。サウジアラビアは守りをしっかりしながらカウンターを狙うのが定石でしょう。日本代表はこのところ、自らのファウルでのFK、PKを与えることでピンチを招いています。タックルの入り方などは、当然復習していることでしょうが、正しいプレーを身に着けることはワールドカップの本番のためにも、あるいは自らのリーグでの活躍のためにも大切なことです。

――なんといっても、日本代表の動きの量と質でしょう

賀川:日本のホームで、しかも秋のサッカーシーズンです。気候的にはいくら走っても疲れを感じない、いい時期なのだから、代表イレブンはまず運動量で圧倒するくらいの気持ちでいってほしいですね。日本は攻撃も守備も、いつも相手以上の人数をかける形になります。その激しい動きのなかから相手の隙が生まれてくるはずです。

サウジアラビアにもいい選手がいるでしょうが、日本のスカウティングもしっかりしているから十分対応できるでしょう。全体にシュート力があがっていて、本数も増えているのが今の代表のいいところです。自信をもって攻撃からシュートに入り、そのこぼれ球を狙えば、ゴールは自ら生まれてくるでしょう。

ここで勝つことは、グループでの順位をあげることにつながり、次に向かっての大きなステップを積むことになります。

――日本中の皆さんの気持ちをひとつにするような、試合を観たいですね。

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2016年11月11日 日本代表対オマーン代表

2016/11/14(月)

キリンチャレンジカップ2016
2016/11/11(金) 19:20 茨城/茨城県立カシマサッカースタジアム
日本代表 4-0(2-0)オマーン代表

清武の充実ぶりが目立ち、攻めは彼を中心に展開された。前半の2得点は大迫が32分、42分に決めたものだが、1点目は左サイドからのクロスをゴール正面でヘディング。2点目は清武からのグラウンダーの縦パスを受けて決めた。

1点目の攻撃は、30分の右サイドからのクロスを大迫がトラップシュートしたところからはじまり、その第2波で清武がペナルティエリア左外から右足でクロスを送り、大迫がヘディングした。ボールの落下点には大迫の背後に本田も入っていた。

それまでの日本の右・左からの攻めで相手の5人の守りが崩れて、ノーマークになってゆく過程をスローで見直すと、とても面白かった。

2点目は右からつないで、ペナルティエリアの外を左へ動かしたボールを清武が相手DFラインの裏へスルーパスを通し、大迫が左から右にボールを持ち替えて、右足のサイドキックで左ポスト際へ決めた。密集防御地域のペナルティエリアいっぱいでの縦パスのつなぎと、相手の守りに大きなスキ(スペース)をつくった展開は見事だった。

こうした攻撃ができるようになってきたのが、従来からの同じ顔ぶれのチームでなく、試合ごとにメンバーを入れ替え、若い選手の成長とあわせて、チームが出来上がっているところに、今の日本代表の楽しさがあり、監督さんの苦心があるのだろう。

この日は代表チームのキャプテン長谷部を休ませ、MFは山口蛍と永木とした。攻撃のMFは右から本田、清武、齋藤、トップに大迫を配したスターティングメンバーの攻撃陣は、右の酒井宏樹、左の酒井高徳の攻め上がり(特に右サイド)を引き出し、サイドからの攻めも多く、前後半を通じて20本以上のシュートチャンスをつくった。

前回のオーストラリア戦では原口がゴールを決め、今回は大迫が目立つことになった。新しく起用される選手が、ここしばらくの日本サッカーの個人力上昇を背景に、ドリブル力があるのを見ると、かつての個人キープの少なかった日本代表を知る者には楽しいことだ。

メンバーを入れ替えつつ、チーム全体の攻撃力アップを図ってきた効果が4-0のスコアになったと言えるだろう。

もちろん、フレンドリーマッチであって、タイトルマッチではない。遠征してきたオマーンの代表にとっては、日本の秋のナイトゲームは気候的に楽ではなかったはず。そうした条件を考えると、4-0と言っても、手放しでよろこぶわけにもゆかないが、まずは日本代表の積み重ねと上達を知った今度のキリンチャレンジカップの値打ちはあったと見たい。

選手たちがこうした試合経験を足場に、サウジアラビア戦への準備をさらに積んでくれることを期待している。

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2016年6月7日 日本代表 対ボスニア・ヘルツェゴビナ代表(下)

2016/06/15(水)

――スコアが1-1となってからも双方のボールの奪い合いや、攻めの意欲の高さがみられて、とてもおもしろかった。日本は前半44分に宇佐美がエリア内でのキープからシュートのチャンスがあった。ボスニアにもバーに当たったエリアすぐ外からのFKをはじめ、スタンドをひやりとさせるチャンスもあった

賀川:この日の期待のひとつは、浅野拓磨をスタートから90分使ったこと。今が伸びる時期とハリルホジッチ監督は見たのだろう。後半にも彼にビッグチャンスがあった。

――こういう時に点を取れることが大事なのですかね

賀川:後半のスタートから柏木陽介を遠藤航に代えた。2分すぎに浅野のシュートチャンスがあった。右から中へ入り、右足で蹴ったが相手の足に当たって勢いが弱まった。相手のシュートチャンスにも粘り強く守るボスニアのうまさの例だが、こういう相手のうまさ、粘っこさは対戦して体で感じるものだからね。そのボスニアの守りのうまさに日本側はキープして攻め込んでもなかなかいいフィニッシュに持ってゆけなかった。

――東欧ユーゴのサッカーというところですね。

賀川:後半初めの20分間は、日本がキープして攻勢のように見えていたのに、決定的なチャンスはなく、21分にボスニアがゴールを奪った。

――20分にボスニアが選手を代えた。MFのドゥリェビッチをステバノビッチに代えましたね。代わってすぐに彼がチャンスを作った

賀川:彼が右サイドのポジションに入ったときに、ボスニアにハーフウェイライン付近(中央右寄り)でのFKがあった。FKは日本のペナルティエリア右角の少し外に向かって飛び、ステバノビッチが内へトラッピングしてDFをかわし、小さなドリブルから左足でパスをエリア内へ流し込んだ。

――いいパスが出た。このボールを長身のジュリッチがゴールエリア右角前3メートルで追いつき、右足でダイレクトシュートした

賀川:フォワードとしては当然のことながら、右斜め前へ走って、後方からのパスをシュートした。ジュリッチの動作は全くそつのない、見事なものだった。

――吉田麻也は少し離されていました

賀川:シュートされたボールは、吉田の足間を抜け、GK川島の右手をかすめて左ポスト近くへころがった。

――ロングパスと、ステバノビッチのうまいトラッピングと、それに続くパスと、ストライカー・ジュリッチのダイレクトシュートの組み合わせだったが、こんなに簡単にゴールが生まれるのだという見本のようだった

賀川:相手がボールを受けるときに日本側のマークの間合いが遠くて、まるで練習での得点コースの型を見ているようだった。FKのときに新しいメンバーが入ってくる。ただそれだけの異変で日本側に心の空白ができたのだろうが、その空白を利用したボスニアの選手の「いま!」をつかむ試合巧者ぶりに脱帽というところだろう。

――1-2とリードされて、日本は攻め続けようとする。ボスニアはじっくり守り、時折カウンターを見せ、日本は同点にできなかった

賀川:この後も、とてもおもしろかった。日本には選手の組合せのテストもあり、リードされてからも4人の交代が入ったが、点は取れなかった。

――この対ボスニア戦を見ると、差は大きくないとしても、戦えば必ず勝てるとは言えないことがわかります。ハリルホジッチ監督は、試合の後の記者会見で、日本サッカーにはずる賢さが乏しいと嘆いていたそうですね

賀川:東欧の旧ユーゴスラビアの各代表チームには、試合の流れをつかむうまさがよく見られるのです。この試合は勝てなかったのだが、私は日本代表は少しずつ進化していると感じています。宇佐美は昨年に伸びて、ちょっと足ふみしてまた上に向かっています。浅野はもっと試合を重ねることと、監督・コーチあるいは先輩たちからいいヒントをもらえば、今年大幅に伸びる気がします。もちろんそのためには本人の努力も必要でしょう。

――イングランドの優勝チーム、レスターのFW岡崎慎司はどうでした?

賀川:レスターでの優勝は自身にはなるけれど、それで彼のプレーの幅が大きく増えたというわけではない。前残りのFWで、ボールの競り合いに特殊な才を持つ岡崎が代表でどう生きるかは代表全体の問題として話し合い、大きなプラスにしないともったいない話です。

――相手が守りに入ったときには結局得点できなかった

賀川:いつもの話になるが、ラストパスの精度とシュート力アップでしょう。クロスの高さ、強さ、落としどころなどのレベルアップです。これらのプレーは練習量(回数)に比例すると昔から言われています。日本代表でもそれを繰り返し上達したときに大会で成績を上げています。ワールドカップアジア最終予選を前にしたキリンカップは終わりましたが、選手たちにとっても、応援するサポーターにとっても、これからが大切な時期になります。9月に集結するときの選手たちのプレーがとても楽しみです。

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2016年6月7日 日本代表 対ボスニア・ヘルツェゴビナ代表(上)

2016/06/13(月)

キリンカップ2016
2016年6月7日 大阪/市立吹田サッカースタジアム
日本代表 1(1-1、0-1)2 ボスニア・ヘルツェゴビナ代表

――6月7日、大阪の市立吹田スタジアムでキリンカップ2016の3位決定戦と、決勝が行われ、3位決定戦でデンマークが4-0でブルガリアを破ったあと、決勝は大接戦の末、ボスニア・ヘルツェゴビナが2-1で日本を倒しました。1978年に日本で初めての本格的国際サッカー大会「ジャパンカップ」として創設されたこの大会は、5年ぶりに復活し、4か国の代表チームによるノックアウト方式によって優勝を争う新しい大会(トーナメント)となりました

