日本代表(A代表)

2018年11月20日 日本代表 対 キルギス代表

2018/11/23(金)

2018/11/20(火)日本/愛知・豊田スタジアム
日本代表 4-0(2-0) キルギス代表

――森保監督は16日のベネズエラ戦からスタメンを11人入れ替えました

賀川:熱心にJリーグを観ているファンの方ならそうでもないでしょうが、サッカーを観るのは代表戦の時ぐらいという方には少々、なじみの薄い選手もいたでしょう。しかし、上手な選手ばかりでした。特に大柄な選手のボール扱いの技術が上がっています。日本サッカーの底上げ、レベルアップを感じた試合でした。

――4点入りました

賀川:今の日本代表の試合はおもしろいですね。お客さんも満足したでしょう。キルギスは局面でしっかりと競ってきましたが、日本はこの競り合いに勝っていました。中央アジアのチームはもっと体が強いと思っていましたが、こちらのレベルが上がっているのか、向こうが足踏みしているのか、これまでならば、ズバ抜けた選手が1人2人いて、対応するのに苦労することがありましたが、それがありませんでした。よく動いて、パスが繋がって攻撃するという日本の良さがよく出た、いいゲームでした。

――序盤にあっさり2点を先行。代表デビューの山中亮輔が前半2分、鮮やかに先制点を決めました。

賀川:そういう選手が出てくるということ自体が全体のレベルが上がっていることを証明していますね。

――左利きの左サイドバックは意外と少ない

賀川:左のフルバックは左サイドを走って、左足でセンタリングを上げる、昔でいう左のウイングと同じプレーを求められるので、絶対ではありませんが、左利きの方が、体の使い方が自然です。彼の左足のシュートは右のポストに当たって入った。ビビらないでシュートを打っていましたね。ボールが回ってきて、ヨッシャ…という感じで打っていました。心構えがいい。楽に力いっぱい蹴っていないので、正確に狙ったところに飛んでいくコントロールシュートだった。代表初出場の選手が大仕事をするというのは、チームの構成が良いからでしょう。全体的に余裕があるように感じます。個人個人のレベルアップをここでも感じます。

――無失点で終えました

賀川:三浦弦太も大柄ながら技術がありますね。ヘディングも強かった。経験豊富な吉田麻也、槙野智章がいますが、冨安健洋も出てきましたし、センターバックも人材が揃ってきました。

――GKはほとんど仕事がありませんでした

賀川:チーム全体で攻めに出て、攻撃で点を取れるというのが、非常にいい。伸び伸びとプレーしている。個々の選手の技術が高く、ボールを正確に止めることができ、ミスが少ない。欧州でプレーしている選手が、高いレベルにいるということが大きいでしょう。後半から出てきた大迫勇也、堂安律、中島翔哉、南野拓実のコンビネーションは期待できます。

――来年1月のアジア杯が楽しみです

賀川:当然優勝を狙いにいくでしょう。アジア同士の対戦となれば、ライバル意識があるし、この日のキルギスのように激しくきます。タイトルマッチになると、荒っぽいし、ファウルまがいのプレーも増えてくる。そう簡単には勝てないが、そういう相手とやるときでも今の代表チームは優位に立ちそうです。日本はパススピードが明らかに速くなっている。ノーマークのときは特にそうです。欧州のチームはもっと速いですが、ずいぶん近づいてきた。相手が寄ってくる前にボールを受けられるので、相手に引っかけられることが少ない。この試合でも4回ぐらいだったでしょう。個人のレベルもチームとしてのやり方も進歩しているので、アジア杯が非常に楽しみですね。

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2018年10月16日 日本代表 対 ウルグアイ代表

2018/10/17(水)

2018/10/16(火)日本/埼玉・さいたまスタジアム
日本代表 4-3(2-1) ウルグアイ代表

――攻めに攻めて、あのウルグアイに4-3で勝ちました

賀川:日本代表がいつもこれぐらいの試合をしてくれたら、見る人は楽しいですね。ウルグアイのFIFAランクが5位というのは、高すぎるのではと思った人もいたかもしれません。あっという間の90分間でした。ウルグアイは先週韓国に1-2で敗れて、相当気合が入っていましたが、日本の気迫が上回っていました。韓国が勝ったのだから、日本も負けられないとこちらも相手以上に気合が入っていました。1対1でのボール争いでも負けていませんでした。ウルグアイは伝統的に相手に点を与えないというサッカーをしてきた国ですが、日本のスピーディーな攻撃についていけないといった感じでしたね。若手からは列強相手に必死のアピールを、大迫らロシア組からはウルグアイをW杯で敗れたベルギーに見立てているような気迫を感じました。

――南野の先制ゴールは見事でした

賀川:中島からのパスを右足のインサイドでトリッキーなトラップして、一発でマークを外しました。ボールが一瞬足元に入りましたが、落ち着いて、自分の形までボールを運んでから強いシュートを打ちました。ゴール前のチャンスになると慌てる選手もいますが、非常に冷静でしたね。見事な先制点でした。1戦ごとに自信をつけているのが、プレーに表れています。

――パナマ戦の後、堅守のウルグアイは日本の現状の力を量る最良の相手とおっしゃっていました

賀川:守りが堅いウルグアイから4点。そのうちの3点、南野の1点目、堂安の勝ち越し点、南野のダメ押し点は、相手のバックラインがいる状況でそのマークを外して、決めたものです。そういうところに日本のサッカーの技術の進歩を感じました。その進歩の幅は非常に大きいものといっていいでしょう。ウルグアイのメンバーがベストであったか、コンディションはどうかというのはさておき、簡単に点を与えない国からこれだけの点を取れたというのは、うれしくなるほどよかった。日本サッカーのレベルアップを物語っています。ゴール前でそれぞれの選手が落ち着いていました。南野、堂安は欧州での経験がものをいっているということになるのでしょう。

――南野に限らず、中島、堂安、ロシア組もボール扱いがうまい

賀川:日本サッカーの育成の力でしょう。2、30年前なら南米のチームは優雅で余裕があって、ボールが足にくっついているようにも見えました。日本の選手にボールが渡るとバタバタしているように見えたこともありました。少年期からの練習量の多さでしょう。いいグラウンドも増えました。今の日本はサッカー国といってもいいかもしれません。最近の日本代表に選ばれる選手は、子供のころからたくさんボールに触っているので、南米の選手と対戦してもボール扱いで見劣りすることはありません。日本協会から都道府県の協会、そして少年団などのジュニアのチームの指導者まで、ボールを大切にするという育成の方針が行き届いているのだと思います。

――攻撃は多彩で魅力的でした

賀川:サイドで攻撃をスタートさせて展開して左右に振って、隙間を作って点を取るというやり方がずいぶん板についてきたようです。十分なチャンスを作ることができています。だからこそ、ゴール正面やペナルティーエリアの中でボールを受けた選手がタックルにきた選手を交わしてシュートにいくという余裕のある展開になっていました。スタジアムに集まったファンは楽しかったでしょう。テレビをみていた人もレベルアップした日本の力をみることができました。

――中島はボールを持てばシュートの連続。ゴールを狙う強い意欲が伝わってきました

賀川:前へ前へという意識が強かったですね。日本人の国民性なのか、これまでは代表の試合であっても、ボールを失いたくないと、安全にボールを運んだり、バックパスをしたりというシーンに遭遇することが少なくありませんでしたが、とにかくタテに出ていこうという姿勢が強かった、これは監督の方針なのかもしれません。中島はドリブルに絶対的な自信があるのでどんどん自分で仕掛けていった。守るほうはここまでガンガンこられると大変なもの。チャンスがあれば、点を取りに行こうという姿勢が随所に見えていました。もともと日本のサッカーはそういうスタイルを目指したわけですが、それがよく出ていましたね。

――堂安が見事な切り返しから初ゴール

賀川:中央でどんどんシュートをできたということは、堂安にしても南野にしてもゴール前でボールを受けるときにシュートに持っていくためにボールを受けるときに余裕がありました。大迫も中島も、南野も同じことがいえます。

――若い選手であっても体が強い。少々当たられても倒れません

賀川:相手のマークが少々緩かったのかもしれませんが、こちらのボールの持ち方とか競ったときの相手への威圧感があるから、相手が負けるわけです。こんな試合ができれば、今後も楽しみ。ウルグアイから4点取ったという情報はおそらくすぐに南米にも欧州にも伝わるでしょう。世界中がほうーという風な反応を示すでしょうね。

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2018年10月12日 日本代表 対 パナマ代表

2018/10/13(土)

2018/10/12(金)日本/新潟・デンカビッグスワンスタジアム
日本代表 3-0(1-0) パナマ代表

――森保監督が就任してから2連勝。しかも2試合続けて、3-0の快勝です

賀川:パナマという国がある北中米地域はメキシコが頭抜けて強いんですが、それ以外は、東アジアとしてさほど変わらないレベルの国々が多い。アジアでトップクラスの日本と試合をすれば、こちらがボールを保持して主導権を握ることができるわけで、こういうゲーム展開、結果になるのは、地域レベルでみれば、ある意味当然でしたね。こちらのホームでもありますし。

――ロシアW杯組と新戦力の融合がテーマと言われていました。目についた選手は

賀川:冨安ですね。非常に大柄(188センチ)で、その上ボール扱いもうまいです。前半19分に相手FWに後ろから激しく当たっていました。試合の序盤にガツンとあれぐらい当たっておけば、相手と駆け引きする上でトクするということを分かっているのでしょう。平気な顔をしてファウルをすれば、主審に強い笛を吹かれることもありますが…。このポジションには吉田麻也という経験豊かな選手がいますが、脅かす若手が出てくれば、レギュラー争いが楽しみになります。でも、マークする選手の方が冨安よりも、大きかった。世界は選手の大型化が進んでいますね。

――南野は2試合連続ゴール。強さと技術が光りました

賀川:前半42分、青山からのパスを受けて反転し、体をぶつけられてバランスを崩しましたが、倒れませんでした。左に流れて、もうひとりのセンターバックから遠ざかって、GKの位置をよくみて、サイドキックでゴール左に流し込みました。強さ、技術、冷静な判断があってのゴールでしたね。C大阪のときから注目していましたが、非常に上手な選手です。伸び盛りなので、自信をつけてさらに成長してほしい。もっともっと目立ってくれてもいい選手です。

――南野にラストパスを出した青山は主将2戦目で本領を発揮したようです

賀川:前任者の長谷部が偉大なキャプテンだったので、先月のコスタリカ戦では気負いもあったのでしょう。この試合では積極的にボールにからみ、サンフレッチェ広島でいつも見せている彼らしい気の利いたパスを随所に出していました。前半、ペナルティーエリア内に侵入した右サイドの室屋に出したような、効果的なラストパスが何本もありましたね。あのシーン、室屋はサイドキックで流すようなボールを出しましたが、強くインステップで蹴った速いボールをゴール前に送った方が得点の可能性が高かったかもしれません。速いボールならば、相手に当たって入ることもあります。丁寧に緩いボールで…とインサイドキックでいくと、かえってミスキックになってバウンドすることがあります。

――技術が高い選手が多いように感じます

賀川:若い選手、新しい選手はみんなうまいですよね。相手にボールを取られるときはファウルが多い。これからは相手にファウルをさせたら、損だなと思わせるボールの持ち方ができるかどうか。もう一段上のレベルにいくと、ボールを持ったときに威圧感が出るんですよ。日本の選手は、そのレベルを目指してほしいですね。

――次はウルグアイ戦

賀川:人口は300万人程度の小国ですが、ご存じの通り、サッカーでは南米を代表する列強です。世界的に有名な選手も多く輩出しています。いいメンバーが来日するようですが、12日に対戦した韓国には1-2で不覚を喫したそうなので、気合も入っているでしょう。伝統的に守備が堅く、個人個人のレベルは高い。いい滑り出しを切った森保ジャパンの現時点でのチーム力、個人の力を量るには、最適の相手でしょう。森保監督もそう考えているのではないでしょうか。その前哨戦としてはいい内容でした。パナマ戦に出場しなかった長友、吉田麻也、途中出場だった柴崎らが加わり、どんなチームができるのか、非常に楽しみです。

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2018年5月30日 日本代表 対 ガーナ代表

2018/05/31(木)

2018/5/30(水)日本/横浜・日産スタジアム
日本代表 0-2(0-1) ガーナ代表

-西野朗監督の就任初戦でした
賀川:高校のときからずっと見ています。当時の浦和西高はテクニックのある選手が多かった。その中でもボールの扱いが上手で、上背もあって、スピードもあった。ボールもしっかり蹴ることが出来た選手でしたね。早大時代に日本代表に選ばれ、日立製作所でプレー。引退後は、監督として1996年アトランタ五輪でのブラジルを破る、マイアミの奇跡を演じました。柏、そして10シーズン監督を務めたG大阪での実績は紹介するまでもないでしょう。

――3バックで臨んだ試合でしたが、前半早々に失点しました

賀川:ほぼ中央、ゴールから25メートルでのフリーキックでした。雨の中のゲームでもあり、ガーナのパーティ選手は芝生でボールが滑ることを見越して、低いボールを蹴ってきました。日本は8人で壁を作りましたが、間に入った相手選手に崩され、その間を通されてしまいました。これは本番までに修正してくれるでしょう。

――2失点目は長谷部と川島の息が合わずに、PK与えてしまった

賀川:ガーナはディフェンスラインとGKの間を浮き球で狙ってきました。長谷部は3バックの真ん中は代表では初めて。キーパーとの声の連携はW杯本番までの期間に高めてくれるでしょう。この時期ですから、はっきりとした課題が出たのはむしろいいことです。

――0-2でW杯前の最終試合は完敗。W杯に出ない若手主体のガーナに対して、あまり見せ場はありませんでしたね

賀川:テレビを見ていたファンも、日本の方が強いと思った人の方が少ないでしょう。ほとんどの1対1でのボールの取り合いで負けていた感じがします。残念ながら久々に弱い日本を見せてもらった気がします。日本はアジアのトップクラスなので、W杯のアジア予選では余裕を持ってボールを持てますが、ガーナのような世界の中堅クラスを相手にすれば、こうなってしまいます。これが日本の今の力。ハリルホジッチ監督から西野監督への交代があって、どういうサッカーをするのか、注目されていましたが、監督は関係ない話です。

――1対1はハリルホジッジ前監督も「デュエル(決闘)」という表現で日本の課題にしていました

賀川:サッカーは1対1の力の差がそのまま勝敗につながります。相手が守っていて、どんどん攻め込んでいけるときでも、1対1で弾き返されてしまうから、自分たちが思っているような形でボールを拾えない。そのため、次の攻撃がチャンスになりにくい。そうなると苦しいばっかりで、何をやってもうまくいかないという試合でした。

――W杯になるとコロンビア、セネガル、ポーランドとガーナより強い相手が出てくる。1対1の争いはより厳しくなりますね

賀川:根本的に1対1負けてしまうなら、相手よりも余分に走ってカバーするとか、そういう気構えが必要です。メンバー確定の後の直前合宿で、どれだけ計画的に選手のフィジカルを上げることができるか。このクラスの勝負では生半可なことでボールの争奪には勝てません。走る量、ボールの取り合いの時の粘り、強さを少しでも上げていくこと。このままではダメだというのは誰もがわかっていることでしょうから。

――後半、いつも賀川さんが気にかけておらえる香川真司が出てきました。立て続けに2回ほどチャンスをつくりました

賀川:けが明けですがコンディションは悪くなさそうでした。香川という選手は、本田圭祐もそうなのでしょうが、きょうはメンバー入りが懸かっているから、とことんアピールをしなければ、というタイプではありません。自分のコンディションを考えてプレーしていたのでしょう。試合の流れをみながらプレーして、力を入れなければいけないところは入れる選手。結局、香川、本田、岡崎らあのクラスの選手を全部使うのか、はじめから使うのか、途中から使うのか、まだ西野監督の考えは見えてきませんが、経験のある選手は試合のどこかで使いたくなるでしょうね。香川は動きをずいぶん抑えていましたが、本番で使われれば、時間いっぱい、目いっぱいやるでしょう。

――後半は攻めていたようですが、ゴールが遠かった

賀川:一見攻めているようだけども、実はボールを持たせてもらっているので、どっからどう攻めてやろうかという意欲満々の攻めでなく、どっか隙間へボールをチョロっと流し込めたら…いう感じだった。それで相手を圧倒することはなかなか難しい。改めて選手も監督も我々はこの程度なのだと感じたことでしょう。監督交代があったから、選手はサポ―ターにいいところを見せたかっただろうし、我々も見たかったが、実際そうはいかなかった。

――監督交代はプラスに出るでしょうか

賀川:日本の力は監督が代わろうが、代わるまいが、大きくは変わらないでしょう。まして監督がプレーするわけでも、シュートを決めてくれるわけでもありません。西野監督は強化委員長を務めていたのだから、そのへんは一番よく知っています。日本のサッカーの力はどれくらいのもので、どれだけの覚悟を持ってやらないといけないか。W杯出場国の最低ラインのところにいるわけですから。

――チームで気になるところは

賀川:メンバーからして、きっと長友、香川、宇佐美らがいる左サイドが攻めどころになっていくのでしょう。話し合ってこういう形で攻めるんだというものが、できているのかと思っていましたが、なかったようです。代表でずいぶん長い間、何度も同じ顔ぶれでやっていて、実際本番もこの顔ぶれになりそうだという選手がこの試合に出ていましたが…。ただ、代表メンバーが確定するまでは、選手は神経質になるもの。31日に23人が発表されましたし、これから合宿すれば、まとまりも出てくる。攻めの形も徐々にできあがってくるでしょう。そこはあまり心配していません。

――決定力不足が日本の永遠の課題ですが、FWでは大迫も武藤もあまり存在感を発揮できませんでした

賀川:センターフォワードがまだチームとして、威力のあるものになっていないなあという印象ですね。武藤が後半34分、左足でシュートを打ちましたが、左に外れていきました。体の線が傾いてゴールの方向から外れているので、あの蹴り方ではボールがスライスします。W杯本番前の合宿はコンディション作りと同様に、どれだけ選手1人1人がボールを蹴っているかも大切。特に中盤から前の選手はゴールに向かってボールを蹴る、シュートレンジに近づけば、その気になって、シュートを打っていく、そういう練習をしてほしい。全体のコンビネーション練習も大切ですが、相手よりも多く点を取ったら勝つのがサッカー。MFから前の選手がゴールに向かう強い姿勢をチーム全体で作り上げてほしい。これは誰がうまいとか、そうではないとか、そういうことではありません。

――3バックはどうでした?