賀川:4か国トーナメントのノックアウト方式だから、1回戦がいきなり準決勝になる。6月3日愛知の豊田スタジアムでまずボスニア・ヘルツェゴビナ(以下ボスニア)がデンマークにPK戦で勝利し、第2試合で日本代表が7-2でブルガリアに大勝した。日本代表の大量ゴールに、サムライブルーへの期待が大きく膨らんだのは言うまでもない。

――吹田での6月7日の試合は雨のなかだったが、35589人の観客がつめかけた。関西で神戸に次いで生まれた濡れないで観戦できるスタジアムですからね

賀川:ガンバのホームグラウンドが、ナショナルチームのホームにもなった歴史に残る日でもあった。

――3位決定戦ではデンマークが勝ちました

賀川:ブルガリアもがんばったが、力の差はあった。

――デンマークのGKシュマイケルはいかがでしたか

賀川:カスパー・シュマイケルの父親が1992年のEURO(欧州選手権)でデンマークが優勝したときのGKピーター・シュマイケルです。親子2代のデンマーク代表ゴールキーパーをナマの試合で見ることができてとてもうれしかった。父親とよく似た体つきで、大きくて、ガッシリして、ゴールキーパーというポジションでヨーロッパ勢は恵まれているという感じだった。92年のピーター・シュマイケルはデンマークの選手たちがうちには世界一のGKがいると自慢していたほど、オランダやドイツを相手に堅い守りを見せて、優勝に貢献したのを覚えています。

――まあ親子2代の活躍をナマで見せてもらえたのも、キリンカップのおかげですね

賀川:92年EUROでスウェーデンまで出かけたのは、1936年のベルリン五輪で日本がスウェーデンに勝った、その時のスウェーデンでの反響を確かめたかったこともあった。

――そのことが、「ベルリンの奇跡」(竹之内響介著)というドキュメントの監修をすることにつながりましたね。キリンカップにはたくさんの思い出がありますが、古い話はこれくらいで、試合にゆきましょう

賀川:残念な決勝でした。第1戦は本田圭佑を欠いても大勝した。第2戦は香川真司(第1戦で負傷)も欠いての試合で、本田と香川のいないこの代表には少し荷が重かったという感じだった。

――ボスニアはかつてのユーゴスラビアの一部で、ユーゴの選手は東欧のブラジルと言われたほどボールテクニックが巧みでした。今度のボスニアもそうでしたね

賀川:テレビをご覧になった多くのサッカーファンはご存知でしょう。まずどの選手もボールを持った時の形(姿勢)がいい。相当な長身でも、いい姿勢でボールを扱えるのにまず関心しました。

――日本代表は前半はその相手にジリジリと圧迫されたが、26分に先制ゴールを決めました

賀川:宇佐美が左から斜め内側へドリブルし、ペナルティエリア内に入って内側にパス。そこにいた清武が左足でダイレクトシュートを決めた。宇佐美をマークしたDFは間合いを取って並走するだけでつぶしにくることはなかった。ドリブルの途中で宇佐美が「一呼吸」遅らせた時には、「うまくなったな」と思いましたね。パスのタイミングもギリギリで、宇佐美のよさが一杯つまったゴールでしょう。

――1-0になって、チームもスタンドも喜んだが、すぐそのあとには同点にされました。それも、相手のキックオフで試合が再開してすぐのことだった。ボールを後方へまわし、最終ラインの右サイドからボスニアはロングボールを蹴ってきた。ボールは高く上がって、日本のペナルティエリアの10メートル手前に落下し、吉田麻也がホジッチと競り合いながらヘディングした。そのボールを長身のジュリッチが拾って、エリア外12メートルから丁寧にバックパス、このボールを受けたブランチッチが左足で右前方へ高いクロスを送った。ボールエリア中央右寄り手前に落ちてくるボールをホジッチがヘッドし、ボールがGK西川周作にあたってリバウンドしたのを後方からやってきたジュリッチが右足で右下に蹴り込んだ。

最初のロングボールのヘディングを拾われ、次の高いクロスのときに、最初に吉田と競ったホジッチが右ポストよりに動いたのに誰もマークにゆけなかった。

――シンプルな斜め後方からのクロスに相手の動きが先手をとっていた。

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2016年6月3日 日本代表 対ブルガリア代表(下)

2016/06/06(月)

――2点目は香川のヘディングで決まりました

賀川:1-0になってから、しばらくしてブルガリアもボールをキープし攻めるようになった。彼らのヘディングが日本のゴールに向かって飛び、左右からの攻めでシュートチャンスも生まれた。

――右サイド後方から柏木がロングパスを左サイドへ送り、それを取った長友がゴール前の香川の位置へ高いクロスを送った。それを香川が決めました。見事なジャンプヘディングでした。

賀川:短いパスをつなぐのが日本だと思っていた人には、この2本のロングパスとヘディングの締めくくりで、今の日本代表の別の面を見たでしょう。この日は全体に仕掛けを早くしようとしていたと思いますが、中距離パスの精度のよさも生きましたね。前半のブルガリア側は反応が遅く、いささか不思議でもあったが、、、ボール保持を互角近くに上げてきたときに2点目を取られたから、ブルガリアにはつらいゴールだったでしょう。

――32分の3点目は、相手が攻め込んできた後の、日本のカウンターからだった。右角の深いところへ出たボールを、岡崎が走って拾い、バックパスした。そこから中へグラウンダーのパスが入って最後は香川でした

賀川:右からのグラウンダーのクロスが来たとき、香川のニアサイドにいた清武が、このボールにタッチしないで、ボールは香川にわたり、相手DFがつぶしに来るのを反転してかわし、左足シュートでGKミトレフの右を抜いた。サイドキックでのコントロールシュートだった。この時のキックの形を見て、香川は左足のサイドキックも上達しているのだなと感じた。

――朝日新聞の紙面に、この場面の香川の左足サイドキックが掲載されています。ボールをしっかり注視しているところがよく写っています。

賀川:同じページに岡崎の1点目のヘディングの写真もあった。これもヘディングした後、岡崎の目がボールを追っているところがよくわかります。報道の写真でサッカーのプレーの基本を確認できるのは、とてもありがたいことですよ。

――サッカー好きの少年たちや、指導の先生方にも参考になりますね

賀川:その5分後、38分に4点目が生まれた。コーナーキックのあと、相手がクリアしたボールを長谷部が右後方からゴール左ポストへ長いクロスを送り、ポスト近くにいた森重がヘッドで折り返し、それを中央にいた吉田がヘッドであわせてゴールへ叩き込みました。

――日本側はごく基本的な攻撃展開をしていたのに、相手は反応できていなかった

賀川:ドリブルなどには粘ってついてくるのに、左右にボールを散らされると、うまく防げていなかったようです。前半4-0.観客にとっても、テレビ観戦者にとっても、楽しい45分があっという間に終わりました。

――前半の終わりごろに、香川が宇佐美と交代した。相手との競り合いというより、体をぶつけたとき、腰を痛めたらしい

賀川:すごく調子がよくて、動きにもスピードがあったのに、、、ちょっと心配ですね。後半初めのラインナップは、トップが岡崎に代わった金崎、第2列は小林、清武、宇佐美、その後方は長谷部と柏木で変わらず、4DFもそのままでした。

――新しい顔ぶれにも期待がかかりました

賀川:ブルガリアは、前半より動きがよくなったこともあって、互角の攻め合いとなった。

――後半45分で日本はPKを含めて3得点、ブルガリアは2得点で、PKを失敗しています

賀川:日本は前半に4-0と大きくリードしたが、後半も攻めに出たから試合は最後まで面白かった。選手たちもひたむきでとてもよかった。

――ただし、前半の手馴れたメンバーと違うせいか、パスミスもあり、それも失点の原因のひとつとなった

賀川:日本が後半に先に2ゴールして、一時は6-0まで開いた。

――5点目はやはりコーナーキックのすぐ後に生まれた。

賀川:右CKを相手DFがクリアし、日本側はしばらくDFの間でパスを交換した後、攻めに入り、金崎が後方からボールを受け、右側を駆け上がる清武の前へパスを送った。清武はゴールラインから数メートルまで進んで、中央へパス。そこには吉田がいて、右足で無人のゴールに蹴り込んだ。CKのときからゴール前に残っていたのだろう。

――これで吉田が2得点となった。CKをクリアされた後、攻撃の機会を求めつつ、チャンスにタテに走るという動きが自然に出ているようにみえた

賀川:清武がラストパスをゴール前へ送り込むときに、右サイドキックで丁寧なキックをしていた。ひとつひとつのプレーに選手たちの思いが入っていた。

8分の、この5点目の4分後に6点目が決まった。今後も右サイドからの攻めだった。酒井宏高いクロスを中央で金崎がジャンプしたが届かず、ボールは左へ流れ、宇佐美がとって一つ止めてシュートした。右インサイドで右下隅を狙って決めた。

――スコアは開いたが、ブルガリアはあきらめなかった。後半14分に左スローインから日本側のヘディングが弱くて奪われ、ここからアレクサンドロフにゴールを奪われ、37分にもチョチェフのシュートで2点目を取られた

賀川::6-2となったあと、浅野がドリブルでペナルティエリアへ持ち込み、相手のファウルがあってPKをもらい、浅野が決めて7-2となった。

――7-2の後に今度はブルガリアにPKのチャンスがあった

賀川:43分に日本のエリア内でガリン・イバノフが原口に倒されたのを主審はPKとした。右ポスト際へのコースをGK川島が的確に読み、防いだ。川島にとっての勲章がまたひとつ増えたことになる。

――7-2というスコアだったが、最後まで緊張感があって、いい試合でしたね

賀川:ワールドカップアジア最終予選の準備として、これまでのレギュラークラスのチームワークと、そのチームにどれだけの選手を加えるかを監督さんは見ているでしょう。キリンカップ第2戦で何を見られるか楽しみですよ。

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2016年6月3日 日本代表 対ブルガリア代表(上)

2016/06/04(土)

キリンカップ2016
2016年6月3日 愛知/豊田スタジアム
日本代表 7(4-0、3-2)2 ブルガリア

岡崎の先制ゴールにレスターでの進歩を見る

――久しぶりのキリンカップは、まず日本の1勝、それも東欧のブルガリアを相手に7-2という驚くべき大勝となった

賀川:CDFに吉田と森重。右サイドが酒井宏樹、左サイドが長友という4人のDFの前に長谷部と柏木をボランチ、小林悠を右サイド、中央に香川、左に清武の第2列。トップは岡崎だった。レギュラーの常連、本田圭佑が負傷で欠場したが、ほぼベストメンバーに近い先発。チームは巧みなサイド攻撃で前半のうちに4-0とした。

――1点目は相手DFラインの裏へ走った岡崎が決め、2点目は27分に長友の左からのクロスを香川がジャンプヘッドで決め、3点目は右サイドからのグラウンダーのパスを香川、その3分後に右CKの後、長谷部の後方からの長いクロスを左ポストぎわで森重が折り返し、中央にいた吉田がヘディングでゴールした。

賀川:チーム全体にボールを早めに動かそうという意図が感じられた。中距離のパスが多く、また反対側のサイドに振る長いパスもあった。

――日本の早いパス攻撃にブルガリア側はとまどったようでした

賀川:なにしろ1点目のゴールが4分30秒だったからね。早い先制ゴールで日本は気分的にも楽になっただろう。

――形としては相手守備ラインの裏へ岡崎が飛び出した。オフサイドかというぐらい早いタイミングの動きで、柏木からのクロスをヘディングしたときはノーマークだった

賀川:この攻撃の始まりは、3分24秒に長谷部が右コーナーへロングボールを送り、それを追ってボールを取り、そこからバックパスが出て、ボールがエリア右外角近くへ戻ってきた。

――そのバックパスを受けた柏木にブルガリアのランゲロフが奪いに来た。柏木は戻り気味にターンしつつ、ゴール前を狙う岡崎の気配を感じていた

賀川:岡崎がエリア中央部を左から斜めに出ようとするのに合わせて、柏木はパスを送った。ゴールはゴール正面へ。CDFテルジエフの背後から現れた岡崎をブルガリア側はマークできず、ゴールキーパーとの競り合いもなくヘディングを決めた。

――ボールに近いところに小林も来ていました

賀川:柏木と岡崎のパスのやり取りだが、そういう小林の動きも相手へのけん制になっていたでしょう。

――サイド攻撃でも、右サイドでのバックパスの後のクロスですから、ちょっと意表をつきましたね。そういう全体の流れを見て、相手DFラインの裏へ走りこんだところが岡崎ですね。

賀川:試合後の談話で「飛び出すのが早すぎてオフサイドかなと思ったが、そうでなかった」と言っています。かつての日本の大ストライカー釜本さんとの話でも「裏を取る時はオフサイドとは紙一重ですよ」ということだった。

――今年の岡崎はプレミアリーグ優勝チームのストライカーとして注目されていますが、その一端を見せましたね。

賀川:そう。彼は滝川第二高校以来、「ゴールを狙う」のを生きがいに進歩してきたプレーヤーです。彼の守備での貢献なども高く評価されていますが、このゴールを見れば、やはり一瞬をとらえるストライカーの本領が見えましたね。

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2015年6月11日 日本代表 対イラク代表

2015/06/12(金)

キリンチャレンジカップ2015
6月11日 横浜
日本代表 4(3-0、1-0)0 イラク

――4-0快勝でした

賀川:横浜スタジアムの6万余人もテレビの前のファンも楽しい試合だったでしょう。私にもとてもうれしい90分間でした。

――宇佐美貴史がいいプレーをした。柴崎も決定的なスルーパスを何本も出しました

賀川:かつての遠藤と同じ背番号7をつけていて、遠藤のようなスルーパスを出していた。ボランチのポジションで長谷部と組んだが、パスを出す位置や、タイミングが素晴らしかった。

――2018年ワールドカップ、アジア最終予選の第2ラウンドをひかえた日本の強化試合のキリンチャレンジカップとしては、とても良かったと言えるでしょう

賀川:ハリルホジッチ監督の就任後の3試合目で、チームが変わっていく過程を見事にファンに見せてくれた。前半の選手起用も、後半の新しい顔ぶれの投入も、とても良かった。

――本田の先制ゴールが5分、CKからの2点目(槙野)が9分と初めの10分間で2点を取りました。あれ、イラクはもう少し強いのじゃないかと思いましたが

賀川:国内が日本と比べると大変な事情で、代表チームの編成も、私たちよりは苦労があるでしょう。しかしワールドカップアジア予選の第2ラウンドではイラクはFグループに入っていて、インドネシア、台湾、タイ、ベトナムと戦います。そのための準備としてイラク側にもこの試合は大切なのでしょうが、日本がこれまでとは違うスタイルになっていたので驚いたのかもしれません。

――1点目も速攻、スルーパス1本を本田が決めました

賀川:日本の攻めが続いたあと、日本のスローインからチャンスは始まった。柴崎がスローインを長友に返し、長友が前方へ送る、①イラクがヘディングで返してきたのを長友が相手DFと競り合い②ボールが柴崎の前へ落下した。③ワンバウンド目が高く上がったのを、柴崎は2バウンド目まで待って、体の向きを前にし、2バウンド目のボールが落下してくるところを右足のサイドキックのボレーで前方へ送った。④そのボールが中央前方にいた本田の前へ出た。

――本田と岡崎がこの時は2トップのように前方にいました。岡崎はオフサイドのように見えました

賀川:本田をマークしていたイラクのDFは本田をもオフサイドトラップにかけようとしたように見えた。本田はその時に前にスタートしたから、相手は遅れてのスタートとなった。

――ふーむ、細かく見ましたね

賀川:あとで、もう一度スロービデオで確かめたのですが、スルーパスはまずタイミングが問題。この場面では2バウンドまで待って正確に出したことと、柴崎が前を向いてボレーで蹴ったのがミソでしょう。

――ボレーキックのパスやシュートは相手は見にくいといつも言っていますね

賀川:柴崎はそういうところも心得ているプレーヤーでしょう。

――本田にもパーフェクトなタイミングでボールが出てきた

賀川:そうは言ってもDFの裏へ走り込んでスルーパスをシュートして決めるのは、そう簡単なことではありません。

――本田は足が速い方ではないから

賀川:永井のように速くなくても、彼は体の「シン」が強く、バランスが良いという長所があります。DFの追走を受けながら、真っ直ぐの突進からボールを少し左へずらせて自分の左足キックの得意な角度へ移しながら、右手のハンドオフで相手が体をぶつけてくるのを防いでおいて左足でシュートしました。

――本田の個人的な強さと、柴崎のパスがピタリと合った

賀川:岡崎のオフサイドを含めてこれもひとつのチームワークですが最後には本田の強さが生きたゴールです。彼が得点への意欲を高めるのは代表にとって重要なことですからね。

――2点目は左CK、遠藤が参加しなくなってから、ここは香川が蹴っています。そのキックをニアで酒井宏樹と吉田麻也がジャンプし、どちらがふれたかどうか、ボールはファーサイドへ落下し、そこに槙野がいて足にあてて、ゴールへ送り込みました

賀川:その槙野のさらに外に本田がいました。香川のボールに合わせて4人が同一ラインに入ってきたことになります。プレースキック(FKやCK)は、練習し、いくつかの型を持てば大きな得点源ですからね。

――テレビでも、監督が3分の1の得点はFK、CKと言っていると説明していました

賀川:1930年代から、僕たちの中学生のころから、そういうことになっていました。今の代表選手のように技術の確かな選手が多ければ、守備が進歩した現代サッカーでもCK、FKはチャンスでしょう。

――ごひいきの宇佐美選手は左サイドでキープし、縦の攻めと仕掛け、ドリブルシュートをするなどガンバの時と同様に落ち着いているように見えました。3点目は彼のドリブルからのパスが決定的な役割を果たしました

賀川:右サイドのやや中よりで、本田、香川たちがパス交換をしたあと、柴崎が左から中へ入り込んできた宇佐美へパスを送りました。宇佐美が巧みなトラッピングからドリブルで相手をかわし、さらに前へ出て相手DFの目を集め、左へ (中央へ)開いた岡崎へ横パスを出した。まぁドリブルからパスを出す動作の滑らかさは見ていて惚れ惚れします。こういうパスをもらってフリーシュートとなると外すこともあり得るのですが、さすがに岡崎は左へ流れながら左足でシュートして決めました。

――GKは左手を伸ばして、手には当てたが防げなかった

賀川:シュートもしっかり蹴れていましたからね。ハリルホジッチ監督は、それまで右サイドにいた岡崎を彼が監督になってから中央のいわゆるCF(センターフォワード)の位置に持ってきたのは卓見ですね。

――香川真司が目立たなかった

賀川:ゴールしなかった、決定機を作らなかったというふうに見えるが、ともかく意欲満々で良く動いていた。前へ出る動きと本田とのペアプレーなどが生きて柴崎が良い位置でパスを出せる形になったと思います。

――両サイドの攻めもあったが

賀川:サイドから侵入してのクロスの成功は、クロスパスの精度と中央でパスを受けるプレーヤーの「動き」が合うこと、さらには相手DFに当たったボールへの予知などがからんできます。まぁこれは今後の課題でしょう。もちろんサイドからの攻めもあったことが柴崎たちのスルーパスが通りやすくなっていたということにもつながるのかもしれません。

――後半の新しい代表のプレー、その他についてはのちほどに

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2014年11月18日 日本代表 対オーストラリア代表(続)

2014/11/26(水)

――ここのところ、レッズ対ガンバのJリーグトップ争いをはじめ、好試合が多く、海外からもテレビでいい試合が届けられて、サッカー人は楽しみが多いですね。

賀川:テニスの錦織選手、日米野球もあり、まさにスポーツの秋です。Jリーグをふくめ、そちらの話も楽しいけれど、キリンチャレンジカップの日本対オーストラリア戦の続きを語り合いましょう。

――アギーレ監督はシンガポールでのブラジル戦を含めた6試合での最終戦の対オーストラリアで代表チームの姿をファンの前に見せました。2−1の勝利だから、まずは成功ですね。

賀川:いまの日本サッカーの勢力からゆけば、普通に考えれば代表はブラジルワールドカップ組に何人の新顔が入るか…と考えるはずですが、アギーレさんは全く新しい選手を登用することから始めました。最終的にはブラジル組にプラスαが加わる形になった。

――ヨーロッパで働くもの、あるいはガンバの遠藤、今野たちを含めてのブラジル組は6月の不本意な成績の後、捲土重来の意気込みがあったはずだが、6試合の終盤になってはじめて彼らの顔を揃えたところが、監督らしいということ?