賀川:選手がやりやすい方をやったらいいと思います。4バックの方がいいと主力の選手がそう思えば、戻せばいいわけで、どちらがいいと今判断するものでもないでしょう。ただ、すぐ後ろに戻れるメンバーが余分にいる4バックの方が日本にとってはいいかもしれない。3バックに比べて、両サイドが前に出る回数は減りますが、W杯に出てくるFWは日本のDFよりも足が速いし、体も大きい。4バックにすれば、守備はいつも中央に2人いる。どの試合も守勢が予想されるだけに、4バックの方が選手は安心かもしれません。

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2015年6月11日 日本代表 対イラク代表(続)

2015/06/14(日)

――GK川島、DFが右から酒井宏、吉田、槙野、長友、MFが柴崎、長谷部、本田、香川、宇佐美、FWが岡崎という先発メンバーで、後半20分まで来て21分に武藤、原口、永井がそれぞれ宇佐美、賀川、本田に代わりました。28分に岡崎に代えて大迫が、31分に長谷部の交代に谷口、40分には山口が柴崎の交代で入りました。MF6人はすべて代えたわけですね。

賀川:ディフェンスはすでに前の試合で出場しているメンバーもいて、今回は吉田、槙野の2センター、それにケガで長く休んでいた長友と、酒井宏も90分プレーしました。監督さんは候補選手のプレーを自分の目で確かめたのでしょう。メンバー変更の手順もなるほどという感じですね。

――原口が攻め込んでのこぼれ球をシュートして得点しました

賀川:前半のメンバー以外にも交代できるメンバーがいること、つまり代表チームにレギュラークラスにも競争相手がいるのだということをチーム全体に改めて知らせた。

――競争させるわけは?

賀川:これまでの代表だった者への刺激だけでなく、新しいメンバーもレベルアップすれは代表に入れる気持ちを強く持ってほしいと考えているのでしょうね、監督さんは。

――前半のFKでもいつもの本田が蹴ると決まっていなかった。吉田麻也のFKという珍しいものも見ました

賀川:FKのチャンスがあると思えば、プレースキックの練習にも力が入るでしょう。キックは気持ちのこもった練習の回数や量が多ければさらに上達します。

――そういう考えもありますかね

賀川:いまの日本代表はもともと幼年期、少年期からボールタッチが上手な、いわば技術レベルの高いプレーヤーが多く集まっています。それが、その技術を生かすために体を強くし、耐久力をつけ、走るスピードを上げ、そしてチームに役に立つプレーヤーになってもらいたいと監督は願い、そのチームの方針を常に選手に語りかけ、実際の練習でも行っているのでしょう。練習の日数から言って、それほど戦術的な人の動きやボールの動きに時間をかけていないはずですが、前半の選手たちは互いの意思は通じていると思う場面が再三ありました。

――アジア予選第2ラウンドという本番を迎える前としてはチームはいい状態になってきたと?

賀川:ハリルホジッチ監督もそう思っているでしょう。ただし監督は予選の各試合を通じて、あるいは大会までの3年間を通じての代表チームの強化を考えているはずです。そのひとつひとつのステップを確かめながら私たちは日本代表が上のレベルのチームへと変わってゆくのを見つめていきたいと思います。宇佐美貴史という新しいプレーヤーが働く攻撃陣も見ました。柴崎というバルサのシャビばりのパサーの成長も知りました。もちろんアジア予選は気候の変化も大きく、生易しいものではありません。この点ではヨーロッパ人の経験ある監督にとっても課題となるはずです。いろいろな困難を克服して行くためにチームは何より監督、選手の団結が大切ですが、それもこのキリンチャレンジで見えた感じもありました。これからの長い予選の期間、一喜一憂しながらであっても希望を持って入って行けることが、いまの私たちにはとてもうれしいことだと言えます。

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2015年3月27日 日本代表 対チュニジア代表

2015/04/01(水)

キリンチャレンジカップ2015
3月27日 大分
日本代表 2(0-0、2-0)0 チュニジア

――キリンチャレンジカップを27日大分で取材観戦したあと、いつものようにこのブログへのレポート掲載を催促したら、今度は第2戦とあわせて眺めてみたい、という話でした

賀川:昔から点が2つになると、2点を結ぶことで線ができる、そこで方向が見える――と言います。新しいハリルホジッチ監督が何を提唱し、どういうスタイルのチーム作りをはじめるのかと見るのにも1試合より2試合でと考えたのです。

それで、一口に言うと、キリンチャレンジカップ、つまり対チュニジア戦で申し合わせ試合規定の交代6人枠をすべて使いました。第2戦でも同様でピッチに立った時間は選手によってそれぞれ違ったが、招集した全選手を自分の目で確かめると言っていた監督の方針通りでした。

――フィールドプレイヤーは全員試合に出場しました。ゴールキーパー4人のうち2人がプレーしました。権田と川島でした。東口順昭と西川周作は試合に出ませんでした。対チュニジアのスターティングラインアップはGK権田修一、DFの右サイドの酒井宏樹、左が藤春廣輝、CDF(セントラルディフェンダー)は吉田麻也と槙野智章、MFが長谷部誠、清武弘嗣、山口蛍、FWが永井謙佑、川又堅碁、武藤嘉紀でした

賀川:日本代表の攻撃といえば本田圭佑、香川真司、岡崎慎司が欠かせないことになっていたのだが、ハリルホジッチ監督は、あえて先発メンバーから外したでしょう。

――少し驚きましたが

賀川:第2戦の先発メンバーと、後半に交代した6人の合計17人。第1戦の17人の交代の手順などを見てもチームとして試合をして行く上での、それぞれ組み合わせもよく考えてあるように見えました。そして何より、監督が掲げる縦へのテンポの良いパス攻撃や選手ひとりひとりの運動量、動きの早さなどがチーム全体に浸透し始めているように見えました
――別に目新しいことでもないことを監督さんが言っているようにも見えます。

賀川:1930年ごろに日本代表が身につけた日本のサッカー。それは外国選手には体の大きさや骨組みの強さでは劣るところもあるが、「敏捷さ」と技術を生かして対抗しよう、短いパスをつなぎスルーパスを背後に送り込んでチャンスをつくり決める。そのためには相手以上に走る、ということでした。

――ブログでも言い、書き物にもよく書きましたね

賀川:ここしばらくの日本代表はボールテクニックの向上とともにチームでボールを保持する「ボールポゼッション」を重視するようになった。それは悪くはないのだが、ゴールを奪うためには、速攻――相手の守りが手薄なときには手数(てかず)をかけないで攻め込むことも大切なのだが、ここしばらくそういうプレーは遠のいていた。

――ユーゴスラビアの選手で、ヨーロッパやアフリカのチームを指導して国際的にも知られた監督に来てもらって日本式のサッカーに戻るとは…

賀川:監督さんも、日本の多くのコーチも、昔の先輩たちがそのようなサッカーをしていたとは知らないのでしょう。しかし、国際的な視点からみれば、自ずから日本代表のやり方は決まってきます。

――賀川さんはサッカーはいろいろなプレーの組み合わせが面白いと言っています

賀川:ハリルホジッチ監督の目標はアジア予選を突破して、2018年ロシアでのワールドカップでいい成績、少なくとも1次リーグを突破して、ノックアウトシステムのステージへ進むことになります。時間的に言えば、3年しかありません。

――うーん、高校生のチームを作るようなものですね

賀川:まずアジア予選までの短い間にチームの考えをひとつにすること、そして予選を戦いつつ、チームの熟成を図っていかなければなりません。

――だから

賀川:今回は、まず2試合にフィールドプレイヤーとして自分が選んだ選手を全員ピッチに送り込みました。

――その結果が、チュニジア戦の2-0、ウズベキスタン戦での5-1という勝ち試合になった。日本よりFIFAランキングの上のチュニジアから点を取ったこと、また第2戦では大量5点を取ったのでサポーターが大喜びです。ただし、チュニジアの2点も後半、ウズベキスタン戦も4点が後半でした。

賀川:遠くからやってくるアウェイチームにとって、後半に動きが鈍るのはよくあること。相手にも6人交代のルールはあってもホーム有利は当然です。ただし新しい監督がハリルホジッチ流の厳しさを打ち出し、選手に前への指向、早い動き、運動量を要求し、それに選手たちが応えようとしたことは見ていて良かった。

――個人的には

賀川:岡崎慎司が相変わらず意欲満々でゴールを狙う姿勢を続けていて、さらに進化していることを示してくれたこと。チュニジア戦の後半の1点はジャンプヘディングでもいいボールであったが、相手のDFがまともに向かってくるジャンプをしてきている中でしっかりヘディングゴールを決めています。

私にとってはガンバの宇佐美貴史がチュニジア戦でも後半に投入されて、本田や香川、岡崎たちのなかでパス交換やボールキープなどを正確にこなしていたこと、香川にスルーパスを要求して出してもらい、ノーマークシュートをして決まらなかったが、第2戦はゴール前の密集で大迫からのパスを受けてドリブルで抜け出してシュートを決めました。第1戦のシュートのボールが弱かったのに気付いたのでしょう。しっかり叩いていましたからね。

――彼には代表初ゴールですね

賀川:もともとボールタッチという点では少年期から有名だったが、それがいま体もしっかりしてJのレギュラーから代表で仕事できるまでになっているのです。もちろんまだ不満もありますが…彼の成長ぶりが見られただけでも、今度のキリンチャレンジカップを含む強化シリーズはとてもうれしいものでした。

――柴崎も第2戦でいいプレーを見せました

賀川:柴崎のクレバーさにはいつも膝を打つ思いがします。あのGKの上を抜く40メートルのシュートは大したものですが、それを追ってゴール下まで走り、相手にカバーリングさせなかった岡崎には拍手をしましたよ。

――若い選手には一応及第点?

賀川:もちろんアウェー条件下の相手(こちらが走って疲れさせた事情も加わって)の状態もあって、手放しで喜べないけれど昔からの日本流を思い出したこと、いつも27人の代表のレベルかつてないレベルでそろっていること、それを新監督がハードワークによって効果を高め、さらなる進化をしてゆこうという、代表の姿勢は誠にうれしいものでした。

――体格の劣る75年前の神戸一中にいてハードワークを強調して朝鮮地方代表や2歳年長の師範学校と渡りあった賀川さんですが、つい最近も取材にこられたベテラン記者が昔の技術の話を聞く前に体力強化のことを聞かされたのには驚いたと言っていました

賀川:90歳にして新しい監督さんのおかげで古きを思い出しました。温故知新、だからサッカーは面白い。

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2014年9月9日 日本代表 vs ベネズエラ代表(下)

2014/09/14(日)

賀川:2-1とした後、後半25分に本田圭佑にFKのチャンスがあった。エリア外、6メートル、中央やや左よりの位置だった。相手の壁は日本側が3人入った。本田の左足シュートは壁の左外を通ってカーブし、ワンバウンドして左ポストに当たってゴール前を右へ転がり、相手DFがキックで右タッチラインへ逃げた。

――試合後の記者会見でアギーレ監督が運が悪いと残念がっていた

賀川:本田も悔しそうだった。ここしばらくFKを決めていないからね。

――その直後、もう一度本田がドリブルシュートするチャンスがあり、これがDFに当たって、このボールから相手のカウンターが始まった。本田が相手のパスを蹴り返し、これをつないでガブリエル・シチェロが走りあがって中央左より35メートルあたりから左足の強いシュート。そのボールをGK川島が腕でキャッチしようとしたが、勢いが強くてファンブル。落ちたボールはゴールのなかへ。川島は頭をかかえて座り込んだ。

ちょっと信じられないゴールキーパーのミスでしたね。正面から来た強いシュートの勢いを読めなかったのでしょうか

賀川:強くてキャッチは難しいと判断すれば、フィスティングの手もあった。実は試合前のメンバーを見ながら、国吉さんとGK川島はばかりではなく代えてみたらどうかなどと話していた。不思議なことだね。

――第1戦同様にDF陣のミスで失点という記録が残りました

賀川:日本代表の長い歴史のなかで、繰り返してきたことでもある。私は昔からこの点に関して根本的な少年期からの指導のためでもあるといつも言ってきた。今度はこの件について話し合いをしましょう。

――今回は、ともかく2ゴールの楽しさを味わいました。アギーレ監督の2試合を見た印象は

賀川:10日の会合で、原専務理事(前強化委員長)とも話したが、アギーレさんはとてもオーソドックスな考え方で、当然のことながら、サッカーについての知識は十分。自分の知識と経験とチームをつくる腕に自信を持っているという感じでした。(プロだから当たり前ですが)プレスとのやりとりもユーモアがあり、それでいて、原則を外さないからとても楽しかった。日本のメディアも彼とのやりとりで進歩してゆくのだろうと思います。
――大型というか、日本では大きい選手を指名していた傾向があります

賀川:いまや182センチは普通ですが、日本ではやはり大きい方に入るでしょう。そういう目で日本選手を選ぶのも平均して日本代表が小柄なのを知っているからです。一般的に背が低いのは仕方ないとしても、長身選手が必要なポジションもあるし、長身だったらその利点が有効なポジションもあります。

――CDFには長身が必要。ストライカーは長身なら空中戦で得をする

賀川:その通り。そういうポジションプレーから見ての招集もあってテストしたのでしょう。私たちからみれば、ここまで伸びてきたガンバの宇佐美などは当然入ってくるはずですが、監督さんから見れば同じように上手な選手なら今は数多くいて実力も見える。しかし大型は今のうちに試しておきたいと考えているのじゃないでしょうか。なにしろ日本のCDFの2人が185センチ以上だったのは、2010年の岡田監督の時だけですからね。

――3点目を取れずに勝てなかったのは残念だったが、アギーレ監督と日本代表のこれからを楽しみにしましょう。何といってもキリンチャレンジカップのような形で代表の試合を日本中が楽しめるのはとてもありがたいことですからね。

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2014年9月9日 日本代表 vs ベネズエラ代表(前)

2014/09/12(金)

――ここのところ、サッカー漬けのようですね

賀川:9日に横浜でキリンチャレンジカップを見て、10日に東京の日本サッカー協会の創立記念日の催しのひとつで日本サッカー殿堂の掲額式とパーティに参加し、11日は大阪の帝国ホテルでの釜本邦茂旭日中綬章受賞記念のパーティに顔を出しました。

――10、11日は日本サッカーの歴史に関わる日、9日は現在と未来の大切な代表の試合でしたね。キリンチャレンジカップの収穫は

賀川:武藤嘉紀選手のすばらしいゴールシーンを見ました。柴崎岳がパスの能力と視野の広さを代表の試合で披露し、ゴールも決めてくれた。とてもうれしかった。その翌日の殿堂式典で、JFA名誉総裁の高円宮妃殿下が日本サッカーの歴史に触れられたなかで、日本代表がブラジル大会の後、ゼロからの出発などという声もあるが、ザッケローニと代表の積み重ねた流れがあってのこと、ゼロからではないと語られたことにも深い感銘を受けました。

――2人の若い22歳の攻撃の選手が加わってきのも、日本サッカーの歴史の流れということでしょうか

賀川:釜本パーティで財徳健治記者と同じテーブルでした。

――東京中日新聞のベテラン記者ですね。グランパスサポーターズマガジン「月刊グラン」にも執筆しています

賀川:彼は広島出身ですが、大学は慶応なのです。

――慶応ソッカー部なら、武藤の先輩

賀川:慶応を卒業して、東京の産経新聞の試験を受けて入社し、大阪のサンケイスポーツへ来たのです。その時に私の神戸一中の先輩であり、戦後の日本代表のキャプテン(第1回アジア競技大会代表チームの監督兼選手)であった二宮洋一(第2回サッカー殿堂入り)から私に財徳がキミのところへ入ったからよろしく頼むと言ってきました。

――東京のサンスポに転勤した後、中日に移ったのですね

賀川:その間の事情は別の機会に譲るとして、私には武藤と慶応と財徳、そして二宮洋一の記憶を呼び起こしてくれる、懐かしく楽しい日々でした。

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2014年9月9日 日本代表 vs ベネズエラ代表(上)

2014/09/12(金)

キリンチャレンジカップ2014
2014年9月9日 19:20 KickOff 神奈川/横浜国際総合競技場
日本代表 2-2(前半2-2) ベネズエラ代表

――キリンチャレンジカップでの若い選手の活躍も、JFA名誉総裁の高円宮妃殿下の「ゼロからではない」につながりますね

賀川:妃殿下のお言葉にまで及ぶのはおそれ多いことだから、その手前で止めるとしても、代表での武藤を見て、私は二宮洋一以来のストライカーが慶応大学にいたのだと知りました。

――二宮さんは、賀川さんの本「90歳の昔話ではない。 古今東西サッカークロニクル」には入っていないが、賀川さんが最後のところで、日本には戦前から釜本邦茂に至るまでストライカーの系譜があった、と記しています。その中には、二宮洋一さんが入るのでしょう。そう、手島志郎、川本泰三、二宮洋一と戦前の日本代表の系譜です。二宮さんと武藤の共通点は?