賀川:多分新しい顔ぶれ、それも自分が選んだプレーヤーをテストしておきたかったことと、ブラジル組を起用する時期をいつにするかを考えていたのでしょう。

――1月のアジアカップという、当面まず成果を出さなければならない試合を控えてのことですからね

賀川:ザッケローニ前監督はチーム全体に攻撃志向という大命題を用意して、その高い目標に選手を導いてゆこうとして、ある程度成功した。しかし2013年のコンフェデ杯に出場した時の初戦のブラジル戦を見て、こういう強敵と戦うための選手のモチベーションの上げ方に不満が残った。

――そういう心の中のことは、言葉の問題もある?

賀川:今度のアギーレさんは選手にとっての反復練習の重要さを説きつつ、体のコンディションとともに選手の心理を読み、試合に出場するにあたって強い気構えになるように仕向けているように感じたね。

――記者会見での受け答えもしっかりしているとか

賀川:まあ、サッカーのプロ監督だから当然ではありますが、サッカーをよく知っていて、同時にメディアの対応もなかなかのものですよ。

――特に感じたことは

賀川:岡崎慎二をFWの中央で使ったことですね。ザックさんは攻撃展開についてチーム全体の質的向上を図ったが、最後にまたCFポジションの選手選考に迷ったように見えた。新メンバーで、岡崎は確か4試合続けてこのポジションだった。

――岡崎に合っていた?

賀川:ゴールを常に狙う選手が、ゴールに最も近い位置にいるのは当たり前のことだが、日本では本田というストライカーがいても彼をCFの位置に置くよりは右サイドの方が効果的なことはすでに知られている。岡崎は背も高くないし、CDFを背にしたプレーがとても上手というわけではないが、体を張って、ボールを受けてくれる選手で、同時にいつもゴールを狙ってチャンスをうかがっている。アギーレさんはおそらく岡崎のストライカーとしての最も大切な「気性」の素質を買ったのだと思います。

――後方からのボールを受けるのも上手になった。何よりヘディングが強く、高いバウンドのボールなどの競り合いに強い。ある時期は彼が右サイドに入ることが守備面―相手の左からの攻撃を抑えるメリットも語られていた

賀川:岡崎を中央に置いて、彼の特性を生かすこと。ボールを受けるにせよ、左右に走って展開のきっかけをつくるにせよ、彼の特徴を周囲が知れば、自然に連係プレーが出来てくる。

――本田と香川は

賀川:この2人はブラジルでの不振について強く責任を感じているはずですよ。イタリアでもドイツでも自らの新しい面を切り開こうとしているようです。

――本田は自らゴールを奪う意欲をさらに強めているようです。香川はロングパスの精度が上がりましたね。

賀川:ドイツサッカーの広い動きのなかで、プレーしていますからね。視野の広さは、時には感心しますよ。ゴール前へ入り込む動きも大したものですが、ぼつぼつ得点するためには、時に大雑把の方がよいことを覚えるべきでしょう。

――というと

賀川:前半の終わり頃に素晴らしいスルーパスがあって、香川がペナルティエリア内に進入したでしょう。

――右ポスト近くに持ち込んで、岡崎にパスをしようとしたが、DFの足に当たってCKになった

賀川:あの狭いスペースで、なお岡崎へのパスコースをさがし、そこへボールを送ろうとするところは、いかにも真司らしいのですが、あの場面はパスでなく中にいたDFと岡崎の合計6本の足のどれかに当たればよいと、強いシュート性のボールを送り込んだ方がよいでしょう。もちろん、あの位置からフワリとGKライアンの上を越えるボールを送ることも選択肢のひとつです。

――ふーむ

賀川:私は本田の意表をつくスルーパスと香川のそのパスを受けての見事なプレーをこうして話題にできるようになっただけでもうれしいのですが、折角ここまで来たのだから、その見事なパスワークの後、ゴール!と叫びたいものです。

――それには?

賀川:彼自身の心の持ち方もあるでしょうが、いつも言うように、香川があのポジションでの経験、ゴールすぐ近くでのプレーを重ねることです。試合ではそれほどできないですが、シュート練習などでも、ゴール近くへ走り込んでシュートすれば、ゴールやゴールキーパーの見方を体で覚えるでしょう。

――アギーレ流で、ともかく6試合を重ね、成果をあげて、アジアカップに乗り込みます。ここまでのところは、多くのメディアも納得した?

賀川:試合はアギーレさんがするのではなく、選手がするのですよ。DFのサイドは左右複数の選手がいます。CDFは数が少ないのが心配ですが、まだまだいい素材も出てくるでしょう。ベテランのボランチに新しい選手が加わり、攻撃陣も手薄だが各パートは揃いました。

――岡崎と豊田のCFでしょうか

賀川:南半球のオーストラリアでの夏の大会となるアジアカップは決してやさしい大会ではありませんが、選手たちがまず2015年の初頭の高いを勝ち抜き、ステップアップしてほしいと思います。

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2014年11月18日 日本代表 対オーストラリア代表(下)

2014/11/21(金)

――2点目もCKからでした

賀川:その前に一言付け加えたいのは、今野が遠藤と代わってうまくいったからといって、今野と遠藤を比べて云々するのではありません。今の日本には、今野、長谷部、遠藤というそれぞれ特色を持ったすばらしい3人のベテランMFがいるということを強調しておきます。

――後半23分に今度は岡崎慎司のゴールで2-0となりました。

賀川:1-0となってオーストラリアは少し気落ちした感じになった。前半飛ばした疲れも出てきたかもしれない。日本が攻めこんだ後のセカンドボールを取れいるようになった。21分には本田がハーフウェイライン手前で相手ボールを奪い、前を走る岡崎にパスを出して、岡崎がドリブルしノーマークでシュートした。GKライアンに防がれたが…

――惜しい場面でした。しかし、この後の左CKが得点を生みます

賀川:岡崎の長い突進の後のシュートが入らなかったのは惜しいが、この時パスを出した本多、後方から右前方へ駆け抜けたすばらしいダッシュを見て、彼らの士気の高さに感心したんです。

――左CKは本田が蹴りました。今度はニアポストでした。吉田が飛び込んだが、彼と相手の2人の間を抜けてボールはゴール前に落ち、そのままペナルティエリアの右外へ転がった。先にボールへ行ったのが森重でした。

賀川:左CKの時、今度は彼はファーサイドにいた。ボールに追いついてゴールの方を向くまでに余裕があった。オーストラリア側がゴール前に固まってしまい、またボールへの寄せも遅かった。森重は前方から来る長身のウィルキンソンにキックフェイントを交えたドリブルで仕掛け、浅く切り返してその股下を抜いて、内へ持ち込んだ。

――森重、やるなぁという場面!

賀川:そのままエリアまで直進し、ウィルキンソンの前を横切ってゴールライン手前4メートルで中へパス(グラウンダーの短いクロス)。ボールは迎えうちに来たDFの足間を抜けてゴールエリアへ。

――そのゴールエリア右ポスト前、4メートルに岡崎がいました

賀川:岡崎はセインズブリーにマークされていたが、自分の後方へきたボールを右足を伸ばしてヒールキックで方向を変えた。ゴールキーパーは右手を伸ばしたが届かずゴール中央に飛び込んだ。

――クリスティアーノ・ロナウドも時々見せる両足間のヒールキックですね。

賀川:少し後ろ目に来たボールを右足を大きく開いてヒールに当てるのだが、この場合は少し強めだったのだろう、ボールが浮いた分GKライアンには難しかった。

――不器用とひたむきさが売り物の岡崎のヒールキックに拍手喝采でした。

賀川:本人は気持ちで押し込んだと言っていたが、同じヒールシュートでも彼らしい“気”のこもったものでしょうね。記者席からは赤い靴を履いた森重のドリブルが見事だったのと、やはり赤い靴の岡崎の瞬間の動きがとても印象的でした。

――直前のドリブルシュートは逃したが、そこで生まれたCKからのチャンスをものにしました。岡崎はこれで代表でのゴールが40点。釜本邦茂、三浦知良に次ぐ、歴代第3位になるはずです。

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2014年11月14日 日本代表 対 ホンジュラス代表(続)

2014/11/17(月)

――18日、長居での対オーストラリア戦は「勝ちにいく」と17日の記者会見でアギーレ監督が言いました

賀川:試合をするのですから、「勝ちにいく」のは当然ですが、これまでのアギーレさんの選手起用について、いろいろな見方ができるので、どう戦うかを記者たちが質問したのでしょう。

――とすると、18日はホンジュラス戦のメンバーが主となる?