賀川:二宮さんはオールラウンドのストライカー。ゲームメーカーでもあった。タイプは違うが、スピーディーなドリブルが基礎にあったのは同じです。前触れが長くなったので、試合にゆきましょう。

――前半0-0、後半に大迫勇也に代わって岡崎慎司、柿谷曜一朗に代わって、武藤嘉紀が入りました。DF、MFはそのままでした

賀川:前半はベネズエラが優勢だった。シュート数を見ても、相手は9本、CKも3本あった。日本はシュート5本、CKは0だった。日本は前半1分に本田圭佑の左足シュートがあったが、その後は相手の激しいプレッシングにトラップミスやパスミスが多く、危ないピンチも4回くらいあった。相手がもう少しシュートが上手ければ、2点くらい取れれても不思議はなかった。

――後半に2人が交代してからよくなった

賀川:いや、後半の始めも、ベネズエラの攻勢が続いた。岡崎の競り合いのうまさの効果があらわれるのは5分たってからだった。

――得点のスタートとなったのは、攻め込まれた日本が左サイドをドリブルする大柄なサロモン・ロンドンのボールを酒井高徳と水本裕貴の2人がかりで奪い、水本がエリア左角あたりから左足で前方へロングボールを送ったところからです

賀川:ハーフウェイラインを越えてきたこのボールに反応したのが岡崎。中央やや右寄り、相手側10メートル入ったところで、CDFとヘディングを競り合った。ボールは長身のシチェロがヘディングしたが、飛距離は出ないでセンターサークルの手前で落下した。それを、武藤がとってドリブルした。右に本田圭佑が走っていた。武藤はドリブルを続け、追走した相手のスライディングタックル(後方だったから成功すればトリッピングの反則になるはず)に足をとられたが、バランスを崩さずにドリブルして、直進からやや斜め左へ方向を変え、ペナルティエリアの手前で左へ移動しつつ左足でシュートした。ボールはゴール右ポスト際に飛び込んだ。

――右に本田、左に岡崎が走っていて、ボールを受けられる態勢だったが、武藤はためらうことなく自分のシュートを選びましたね

賀川:ストライカーですね。右も左も蹴れるが、深い角度のシュートができる。国際的にはストライカーの普通の技術だが、日本では比較的少ない。直進ドリブルして横へボールを動かし、深い角度をつくるのが、彼のシュートのひとつの特色ですね。立ち足をしっかり踏み込み、左足のインパクトも強くしっかり叩いたからボールに勢いがあった。

――第1戦は後半の途中から出場して、左足のボレーシュートもあった。いいシュートでしたね。彼の左足のシュートはとてもいい

賀川:右も蹴れる、いわゆる両足でシュートできる選手で、ストライカーとしてのひとつの才能ですよ。

――岡崎の話がこの得点の最初のところでありました

賀川:相手のCDFがヘディングを取るのだが、上背のない岡崎が先にジャンプし、落下するのに体を当てたためにCDFのバランスが崩れて、強いヘディングで返せなかったのですよ。ここに岡崎の空中戦の特色があります。武藤にしてはこぼれ球を拾うという感じで、トラップしてすぐドリブルに入ったことが大きかった。

――武藤は慶応大学在学中ですが、FC東京のプロとなり、今シーズンはJリーグで8得点しています

賀川:ストライカーと言っても、トップにいて相手を背にしてボールを受けるよりは、走ってボールをもらうタイプでしょう。22節の対鹿島は前半0-2から後半2得点して、2-2の引き分けになったが、1点目は彼が倒されたPK、2点目はゴール正面で仲間がつぶれたのを後方から走りあがってシュートしたものです。PKとなったのは、後方から送られた高いボールをトラップしたところをタックルで倒されたのです。別の試合のビデオでは、左サイドでボールをもらってドリブルする時に、相手のブロック(あるいはホールディング)を避けてタッチラインの外を走った場面を見て、これも二宮洋一ばりだな、と思ったことがある。これは足が速く、バランスに自信があり、大きな動き、スワーブする走りを厭わないのだなと思いましたよ。インタビューなどでも、走るという言葉がよく出てくるから心がけているのでしょう。シュートができて、ボール扱いがよくて、速く走れるのだから頼もしいFWと言えるでしょう。身長178センチは日本人としては大きい方で、世界のサッカーでは中肉中背というところだが、いい体ですよ。

――2点目はフルタイム出場した柴崎でした

賀川:青森山田高校で全国高校選手権の時から注目されていた。鹿島アントラーズに入って今年4年目。

――ここは小笠原満男というMFのいい先輩がいますね

賀川:周囲のよく見えている柴崎は、小笠原のようにいいプレーメーカーになるだろうと誰もがみていて、この試合ではヤバいという時にはファウルして相手を止めるところも小笠原流になってきたことを見せた。決定的なパスも、攻撃方向を変えるパスも、まずソツはない。身長175センチはバルサのシャビと同じぐらい。パスの上手なことはわかっていたから、この試合では自分でゴールするかどうかを見ていたら、後半の22分に決めた。

――攻撃のスタートも彼のパスからでした

賀川:柴崎のパスを武藤がヘディングで再び柴崎へ。今度は柴崎がまたパスを武藤へ。そこから左の岡崎につながって、岡崎がドリブルして、左からクロスをゴール前へ送ってきた。そのボールを柴崎が勢いよく走りこんで右足ボレーでうまく抑えてシュートを決めた。

――柴崎の能力が発揮されたゴールでした

賀川:岡崎がトップに入って、全体のボールの動きがよくなり、チームの勢いが出て奪ったこのゴールは、新しい世代のゴールという点でも代表の歴史のなかでも記念すべきもの。本田は第1戦でFKも決まらず、やや調子が落ちていただけに、武藤の突破とシュート力と柴崎のパスと決定力を見ることができたのはとてもよかった。

――その見事なゴールで奪った2ゴールを守りのミスから2失点して結局スコアは2-2となった

賀川:後半13分の失点は、1-0とした日本代表がガンガン攻めてゆこうとする時にミスパスが生まれます。

――ベネズエラのDFのクリアから日本が右サイドでキープしクロスを送った。ベネズエラのDFがサイドヘディングしてクリア。それを拾った水本がすぐ隣の細貝にパスしてしようとしたがミスキックとなって、相手のアレハンドロ・ゲラに奪われた

賀川:ゲラは細貝のタックルをかわし、ドリブルしハーフウェイラインを越え、ペナルティエリア内に侵入した時、水本が後方からタックルに入った。ボールに届かずゲラの足を蹴った形となり、PKとなったマリオ・ロンドンが決めて1-1となった。

――1-0の7分後に同点とされ、その11分後に柴崎のゴールが生まれた。

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2014年9月5日 日本代表 vs ウルグアイ代表

2014/09/07(日)

キリンチャレンジカップ2014
2014年9月5日 19:29 KickOff 北海道/札幌ドーム
日本代表 0-2(前半0-1) ウルグアイ代表

 

賀川:新しい日本代表の第1戦は、まずFWに皆川佑介(広島)、CDFに坂井達弥(鳥栖)が先発するという新しい顔の起用となった。それまでCDFのひとりだった森重真人を守備的MFの中央に持ってきたのも新しい。昨年のウルグアイ戦では、日本の背後を狙うスアレスへの後方からのパスに痛い目にあった日本代表だが、今度はそのスアレスの脅威はなく、ゲームはもっぱら互いにプレッシングをかけ合い、ボールを奪う奪われるの繰り返しになった。ただし、日本側は第3列、つまり最後のディフェンスラインから第1列への長いパスが多く、したがってミスパスも多かったのに比べ、ウルグアイは中盤で短いパスのやりとりによるキープのうまさが目立った。このあたりが同じように勤勉で、奪う積極性を掲げてワールドカップ1次リーグ突破のウルグアイと1勝もできなかった日本との差ということだろう。前半中ごろまで、それぞれヘディングシュートの決定機が1本ずつという地味な展開。こういう試合は、ミスした方が負けにつながるぞ、と見ていたら、日本のDFにミスが出て1点を奪われた。

――前半34分でした。右サイドの酒井宏樹のバックパスを坂井が止め損ない、身体から大きく離れたボールをカバニに奪われ、そこから相手のパスがつながり、カバニが決めました。

賀川:試合の流れとしては、互いに攻め合い、日本にも26分に田中順也のシュートがあった(相手に当たる)が、その後しばらくつぶし合いになっていた。
発端は、右サイド自陣のスローインを酒井宏が本田に投げ、本田が酒井宏にリターンパス。酒井宏は左足で止め、右足でバックパスをした。バックラインの中央にいた坂井はこれを左足でトラップしたのが大きくなり、そこをカバニに狙われた。

――酒井がバックパスをした時に、相手の前のプレーヤー3人が反応したように見えました

賀川:そう。前方のカバニとロデイロとディエゴ・ロランだったか、3人が酒井のバックパスの体勢を見て、取りにゆこうという気配を見せていた。ボールを受ける坂井は自分の左前から来るロランを気にして左足で止め、ボールを体の右前へ置こうとしたのだろうが、それが大きくなってコントロールできず、今度は自分の右前から詰めてくるカバニに取られてしまう。

――競り合って後方へこぼれたボールをロデイロが拾って右前のロランへ

賀川:坂井の右後方にいた吉田麻也が中央の危険地帯をカバーに来たときにはボールはロランに渡り、彼はこれを前方へ流し込む。そこにカバニが走りこんでいた。

――カバニは右へ流れて右足でシュート

賀川:シュートは遅れながらもスライディングタックルに入った細貝の足に当たり、飛び出したGK川島を越えてゴールへ。長友がクリアしようと走ったが届かなかった。

――日本のバックパスは狙われていると賀川さんはよく言っていましたが

賀川:98年のワールドカップフランス大会で、日本が初出場した時、第2戦でクロアチアに奪われたゴールも、バックパスを奪われて相手のチャンスとなり、スーケルに決められたもの。相手側は狙っていたと言っていた。初めて代表のCDFに起用された坂井にとってはいい教訓だが、もともと右サイドの酒井宏がボールを止めた時から、相手はバックパスだと読んでいたのでしょう。

――こちらの姿勢などで察知する

賀川:代表経験者はその危険をよく知っているはずなのにね。

――今後、気を付けるポイントのひとつ

賀川:試合中のバックパスの数とバックパスの次のパスの成功率を出してみるのも勉強のひとつでしょう。

――前半に日本のチャンスもあった。皆川のヘディングシュートがバーを越えたが、長身のセンターフォワードとして期待しただけに、左からのクロスをヘディングした彼に1点でも取らせたかった

賀川:皆川は大柄で、相手の守りの要であるCDFのゴディンを背にしてボールを止めることもあったし、それを食い止めるためにゴディンがファウルしたのも2度あったはず。背が高くヘディングが強いので、後方からパスを出すのにはターゲットとなる。選手育成の実績ある広島が送り出してきた大型CFといえるでしょう。

――大型と言えば、釜本さんと比較されますよ

賀川:1960~70年代、182センチのCFであった釜本邦茂は今の世界の大きさの感覚からゆけば、188センチクラスのCFということになるでしょう。当時は、ワールドカップ(74年)優勝チームのGKゼップ・マイヤーが182センチ、メキシコ五輪3位の日本代表GKが177センチだったのですから。
その釜本はヘディングがとても上手だった。

――このクロスでも、バーを越すことはない

賀川:まあヘディングに自信のある人たちは、それぞれこの皆川の唯一のチャンスのヘディングシュートをどうみるでしょうね。

――賀川さんの見解は

賀川:釜本選手にぼくが聞いた話では、こういうボールに対して上体を振りすぎると案外入らないことが多く、ジャンプしてボールをとらえるときに方向を変えるのは首をキュッと引き締めるという程度の感覚の方がビシッとボールをとらえ、いいシュートになるのだという。

――それで

賀川:その話を聞いてから、そういう形のヘディングを見ると、なるほど頭を振ったり、身体を振ったりするのが大きいと、ボールはゴールに入らない。たとえば、イタリアでヘディングが上手だったベッテガでも、右からのボールをダイビングして方向を変えて狙った時でも頭の振りがフォロースルーにまであらわれている時は角度が浅くて、ヘディングシュートは決まっていない。落下点へ入って、しっかりジャンプしたところまではよかったが、強く叩こうとして、上体を振る意識が強かったため、小さなバックスイングもあって、結局当たる瞬間のタイミングが少し遅れてボールが上へ上がったのではないだろうか。

――本人も決めなければいけないゴールと言っていました

賀川:私のように、ヘディングが上手くなかった者が言うのはおこがましいが、釜本をはじめ、多くの名選手(最近ではクリスティアーノ・ロナウドのヘディングがすばらしい)のプレーを見てきたおかげで、少年期に習った上体を振るヘディングは大人になっての実戦ではまた違っているように感じています。皆川選手はヘディングが得意なだけに、試合のひとつひとつのプレーを反省し、上達してゆくでしょう。そのためにも代表でのデビュー戦で惜しい場面で外したことは今後の進歩の大事なステップになるでしょう。

――その他にもいろいろあるが、本田のFKが3本とも不成功だったこと、またスルーパスもよくなかったこと

賀川:個々のプレーを取り上げれば、たくさんあるでしょうが、ともかく新しいスタートの第1戦で敗れたけれどウルグアイ相手に球ぎわの競り合いに(勝ったとは言えないが)負けないという気迫が見えたことは何よりです。サッカーはこれがなければただのボール遊びですからね。もちろん、飛んできたボールをピタリと止めるくらいの技術はつけておいてほしいものですが…

――後半にまたまた日本の守りにミスが出て、ゴールを追加され、0-2となった

賀川:25分のゴールですね。両者互角でボールを奪い、奪い返され、互いに攻め合っていました。20分過ぎに相手のFKがあり、高いボールを上がってきたのを川島がキャッチし、ロングボールを前へ送ったが、ウルグアイ側が取って左サイドでキープし、短い横パスをつないで右へ展開、右オープンスペースからクロスが入り、これをエリア内で酒井宏がヘディングしたボールは、内側、ゴール正面へ落下し、PKマーク近くでロデイロが走りこんでショートバウンドを右足シュート、川島が防いだが、弾いたボールは再びゴール正面にころがり、シュートを決められてしまいました。酒井宏のヘディングに続き、川島のリバウンドが正面に転がる不運ということになるのかもしれない。

――痛い失点ですが

賀川:酒井宏は前半にも右から来たクロスをヘディングでクリアするときに、内側へボールが落下したのを見て、危ないなと思った矢先だった。自分の左手から来るクロスを危なげなく処理するのは右DFにとってはポジションプレーのひとつであり、クリアの型になっているはずだが、いささかもったいないプレーだった。

――代表の試合は北海道でも満員。次の横浜でも入場券は完売しています

賀川:それだけ期待されているということでしょう。また第1戦を見ても、とても面白い。ゴールを奪えなくても、ひとつひとつに気合がこもっている、あるいは気迫が不足しているなどと、代表ひとりひとりのプレーを眺めることもまた、サッカーの面白みでしょう。

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2014年5月27日 日本代表 vs キプロス代表(下)

2014/06/01(日)

試合ははじめのうち、動きの悪い日本側が相手のロングボールと突進の勢いにタジタジとなる場面もあったが、やがて中盤を制圧し攻勢となり、前半終了間際に内田がゴールを決め、これが唯一のゴールとなった。

この攻撃の発端は、まずその前の左サイドからの攻め、長友~山口~柿谷~本田とわたり、本田が左サイドから蹴ったクロスを相手のDFがはね返し、それをまた山口が拾ったところから。
(1)山口がクリアボールを取ったところはペナルティエリア外、中央左より約10メートル。エリア内中央にキプロス側は4人、日本側はエリア一杯近くに香川と岡崎がいた。そして山口のシュートコースにはもう一人のキプロス選手がエリア外にいた
(2)互いの関係を見て、山口はダイレクトでボールを右斜めへ送る
(3)前方からこのボールの方へ戻ろうとした香川が右側、ペナルティエリアいっぱいにいた岡崎に合図する
(4)相手DFの接近の前に岡崎は右足でふわりとボールを浮かす。ボールはDFのアンゲリス・ハラランブスの足を越え、香川へ
(5)高く上がったボールを香川はジャンプして右足先で突き上げ、前方から来るイリアス・ハラランブスの頭上を抜き落下点へ
(6)それを防ごうと戻ってきたアンゲリス・ハラランブスとスライディングした香川がもつれ、そこへCDFのヨルゴス・メルキスも加わってボールはゴール前を右にころがる
(7)山口がパスを出した時(1)にはエリア外にいた、内田がゴール前へ走りあがり、このボールを右足でキック。GKの手に当たったボールが左に流れるのを内田がさらに右足でプッシュしてゴールを決めた。

この一連の動きのなかでは、左サイドの攻めを防がれた後、山口がすぐに右サイドへの攻めに変えたこと、第2に本田のクロスの時に、エリア中央部へ走りこんだ香川がクロスがクリアされるとすぐに反転してボールを受けに戻り相手DFラインとGKの間に空白を作ったこと。

第3に岡崎が人数の混み合うエリア内へフワリと浮き球を送ったこと。それまでサイドライン近くからのクロスの攻撃の多くがキプロス側のヘディングではね返されているなかで、あえて浮き球を使ったのは、もともと岡崎は空中戦に自信があるからだろうが、同時に長いボールでなく、短いフワリとしたボールで相手の意表を突いたのだろう。香川自身も背は高くはないが、天性浮き球の処理の上手なことは岡崎も知っているはず。この意表をつくフワリボールの後の相手ゴールへスライディングした香川の粘りと、後方から走りあがった内田の早さが生きたと言える。内田にとっては、故障復帰後の出場チャンスでつかんだ得点は大きな自信となったはず。

チーム全体の評価としては、この日の体調で、故障上がりの選手が本調子に向かいつつあるようで、一安心。本田が得意なはずのFKをはじめ、決定的なシュートチャンスに決めきれないなど不調丸出しだったが、90分プレーできたことで、今回はよかったといえるだろう。その本田が完調でなければ、柿谷と岡崎にいいボールが来ることは少ないのだろうが、両サイドのクロスの単調さや、攻めが中央に偏るなどの、ここしばらくの芳しくない習性もあった。もともと日本代表のサッカーは走ることが第一で、ザック監督は体が働かなくても、頭の働きが見たいと言っていたが、そちらの方もいま一息だった。

大久保嘉人が元気なプレーを見せたのはなにより。セレッソ、ヴィッセルで時折すばらしいプレーを見せながら、コンスタントとは言えなかった彼が、川崎に移って監督の理解と、パスの名手中村憲剛の協力でゴールを奪う能力を恒常的に発揮できるようになった今、ザック監督が彼を選んだのは監督として当然とはいいながら、改めて感謝したいと思う。30歳を超えて、ようやく自分の天分に目覚めた大久保はこの日のプレーを見れば体調も気迫も十分のようだ。若いころの彼とシュートの話をして、右ポスト寄りから左ポスト(ファーポスト)へのシュートのうまさをほめた時、ニアポストへのシュートも心がけては、と言った。その時、「ふん」という顔で聞いていた彼が次の試合でニアポストへズバリと決めたのに、その得点へのカンに驚いたものだ。若くして、溢れる才能を持った彼が30歳でつかんだチャンスを生かし、自分にも日本サッカーにもいい絵を描いてくれるだろう。

試合の後、地下鉄に揺られながら、その大久保はじめ、23人のプレーヤーたちがこれからの準備を完璧にしてひのき舞台で戦ってくれることを心から祈った。

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2014年5月27日 日本代表 vs キプロス代表(上)

2014/05/30(金)

キリンチャレンジカップ2014
2014年05月27日 19:30 KickOff 埼玉/埼玉スタジアム2○○2
日本代表 1-0(前半1-0) キプロス代表

日本代表の壮行試合ということになった。5月2日のメンバー発表から第1次合宿に入って、体力トレーニングが主で選手は疲れが抜けていないと伝えられていた。ベストコンディションではないということだろうが、ブラジルの本番に向かう日本での最終戦ということで、サポーターにとっても見逃すわけにはゆかない。

27日の午後、東京の地下鉄赤坂見附駅から埼玉高速鉄道の浦和美園までの直通電車に乗った。3時28分というのに「サムライブルー」のユニフォームでほぼいっぱい。優先席に空席があったので、1時間座ってゆけたのは私には幸いだった。

4時30分の浦和美園駅周辺は人であふれていた。6万人収容のスタジアムでの代表の試合はお祭りというところだろう。日本サッカーもここまでになったかという感じを改めて深めた。埼玉スタジアムは記者席も見やすく、また席もゆったりしていて申し分ないが、駅からの道路が狭くて、往路はよくても帰路は車の混雑でプレスバスも40分以上かかるというのが困った常識となっている。試合終了後、荷物の多いカメラマンはともかく、記者たちはインタビューの後、23時27分の終電に間に合わせるためには徒歩で15分ばかり歩いて美園駅にたどり着くことになる。89歳、脊柱管狭窄症で腰を痛めた私には、いささか堪える仕事だが、何といっても久しぶりの生の代表の試合の魅力には勝てない。

もうひとつは、初めてのキプロス代表。地中海の東部に浮かぶ、日本の四国の半分ばかりのこの国は北のトルコから65キロ、東のシリアから97キロという、いわば西アジアに近いところだが、古くからギリシャ系が多く、今回のチームも名前からもギリシャ系と知れる。小さな国の代表チームで、それほど国際試合で勝ってはいないが、欧州大陸のチームとの予選(EUROもあれば、W杯もある)などで、強チームを相手に守備は強くなっているという。日本側の目的も、そのギリシャ系選手のギリシャ的守りを経験しておきたいということだったが、こういう未知の国との付き合いができるのも、サッカーならではの楽しみ。開会式セレモニーで初めてキプロス国家を聞かせてもらった。国家を歌う、ヒゲの長身CDFはじめイレブンを眺めながら、小さな国のなかで、ギリシャ系とトルコ系の反発のあることなどに思いをはせ、こういう国との付き合いから、東方の島国日本の私たちも世界への知識を広げ、理解をひろげてゆくのだとも思った。(つづく)

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2014年3月5日 日本代表 vs ニュージーランド代表

2014/03/14(金)

――はじめにポカポカと点を取りました

賀川:日本代表のテンポの早いパスや突進は初めて経験するチームには対応が難しい。いわば、面食らった状態になるでしょう。

――1点目は岡崎慎司の右サイドでの飛び出しと香川のパスがピタリと合いましたね。4分のゴールです

賀川:国立競技場は公式には国立霞ヶ丘陸上競技場ですから、サッカーの記者席も通常は陸上トラック100メートルのゴールライン近くに設けられている。私は最後だからと、その辺りの席にいたから、このゴールは遥か遠くに見えて、肉眼ではそうはっきりとは見えなかったのですよ。

――まして90歳ですから

賀川:キックオフ後、日本が攻めて、しばらくすると、ニュージーランドも攻め返し、森重真人だったかのファウルがあって、相手のFKになり、それを防いだ後の中盤での奪い合いから香川にボールが渡った。

――本田圭佑が相手にからまれて、取り合いになり、いったん奪われたが、2人目の相手のコントロールミスが出て、ボールがこちら側に移り、左の長友に渡って、その長友が内側の香川に渡した

賀川:香川がスペースを見つけて中央へ斜めにドリブルし、相手DFラインの右裏へ浮き球のボールを送った。香川が左サイドからドリブルした時に、右サイドへいいパスをするのはユナイテッドの前シーズンでも、日本代表でも知られているが、岡崎の早いスタートに見事に合った。

――岡崎は日本のコーチや解説者のよく言う「動き出しの早さ」は天下一品

賀川:まあ日本のFWのなかでは、歴代その動きで好評だった選手も多いが、岡崎もその一人。そして今はパスの落下点での強さと巧さが際立っている。

――というと

賀川:岡崎は高校生のころからダイビングヘッドが得意だった。ヘディングに強い選手は胸の辺りのボールにも強いし、落下してバウンドするボールへの処理能力も高くなるもの。この日の彼のトラップは浮いているボールにタッチしたのかどうかわからない感じだった。香川真司がこういうボールを受ける時は、ピタリと止める感じになるが、岡崎は必ずしもそうではないから、相手側のGKやDFは取れると思うかもしれない。

―― GKは飛び出す判断をした

賀川:岡崎は自分のボールにしたのかどうかは別にして、競り合ったDFの裏から足を出してシュートした。

――飛び出したGKは取れなかった

賀川:今年、岡崎はブンデスリーガのマインツで前へ出た浮き球のパスの落下点でDFと競り合ってゴールを再三決めている。相手の裏へ走りこんで、落下してくるボール、あるいは落下しバウンドしたボールを競る時の彼の自信ありげな様子をテレビで見せてもらっている。まあ彼の十八番を香川が引き出した、あるいは十八番のタイミングを岡崎が香川に飲み込ませたというべきかな。香川があのスピードでドリブルをして、ボールを浮かせて岡崎に落下点を合わせたのは、彼がマンチェスター・ユナイテッドで試合に出られなくても自分の技を練習し、磨いている証だと思いますよ。

――その香川がドリブルでエリア内に進入し相手に倒されてPKをもらい、自分で決めました。翌日の新聞は、いつもは本田がPKを蹴るのに香川が主張して自分で蹴ったというような記事がありましたが…

賀川:まあ当然でしょう。彼の早いターンでニュージーランド側がとまどった感はあるでしょう。香川は相手がスライディングタックルの体勢に入るのを見ながら、その前でターンし、体でボールをカバーするようにしてPKにした。ワールドカップの本番でレフェリーがPKにするかどうかは?ですね。彼の動きがキレていたことは確かですが、PKのキックはもう少しサイドネット側へしっかり蹴った方がいい。

――香川ファンの賀川さんからのアドバイスですね。3点目は11分、これは右サイド寄り、ペナルティエリア外のFKを本田が蹴り、森重真人がヘディングで決めました

賀川:本田の強い高いボールに対して、中央ニアサイドにいた大迫がジャンプ。ずいぶん高く飛んでいたが、その上を通ったボールをその裏側にいた森重がヘッドした。外側にはもう一人酒井宏樹がいたから多分練習の型になっていたのでしょうね。

――ニュージーランドのニール・エンブレン監督(イングランド)はCKやFKのようなブレスキックから得点されるようではいけない、と言っていたが、守備の発達した現在だからこそ、CK、FKは大切な得点チャンスですね

賀川:ニュージーランドには190センチのFWもいるし、やはりセットプレーでのヘティングというのは、どこも大切にしますよ。いいキッカーと、それに合わせる仲間の協調プレーは野球に似たところがあるから、年輩の日本のスポーツファンにも説明しやすいはずです。そういう意味でもこうした停止球のゴールをもっと演じてほしいものです。

――17分の4点目は香川、本田、岡崎と見事なパスの組合せでした

賀川:ニュージーランドが左サイドから攻め込んだのを日本の右サイドのDFが酒井宏樹と山口蛍、そして森重たちでボールを取り返してからの攻撃でした。

――たしか、自陣右コーナー近くから森重がライン沿いに前方へボールを送った

賀川:相手のノッポFWウッドを前に置いて、森重が右タッチライン沿いに高いボールを前方に送り、それを岡崎がジャンプヘッドで内側にいる大迫につないだ。大迫はこれをヒール(あるいはソールかな)ですぐ後ろの本田に。本田はひとつ止めて吉田麻也にバックパス。吉田はこれを左に開いていた賀川にパスした。

――見事なパスワークだった

賀川:相手の中盤でのプレッシングがなかったからね。しかし森重が慎重なキックで岡崎の頭上へ高いボールを送ったのがやはり効いている。それにしても、ニュージーランドは攻めていたのだから、もっとDFラインを上げて大迫をつぶしにゆくべきだった。

――アッという間に点を取られて、ちょっとバラバラになっていたかな

賀川:パスを受けた香川はドリブルしてハーフウェイラインを越え、相手のDFに向かって進み、例によってフェイクを入れた後、右足アウトで本田へパスを出した。

――香川は本田の上がりを待っていた?

賀川:彼の視野には中央で大迫が左前へ走ろうとするのを本田が中央へ(大迫の後に)上がってくるのと、ファーサイドの岡崎が見えていたはず。岡崎はノーマークだったから、1点目と同じ選択もあったが、ドリブルを続けた。エリア手前10メートルで香川は右アウトで短いパスを本田に渡した。彼の右手側から戻ってくる相手にぶつかられ倒されたが、この相手の強引な体当たりで全ての目がボールと2人のからみに注がれることになった。

――ボールをゴール正面エリア外5メートルで受けた本田は自分の足下を通すパスを出して、ノーマークの岡崎に渡した

賀川:岡崎は右から中へ走り込んで左足ダイレクトシュートをした。香川がドリブルで時間をかせぎ、相手の注意をボールサイドに集中させておいて、本田にパスを出し、本田が岡崎へつなぐというパスワークだった。香川がパスを出した時、本田が受ける時も岡崎へのイメージだっただろう。

――上質のサッカーの面白さですね

賀川:相手がどうであっても、こういうサッカーを見せてもらうのは、とてもうれしいことですよ。

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2013年9月10日 日本代表 vs ガーナ代表

2013/09/20(金)

――前半にゴールを奪われ、また4強シリーズの二の舞かと思いましたが、後半に3点を奪い逆転勝ちしました

賀川:先の対グアテマラ(3-0)と2試合をセットにしたキリンチャレンジカップでした。代表チームの強化という点からも、非常に大切な時期の2試合で、多くのファンの前で成果を見せたのが一番でしょう。

――後半の開始早々に香川真司がドリブルシュートでゴールを奪い同点にしたのが試合ではひとつのヤマでしたね

賀川:勝敗という点からも24分に奪われ、後半5分に同点にしたのだからチームも盛り上がった。

――いつもより遠くからシュートを打ちました

賀川:当方の攻撃が、本田のパスが相手に当たって、一度はじき返されたのを左サイドの長友が取ったところからが、この攻撃のスタートでした。(1)本田が前方の柿谷へ出したパスが相手DFに当たる。ただし強いボールだったから、相手はコントロールできず、リバウンドを長友が取った。(2)長友はゆっくりキープして(3)後方から左サイドを駆け上がった香川の前へパス(4)香川は左から内へドリブルし(5)ペナルティエリア左角から数メートル内、エリアいっぱいで右足シュート(6)強く叩かれたボールはニアポスト際へ一直線のグラウンダーで飛び込んだ。

――シュートを決めた香川は、喜びというより淡々とした感じでした。喜びの表情ではなかった

賀川:うれしいというより、ホッとした感じだったでしょう。ここのところ、十分働いているのに、成果が出ていなかったからね。ザック監督のヒントかもしれないが、ペナルティエリア外からのシュートが生きましたね。

――シュートそのものにも気迫がこもっていた

賀川:蹴り足のインパクトの後のフォロースルーもしっかりしていた。蹴り足の足首も効いていましたね。柿谷曜一朗という新しいFWをワントップに置く形になって、この試合でも彼の突破を生かせるためのスルーパスの仕掛けが早くなっていた。柿谷はボールを止める技術がすばらしいので、それを生かしての狭いエリアでのパス攻撃もできるのだが、この日はもう少し早めの仕掛けを監督は見たいと思ったのかな。

――前半に彼が左サイドを突破して中央へグラウンダーのクロスを送り、本田が左足シュートを決めそこなったシーンがあった

賀川:日本が1点を失った直後のビッグチャンスでした。決してやさしいシュートではないのだが、パスが左から来るという、左利きの本田にとっては得意の形だから、言い訳はできないチャンスでした。

――メディア報道でも彼はこのシュート失敗を強く受け止めていたとか

賀川:本田のような選手にとっては、こういうパスが来るようになってきたことはとてもうれしかったと思いますよ。なにしろ、この日の香川、本田、清武、柿谷の4人の攻撃陣はおそらく日本サッカー史上、最もボールテクニックの高い代表の攻撃陣ですからね。

――ふーむ

賀川:そのハイレベルの攻撃陣に、これまでのようなエリア内でのパス攻撃よりも、エリア外からのシュートというヒントを出した監督さんが面白いと思いますね。

――2点目は本田のヒールパスをエリア外から遠藤がシュートして決めました

賀川:痛快な強シュートがゴールへ、というのではなく、ゴールの右下隅へのコントロールシュートだったが、少なくとも2ゴールはエリア外から蹴ったのですからね。後半は、監督のヒントか、香川たち選手の自らの発案なのかは知りませんが、ともかくシュートのタイミングあるいはシュートに入る距離を少し変化させたことがゴールに結びつきました。

――香川真司が少し力み過ぎているように見えると賀川さんは前に言っていましたが

賀川:マンチェスター・ユナイテッドで将来を考えたファーガソンが香川を受け入れたのは、将来イングランドでもバルサ流サッカーの時期が来る、そのためにも香川のような選手を、という深謀遠慮のはずですが、そのファーガソンが代わったあと、次の監督がどういうふうに考えるかは別の話でしょう。しかしサッカーのプレーにはいろいろなタイミングもあり、その多様性もまた攻撃力アップの要素ですから、今回のエリア外シュートは香川にも代表にもプラスになったでしょう。

――本田がFKから3点目をヘディングで取りました

賀川:これもニアに吉田麻也がいて、彼が競り合いにいった裏で本田がヘディングしたのです。本田が自分のヘディングの強さを仲間との協調プレーで発揮したのは、とてもよかったと思います。

――欲を言えば、前半にゴールがほしかった

賀川:後半は相手が疲れてきますからね。それでも今回のシリーズは2試合あわせてチーム全体の守備意識の強化と、柿谷を入れた攻撃陣のテストが大きなプラスになったでしょう。

――長居で46,244人、横浜で64,525人、合わせて11万余の観客が応援してくれて、テレビでも多くのファンが代表のプレーを見るわけです。来日した両国ともに、それぞれ事情があるのに代表チームを送り込んでくれたのは、誠にありがたいことです

賀川:日本代表はこれから10月に海外で強化試合を行うことになりますが、その前も後も、海外リーグにいる者も、Jリーグにいる選手も、少しでもプレーの精度を上げてゆくことが大切です。代表はこれまでの積み重ねでいくつの攻撃ルートと、そのフィニッシュも出来上がりつつありますが、ここに柿谷と大迫がどのように加わるかで、また違った魅力が出てきます。

――今度のキリンチャレンジカップで、いよいよブラジルに向かって代表が新しいステップに入ったという感じがしてきました

賀川:ともかく、かつてない技術レベルが揃ったのだから、私たちの特性の勤勉な組織力をどう生かせるか、ですよ。

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2013年5月30日 日本代表 vs ブルガリア代表戦(続)

2013/06/03(月)

SAMURAI BLUEの香川真司

――対ブルガリア0-2から一夜明けて、6月1日付のスポーツ新聞に代表の反省の弁などが掲載されていました。今日はこの試合での香川真司のプレーを語ってください

賀川:開始早々に内田から相手のペナルティエリアいっぱいの中央左よりにいた香川にパスが出たとき、際どい所でブルガリアDFが足を出してカットした。しっかりマークしているという感じがした。

――30分にうまいターンの後、シュートしましたね

賀川:左サイドの駒野からエリア内の乾貴士にパスが通って、それがペナルティエリアいっぱいのところにいた香川へバックパスされた。そのボールを相手を前にして左足で止め、ゆったりとした動作からくるりと相手に背を向けて反転して、内側へかわし、右足でシュートした。鮮やかなプレーに、スタンドがどよめいた。ニアのポスト際を狙ったシュートはGKが防いだが、真司らしいいいプレーだった。

――やはり香川、というプレーでしたね

賀川:このトラップと小さなターンと、その後のシュートを見れば、アレックス・ファーガソンがマンチェスター・ユナイテッドの変革のために彼をと熱望した気持ちが理解できるでしょう。

――アエラという雑誌の5月20日号に、稲垣康介記者の記事が載っていて、ファーガソン監督の話もありました。そうそう、賀川さんの話も出ていました。タイトルは「日英大御所記者のみた香川の1年」だった

賀川:寄り道はのちほどにしましょう。33分と38分にも香川がエリア内でボールを受けたが、つぶされました。40分には香川が今野泰幸からの早めの縦パスを受けて、左から中へドリブルし、右から中へ入ってきた乾に渡した。乾が前へ出た香川へリターンパスを送った時は、ブルガリア側はこの2人に対して、5人が囲んできたからね。結局、乾のパスはDFに当たって、そのこぼれを乾が左外の駒野に送り、駒野がクロスをあげて失敗(ゴールラインを割る)。

――香川への警戒の強さですね

賀川:この時に4人の第2列の誰かが短いパスを受けられる位置に来てこそ、3-4-3の意味があると思うのだが…

――それが、前日の話の、コンディション不良による積極性のなさとも言えるのですかね
賀川:まあ試合を見ていろいろ言うのは簡単。選手には選手の事情がある。ただし、それでも勝つため、点を取るためにはサッカーでは走ること、動くことが一番ですからね。コンディションの如何にかかわらず…