賀川:そうみてよいでしょう。選手ひとりひとりのコンディションの問題もありますが…

――内田はホンジュラス戦でいい働きぶりでしたが、足を痛めているとか

賀川:日本代表がアジアでの強敵オーストラリアを相手に、対ホンジュラス戦のような試合を見せられるかどうかです。

――ホンジュラスを相手にして、押し込まれる時間もあったし、ゴール前でシュートまたシュートというピンチの時間もありましたからね

賀川:オーストラリアは体格や体力の点でホンジュラスよりも上です。しかしそれに対する守りの備えも練っていることでしょう。

――当たりが強く空中戦も強いはずのオーストラリア相手に、ホンジュラス戦のような攻撃展開が見られれば楽しいが

賀川:6ゴールで注目すべきは、このうち4点がペナルティエリア内でのシュートということです。

――そう言えば先制ゴールは左CKをニアで岡崎があわせ、それをファーポストすぐそばで吉田が頭で押し込みました。

賀川:2点目は相手が攻めに出ようとした時にミスパスがあり、長谷部が奪ったボールがダイレクトでトップラインにいたノーマークの本田にわたり、彼がドリブルでエリア内に持ち込んでシュートし、GKエスコバルの左を抜いた。相手のバックラインの裏へ出て、GKと1対1になった時は、案外得点にならないことが多いのだが、本田は落ち着いていました。

――3点目はペナルティエリア外からの遠藤のシュートだった

賀川:左サイドで3人がかかわってバスを交換し、本田が正面のオープンスペースにボールを送って、遠藤が決めた。この時の遠藤の間(ま)の取り方が実にすばらしかった。彼の本領発揮というところ。

――賀川さんの好きな遠藤のタイミングをずらせるプレーについては、別の機会にしましょう。後半の3点はすべてエリア内のシュートでした。

賀川:4点目は、後半のスタートから入っていた乾が最初にからんだ。相手の右サイドからの攻めを防いで、左タッチライン際の深いところで乾にボールがわたり、そこから乾はドリブルで前進して右内側の遠藤にわたした。遠藤は右へボールを送り、本田へ。本田がドリブルで内へ持ち込む。このとき左の乾、右外の内田、右サイド内側の香川が走り上がる。本田はさらに内にドリブルし、エリア前方からエリア内左へボールを送り込んだ。フワリと上がったパスが落下したところへ乾が走り込んで落下点でシュート。バウンドにあわせたサイドキックシュートで、GKの右を抜いた。見事なカウンターだった。複数の仲間がスペースへ走り込むことで、相手もそれにつられる。したがって、本田は最も交換的なパスを選ぶことができた。乾の運動量もすごいが、内田や香川のランもこのゴールにからんでいた。

5点目は交代で入った豊田が決めた。香川が本田からのパスを受けて、エリア内で相手の2人にからまれ、ボールがこぼれたのを豊田が決めた。

――この日は攻めだけでなく、守りへの動きの量も多かった

賀川:2点目の長谷部からの本田へのパスの前に、香川が相手DFにプレスをかけ、そのミスパスを長谷部が取ったのだが、チーム全体にこういう動きが多かった。

――6点目もエリア内、本田からのパスを豊田が相手DFが競り合ってボールのバウンドにうまく合わせた。本人は「ごっつぁんゴール」と言っていましたが…

賀川:その位置へ来ている。いないと点は取れないからね。相手が期待していたより弱かった感じもあるが、全員が守る意識を持ち、攻めにゆこう、前へゆこう、という気持ちが強かったのがよかったといえるでしょう

――1月の暑いオーストラリアでの試合は、困難もあるでしょう

賀川:それだけに18日のオーストラリア戦はしっかりやってほしい。

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2014年11月14日 日本代表 対 ホンジュラス代表

2014/11/16(日)

キリンチャレンジカップ2014
2014年11月14日 19:29 KickOff 愛知/豊田スタジアム
日本代表 6-0(前半3-0) ホンジュラス代表


——快勝でした。6-0、前半9分の左CKからの先制点にはじまり、41分の本田のドリブルシュート、44分の遠藤のエリア外からのミドルシュートで3-0。後半も交代出場の乾が2得点、豊田が1ゴールしました

賀川:豊田スタジアムへ集まった42,126人もテレビ観戦の皆さんもとても気分の良い90分でしたね。

——ワールドカップのブラジル組がほとんど揃い、欠場した長友の代わりに左DFは酒井高徳、右は内田、中央のCDFは吉田と森重。二人のCDFの前で長谷部がアンカー役となり、賀川と遠藤が攻撃的MFに本田が右に開き、左には武藤、そしてトップ中央に岡崎を置きました。

賀川:ここしばらくの試合で、岡崎はトップのいわゆるCFの位置に入っています。長谷部をアンカーに置いたのは、2010年南アフリカ大会で岡田監督が阿部勇樹をアンカーに置いて成功した例もあります。日本の守備を強くするという点では、いい考え方のひとつです。これによってチーム全体に守りへの意識が高まったでしょう。

――本田がトップ下というより右サイドで起用されました。

賀川:ほとんどがブラジル組ですが、多少役割の違いがあり、それがこの日のホンジュラス相手に見事に適合したということでしょう。

――大勝の割にメディアの喜び方は控えめなのが多かった

賀川:さあ、メディア全部を見たわけではないが、テレビの解説でも押さえた感じもありましたね。

――あまりのゴールラッシュにとまどったのかな

賀川:アギーレ監督にとっては、チームづくりの過程のなかで、まず一番近い1月のアジアカップにどういうチームで優勝へ持ってゆくかがひとつのステップでしょう。そのためには11月18日の対オーストラリア(キリンチャレンジカップ、長居)の前に、ブラジル組でひとつの結果を出すことは大事だったのでしょうね。その意味では、よかったでしょう。

――いいポイントをあげると

賀川:ザック監督はブラジル大会で攻撃を強調しましたが、弱点の守備面では改良が少なく、結局成果は上がらなかった。

――今度は長谷部をボランチで攻守両面というよりアンカーで少し守りに重きを置いた?

賀川:彼自身もチーム全体も守備の意識が強くなったはずです。もちろん選手たちもブラジルの後、ひとりひとりが自分たちに不足していたものを反省したでしょうからね。

――それでいて、前へ出てゆこうという意識が前より強かったようにみえた

賀川:長谷部のアンカーで後方の中央部が固まるとなると、攻めに出るのも安心するものです。

――気候もよかったと言っていましたね

賀川:豊田も寒かったけれど、サッカーをするのには、暑いよりはいいコンディションです。先ほどの代表個人の反省のなかでもブラジルでは走らなかったという「無念」があったはずです。

――気候の上でも、ブラジル組の気構えの上でも、代表チームに動く、走るという気分が満ちていたと?

賀川:日本サッカーはまず運動量と運動の質が上がらなくてはいけません。それに本田が久しぶりに攻撃の際のボールキープというところで、役割を果たしました。4年前の南アフリカでの新しい驚きであった本田が、当時の強さの上に経験を積んでいるのだから、ホンジュラスの選手たちにはとても「やっかいな」相手だったでしょう。

――その後ろに、やる気満々の内田が控えていました

賀川:ウッチーが気のせいか、体が大きく見えましたね

――岡崎のCFは?

賀川:センターフォワードタイプとしては上背に乏しいけれど、空中戦に強いという本人の特色が、後方からのボールの受け方の上達にもつながっています。監督は日本でのCFタイプを試してきたが、トップもサイドもできる岡崎に、この顔ぶれではCFの役割を期待したのかもしれません。なんといっても、彼はこの試合の先制ゴールにからんだ殊勲者ですからね。

――前半9分の1点目、左CKを遠藤がニアポストへ蹴り、岡崎がヘディングしてボール前へ流し込み、GKが防いだボールをファーポスト側にいた吉田がヘディングでゴールへ流し込みました。やはり先制ゴールは大きい?

賀川:ホンジュラスはブラジルで1勝もできず3戦3敗で、その時の選手が数人いました。日本とあまり変わらない実力といえるでしょう。アメリカ、ヨーロッパでプレーしている選手もいますが、中米のホンジュラスのリーグの選手もいます。アウェーのうえに、この日の寒さもあったから、ホームの方が有利なのは言うまでもありません。5分ならホームが勝つのは当たり前のようですが、それでも先制ゴールはチームに落ち着きを与え、その後の展開に大きく響きます。

――岡崎がニアで合わせるヘディングがいきたわけですね

賀川:遠藤も久しぶりの代表で気持ちが入っていました。香川もドイツでのリーグ戦出場で、調子を取り戻し、新しい自分をみせようという迫力があった。そういったそれぞれの選手の気持ちを高めた点でも、先制ゴールを得意の停止球から取ったのはよかったと思います。

――あとの5ゴールも代表の歴史に残る攻撃展開のようにみえました

賀川:そのひとつひとつを楽しむことにしたいのです。相手がどうであっても、自分たちのチームがいい連係プレーで、すばらしいゴールを奪うのはとてもうれしいことです。

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2014年10月10日 日本代表 対 ジャマイカ代表

2014/10/14(火)

キリンチャレンジカップ2014
2014年10月10日 19:29 KickOff 新潟/デンカビッグスワンスタジアム
日本代表 1-0(前半1-0) ジャマイカ代表

――アギーレ監督になって、3試合目で初めての勝利でした

賀川:新潟での久しぶりの代表の試合、気温も18度と日本側にはいいコンディションだったから、選手の運動量も多かった。ジャマイカはパスミスが多く、明らかにチームとしての調整不足のように見えた。ただし、なんといっても陸上100メートルのウサイン・ボルトの国。世界に知られたアスリートの産出国ですね。日本が1998年フランス大会の1次リーグでジャマイカと戦った時も、結局彼らの1対1での体の強さ、ジャンプ力などで敗れたことを思い出しますよ。

――それにしてはいささかチームワークがお粗末

賀川:代表チームとしての練習時間が足りないのでしょう。パスミスが多く、また攻撃の締めくくりとなるシュートやヘディングがもう一息でした。こちらには幸いでしたが…

――シュートが決まらないという話になると、この試合で日本代表は20本ものシュートを記録しながら、ゴールはオウンゴールの1点だけでした

賀川:そのオウンゴールは前半16分に岡崎慎司が相手ボールを奪ってドリブルし、右へ走りあがった本田圭佑にパス、本田がエリア中央右寄りで受けて、柴崎岳に渡し、柴崎がドリブルしてゴールエリア右角外からシュート。GKのトンプソンが右手で防いだボールが戻ってきたノスワーシーに当たってゴールに入った。