――香川の動き全体はどうでした

賀川:彼はフルシーズンといっても、ケガの休止期間もあり、体力を使い果たしたというシーズンではなかったはずです。(来シーズンはわからないが)今季はファーガソンはガンガンぶつかってくるチーム相手の時は、休ませるなど無理のない使い方をしていましたからね。だからこそ、本人はこの試合で、なんとかいい攻撃をしたかったはずです。

――前半はGK川島永嗣、DFは右に吉田麻也、中央が栗原勇蔵、左が今野泰幸、MFが右から内田篤人、長谷部誠、遠藤保仁、駒野友一、そして前の3人は乾貴士、前田遼一、香川真司でした。後半に入ると4FBに変えて、酒井宏樹を右に、栗原、今野が2CDF、そして左に長友佑都が入った。ボランチは長谷部、遠藤のまま、香川をトップ下に、右に乾、左に弘嗣、トップの前田をハーフナー・マイクに代えた。DFの要の吉田は故障を抱えていたとか。攻撃に3人のセレッソ育ちが入って、少しいい気分になったでしょう

賀川:もちろん関西のチームからいい選手が出ているのだから当然ですが、同時に前田の調子の上がらないのも気がかりですよ。

――トップ下に入った真司の動きが目立って6分にチャンスがありました

賀川:右サイドのスローインをハーフナーに向かって投げると、ボールはハーフナーをすり抜けてバウンドしてペナルティエリア右角から内へ。それを香川が追って、DFマノレフをかわして右足でシュートした。DFの足に当たって右CKになった。

――アエラの記事のなかで、賀川さんは「ペナルティエリアに入った時に真司の良さが出る」と言っていましたが、このプレーなどはそうでしたね

賀川:バウンドして落ちてくるボールを右足でタッチし、浮き球で相手の頭を越して抜くと見せて、そうではなく同じところへ落としてシュートしたのです。前半にも左ポストに近いところでやはり浮かせて「間」をつくろうとして、相手の体に当たった場面があったが、彼のフェイクのひとつですね。

――テレビではここへ入ってくればメッシか香川ですね、という声も出ていたほどです

賀川:シュートは決めなければいけないと真司自身が言っています。右足でのボールの叩き方にもうひとつ工夫があれば、それこそメッシだが…

――それはどうするのですか

賀川:この次の楽しみにしておきましょう。その3分後に、今度はエリア内へ走り、ヒールパスで後方の清武に渡したのがあった。清武が左の強いグラウンダーのシュートをしたが、右外に外れていた。

――清武は右のクロスもうまいが、こういうシュートも敢行できるのですね

賀川:チームに攻めの勢いがついている時にファインゴールが生まれると、一気にムードが上がるのだが…選手がボールによって踏み込む確度とキックする足のどの部分に当てるかでシュートの方向は決まるもの。正面スタンドから見ると、惜しいシュートだが、ゴール裏からでは、かなり外れていた。清武は12分に左サイドでうまいパス交換からノーマークのシュートチャンスもあったが、利き足の右のサイドキックで誰かに当たってゴールには届いていない。

――香川のエリア内での動きもあって、面白いようなパスがつながることもあったが…

賀川:ブルガリア側は中央部を厚く守り、いつも前を向いて防ぐ形になっている。パスの出てくるところも見えている。パスを出す側の工夫も必要になる。

――ドリブルを仕掛けることも?

賀川:誰かがドリブルで突っかけるとか、相手DFの前へボールを出して、そこで一緒につぶれるという手もある。もちろんパスで誰かがフリーになっていることもいいのだが、人数が多く入っているところでは、グラウンダーだけでなく、高いライナーのシュートもあっていい。

――そういうシュートそのものについて日本では割りあい関心が薄いと…

賀川:真司を中心にボールが回るところを見るのはとても楽しいが、その締めくくりのシュートが何故このレベルで止まっているのか不思議ですよ。

――点を取れないうちに、相手のFKがあってそこから長谷部のオウンゴールで0-2になってしまった

賀川:日本は乾に代えて中村憲剛を投入した。左右からのクロスも入るようになったが、ハーフナーの長身が生きるには至らなかった。ハーフナーのヘディング技術のこともあるが、クロスの制度の問題もある。

――32分の遠藤のFKも右へ外れてしまい、終盤の激しい攻めも得点は生めなかった

賀川:サポーター、ファンには不本意だったが、キリンチャレンジカップのおかげで、SAMURAI BLUEに危機感を持たせてくれたのは何より。と同時に、真司の進化をいろいろな点で見られたのは私たちにはとても楽しいことだった。こういう経験の後の代表がオーストラリア戦、イラク戦で上げ潮に向かってくれることを期待しましょう。

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2013年5月30日 日本代表 vs ブルガリア代表戦

2013/06/01(土)

キリンチャレンジカップ2013
2013年5月30日(木) 19:20キックオフ(愛知・豊田スタジアム)
日本代表 0-2(前半0-1)ブルガリア代表
 得点 スタニスラフ・マノレフ(3)、オウンゴール(70)


敗戦は代表へのカンフル

――早くから入場券は完売して、観客41353人と豊田スタジアムは満員。テレビの観戦も多かったはずです。試合は期待に反するものでした。

賀川:がっかりしましたね。いちばんの不満は代表チームのコンディションが良くなかったこと。まあ海外組にとってはヨーロッパの長いシーズンが終わって、ホッと一息ついたところだろうから、同情すべき点はあるのだが…

――監督は試合後のインタビューで「低いリズムでプレーすると、いいところが出ないのが課題」と言っていました

賀川:今の選手は素直というべきか…多くのお客が集まっている前でコンディションの悪いことがそのままプレーにあらわれる選手もいたからね。

――試合の前半はブルガリア代表の方が勢いがあったように見えました

賀川:前にも同じような意見を申し上げたが、ヨーロッパの一流リーグでの1シーズンを戦うことは、選手にとってもなかなか厳しい仕事で、その後に続くワールドカップへのコンディションづくりもまた大変でしょう。そのノウハウを日本サッカーに蓄積していくことが大切でしょう。2006年の中村俊輔のように、大会に入って調子が落ちた例もあるのだから…
今回のキリンチャレンジカップも、その警鐘の一つといえるでしょう。

――先日のプレビュー記事で、ブルガリア代表がなかなか強敵という話を、在のヨーロッパ予選のグループでの成績(2位)をあげて紹介していましたね

賀川:だからこそ、日本の組織プレーを見たかったのだが…

――一丸となって戦わなければいけない強敵に対して、不慣れなフォーメーションのテストをしたりしたのは、ちょっと烏滸(おこ)がましい感じもしましたが…

賀川:そうとはいえないでしょう。ザック監督が自らのプランに従って、選手や戦術をテストするのは当然でしょう。ただし、それに対して選手は持てる力を発揮しなければなりません。もちろんいまの代表は3バックに慣れていないし、それだけに最終守備ラインにスペースが広くあるようにも見えますが…

――裏を返せば、中盤に人が多い

賀川:まあ、そこが選手たちの工夫のしどころでしょう。どんなフォーメーションでゆこうと、要はノーマークのシュートチャンスをつくることだし、ゴールを奪うことであり、自分たちのゴールを守るために何をするかでしょう。


攻守にプラス ぶれダマFKの解析

――2失点は前半3分のFKをマレノフが「ぶれダマ」を蹴り、GK川島永嗣が左右のこぶしを揃えフィスティングしようとしたところで下方へ曲がって川島のこぶしは空振りとなって、ボールはゴールに飛び込みました

賀川:ゴール裏側からのカメラは、川島の突き出した両手に当たる前にGKから見て右下方へボールが落ちるところを映していました。たしか2006年大会のブラジル戦でGK川口能活がブラジルのFKを止められなかったのが、初めて経験したぶれダマだったのでしょう。

いまの日本では本田圭佑のシュートが2010年大会から有名になった。このシュートはキッカーを誉め、ゴールキーパーは仕方ないという感じになりがちだが、川島がゴールを奪われたことでゴールキーパーのぶれダマ対策もメディアやファンの話題になるだろうと思った。GK側から考えることで、ただ一人手を使うこのポジションについての理解が高まり、GKのレベルアップにもつながるのではないか…と思っているのです。

――2点目はFKから。右サイドからの高いゴールがゴール前に落下し、長谷部誠の右足に当たってゴールインしました。こういう不運もあるわけですね

賀川:ノッポの選手を越えて、ボールが落ちてきた時、長谷部は左足に当ててクリアできなかったのか、あるいは右足のアウトサイドに当てることができなかったか――利き足とそうでない足との使用比率は多くの選手は9:1か8:2ですが、若いプレーヤーは7:3にまで不得手な足の使用率を高めれば、それだけでピンチでのクリアやタックルなどの足の伸び方、あるいは立ち足の強さなどがプラスに作用する。

――さて試合で得たものは

賀川:香川真司について話したいこともあるが、それは後にして全体としては監督が選手それぞれのコンディションをつかんだことでしょう。

――乾貴士をスタートから使いましたね

賀川:点の取れる選手、そしてまたドリブル突破のできる選手ということでしょうが、私が気にしているのは、ここのところブンデスリーガでもゴール数が落ちていることです。シュートの時のボールの叩き方に問題があるのだろうし、またドリブルのコースも、もう少し外を使った方がスピードが生きる気がします。

――6月4日のオーストラリア戦は

賀川:本田圭佑のコンディション、もちろん岡崎慎司もですが…

――本田がダメなときは

賀川:まあ、いまはそれを考えずに本田の状態を見てから組合せを考えましょう。ザック監督は当然、頭の中に組み上げていると思いますが…
 

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【プレビュー】日本代表 vs ブルガリア代表

2013/05/29(水)

オーストラリア戦に向けての重要なリハーサル

――5月30日のキリンチャレンジカップ2013対ブルガリア代表(豊田スタジアム)の日本代表メンバーが発表されました。6月4日のオーストラリア戦(埼玉)に向かっての準備試合です。

賀川:2014年のブラジルでのワールドカップ・アジア予選Bグループの5カ国中、日本は6試合で4勝1分1敗でグループ首位だから埼玉で勝てばもちろん、引き分けでも2位以内確定で、本番への出場が決まります。

――大切な対オーストラリア戦の前にブルガリアとの対戦でチームの仕上げを図ろうというわけですね

賀川:ブルガリアはヨーロッパ予選で6戦して2勝4分無敗でイタリアに次いで2位につけている。

――ヨーロッパは9グループあって、グループ1位はそのままブラジルへ、各組2位のうち成績のよい8チームがプレーオフで残り4つの座を争う(ヨーロッパの枠は13チーム)ことになっている。ブルガリアはおそらくB組2位でプレーオフに出ると見られている

賀川:次の予選試合が9月のブルガリアにとっては、この6月の準備試合はとても有意義になるでしょう。国内でも盛り上がっているだろうしね。

――ブルガリアといえば、94年のアメリカ大会ではストイチコフというストライカーがいて活躍しましたね

賀川:ベスト4まで進んで、彼らの新しい歴史をつくった。準々決勝でドイツに勝った。0-1からストイチコフのFKで同点。そしてレチコフのヘディングで勝ち越した。準決勝は1-2でイタリアに敗れたが…

――ストイチコフはバルセロナでチャンピオンズカップ(現チャンピオンズリーグ)で優勝し、トヨタカップでも来日してサンパウロ(ブラジル)と戦った。敗れはしたが、ストイチコフが先制ゴールを決めました

賀川:グアルディオラもいて、ヨハン・クライフ監督のもとで新しいバルサのスタイルをつくる基礎の時期だった。

――ブルガリア代表は東ヨーロッパでもやや骨太の感じのようですが

賀川:ストイチコフの体つきが本田圭佑をもう少し太めにした体格だから、その大スターの印象もあるだろうが、全体に体が強い。上背があって、ヘディングの強い選手もいる。もちろん日本代表と比べると平均して大きくて強い体のはずだから、対オーストラリア戦へのいい経験になるでしょう。そういえばマンチェスター・ユナイテッドにディミタール・ベルバトフという、いいストライカーがいた。香川真司と入れ替わるように移籍してしまった。

――いまはフラムにいます

賀川:彼は代表を引退したということで来日メンバーに入っていない。ゆったりとしたプレーのいいストライカーだった。そういうプレーヤーも出るところでサッカーのレベルは低くはない。幸いなことに日本代表は本田圭佑も長友佑都も、香川真司も全員が集合している。そろった代表チームがしっかりとコンディションを揃え、このブルガリア戦で気迫のあるプレーを見せてくれるでしょう。

――久しぶりの代表と東欧のナショナルチームとの対戦はとても楽しみですね。

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2013年2月6日 日本代表 vs ラトビア代表(下)

2013/02/13(水)

――さて後半のゴール、チームの2点目は本田圭佑のビューティフルゴールでした。

賀川:4分に香川からのクロスを前田がヘディングして左ポストに当てた。オフサイドだったが、スタンドを沸かせたプレーだった。岡崎の縦の突破もあった。本田のシュートもあった。前田が後退してボールを受けてスペースへ本田が入ってきた。

――チームの動きがスムースになってきた。それにつれて相手のファールも多くなってきた

賀川:時々攻めに出る相手をどうするかを見ていると、13分に自陣右サイドで岡崎がボールを奪い、内田に渡した。
(1)内田はこのボールをすぐ左前にいた遠藤に
(2)遠藤はハーフウェイライン手前、センターサークルに近い本田へ
(3)その本田へ一人が向かってくる。相手の4DFはハーフウェイラインの向こう、15メートルあたりに1列に並び、前田がその裏(オフサイドの位置)にいた
(4)本田は奪いにくる相手の前で左足で左に開いていた香川にミドルパス。
(5)香川はノーマークで受けてドリブル。中央の前田にCDFがぴったり並走し、4DFは後退。
(6)香川はドリブルして、右足でのボールタッチ2回でペナルティエリア左角の手前にいるDFに接近し
(7)小さなフェイクを入れてスピードを落とし、中へ入ると見せてスクエアパスを本田の足下へ
(8)本田はこのパスを左足サイドキックでダイレクトシュート。ボールはGKの右上を抜いてゴールへ飛び込んだ
(9)香川がパスを出す直前の相手はペナルティエリア内に4人いたが、前田の右への動きで191センチの長身CDFは前田をマーク。その外にルギンスがいた。もう一人のDFイワノフは香川に対応する仲間の背後を警戒した。そちらに寄っていたから本田の前方、シュートコースはがら空きだった

――いろんな組合わせが本田の会心のシュートにつながりましたね

賀川:シュートそのものとともに、まず本田が(4)のところ、香川へパスを出す時に、相手が接近してから蹴ったためにそこで体勢が入れ替わり、本田が前へスタートした時はそのマーク相手は置いてけぼりになったこと。(7)のところで香川が内へドリブルする気配を見せたことで4DFの2人が引きつけられたこと。このため本田はフリーシュートの形となった。

――だからサッカーは面白いと言いたいのですね

賀川:ビデオをお持ちの方はもう一度ご覧になれば、いいゴールというのはとてもリーズナブルに見えます。もうひとつ、シュートの瞬間に後方から本田のラインまで岡崎が駆け上がっていることにも注目しておきたいのです。最初の自陣でのボール奪取、つまり(1)の前段階でプレーした岡崎が守から攻に転じて、攻撃にも参加しようとしている点です。一見無駄な当力のように見えますが、このあたりも日本サッカーであり、岡崎であるということでしょう。

――賀川さんは先のブラジル戦の後で、本田が自分で点を取ることにさらに意欲的になってくれるだろうと期待していましたね。3点目は2点目の1分後でした

賀川:帰ってビデオを見たとき、2点目の本田のクローズアップがとても印象的でした。彼が自分のシュートよりも、香川のパスのうまさを称揚したいという感じでしたね

――ラトビアのキックオフで始まり、相手ボールがパスミスとなり、ハーフウェイラインラインの遠藤がボールを取ったところから攻撃開始となった

賀川:(1)ハーフウェイライン中央やや右寄りで遠藤は体を左に向けておいて、すぐ右前にいる前田に短いスルーパスを通した
(2)前田は内側へごラップして相手をかわし、左へ流れながら左の香川にパス
(3)前田が受けてパスを出す直前の相手4DFはペナルティエリア前10メートルに4人いた。その左DFの内側から岡崎がDFラインの裏にスタートした
(4)ゴール正面30メートルあたりで前田からのパスを受けた香川は小さく浮かせたスルーパスを蹴る
(5)DFラインの裏で岡崎は右から左斜めへ走ってボールを取り、飛び出すGKをかわして左足でゴール中央へ流し込んだ

――ビデオで見れば、前田は相手に肩をつかまれながらパスを出していた。本田は岡崎とともにまず香川のそばに寄って祝福していました

賀川:ザッケローニさんは間髪入れず、本田に代えて乾貴士を、内田に代えて酒井高徳を投入。4分後に今野を伊野波に代えた。あと10分のところで岡崎を引っ込めて大津祐樹を投入した。

――まあ、テストしたい選手を見たわけですね

賀川:そう、これから後、私の興味はもっぱら乾にあった。

――ドリブルからのシュートですね

賀川:彼の直線的なドリブルとドリブルからのシュートやパスの能力は前から知っている。ドイツのフランクフルトでもレギュラーで出ているが、まだコース取りもフェイクもやや単調なところが気になっていた。上手な選手だからいいパスをもらえばプレーの幅も拡がるのだからね。この日、香川によって何か触発されるかという期待もあった。

――香川がトップ下に入って、長友とともに2人がこの若手主体のチームの中心となり、それを遠藤と長谷部がサポートする形になった。とても楽しい30分だった。乾のシュートがひとつでも決まっていたらもっとよかったのに

賀川:まあそんなにうまくゆけばいいけど…

――本田圭佑についてひとこと

賀川:ロシアでは休止期間のようだから、彼の状態がベストなのかどうかわからない。ゴールへの意欲を持っているようだが、得点力、シュート力そのもののアップはこれからでしょう。

――香川は

賀川:マンチェスター・ユナイテッドで左利きのストライカー、ファンペルシーとプレーしていることがこの日の本田のダイレクトシュートへの配球にもあらわれていた。ここしばらくの彼はバルサのシャビに似た感じになっているが、彼はシャビよりずっと若いのだから、もう少し動きの幅が大きくなっていいのやないかな。

――せっかくナマで見た彼らのことは日を改めてまた聞かせてもらいましょう。

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2013年2月6日 日本代表 vs ラトビア代表(上)

2013/02/09(土)

キリンチャレンジカップ2013
2013年2月6日(水) 19:20キックオフ(兵庫/ホームズスタジアム神戸)
日本代表 3-0(前半1-0) ラトビア代表
 得点 岡崎 慎司(41、61)、本田 圭佑(60)

――ラトビアに3-0。まずはよかったということですが、神戸の試合だから当然ナマで見たのでしょう

賀川:とても面白かった。本田圭祐や香川真司、岡崎慎司をはじめ海外組の主力が顔をそろえたから前売りは完売だったし、当日の場内アナウンスはプ ログラムの売り切れも告げていた。

――プログラムには賀川さんの神戸のサッカーについての書き物もありましたね。

賀川:まあ、それはともかく集まった28617人の観客は3ゴールに満足したでしょうね。

――といって問題がないわけではない

賀川:前半は前田遼一と遠藤保仁がいなくて攻撃陣のトップは岡崎でいつもの岡崎のポジションである第2列の右サイドには清武弘嗣が入った。遠藤の代わりの守備的MFには細貝萌が起用され、長谷部誠と組んだ。

――シーズン前の国内組はまだ体調が不十分で両選手とも90分は無理とザッケローニ監督は判断したと聞きました

賀川:試合後の記者会見でそう言っていました。これまでワントップの控えとしてハーフナー・マイクも入れてきたがケガで不参加だったから岡崎を持ってきたのでしょう。清武の右サイドはすでに経験済みでこのあたりはザック監督の手堅さというべきでしょうね。

――その前半はよくなかった?

賀川:寒冷地でのラトビアの国内リーグは隣国のロシアと同じく今は冬期の休止期で、半数くらいの選手はコンディションは万全ではなかったでしょう。しかし国外組が半数いた。いずれにしてもラトビア代表はワールドカップやヨーロッパ選手権の予選などで格上チームと戦うことが多いので、ゴールを相手にキープされて守勢になることには慣れていて、その流れで時に勝ったり引き分けにしたりする。だから日本のように相当な技術レベルで組織的にボールをキープする相手との試合は望むところだったでしょう。

――前半のスコアは1−0、日本代表のシュートは6本でした。前半はまず長谷部のエリア外からのが1本、本田がFKとドリブルシュートで2本、岡崎がエリア一杯での右足シュート、そしてゴールにつながった内田のシュートにタッチしたもの

賀川:賀川が右の清武からのクロスをダイレクトで蹴って大きく外したのがあったはずだが…

――シュートチャンスが少なかったのはどこが問題か?

賀川:まず、前田ではなく岡崎だったこと。ゴールを背にしてボールを受けることの上手な前田と、第2列から前へ飛びだすことに本領発揮する岡崎とではね。しかもチームは2ヶ月半ぶりに顔を合わせ、連係プレーの感覚を取り戻すのに少し時間もかかったようだ。

――岡崎には気の毒に見えました。右サイドへ移った後半のイキイキしたプレーを見れば、よくわかります

賀川:ということは、それだけ日本中にワントップを上手にやれるタイプの選手が少ないということにもなるでしょう。

――セルジオ越後さんが選手層の薄さをあらわしていると言っていたようです

賀川:まあ日本のサッカーにはポジションプレーという概念が欠けているのかも知れないが、この話はまた別の機会にしよう。

――前半のゴールは右サイド、エリア内で清武が2人を相手に粘って持ちこたえたところから。内田がシュートし、それがゴール正面あたりでDFに当たって方向が変わったのを岡崎がタッチして決めました

賀川:このゴールのきっかけとなった清武が相手に絡まれて持ちこたえたのも、彼の懐の深いボールの持ち方と柔らかさからきている。ここでの奪い合いに相手のDFたちは一瞬ボールを注視し、次に日本側にボールが出たときの対応が遅れた。

――いつも言う、のっぽ選手はいったん止まったら次の動きが出るのは遅いというところですね

賀川:ワールドカップの時にいつも思うのは、ドイツの大型選手は走れば戦車だが、立っていると…

――後半に前田が入って、岡崎が右に、本田がトップ下、左が香川となり、長谷部のペアに遠藤が入ると一気のチームの感じが変わりましたね

賀川:記者席からチームがいかにも手馴れた感じになったのがよくわかりました。余裕が出てきたから逆にミスが起きる可能性もある。そんな心配をしたほどフィールドにいる日本イレブンの空気がホッとしたように見えた。

――ミスも出ましたね。しかし後半の15分に本田の左足ダイレクトシュートが決まって2−0とし、その1分後に今度は岡崎がパスを受けて左へ流れてシュートを決めて3−0としました

賀川:起点は2ゴールとも遠藤からでラストパスはこれも2点とも香川でした。

――ちょっと詳しく説明してもらいたいですね

賀川:その前に前半の1点目をもう一度振り返っておきましょう。実はゴールしたのが40分21秒ですが、そのちょうど1分前には、ボールはハーフウェイラインにあって、そこから一度、二度、三度と攻め込みを繰り返していた。それも主として右サイドからで、相手に奪われても奪い返しての攻めの繰り返しは上手とは言えなくても、あきらめずに崩しにいこう、なんとかゴールを奪おうとする気持ちが強かった。倒れた清武が起き上がる時に相手に体を寄せたため、相手のクリアがすぐ近くの長谷部のところへ転がった。そこから長谷部、内田とわたり、内田のシュートにつながったが、こういう粘り強さに、攻撃への意欲やあきらめない気持ちといった代表の無形の進化を感じました。プロとして当然と言えばそれまでだが、なかなかのことですよ。

 

(続く)

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2012年9月7日 日本代表 vs アラブ首長国連邦代表

2012/09/07(金)

キリンチャレンジカップ2012
2012年9月7日(木) 19:20キックオフ(宮城/東北電力ビッグスワンスタジアム)
日本代表 1-0(前半0-0) アラブ首長国連邦代表
 得点 ハーフナー・マイク(69)

――日本代表1-0、ハーフナーのヘディングでした。6日後、9月11日にワールドカップアジア最終予選の第4戦となる対イラク(埼玉)を控えての準備試合としてどうでしたか?

賀川:本番前、1週間のテストの試合としては成功だったのじゃないですか。まずハーフナーがヘディングで1点を取ったことです。

――CFができたと?

賀川:それほどではないが、194センチの長身の彼が90分間代表の中でプレーしたことで、彼の高さを得点に結びつけるクロスのコースをひとつチームに見つけ、ゴールとなったのだからね。

――駒野が左サイドから長く速く高いボールを送り、GKがジャンプして取ろうとした手をかすめてファーサイドにいたハーフナーがジャンプヘッドで決めた。

賀川:それまで2本、彼のヘディングを狙ったクロスがあったが、1本は低く、1本はファーポスト際だが合わなかった。前田遼一というFWがいて、彼はヘディングも強く、ポストプレーも上手で、この日も彼だったらもっと変化のある攻撃ができたはずだが、さあという時のためにザッケローニ監督は194センチの威力発揮のやり方をチーム全員でつかませたのだろうと思う。

――なるほど

賀川:前田の力量はすでに皆が知っていて、チームを組める。そこにもうひとつ追加の194センチができたというわけでしょう。もちろんハーフナーのヘディング技術は1968年の釜本邦茂に比べるとまだまだだが、何といっても日本チームでのこの高さは魅力ですよ。
――そういえば釜本さんは68年にはニアサイドの飛び込みもしていましたね。

賀川:天下のアーセナルを相手に点を取った。釜本は182センチで当時は74年ワールドカップ優勝チームGKのゼップ・マイヤーと同じ身長だった。ということは現代の選手の高さからいうと190センチくらいで外国人選手と比べても長身の部類となる。だから国内ではヘディングは断然強く、これが国際的にも通用するようになったのです。

――ハーフナーもこれで自信をつければ

賀川:そう反復練習してほしいね。

――攻撃に厚みが加わったというのはわかるが、ディフェンスは?

賀川:監督さんの腹づもりは、この日に吉田とペアでCDFとなった伊野波あるいは水本のどちらになるか、、、

――守りについては、CDFも大切ですが、ボランチでキャプテンの長谷部の調子がいまひとつというのも気になります。

賀川:ドイツでリーグにいても出ているわけではない。調子はいいとは見えなかったが、まあこのポジションは大切ではあるが人材もいるからね。清武がパスの供給者としてはいいプレーをいくつか見せた。ザックさんにまたチョイスが増えたという感じ。

――マンチェスター・ユナイテッドというビッグクラブに入って、香川の人気がものすごく高いが、試合では本田の方が目立った

賀川:ユナイテッドでも香川は周囲を活かそうとする姿勢が強いね。もちろん日の浅いこともあるだろうが、それが彼の人気のひとつでもあるだろう。本田へのパスの出し方などは感嘆するね。この試合で本田が目立ったのは対イラク戦のような大事な試合には自分が引っ張ってゆこうという気持ちが強く、その自分が長旅の後、どれくらいやれるか確かめようとしたのでしょう。本田と香川の二人を見ているだけでも、ビッグスワンに集まった4万の観客は楽しかったと思います。

――チャンスが多く、シュートも前半10本、後半7本あったのに決まったのは1ゴールだけでした

賀川:本田がFKを含めて6本、香川が1本だったかな。香川には本田へのうまいヒールパスや、右の清武からのパスを胸で止めそこなったのがあった。また、あの狭いスペースでボールをコントロールする(それも高速で動きながら)のは大したものだが…

――岡崎にも惜しいシュートの場面があった

賀川:ザッケローニ監督は香川に代えて、後半から岡崎を登場させた。コンディションを考えてのことだろうが、清武を長く見ておきたいと思ったのかも。

――報道だと監督は必ずしも満足ではなく、CDFもまだ決めかねているようですが

賀川:腹づもりは出来ているでしょう。選手やチームの進化は思ったより早い時もあれば、なかなか見えにくいこともありますからね。それでも、たとえばハーフナーへのクロスにしても、駒野が後半24分に長いボールを左タッチライン近くから蹴って、彼の長身の利点を引き出した。キックオフから成功までに70分以上かかっていますが、チームとしてはこれがひとつの進歩です。そしてまたベテランの駒野…彼は2006年のワールドカップドイツ大会での、あのオーストラリア戦の辛い敗戦も知っている選手ですが、そのベテランの駒野が、先日のキリンチャレンジカップ・ベネズエラ戦で右サイドバックで出場して、パスを受け、ドリブル突破して、右のゴールライン際から後ろ目のクロスを出して遠藤のゴールを生み出した。そして今度は左サイドからハーフナーのヘディングを引き出すクロスを出しています。

――31歳のベテランも新しいプレーを付け加えているわけですね

賀川:ちょっと余談だが、駒野がベネズエラ戦のドリブル突破で、ボールを相手DFの外側に通し、自分は内側を通って抜いたでしょう。あのボールを外、自分は内側を走るのは、ぼくが神戸一中2年生の時のキャプテンで右ウイングだった友貞健太郎さん(故人)の十八番のドリブルの型だった。とても懐かしかったです。この人は、兄の太郎より1年上で、昭和13年(1938年)の全国中学校選手権(現高校選手権)優勝のキャプテンでした。

――イラク戦では、その進化を監督と選手がどのように見せてくれるかですね。そうそう。香川についてもう少し話してほしいですが

賀川:また次の機会をつくりましょう。まずはイラク戦は選手たちが体と心を整えて、いい準備をしてくれることですよ。

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2012年8月15日 日本代表 vs ベネズエラ代表

2012/08/20(月)

キリンチャレンジカップ2012
2012年8月15日(水) 19:33キックオフ(北海道/札幌ドーム)
日本代表 1-1(前半1-0) ベネズエラ代表
 得点 遠藤 保仁(14)、失点(62)


◆代表の技術の結集と言える先制ゴール

――ロンドンオリンピックでのなでしこジャパンとU-23代表の活躍の後、今度はフル代表です。ワールドカップ2014ブラジル大会のアジア最終予選のイラク戦を控えての準備試合です。いかがでしたか。

賀川:イラク戦には今野泰幸、栗原勇蔵、内田篤人の3人が出場停止になっています。右サイドのDFとCDFの2人ですね。その代役は誰かをこの試合で見てみたいと監督さんは考えているでしょう。もちろん海外組の調子を見ること、久しぶりに集まった代表としての試合勘、チームワークはどうかも大きなポイントですが…

――ヨーロッパではこれからシーズンインのところが多いです。

賀川:本田圭佑のロシアはすでにシーズンが始まり、GK川島永嗣のベルギーもスタートしています。ドイツやイングランド、イタリアなどはこれからです。

このキリンチャレンジカップはとてもよかったと思います。予選本番前のテストという意味だけではなくて、久しぶりのフル代表の試合に、U-23の元気いっぱいのオリンピックもいいが、やはりフル代表の試合は面白いと思った人も多かったと思います。試合目的のひとつ、センターDFは監督さんは心にほぼ決めていて、次のキリンチャレンジカップ(9月6日)ではっきりしたいのじゃないか、右サイドはほぼ決まりでしょう。

――久しぶりに集まった海外組は?

賀川:私にはほぼ予想通りでした。

――マンチェスター・ユナイテッドで新しいシーズンを迎える香川真司に得点がなかったのが残念。スタジアムのサポーターもテレビ観戦の皆さんも期待していたのに…

賀川:まあ彼が得点していれば申し分ないが、そうなるとメディアの目は香川に集中してしまって、代表の各選手のせっかくの好プレーも忘れられてしまうでしょう。

――つまり、キリンチャレンジカップは目的を果たしたと?

賀川:私にはすごい成果があったと思いますよ。

――試合を振り返りながらそれを見ていきましょう

賀川:14分の日本の先制ゴールは、まさに今の代表の技術の結集と言えるものでした。

――駒野がペナルティエリアの「右の根っこ」から斜め後方へのクロスパスを送り、遠藤が走り込んで11メートルからダイレクトシュートを決めました。絵に描いたようなパスとシュートでした。

賀川:この攻撃は中盤での長谷部と遠藤の短いパス交換からはじまった。
(1)遠藤からのリターンパスが後方に流れるのを長谷部が戻って取りにゆく
(2)その長谷部に相手がプレスに来る
(3)長谷部は相手に迫られながら振り向きざまにダイレクトでパスを前方へ送った
(4)すぐ右横(タッチ際)にいる駒野ではなく、前方の本田へ出したところが、このパス経路のポイントのひとつ
(5)本田は自分の左足に正確に届けられたボールを左足で止める
(6)彼の気配で右方向へ行くと判断した相手DFの裏をかいて本田は左足アウトサイドでタッチ際を前進する駒野にやわらかいパスを渡す
(7)ノーマークでパスを受けた駒野はドリブルし、相手DFをすり抜けてペナルティエリア右根っこへ持ち込み
(8)斜め後方へパスを送った
(9)このボールがペナルティキックマーク近くに届いたとき
(10)遠藤が走り込んできて右足インサイドで蹴り込み1-0とした。

――そういえば、テレビ解説も長谷部が横パスでなく縦パスを出したのがいいと言っていましたよ

賀川:U-23の試合での清武から永井へのパスのところで、スルーパスを出すタイミングとして、自分が相手ゴールを背にしているとき、あるいは横向きの形の時がいい、と言いましたが(※)、今回も同じ理屈です。このパスの経路にもう一つ本田の目立たない妙技があります。
(※)参照:ロンドンオリンピック モロッコ代表戦「清武のパスのタイミング」

――それは?

賀川:本田が得意の左足で止めて、パスを出すという極めて基本的なプレーですが、相手は外へパスをする本田の意図を読めなくて、駒野は無抵抗でパスを受けたこと、この余裕が相手の最終ラインの守りの一番外の部分を突破することにつながるのです。

――いろいろ味付けがあって、決定的なチャンスが生まれ、余裕をもってそのチャンスを得点にしたわけですね

賀川:もちろん遠藤の走り込み、最初のパスにかかわって自らが決めたこと、またそのスペースを広くするための前田遼一たちの動きなどもあります。

◆コパアメリカ4位の上昇中のベネズエラ

――試合開始すぐにベネズエラは強いチームだと言っていましたね

賀川:選手ひとりひとりもしっかりしているし、チームとしての訓練がよく出来ている感じでした。

――ベネズエラは南米では珍しくサッカーより野球の方が盛んな国と聞いていましたが

賀川:大リーガーにベネズエラ出身者の多いのはよく知られています。手でボールとバットを扱うベースボールという異質のスポーツが先に盛んになるとフットボールが国民に浸透するのは難しいものです。

――かつての日本のようですね

賀川:ベネズエラのサッカー関係者の苦労はよくわかります。その努力の成果が昨年のコパアメリカ、つまり南米選手権で準決勝進出、4位となった。1次リーグBグループでブラジルと0-0、エクアドルに1-0で勝ち、パラグアイと3-3、1勝2分けで準々決勝に進み、チリを2-1で破り、準決勝でパラグアイと0-0、PK戦負け(3-5)、3位決定戦で伝統国ペルーに1-4で敗れた。優勝ウルグアイ、2位がパラグアイだから、ベネズエラの順位はブラジルやアルゼンチンより上だった。

――この勢いを続けて、これから後半に入る南米予選を突破してブラジルでのワールドカップ本番に出場しよう、日本とのキリンチャレンジカップで勝って勢いをつけようと考えていたようです。

賀川:来日した18人のうち15人が海外でプレーしている個人力もあり、南米の大敵に対してチームワークを高めて成績を上げた自信も持っていたはずですよ。

――いい相手が来たと?