――攻撃のスタートは岡崎が相手ボールを奪ったところからでした。岡崎の特色のひとつですね

賀川:相手の選手がボールを受けて、自陣の方へ向いたその時のボールコントロールが悪かったのに付け込んで奪ったのだが、奪った後、一気に左寄りから中央へ斜めにドリブルしたのもよかった。

――その直前に香川真司の左足ロングシュートが左ポストをわずかに外れ、全体に勢いがつこうとしていた

賀川:気の早い人は、このオウンゴールで今日は何点取ってくれるか、と思ったかもしれない。

――残念ながら、その期待通りにはゆきませんでした。何故でしょう

賀川:シュートの精度が低いと言ってしまえばそれまでだが、その20本のひとつひとつをシュートした当人がこの試合の後で分析し、自分の次のシュートに備えることでしょうね。

――本田のように左足のシュートの型を持っている者は、それがうまくいかぬ時は調子がいいとか悪いとかという話になりがちです

賀川:武藤嘉紀のこの日のシュートの多くは右足でした。試合開始の早い時間帯に柴崎から長いパスを受けて、エリア左角外でシュートに入ろうとして、結局相手につぶされたシーンがあったでしょう。彼にとっては左足で蹴る場合のバックスイングからインパクトの早さが右の場合とは違っているはずです。その彼がこの日は右で蹴ることになる場面が多くて、相手のマークや追走やファウルに妨害されることが多かった。なぜ左のシュートへすぐ持ってゆけなかったかを考えることも、そのひとつでしょう。

――柴崎のパスが目立ちました

賀川:新しい戦力の発見がアギーレ監督のここしばらくのテーマのひとつでしょう。鹿島で小笠原満男という手本とともにプレーしているだけに、若いうちから小笠原の老獪なプレーを写し取っているようです。一番ボールが受けやすく、攻撃を見通せる位置へ出てくることの上手なプレーヤーで、その視野だけでなく、パス自体の正確さもなかなかのものです。まだ、いくつかの不満もないではありません。

――というと

賀川:パスが上手ということ、つまりコントロールキックが上手ということです。その技術をシュートに生かそうという、シュートへの興味を高めることです。そして、ボールのコース、つまりパスの高低がもっと自在になればと願っています。

――そういえば、そこでまだパスを出すの?という場面もあった

賀川:武藤と柴崎という2人の攻撃プレーヤーは、これからも代表で伸びていくでしょうが、大切なのは本田圭佑、香川真司、岡崎慎司といった、これまで主力であったプレーヤーも、決して世界の頂点にいるわけではなく、まだまだ力を伸ばせるプレーヤーだということです。

――GK西川周作が久しぶりの登場でした

賀川:前回のキリンチャレンジカップの時も、西川の話が出たはずです。今のJリーグ浦和の好成績のひとつに「GK西川」がいることは誰も疑わないでしょう。川島も悪くないが、西川とDFによる守りの構築も考えてよいでしょう。

――今回のキリンチャレンジカップはジャマイカが相手だったので、次のシンガポールでのブラジル戦の前哨戦といった感じで見た人もありました

賀川:次の相手のブラジルは何と言っても超大物ですが、ジャマイカ戦は相手が強化途上のチームであっただけに、チャンスらしい形もつくれました。それだけにひとりひとりの個人技術が改めて浮き彫りになったとも言えます。

DFの両サイドからのクロスは長友と言えども正確さという点では満点ではありません。酒井高徳はフリーで走りこんで右で蹴ってゴールラインの外へ出ることもあったはずです。「上げて落とす」「一番手前のDFにカットされない」などという、ごく基本的なことも十分とは言えません。香川真司が後半に左から中へ入り、右足でまっすぐ底を蹴って、ファーポスト側の武藤にヘディングさせたボールも、ドイツの選手ではなく日本代表の仲間へのパスだから、もう少し丁寧に蹴ることも考えられます。

新しい監督のもとで、新しい日本代表をつくると言っても、結局は日本代表のひとりひとりが自分の技術を高めて、守りを固め、ゴールを奪う仕事に励むことです。全体としては、徐々に選手たちの意欲も見え始めています。この試合ではまだどこからどう崩すかという基本戦略に至っていませんでしたが、強敵ブラジル相手の試合では、自分たちが制限された力の中で、どう組み合せれば有効かを知ることになるでしょう。

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2013年9月6日 日本代表 vs グアテマラ代表

2013/09/10(火)

――6月のコンフェデレーションズカップで3敗、8月のキリンチャレンジカップ対ウルグアイ戦にも負けた後でしたが、入場券は早々と完売、スタンドは満員でした

賀川:何と言っても、来年のブラジルワールドカップに出場する日本代表ですよ。コンフェデから4連敗したといっても、ブラジル、イタリア、メキシコ、ウルグアイという世界のトップクラスのサッカー国代表を相手にして、攻撃サッカーを振りかざしての敗戦だったから、サポーターの共感を得ていたと思います。その4連敗の経験から代表がどう変化してゆくかをファンは見たいのでしょう。

――新しいメンバーを加えることもそうです。戦いぶりを変えるのか…という関心もあった。

賀川:まず守りの意識を高め、攻撃の時にボールを奪われれば、そこからすぐ守りに入り、積極的にボール奪取にゆくようにした。それが成功していた。

――まあ、相手のレベルもありました。

賀川:グアテマラはメキシコの南隣にあり人口1471万人(2011年)、面積は日本の北海道と四国を合わせたより少し大きい程度。北隣にあるメキシコに比べると小さな国です。ワールドカップの出場経験はなく、すでにブラジル大会のCONCACAF(北中米カリブ海地域)の予選で敗れています。したがって、来日チームは新しく作り直す新チームで、その最初の試合なのです。

――その相手を無失点で、と言ってもあまり評価はできないという声もあります。

賀川:もちろん満足してはいけません。こういう守りの気構えや動きを、9月10日のガーナ戦で続けることです。

――アフリカの強国ガーナ代表は個人力もありますね。

賀川:新しいメンバーということでは、FWに新しく大迫勇也と工藤壮人、そしてウルグアイ戦に続いて柿谷曜一朗が起用された。

――前半のラインナップはGKにこれまでの川島に代わって西川周作が、DFは左が長友佑都、右が内田篤人ではなく、酒井高徳、CDFは吉田麻也とその相棒に新しく森重真人、ボランチはベテランの遠藤保仁と長谷部誠キャプテン。攻撃的MFには右に岡崎慎二、トップ下に香川真司、左が清武弘嗣、ワントップに大迫勇也でした。

賀川:大黒柱ともいうべき本田圭佑は後半だけの出場でした。

――後半30分に香川に代えて今野泰幸を入れて左サイドのMFに長友を上げました。

賀川:その後半はワントップには大迫に代わって柿谷、清武に代わって本田が送り込まれました。ザッケローニ監督はメンバーの交代は全て計画通りと言っていたから、いろいろなオプションを見るつもりだったのだろう。岡崎と代わった工藤は30分近くプレーした。遠藤とした交代した青山敏弘は10分ばかりだったが、それぞれ代表レギュラーに厚みを持たせるための実戦ですね。

――この顔ぶれで前半0-0、後半3-0のスコアでした

賀川:グアテマラは8人で守る形となり、日本は前半からボール支配率60%で攻勢を続けた。前半6分の香川のシュートに始まり、45分に12本のシュートだったがゴールは奪えなかった。

――香川の1本目は右サイドを突破した長谷部がペナルティエリアの「根っこ」からクロスを送ったもの。ダイレクトシュートだったが、DFに当たってCKになりました。惜しかったのは、20分の清武…

賀川:左サイドから攻めて、香川が自分の足下へ来たパスをヒールキック(というよりわずかにソールでタッチして)で左から走り込んできた清武にパス。清武がシュートし、GKが防いだ。最初の香川のシュートと同じようにペナルティエリア内、あるいは近くのパスをエリア内でシュートするという形だった。清武のシュートは香川のアクションが入ったので、ノーマークになったのだが、残念ながら右サイドキックのシュートは防がれた。ノーマークではあったが、角度も狭く、決してやさしいシュートではなかったが、こういう場面でゴール能力を高めたいもの。

――やさしくないシュートだったと

賀川:それについては、後ほど、あるいはキリンチャレンジの9月シリーズのまとめでお話するつもりですが、一言だけ言っておくと、ゴールへのシュートはサイドから来るボールを蹴ったり、ヘディングする方が後方から来るパスを蹴る(ヘディングする)よりもやさしいということです。

――大迫が4本シュートしました

賀川:ペナルティエリアの外から2本、エリア内で2本ありました。相手のDFを背にして反転してのシュートは見事だったが、いつもお話しているように、こういう形の時は、ゴールキーパーの正面かリーチの範囲に飛ぶことが多い。大迫はこのところレベルアップの感もあったが、このシュートはそれを証明できなかった。それは、本人のキックの型によるから、一概に言えないが立ち足の踏み込みやインパクトする時の足の部位の使い方によるでしょう。シューター自身が自分でつかむものだが…

――後半に本田が入ると攻撃が落ち着いた感じになった

賀川:本田は立ち止まってキープできる。いわば、サッカーの忙しい動きのなかで、緩(かん)を持ち込める選手です。香川は自分も走り回る方で、攻撃陣全体がやたらに走っている格好になっていた。

――後半には相手側の動きの遅くなったこともあったでしょう

賀川:左サイドの長友がドリブルで縦に抜いてエリア外からクロスを送り、それがGKを越えてファーポスト側に落下、そこへ本田が走り込んでDFに競り勝ってヘディングを決めた。

――本田は身長183センチ、ヘディングも強い

賀川:68年五輪得点王、釜本邦茂と同じように体がしっかりしていて、ジャンプで競るときもブレないところが強さです。このゴールだけでなく、彼は左からの香川のクロスなどの予測もうまい。

――2点目は香川が右サイドのエリア根っこからの速いクロスを工藤が飛び込んで決めました

賀川:柏の工藤らしい体をぶつけてゆくようなダッシュだった。もちろん香川の速いクロスも生きた。これは右CKをショートコーナーにして長谷部にわたし、香川が前に走り込んで長谷部からのパスを受けたのだが、走り込むタイミングがよくて、相手は誰もついてこなかった。

――3点目は遠藤のFK、ボールが壁の誰かの背に当たって方向を変えてゴールインした

賀川:遠藤の狙いとは違った形のゴールだった。タイムアップ直前にも工藤のヘディング(オーバー)があり、攻勢を続けたが前半12本、後半13本のシュートも結局は3ゴールに終わった。

――攻めてチャンスをつくりながらですから、決定力不足がまたまた問題になりますね。柿谷、大迫が無得点であったのも惜しい気がします。

賀川:いつも申し上げるように、シュートそのものへの多くのファンの関心が高まればシューターの励みになり彼らの工夫も進むでしょう。Jリーグも日本人ストライカーの得点王争いが注目されています。これからの代表の試合ぶり、特にゴール前の決定的瞬間についての巧拙や気迫をしっかり見ていただきたいと思います。

――さあ、次のガーナ戦、東京オリンピック以来の強敵相手にいいプレーを期待しましょう

賀川:柿谷は自分のボールタッチの巧さをメディアや世間に認めさせたという点で日本のサッカー史上で珍しい選手です。いわば香川真司と同列のプレーヤーですが、グアテマラ戦では中央部での小技を披露した程度でした。

――一度カウンターでドリブルを見せましたよ

賀川:そう、ガーナ戦では彼の真価を発揮してほしい。また周囲もそれを工夫してもらいたいものです。もちろん本田や賀川の突破や展開力を他のプレーヤーがもっと理解し、チームの武器にする連携がが大切です。ガーナを相手にチームの総力を一度、国内試合で発揮してくれれば、キリンチャレンジカップはとても楽しいものとなるはずです。

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2013年8月14日 日本代表 vs ウルグアイ代表

2013/08/20(火)

キリンチャレンジカップ2013
2013.08.14(水) 19:24キックオフ(宮城/宮城スタジアム)
日本代表 2-4(前半0-2) ウルグアイ代表
 得点 ディエゴ・フォルラン(27、29)、ルイス・スアレス(52)、香川真司(54)、アルバロ・ゴンサレス(58)、本田圭佑(72)

――コンフェデレーションズカップの後、久しぶりに国内に強チームを迎えてのキリンチャレンジカップでしたが完敗でした。守備の固いウルグアイを相手に柿谷曜一朗を加えたFWがどんなプレーを見せるかを楽しみにしていましたが、前半27分と29分に2点を奪われ、後半は2点を取ったが2点取られて結局2-4でした

賀川:まさか攻撃の方に意識がいって、守りへの気配りを忘れたわけではないだろうが、試合前の相手チームの説明や、攻守の約束ごとなどはどうしていたのかな。そんなことを思うほど不思議なものでした。

――1点目を奪われたのは、左サイドのスアレスの突破からでした

賀川:これは日本の柿谷と岡崎慎司の2人の右サイドの攻撃を防ぎ、そこからスアレスの前へボールを送った(パスを成功させた)背番号3のCDFディエゴ・ゴディンのうまさが生きました。まことに「理屈にかなった」パスでした。

――と言うと

賀川:大事な場面だから少し長くなるけど話しておきましょう。27分のウルグアイの先制ゴールですよ。ことの起こりは日本の攻撃を防ぐところからですが、その日本の攻めは右サイドのタッチライン、ハーフウェイラインあたりの内田篤人のスローインから始まるのです。

――(1)内田が内側にいた柿谷に投げた(2)柿谷はゴディンを背にしてトラップし、外から内へ入ってきた岡崎にパスを渡した(3)岡崎は彼をマークするマルティン・カセレスの内側を抜こうとした(4)しかしCDFのゴディンが奪い取った

賀川:(5)おそらく岡崎が最初のタッチで持って出ようとしたのをゴディンが奪ったのだろうが、ゴディンは岡崎のタックルを避けるためにワンタッチでタッチラインの方へ大きくボールを動かした(6)そしてそのボールに回り込むようにして右足を踏み込み、左足でキック、前方へ高い球を送った。それが見事な40メートルのパスとなった。(7)ボールは内田の頭を高く越え、ハーフウェイラインを越えて12~13メートル日本側へ落下した。
――(8)そこへスアレスが走りあがっていたというわけですね

賀川:ルイス・スアレスというFWはプレミアリーグの名門リバプールで得点もしっかり取っている。彼とディエゴ・フォルランの2トップはおそらく試合前から日本のDF陣には脅威だったはずですよ。

――そのスアレスがゴールの落下予想地点へ走り出した時、マークする吉田麻也はうしろから追う形となった

賀川:一流のストライカーが相手の裏を取る動きにはいつも感心するのだが、この時もスアレスは吉田との位置をしっかり見ていた。(1)の内田のスローイン(つまり日本ボールの攻め)の時に吉田がDFラインから少し前へ出るのを見ながら吉田より1メートル日本ゴール側にいて、吉田の動きに合わせて少し戻り、ゴディンがボールを奪った瞬間に中に視線を移して(今野泰幸の位置から自分がオフサイドではないことを確認)、ゴディンのキックの瞬間には反転してスタートしていますよ。

――吉田がスアレスの後方からではなく、前に出ていたのは

賀川:味方ボールの攻撃の時だから、相手から離れてボールを受けられる位置を探していたのかもしれない。まあ、このクラスのFWがいるときは普通はもう少し慎重なポジションどりになるものだが、「攻め」に頭がいっていたかもしれない。いずれにせよスアレスの位置を頭の隅に入れていたはずのCDFゴディンの奪ってすぐのターン、キックでスアレスは吉田を置いてけぼりにして突進した。原稿用紙3枚でこの場面を書いているが、ほんの2、3秒のことですよ。

――(9)スアレスは一気にドリブルしてペナルティエリアの左角のうちに入り、そこから中央やや後方のフォルランへパス

賀川:フォルランのマーク役、今野はスアレス側に引き付けられ(もちろんフォルランのコースを意識しただろうが)フォルランはゴール正面10メートルでダイレクトシュートした。いったんスアレスに身構えることになったGK川島永嗣に、このシュートを防ぐ手立てはなかった。

――テレビ解説でディフェンダーはフォルランに絞るべきだという人もいました

賀川:その手もあったかもしれないが、さてどうだろう。スアレスはパスを出す前にもスピードを緩め、今野の足の間を通す余裕を持っていたね。

――賀川さんがゴディンのパスを蹴ったタイミングにこだわるのは?

賀川:相手のDFの守備ラインの裏へボールを送り込むスルーパスは時には短く、鋭いものもあれば、浮かせて裏へ落とすものもあり、またこのゴディン、スアレスのように長いパス、いわゆるロングボールに近いものもあるが、大切なのはそのパスを出すタイミングなのです。そしてそのタイミングを相手に悟られない、相手の読みを狂わせるボールを蹴る姿勢があると私は考えています。もちろん私だけの考えではありません。おそらく世界共通の話です。

――この試合でもそれがあったと

賀川:そう、後半の日本の1点目を思い出してください。これは真司のパスが右へ渡り、そこから左へゴールが動いて遠藤が左でキープします。そして中央の本田へスクエアパス(横パス)を送った時、この相手のDFラインの前を通ってきたボールを本田がワンタッチでボールを浮かせて前へ送りました。

――ダイレクトパスでした

賀川:しかも本田の体は左へ向いていたでしょう。もちろんこの本田の姿勢は左利きの彼にはボールを扱う得意の姿勢ではあるのですが、そこから出てきたダイレクトの浮き球がDFラインの背後に落ちた時にウルグアイのDFは一瞬混乱しました。GKフェルナンド・ムスレラが飛び出し、岡崎ともつれてボールが左にころがり、そこに香川真司がいてノーマークで誰もいないゴールにシュートを流し込んだのです。

――ダイレクトのパスというタイミングの読みにくいパスが効いた

賀川:そう、遠くても近くても、原則的には同じなのです。同じことがこの日の相手の4点目にもあったでしょう。ウルグアイがキープして攻め続けたあと、ニコラス・ロデイロがペナルティエリアいっぱいからフワリと浮かしてゴールポスト近くへ落とし、3人のDFの裏を突かれ、飛び出したGK川島は取れずにアルバロ・ゴンサレスのヘディングで4点目がゴールに飛び込みました。

――日本の失点の3点目は吉田が相手のクロスを左足で蹴ったボールがスアレスに渡って決められました。これで吉田を責める声が大きくなりました

賀川:吉田は左サイドキックでクリア(あるいはパス)しようとした。スローで見ると、左足がボールに当たる前にインステップで当てる角度を変えているから、ひょっとすると遠藤あるいは別の仲間にパスしようとしたのかもしれません。

――もしそうだとしても、それを失敗したのだから、やはり責任は問われるでしょう

賀川:まあそうですが、ここで面白いのはスアレスはいわば吉田からもらった、棚からぼた餅のチャンスをしっかり決めたことです。私たち1930~1940年代の旧制中学生は1試合で3点は絶対取るのだと言っていました。それは(1)FK、CKの停止球からのチャンス(2)自分たちのパス、あうんの呼吸がつながった時のチャンス(3)相手のミスによるタナボタのチャンスが1試合には3回あって、それを決めることだと教えられ、また実行してきました。