賀川:U-23となでしこのロンドンでの活躍の陰には、大会直前のキリンチャレンジカップとヨーロッパに渡ってからの準備試合がうまくいったのが大きいと思います。今度の相手は久しぶりに集結した代表にはなかなかの強敵ですが、この時期だからちょうどいいでしょう。

――その強敵相手に代表は見事なパスワークで先制しました。前半にもう少しゴールシーンがあればよかったのに。

賀川:18分に遠藤のクロスを中央の岡崎が胸で本田にパス、本田がダイレクトシュートという場面があったでしょう。シュートはGKエルナンデスに防がれたが、先制ゴールとは違ったシンプルで力強い攻めでした。

――そういえば、早いうちに香川がエリアのなかでシュートしました。左へ外れたが…

賀川:前田へパスが入って、彼が右前からエリア内へボールを流し、香川が受けてシュートした。前と後ろ、2人のDFに囲まれて2度シュートのフェイントの後、右足で蹴って左ポストの外へ外れた。しっかりボールを注視して蹴っていたのに、外れ方が大きかったのでオヤッと思った。これだけでなく、相手の危険地域に入ってくる位置取りのうまさに驚いたが…

――岡崎の相変わらずの体を張ってのプレーや左サイドの長友の攻撃、前田のポストプレーなどは前半に見ることが出来た。攻撃の柱としての本田のすばらしさも堪能した。後半の期待は香川のゴールになりました。

賀川:皆の期待通りにはゆかず、悪いことに香川がボールを奪われたのがきっかけで1点を失い1-1になってしまった。

――後半17分でした。その前にも彼のバックパスがミスキックになってベネズエラに渡り、シュートまで持ってこられた。

賀川:それにしても、奪ってからのゴンザレスの長いドリブルと、それを引き継いだマルチネスのゴール目指しての突進の速さと、マルチネスのゴール正面へのパスを左から走り込んだフェドールが決めた右足アウトサイドのシュートなどは、まさに南米そのものだった。フェドールのシュートは外からのクロスに対して吉田を背にして右足で止め、体をひねって右足のアウトサイドでゴール左隅へ流し込んだもの。走り込んだ勢いで体のバランスを崩しながら、相手DFを自分の体で押さえつつ、とっさに右足をのばしてアウトサイドで蹴ったところが少年期からボールを奪い合う遊びを重ねてきた南米人らしい動作だった。

――相手のドリブルで一気にエリア内まで持ち込まれたことはU-23代表の日韓戦での1点目を思い出します。

賀川:ボールの取られ方が悪い、失い方が問題だという話になるが、そういうピンチにどう対応するか。香川が奪われた時に、ボールよりも自陣にいたのが4人。相手側は奪ったゴンザレスを含めて3人だった。右前のマルチネスにボールが渡った時、日本側は2人、相手はフェドールとマルチネスだけだった。

――GK川島を加えると日本側は3人ですね。その他、帰陣を急ぐものが2人はいた。

賀川:こういう態勢で防ぐためにはどうするか、ということは当然ディフェンダー同士で、あるいはチーム全体でも話し合うのだろう。そういう実際的な勉強材料が出来ただけでも、このキリンチャレンジカップは値打ちがありますよ。と同時に、いつもの話だが守りは無失点であれば申し分ないが、いくらゴールキーパーやDFががんばっても、何かで1点失うこともあり得るのだから、攻めて2点を取ることを考えた方が上策のように思う。

――この試合でもシュートは22本、相手のシュートは10本です。

賀川:シュートを決めるのは監督ではなく選手だが、日本は指導者ともども勉強の必要ありでしょう。シュートそのもの、シュート位置、そこへの道程と相手ゴールキーパーとの関連などなど。

――そのためにも香川の能力が発揮されることを多くの人が望んでいます。

賀川:この日、彼が3本のシュート(ヘディングを含む)を外したほか、守備では前述の奪われ方やバックパスのミスもあって、必ずしも皆の期待に応えられなかった。本人の話として攻撃のスイッチが入らなかったという表現が伝わっている。今の彼は、ここ1週間は特別でしょう。これまでの多くの日本代表と違って、香川は高校選手権などと縁がなく、ひとりで上のレベルを目指し、ようやく世界のマンチェスター・ユナイテッドのレギュラーに手が届くところに来ている。その大事な開幕戦の直前に、やはり大切なこの試合に望んだ本人は100%の気持ちでプレーしたとしても、よい結果にならなくても不思議ではないだろう。それでも私は彼のプレーに新しい発見もあった。ユナイテッドのトップ下、あるいは第2列の攻撃を担う選手としての相手の危険地域への入り方に従来よりも工夫の跡があり、また上背に乏しく、それほど得意でもなかったジャンプヘディングへの位置取りもよくなっていた。

――香川の出来はよくなかったとしても、それはこの日だけだろうと?思いやりすぎかな?

賀川:こういう大事な試合の時にも必ずしもうまく乗れないこともあるということ。しかしそれでも、いくつかの新しいプラスを見せたということです。

――代表全体としてはよかったと?

賀川:ガンバの調子が悪い中で、遠藤がよいプレーを続けて披露した。本田をはじめ出場した海外組は本番になればさらに上のプレーができそうに見えた。DFはベテランを起用すれば一時的にしのげるだろうが、2年後を考えてこの時期に控えの質量を試しておきたいところでしょう。それには次のキリンチャレンジカップが大切な場となる。

――攻撃陣が2点を取るための問題については、またもう一度聞くことにしましょう。まずは本田はよかった、香川は不満はあっても進歩も見られた。予想以上に強い相手ではあったが、日本代表らしい試合だった。3週間後、選手たちが自分のチームでの試合のなかで、ベネズエラ戦の教訓をどうものにするかですね。

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2月24日 日本代表 vs アイスランド代表

2012/02/29(水)

キリンチャレンジカップ2012
2月24日19時20分キックオフ(大阪長居スタジアム)
日本代表 3(1-0、2-1)1 アイスランド代表
 得点 日本:前田遼一(2)藤本淳吾(53)槙野智章(79)
     アイスランド:アルノール・スマウラソン(90+3)

 

――3-1の勝ち、まずまずでしたね。

賀川:今年になって初めて集まった日本代表だから、まずその1勝おめでとう……ということになる。

――アイスランドは人口32万人――。サッカーの登録プレーヤーも男女合わせて2万人という小さな国ですから、勝って当たり前といえるでしょう。賀川さんから見て、この試合の収穫は何でしょう。

賀川:相手のレベルがどうであれ、3ゴールしたのはいいことですヨ。

――先制は前田遼一のヘディングシュートでした。前半2分のこのゴールは、大久保嘉人からのパスを受けた槙野智章が左サイドを突破して中へ持ち込み、右足で高いクロスを前田の上へ送った。「とてもいいクロスだった」と前田も話していました。

賀川:後半8分の2点目は、中村憲剛の見事なパスをノーマークで受けた藤本淳吾が、ゴールキーパーの位置を見て左足でフワリとしたボールを蹴って頭上を抜いた。

――左利きの藤本のワザありゴールでしたね。槙野のクロスも、ボールテクニックで知られている彼らしいプレーでした。

賀川:私はこの試合の2人のフワリ・クロスとフワリ・シュートを評価している。と同時に、相手がアイスランドでなく、もう少しマークが厳しいとか、寄せが早いチームや選手だったらどうだったか――とも思った。こういうプレーが試合中にも出来るのは、ボールを持つこと(ドリブル)に自信があり、余裕があってのこと。それが、もう少し上のクラスのときにどうだろう――とね。この疑問はどんな好プレーのときにもついてまわるのだが……。

 3点目はFKから、中村憲剛のボールをゴール前で相手と競り合った槙野が倒れたところにボールがきて、しっかり決めた。中村は後半の頭からプレーしたが、仕事をちゃんとした。

――失点のほうはアディショナルタイムに入ってから、相手のFWに対する槙野のファウルでPKを与えてしまったもの。マークのずれがあったかもしれませんが……

賀川:相手の大型選手がトラップしたときに、背後から取りに行って生まれた反則。浮いたボールがペナルティエリアに入ってきたときの大型相手の防ぎ方は、いつの時代、どのクラスであっても日本代表チームの課題なんです。槙野のようなプレーヤーでも起こりうる――ということを実戦で経験できたのは良かったと思う。

(2月29日のワールドカップ予選の対ウズベキスタンのホームは、相手の強い当たりと速いプレッシングに日本代表はゴールを奪えず、0-1で敗れた。プレーはハリがなく、ボールの奪い合いでも、相手のスクリーニングにこちらの2人がかわされる場面も多かった。敗因を一口でいえば運動量不足ということになる。コンディショニングなどいろいろ理由はあるだろうが、日本代表が力を発揮するためには動きの量を大きくすることが第一。ヨーロッパでそこそこ試合に出られるようになった選手がいるといっても、代表としてチームを組めば“走る”“動く”という特徴を出さなければなるまい。それがなければウズベキスタンをはじめとする西アジアの、粘っこく、重いサッカーに勝つのは容易ではない)

――いずれにしても、槙野や藤本といった比較的新しい顔ぶれが、代表の中で良いプレーを演じてゴールに絡んだのは、チームにも本人にも素晴らしいことですね。

賀川:あとは、それを積み重ねてゆくことですヨ。

――アイスランド側では、ロングスローがスタンドを喜ばせました。ソルスティンソンという選手だったか……。

賀川:スローインを遠くに投げる投げ方の一つで、ハンドスプリングスローというらしい。とても面白かったが……。

――そういえば日本ではスローインの遠投は近頃あまり見ませんね。

賀川:今の代表では内田篤人が遠投する方だね。遠くへ投げるのは、一つの武器でもある。戦前の慶応の黄金時代の笠原隆さんの遠投は有名だった。右タッチラインからゴールライン辺りまで投げて、二宮洋一さんがヘディングでゴールしたという記録もある。その二宮さん(第2回日本サッカー殿堂入り)が監督兼選手だった1951年第1回アジア大会(インド・ニューデリー)の対イラン戦(2-3)での相手の1点目は、予期しないロングスローからだった。大会報告に、イランのキャプテンのロングスローにGK津田幸男は呆然としたとある。

――北緯65度の氷の島(アイスランド)の選手のロングスローから、61年前の暑いニューデリーでの話になりました。まぁ、これもキリンチャレンジカップを通じてのサッカーの世界の広さや深さを知る楽しみといえますね。

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【Result】2月24日 日本代表 vs アイスランド代表

2012/02/25(土)

キリンチャレンジカップ2012
2月24日19時20分キックオフ(大阪長居スタジアム)
日本代表 3(1-0、2-1)1 アイスランド代表
 得点 日本:前田遼一(2)藤本淳吾(53)槙野智章(79)
     アイスランド:アルノール・スマウラソン(90+3)

【日本代表メンバー】
GK: 12西川周作
DF: 3駒野友一→2伊野波雅彦(64分)4栗原勇蔵→20近藤直也(76分)6槙野智章、15今野泰幸→6森脇良太(82分)
MF: 7遠藤保仁(Cap.)8柏木陽介→14中村憲剛(HT)17増田誓志
FW: 10藤本淳吾→11石川直宏(64分)16大久保嘉人→9田中順也(HT)18前田遼一
SUB:1林卓人、23山本海人、19谷口博之、21磯村亮太、24柴崎岳、25久保裕也

【アイスランド代表メンバー】
GK: 12ハンネス・ソール・ハルドーソン→1グンレイフル・グンレイフソン(HT)
DF: 2アルノール・スベイン・アーザルスティンソン、4ハトルグリムール・ヨナソン、5ヒャルマル・ヨンソン、6グズムンドゥル・クリスチャンソン→3スクーリ・ヨーン・フリーズゲイルソン(HT)
MF: 8ヘルギ・バルー・ダニエルソン(Cap.)14ハウクル・パル・シグルズソン→13アリ・フレイル・スクーラソン(68分)15ソーラリン・インギ・バルディマルソン→16ハトルドール・ビョルンソン(83分)
FW: 9グンナル・ヘイザル・ソルバルドソン→17ガルザル・ヨハンソン(73分)10マティアス・ビルヒャルムソン→7ステインソール・フレイル・ソルステインソン(HT)11アルノール・スマウラソン
SUB:18エルファル・フレイル・ヘルガソン

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10月7日 日本代表 vs ベトナム代表

2011/10/11(火)

キリンチャレンジカップ2011
10月7日19時45分キックオフ(兵庫・ホームズスタジアム神戸)
日本代表 1(1-0、0-0)0 ベトナム代表
 得点 日本:李忠成(25)



――不満の残る日本代表の試合ぶりでしたが……それでも1-0で勝ったというべきか、1ゴールしか取れなかったというべきか――

賀川:代表チームが日本サポーターの前で試合をするのだから、勝つことが条件づけられている。と同時に、このキリンチャレンジカップは11日の対タジキスタンとの本番に備えての選手チェック、組合せ裁定という仕事も兼ねている。

――したがって、前半は手持ちのメンバーの中で一番手慣れた組合せでいった、ということですか。

賀川:本田圭佑がいないことは前から分かっている。それに遠藤保仁と岡崎慎司が故障、内田篤人も出られないとなった。

――ザックさんが試したい選手もいて、それを投入したというわけですね。

賀川:若くて売出し中の清武弘嗣まで欠場するのだからね。そこで前半のような攻撃メンバーになった。

――それにしても、ベトナムもしっかりしたプレーをしましたね。賀川さんが試合前に1967年――44年前のメキシコ五輪アジア予選での対ベトナム戦を例に挙げていたとおり、苦戦した。

賀川:日本のサッカーは1960年代から飛躍的に向上した、といっても、実際に試合の中でプレーする代表一人ひとりの技術の精度が飛躍的に向上しているわけではない。プロになり、多くのプレーヤーの動きの量が増え、技術に対する常識が高まったといっても、世界もアジアもやはりレベルアップしている。私は試合を見ながら44年前のプレーと比較していましたよ。


◆45分間に1回だけでも「あうん」の呼吸で1ゴールしたのがいい


――前半のゴールを評価していましたが……

賀川:ハーフウェーライン近くで相手選手のトラッピングミスがあって、長谷部誠が奪ったところからチャンスが生まれた。ここから香川真司-長谷部-藤本淳吾-李忠成とつながって李が決めた。
 ちょっと詳しく振り返ると、
(1)長谷部が奪ったすぐ近くに香川がいた。長谷部は真司にボールを預けて前へ走り、すかさず真司からボールを受けた。相手の守備ラインの手前でノーマークだった。
(2)真司はこの日は顔色も良くなくて、元気のない様子だったが、さすがにこういうときの「何気ないパス」は上手い。
(3)長谷部はまだ前を向いていなかったが、パスのボールのスピードが柔らかくきたから、彼はターンしてボールを持ち直し、前へドリブルした。

――ボールが強ければ長谷部の体勢は楽でなかったと?

賀川:長谷部は、最もプレーが安定し、動きの量も多く、キャプテンシーもあり私の好きな選手。この試合でも前半しっかり働いた。しかしザックさんはウズベキスタンとの試合で彼をトップ下に置いてその失敗を認めたようだ。このポジションよりもボランチ、つまりもう一つ後ろから出てゆく方がいいタイプの選手なんです。

――その長谷部がトップ下の位置へ上がったときに、香川が彼に優しいボールを送ったというわけですね。

賀川:そのスピードとタイミングがね。まあ偶然か意図的か、どちらにしても、ここでそういう「さりげないパス」を出せるのが真司の本領ですよ。
 プレーの続きだが、
(4)前を向いた長谷部がドリブルを仕掛け、
(5)右の藤本へパスをした。
(6)藤本は縦にドリブルし中へ、マイナスのクロスを送る。
(7)そこに李がいて、ノーマークでシュートを決めた。

――長谷部がドリブルを仕掛けたとき、賀川さんは何か口の中でブツブツ言っていたようですが

賀川:李が前へ飛び出したあと、また後方へ戻ろうとした。一方、香川は長谷部の左隣りをフルスピードで駆け上がり、トップへ飛び出していった。この2人の動きも良かったね。

――藤本がドリブルを仕掛けたときに、李の戻る動きと香川の前へ飛び出す動きで李がノーマークになったわけですね。

賀川:この25分のゴールの一連の動きは、それまでよく似た形をつくろうとして失敗していたのを、互いの関連性のあるラン(Run)と、それをよく見ていたボール保持者(藤本)との「あうん」の呼吸でスペースをつくり、ノーマークシュートへ持っていった。しかもボールは外から中へのグラウンダーというシューターには蹴りやすいコースできた。

――香川、李、長谷部というこれまでのメンバーに新しい藤本を加えた4人でのゴールですね。

賀川:まあ、こういうパスやドリブルが組合わされ、得点につながるのがサッカーの攻撃の面白さですよ。

――それを1点だけでも演じたのは立派だと?