――それはレベルの低かった時代という人もいます

賀川:今の、このレベルの高いウルグアイ代表と日本代表の試合にもタナボタがひとつずつあった。ひとつは吉田のパス。もうひとつは、ウルグアイDFのキックが仲間に当たってゴールの方へころがり、前に出ていた岡崎がノーマークでシュートチャンスを持ちました。

――このタナボタのノーマークシュートを岡崎はゴールキーパーの上を抜こうとして失敗。そのリバウンドを取った香川のシュートもGKの正面でした。そういえば、相手はフォルランが前半にすばらしいFKを決め、後半に本田がいいFKシュートで2点目を取りました。

賀川:日本はタナボタを決めていれば3得点です。さらにFKから本田-香川でノーマークシュートのチャンスをつくりました。

――相手のファウルが増えていた時、いい位置でのFKが日本にあった。本田のFKがこわいものだから、本田がボールを置くのを何とかいやがらせをしに3人が近くに集まってきた

賀川:それを本田は逆手にとって、近づいてきた相手の間を短く通す「すばやいFK」をDFの裏へ流し込んだ。

――本田の意図を察した香川がノーマークでボールを取り、奪いに来る相手を右にかわしてシュートした

賀川:そのシュートはGKに当たった。この時、香川の右へ岡崎と柿谷が並んで走りこんでいたのに…

――香川のミスですかね

賀川:このところ、真司のシュートは決まっていない。この試合でも日本の20本のうち、彼は6本シュートし1点だけ。率としては悪くはないが、あれだけいいポジションに走りこむ能力と、すばらしいボールの処理能力を持ちながらだから、本人のためにも代表チームのためにも、もったいないことだ。

――なぜでしょう

賀川:先のタナボタのリバウンドのシュートも無理な体制で打っている。本田とのあうんの呼吸のシュートを相手ひとり右へかわした後、無理な体勢(この形で蹴れば、GK正面へしかボールはゆかないというのに)で蹴っている。自分で点を取りたいのはわかるが、後者の時はやはり有利な仲間へパスするという原則を忘れている。

――タナボタの話は

賀川:裏でボールをもらった岡崎がGKの上を抜こうとしたでしょう。上を抜くボール、つまり浮き球を蹴るにも、もっと楽な構えがあるはずでしょう。そしてまた片言隻句でよく言っているとおり、上を抜くよりもゴールの幅を使う方がやさしいはずなんですよ。

――ウルグアイ戦では、FWがボールを取られた後がピンチになることをまず学びました

賀川:サッカーの常識ですが、先制されたゴールだけでなく、いいFWを持つチームはそのFWへ供給するタイミングも上手になります。日本は人数をかけて攻めるから、奪われた時は一気にピンチになります。この対策をしっかりしておかなければ、いつでも同じ点の取られ方をするでしょう。

――1対1の強さも浮き彫りになりました

賀川:これは半永久的な課題で、組織プレーを高めることと個人力をアップさせることは決して相反することではなく、両方を上げていくことです。特にボールを奪う力は個人的にもっと工夫が必要でしょう。守備力の向上は世界的に見ても攻撃力アップよりは早いはずですが、この分野で足踏みしているというのも面白いことでしょう。

――攻撃は

賀川:両サイド、DFなのかMFなのかそのポジションは別として、サイドからの意識をもっと高める必要はあります。香川が自ら左サイドへ上がっていくこと、右へボールを散らすことをきちんとやれるように来ているけれど、ここでの攻め手をもう少し増やせばいいでしょう。ただし、外からのクロスの精度を高めるだけでなく、外から内へ入ってくる選手のシュート力、シュート意欲をもっと高めなければ相手の脅威にならないでしょう。日本のもうひとつ格上のスペイン代表は、ここの強さがない分、同じスペイン流でもバルサに比べると攻めの幅が狭く、そのために苦労しています。

――柿谷は

賀川:柿谷の登場でテレビでも新聞でもボールタッチ、ボールコントロールのすばらしさと、その効能が語られるようになりました。その意味では彼の功績は大きいと言えます。
――本当は本田や香川があらわれたときに同じ話題になってほしい気がしましたが

賀川:それはともかく、彼が代表に入って役立つためには、その持っている素質を生かす体や早さ、そしてシュート能力などがいよいよ問題になってきます。日本代表では香川真司がシュートの居残り練習をしていると聞くが、残念ながらその練習がどうなのか見ていません。彼ほどの選手があの程度のシュート感覚でいることの方が私には不思議なのです。この点については前から考えていることもありますが、いまはもう少し真司の伸びしろを見てみたい。

――マンチェスター・ユナイテッドというビッグクラブに入って、彼の身辺もとても忙しくなりました

賀川:当然のことながら、J2にいた時のように純粋にサッカーだけに打ち込める環境ではないでしょう。本来なら、こうなる前にもう少しレベルアップしてほしかったのだが…

――柿谷にもそういう時期が来るかもしれません

賀川:いまはひたすらパスを受け、パスを出し、シュートを決めることに打ち込んでほしいものです。道草を食った彼は香川より2年遅れていることがプラスになってほしいと考えています。

――豊田陽平というストライカーについては

賀川:ウルグアイ戦では柿谷ももう少し時間がほしいと思ったくらいですから、豊田は時間が短くて気の毒でした。自分の役どころを心得ている動きを見せていました。苦労してきた選手だから、チームワークの考えはしっかりしていると思います。定評あるヘディングが身長のある外国DF相手にどんなふうに力を出せるのかは見たいし、右のシュートは上手だが、左がどの程度なのかも知りたいところです。

――ストライカー候補のいいのがあらわれたから、賀川さんには楽しみが増えましたね

賀川:この後の長居でのグアテマラ戦、横浜でのガーナ戦といった9月のキリンチャレンジがとても楽しいものになると思っています。

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【番外編】キリンチャレンジカップで見た「香川真司の目線」

2012/09/11(火)

――11日の試合でも見られるでしょうが9月6日のキリンチャレンジカップで香川真司のプレーを見て「パスを出す前の目線」の話をしていましたね。もう一度聞かせてください。

賀川:ああ、キックオフ直後の清武~香川(ヒールパス)~本田というシュートチャンスのしばらく後で、香川が左タッチライン沿いでライン上の縦パスを送って本田圭祐のドリブルからのチャンスメークにつないだ時の話ですね。

――そうです。ハーフウェイラインあたりのライン際でパスを受けた

賀川:(1)ボールを右足アウトで止め、内側から詰めてくる相手と、さらに内側にいる仲間に視線を向けた
(2)ひと呼吸後に向けた目を自分の足元に落とすと
(3)ボールを右足のインサイドのタッチでライン上に押し出し
(4)前方の本田へパスを送った
(5)彼の右足アウトサイドで蹴られたボールは、タッチラインに沿って真っすぐ転がった。(実際にテレビには映っていない)
外側へ回転がかかっているので、ラインぎりぎりのところを左外へ出ることなく30メートル近くを転がって、本田の足元に達した。

――その後は、本田が相手DFと競り合いながら中へかわして、ペナルティエリアの左根っこに持ち込み、クロスを送ったがDFがクリアし左CKとなった

賀川:「パスを出すときには、出す方でなく、まず出さない方へ目線を送り相手を惑わす」という常識、あるいは定石があって、真司がそれをしただけのことなのだろうが、私がこの常識を先輩たちから教わったのが、1930~40年代いわば70年前の話ですよ。なぜそんな古くからの常識について記憶が強いかというと、セルジオ越後が1972年に来日し、75年に永大産業という企業チームのコーチをした時、彼が私に言ったのは、「ぼくがパスを出すと選手たちは、自分たちの方に顔を向けてくれないからパスを受けられないと言うんです」ということ。つまりセルジオは顔の向き(目線)と違う方へパスを出したのに対して、仲間が苦情を言ったということなのです。

――ふーむ

賀川:日本代表が68年にメキシコ五輪で銅メダルを取った日本のサッカー界だが、日本サッカーリーグ(JSL)のプレーヤーたちにも、私たちが旧制中学生のころに知っていた常識が通じないところもあるのだ―という驚きだった。

――それが賀川さんがセルジオ越後のバックアップを考えた理由のひとつ

賀川:バックアップできたかどうかはともかく、こういう当たり前のことを教えてくれる人がいれば日本サッカーの進歩も早まると思ったね。

――その目線の常識が

賀川:セルジオのその話を聞いてから10年ばかり後に、1986年のキリンカップサッカー86の決勝パルメイラス(ブラジル)対ブレーメン(西ドイツ)でブレーメンが勝ったのだが、この時の決勝ゴールが、当時ブレーメンにいた奥寺康彦のパスからだった。

――奥寺さんはこの9月10日に日本サッカー殿堂入りの表彰を受けられましたが、当時はブレーメンでしたね。この時のキリンカップはパルメイラスとブレーメンと日本代表、アルジェリア選抜の4チームのリーグの後、1位パルメイラスと2位ブレーメンによる決勝となり、延長の末ブレーメンが4-2で勝ちました

賀川:4-2だったかな。そうなると決勝ゴールかどうかはともかく、大事なゴールに奥寺の「目線」がからんでいた。左サイドのタッチ際で彼はボールを受け、内側に目を向けたままオーバーラップする仲間に縦パスを送り、クロスがヘディングシュートのゴールにつながった。私はその時、奥寺が目線を中に残したまま左前方へ何気ない風にパスを送ったプレーに高いレベルのサッカーでも常識は生きていること、そしてその常識をさりげなくやって見せる彼の進化に改めて気づいたのですよ。

――86年の奥寺さんの思い出と、2012年の香川真司が重なったということ

賀川:目線とパスの方向などと言うと、大げさだがキリンカップやキリンチャレンジカップの選手のプレーにはその時々の日本サッカーのレベルなどと思い合わせて、私のような者には感慨ありということですよ。

――それぞれのプレーにもその時々の日本サッカーそのものの背景があるわけですね。やはりこういう大会も年月とともに味わいが深まりますね。

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