賀川:1点だけという見方もあるし、45分で1回できた、という言い方もできる。
 このコースのもう一つの意味は――攻撃は中央突破もいいがちょっと相手が手薄なハズのサイドで崩し、サイドから入ってくるボールを決める方が易しいということだ。このときも、藤本の侵入とクロスに対して、相手GKは自分のいいポジションから動いて出てくることになっている。
 あうんの呼吸のゴールを1点も取れないのと、1点でも取るのとでは全く違う。魚釣りでも、1匹も釣れないのと1匹でも釣るのとは全く違うからね。


◆どんな相手と戦うにも、日本代表は走って、チームプレーをすること

――システムの問題は

賀川:サッカーは試合の状況に応じてDFが4人になることもあるし、5人になることもある。その大づかみな配列も大切だが、結局は1対1での競り合いに負けないこと。もし1対1の競り合いが難しいのなら人数をかけてボールを奪うことになる。すると、まず動きの量が必要となる。
 日本のサッカーは例え相手がFIFAランキング100位以下であっても、常に1対1の奪い合いで勝てるとは限らない。サッカーはあくまでチームゲームであって、どんなにドリブルが上手であっても、どんなにスピードがあっても、常に仲間との協力は欠かせないものなんです。
 ベトナムとの試合で、日本の多くの選手、特に若いプレーヤーは、日本代表では常にいコンディションを保ち、豊富な運動量で自分たちの機敏性と組織力を生かすことを心掛けないと苦しい戦いになることを体で感じたと思う。その意味で、対ベトナムのキリンチャレンジカップはとても良い経験だったと思いますよ。

――本田がいなくても、良いコンビネーションの展開で点を取れることも見せてくれました。

賀川:代表として築いてきたものをベースに、ここに加わった選手たちがどういうプレーをするかは、選手自身が考え、監督の意図を察し、分からなければ相談して解決し、いいチームにすることなんですよ。11日はそういう意味でとても期待を持って見つめる試合ですね。

【了】

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【Result】10月7日 日本代表 vs ベトナム代表

2011/10/07(金)

キリンチャレンジカップ2011
10月7日19時45分キックオフ(兵庫・ホームズスタジアム神戸)
日本代表 1(1-0、0-0)0 ベトナム代表
 得点 日本:李忠成(25)

【日本代表メンバー】
GK: 12西川周作
DF: 2伊野波雅彦→22阿部勇樹(45分)3駒野友一、5長友佑都→4栗原勇蔵(45分)15今野泰幸、6槙野智章→20吉田麻也(68分)
MF: 13細貝萌、17長谷部誠(Cap.)→14中村憲剛(45分)
FW: 10香川真司→21原口元気(45分)11藤本淳吾、19李忠成
SUB:1川島永嗣、23権田修一、9岡崎慎司

【ベトナム代表メンバー】
GK: 18ブイ・タン・チュオン
DF: 4レ・フオック・トゥ、23チャン・チ・コン、16フイン・クアン・タイン、2ドアン・ビエト・クオン
MF: 5グエン・ミン・チャウ→7グエン・バン・クエット(78分)15グエン・コン・フイ、14レ・タン・タイ→10グエン・ゴック・タイン(59分)8グエン・チョン・ホアン→3グエン・アイン・トゥアン(分)19ファム・タイン・ルオン→12ホアン・ディン・トゥン(67分)
FW: 9レ・コン・ビン→13グエン・クアン・ハイ(81分)
SUB:1グエン・マイン・ズン、24グエン・テー・アイン、6チャン・ディン・ドン、11グエン・ゴック・ズイ

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【Preview】10月7日 vsベトナム代表 (下)

2011/10/05(水)

キリンチャレンジカップ2011
10月7日19時45分キックオフ(兵庫・ホームズスタジアム神戸)

日本代表 対 ベトナム代表

本番前のリハーサル。東南アジアの仲間ベトナムがやってくる
44年前メキシコ五輪予選でのスリルと喜びの思い出

111004vietnam


――賀川:6ヶ国のリーグで日本はまず、9月27日の開幕試合でフィリピンに大勝し、次いで台湾に勝ち、レバノンも破って3勝した。韓国も、まず台湾、次いでレバノン、ベトナム(南ベトナム)に勝って3勝。10月7日に日本と韓国が対戦した。

――歴史に残る3-3の試合ですね。

賀川:雨の中の壮烈な試合だったが、実はこの引き分けのあとが大変だった。10月9日に韓国はフィリピンに勝った。残る試合は10日の最終日の日本とベトナム。日本はそれまでの試合で得点を稼いでいたから、日本はベトナムに勝てば4勝1分け韓国と同勝点、得失点差で1位となりアジア1組代表としてメキシコへゆけることになっていた。

――勝ちさえすればいい、と。

賀川:その「勝てばいい」がプレッシャーとなって日本の選手にのしかかっていた。ベトナムは守りを厚くしてときおりカウンターに出るという、極めて当たり前の作戦だが、それがとても効果的だった。

――ふーむ、

賀川:引き分けに終われば韓国が1位だからね。満員の観客はハラハラだった。レバノン戦でひどいタックルを受け肩を痛め、包帯を巻いた痛々しい姿の杉山(隆一)が後半に相手ゴールキーパーのキックミスを拾ってドリブルシュートを決めたので、どうやら1-0で勝った。

――大きな日の丸を持って、イレブンが場内を1周、スタンドから飛び下りた人も一緒に走ったという象徴的なフォトが残っていますね。

賀川:ベトナムといえば、私はこの44年前のシーンを今も思い出します。この日の彼らは本当に立派な試合ぶりだった。その堅固な守りに手を焼きながら、スタンドと選手が一体となって1ゴールをもぎ取った。NHK総合テレビは20%以上の視聴率だった。

――それが10月10日ですか

賀川:ベトナムは東京オリンピックの前の年に国際大会を開いて、いわば“東京”の大会運営のリハーサルをしたときにも西ドイツ代表とともに代表チームを参加させてくれたんですヨ。

――そういう古くからつきあいのあるベトナムが、今度も来てくれる。

賀川:神戸ではどのような試合になるか。守備重視でくるのか、中盤でプレッシングをするのか、あるいは何人かの素早い個人技術で私たちを驚かせるのか――。

――サッカーには色々な楽しみがありますが、今度のキリンチャレンジカップでもまた一つの歴史が生まれることになるでしょう。


【了】


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【Preview】10月7日 vsベトナム代表 (上)

2011/10/04(火)

キリンチャレンジカップ2011
10月7日19時45分キックオフ(兵庫・ホームズスタジアム神戸)

日本代表 対 ベトナム代表

本番前のリハーサル。東南アジアの仲間ベトナムがやってくる
44年前メキシコ五輪予選でのスリルと喜びの思い出

111004mexico

メキシコ五輪予選の大会プログラム(表紙)


――キリンチャレンジカップの日本代表対ベトナム代表が10月7日に神戸で、11日に大阪でワールドカップ・アジア3次予選の日本代表対タジキスタン代表が組まれています。
 2試合続けて代表の試合を関西で見られるのは、ファンには嬉しいですね。

賀川:神戸のホームズスタジアムも、大阪の長居競技場も、新幹線の新神戸駅や新大阪駅からの交通の便利の良いところだから、東京や九州のサポーターにもチャンスですヨ。秋のスポーツシーズンのまたとないプレゼントです。

――アジア3次予選で日本は、9月2日に埼玉で北朝鮮に1-0で勝ち、9月6日のウズベキスタンとのアウェーを1-1で引き分けた。2010年の南アフリカ・ワールドカップでの16強からアジアカップ優勝(2011年1月、カタール)、さらには女子のワールドカップ優勝と、昨年から大きく盛り上がってきた日本サッカーですが、ここのところ負けてはいないもののちょっと勢いが鈍った感じもあります。

賀川:男子のフル代表にとっては、本田圭佑が故障で離脱したのが響いたね。アウェーの対ウズベキスタンでは、阿部勇樹のアンカー役という策に出たが成功しなかった。若手有望株の清武弘嗣も足を痛めてしまった。

――ザッケローニさんの魔術もトーンダウン?

賀川:サァー、どうですかネ。どんなチームでも調子の波はありますヨ。特に今の代表のように海外でプレーする選手も多いときは、コンディションの把握が難しいもの。ただ私たちが知っていなければならないのは、日本代表はヨーロッパや南米のトップクラスのチームと戦うときにも、それより少し下のクラスのアジア勢と戦うときでも、常にしっかりした組織プレーができることが大切で、運動量の多いことが必要となる。そして、いいチームワークで攻め、守るには、選手たちの組み合わせが重大ということですヨ。

――手慣れたポジションでするということ

賀川:選手たちがそれぞれ得意な形でプレーできるようにすることが大切。それで自信がつくと、バリエーションもついてくる。

――ヨーロッパのリーグの最中の海外組、Jのタフな終盤の争いをしている国内組を、本番でもあるワールドカップ予選3試合目のタジキスタン戦の前にキリンチャレンジカップというリハーサルができるのはプラスですね。

賀川:招集している全員が揃うかどうかは別として、ベトナムとの試合を一つ持てるのはとても大事なことですヨ。

――ベトナムはFIFAランキング130位(9月21日発表)ですね。

賀川:ベトナムの力がどうこうというよりも、まず代表イレブンがどのようなコンディションで揃うかですね。ベトナムはかつては長い内戦があったが、今は経済も良くなっている。古くからサッカーの盛んなところだから、私は期待しているんですヨ。特に、この10月になると、ベトナムと日本の試合には強い思い出がありますからね。

――というと

賀川:1968年に日本代表がオリンピックの銅メダルを取ったでしょう。

――メキシコ・オリンピックですね。まだプロでなくアマチュアの時代でした。

賀川:メキシコ予選のアジア第1組が1967年9月27日から10月10日まで東京で開催されたのです。日本、韓国、台湾(当時は中華民国といっていた)レバノン、フィリピン、そしてベトナムの6ヶ国が集結した。

――そうでしたか。今から44年前ですね。そうそう、日本と韓国がすごい試合をしたと聞いています。


【つづく】


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8月10日 日本代表 vs 韓国代表(下)

2011/08/18(木)

キリンチャレンジカップ2011
8月10日19時33分キックオフ(北海道・札幌ドーム)
日本代表 3-0(1-0、2-0) 韓国代表
 得点 日本:香川(35、55)本田(53)

――香川の1点目は?

賀川:右サイドで攻めに出て遠藤保仁が奪われたボールを奪い返して一気に優位に立った。岡崎だったか、右前へ一人が動いた。しかし遠藤は一呼吸おいてペナルティエリア中央部の李忠成にパスを送った。相手DFの前へ走り込んできた李は、ヒールで後方の香川へ渡した。香川がこのボールをトラップしたとき、接近してきた相手DFの足にボールが当たる。香川はそのリバウンドが落ちたところで右足でシュートし、これがゴール左下へ飛び込んだ。

――遠藤のパスのタイミングが上手かったのと、李のヒールパスで相手側の体制にずれが出た?

賀川:香川がゴール正面ペナルティエリアに入って来たとき、彼の左前と右後方と左後ろにDFがいた。李からボールを受けると香川はそのボールをトラップして前へ抜け出るのでなくボールを右足でタッチして自分の左足に当てた(おそらくもう一度右足の前へボールを置こうとしたのだろう)。しかしそのボールは相手DFの左足に当たった。当たったけれど、相手のモノにはならず、香川の右前に落ちる。それをタイミングよくシュートへ持っていった。

――抜いて出るのでなく、同じ位置でボールを動かしただけ?

賀川:テレビのリピートを見たらそういう感じだね。ゴール裏からのカメラは、彼が走り出すのでなく両足を広げて立っている姿勢を捉えている。右足でタッチしてボールを左へ動かし、それを左足のタッチで右前へ置くのはフェイクの一つの型で、古いところでは私達世代の代表の右ウイング・鴇田正憲がこのフェイクを使っていた。1956年のメルボルン五輪予選の1回戦で、予想を覆して韓国に勝ったときも、彼は滑りやすいグラウンドを利用してこの小さなフェイクで相手を悩ませたことを覚えている。近くは(といっても80年代だが)フランスのミッシェル・プラティニがこれで縦に持って出るのを見たし、日本のカズ(三浦知良)もやっていましたヨ。

――香川はそれで隙間をつくってシュートしようとしたのですかね。

賀川:今度会ったら聞いてみたいね。ここでシュートをすると狙っていたのだろう。咄嗟のプレーだが、囲まれながら前へ出るよりシュートチャンスと感じたのだろう。

――彼の談話に、イメージどおりとありました。

賀川:テレビ画面に戻ると、香川が右足を振ってボールを叩いた横から同じような形で韓国選手の足が映っていたハズですヨ。彼が蹴っていなければ、相手は潰しにきていた。その間一髪のタイミングをつかんだのでしょう。

――上手くなるというのは、こういう形の蹴り方というだけでなくて、一瞬のタイミングのつかみ方もあるわけですね。

賀川:それをタイミングと言う人もあれば、別の見方で、スペースという言い方をする人もあるが、まあいずれにしてもゴール前の、いわば修羅場での争いに勝つことだね。

――彼は、ゴール前で落ち着いてやれるようになったともどこかで言っていました。

賀川:それは、そこへ走り込むことが多くなり、そこで成功が増えるからですヨ。再三、ゴール前へ向かうことで、その位置、そのスペースが自分の居場所のようになるのだろう。それが経験であり練習にもつながるのですヨ。

――点を取るためには、その重要な場所でのプレーに慣れろ、と?

賀川:一概に言えるかどうかは別にして、例えば岡崎はこの試合で故障のため途中で退いたが、開始すぐにエリア右寄りから左足でゴール左ポスト側へシュートした。これは彼が今シーズンの最初のドイツでの試合で後半に出場して左足シュートを決めた角度とよく似ていた。ちょっと左足のインパクト(ボールを叩く)がドイツのときとは違っていて、このシュートは外れたが、この位からここへ――という感覚が一つできていたのだと思う。

――後半に日本が2点目を取り、相手がちょっと気分が落ちたときに香川が3点目(本人の2点目)を取りました。

賀川:このときは香川のダッシュ力、速さと、相当な距離を相当なスピードで走っても体のバランスが崩れないでシュートできるという良さが出た。清武との大きなトライアングルパスだったが、清武のパスも良かった。
 この試合で香川が別の場面でもしていたパスのキックで、自分の前にあるボールを体の向きのとおり真っ直ぐ前方へ蹴るパスをしていたことに私は注目した。彼はどちらかというとドリブルで円弧を描きながら角度のあるキックをする。前にあるボールを真っ直ぐ蹴ることは少なかったが、ドイツでその必要性を知ったのでしょう。清武へのパスもその一つだった。自分のチームのために、自分にはどういうキックが必要か、どういうプレーが重要かをいつも考えているから、バリエーションはどんどん広がる。

――もっといっぱい話を聞きたいのですが、今日は日本の3ゴールと香川くんの進化について、ということで。

賀川:いまの日本代表のサッカーは皆が積極的になっているからとても面白い。ただし3-0の対韓国勝利といっても、浮かれてはいけません。サッカーは相手のあるスポーツ。相手も、この日本にどう対応するかはすぐまた考えるでしょう。全選手の向上心とザック監督の指導力、長谷部キャプテンの全人格的プレーとチームの団結力に期待して、ワールドカップ予選を楽しみにしましょう。
 選手のみなさん、まずは良いキリンチャレンジカップをありがとう。


【了】

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8月10日 日本代表 vs 韓国代表(上)

2011/08/17(水)

キリンチャレンジカップ2011
8月10日19時33分キックオフ(北海道・札幌ドーム)
日本代表 3-0(1-0、2-0) 韓国代表
 得点 日本:香川(35、55)本田(53)


――なでしこのワールドカップ優勝で大いに喜び盛り上がったあとに、今度はキリンチャレンジカップの日本対韓国は3-0の快勝。それこそ盆と正月が一度に来た――というところですね。

賀川:喜びの二重奏、楽しみの重なりを“盆と正月”というところにあなたの年が分かりますヨ――。
 それはともかく、男の方の日本代表はいまとても面白い。「伸び盛り」――それもインターナショナルなレベルで――の選手がいると、試合に活気がありますから……。
 それに、遠藤保仁のように滋味あふれるプレーを見せてくれる経験豊かなプレーヤーもいるから、代表の試合はとても楽しいものになっている。

――“ご贔屓”の真司クン、香川真司がすごい活躍で2ゴールを決めました。

賀川:香川だけでなく内田篤人も岡崎慎司もみな上昇あるいは上昇志向だね。しばらく会わずにいて、香川に会うと刺激を受けるのかもしれない。

――ベテランの駒野友一も、長友佑都の故障による出番ですごく頑張って、2点目のきっかけを作りましたからね。

賀川:サッカーはチームゲームであることは全ての人が知っている。しかし、互いのコミュニケーションや特徴をうまく発揮するということと同時に、絶えず個人力のアップを心掛けなければならない。そのことも選手たちはよく知っていて、自分たちが練習したプレーを実戦の役割のなかで発揮しようと積極的になっている。彼(駒野)が左サイドでドリブルを仕掛けペナルティエリアに侵入してシュートをした(チームの2点目)の攻撃は、そういう駒野の心意気から出ていますヨ。

――GKチョン・ソンリョンがセーブしたそのボールが、ペナルティエリアの右いっぱいにいた清武弘嗣のところへ転がり、清武がダイレクトでゴール正面の本田圭佑へスクエアパス(横パス)を送った。

賀川:清武の判断は良かったネ。ダイレクトで、しかも心のこもったパスが本田に届いた。

――本田が左足で蹴りやすいボールでした。

賀川:清武は、香川がドイツへ去り、そのあと一気に自らの才能を見せ付けた。家長昭博もスペインに去ったあとのセレッソでぐんぐん伸びて、いまやチームの中心的プレーヤーになってきた。それだけのテクニックもあり、運動量もある。その清武のボールタッチのうまさと判断がこのシュートのリバウンドボールの処理にあらわれた。

――本田の左足ダイレクト・サイドキックはさすがでした。

賀川:これは本田の十八番(おはこ)。彼が高校を出て名古屋グランパスでプレーしているのを初めて見たとき、「立ったまま(助走なしで)」しっかり蹴れる選手がやってきた――との印象だった。その十八番が出ただけのことでしょう。それにしても、きっちりと左下隅へシュートを送りこんでいるのはさすがだ。

――試合後の談話は、「清武のいいパスが全てですよ」と。

賀川:ここのところ、メディアでは香川の働きが注目されている。新聞にはスペース、テレビには時間内で収めるというそれぞれの制限があって色々なプレーを取り上げることは難しいのだが、本田は狭いスペースで有効な働きのできる香川が出てきたので早速、彼への短い効果的なパスを使うようにしている。もちろん、マーク相手にぶつかられてもバランスの崩れないしっかりした体の彼だから出来るプレーなのだが……。そういう仲間の持ち味を引き出すところなどは、いかにも本田らしい。とても頭のいい選手ですヨ。だから上達も止まることがない。

――ふーむ。そういうふうにいってもらえ嬉しいですが、まず2得点と派手に活躍した香川について語って下さい。巷では何故急に上手くなったのか、どこが上手になったのか、聞きたい人が多いハズです。

賀川:彼は自分で考え工夫して努力する。努力するというより練習するのが苦にならないプレーヤーのハズ。だから、どんどん上手になる。人にいわれたことも、いいと思えばすぐ取り入れるタイプでしょう。
 もともとドリブルが上手で、自分のそういう好きなプレーができそうだということで(神戸から)仙台へ移って中学年齢をすごした。それをセレッソの小菊昭雄コーチが誘って大阪へきた。J2の試合でもドリブルし、逆サイドへいいパスを送って広い展開を図り、スルーパスを出して仲間のチャンスをつくった。
 岡田武史監督が19歳で日本代表候補に加えた(2008年)あたりから、パスを出したあと前へ走り込んでゴールすることに興味を持ち始めた。シュートのコースも、自分の得意の角度はしっかり持っていたから、2009年には27ゴールでJ2の得点王になった。この話は一度したかもしれないから省いた方がいいかな。

――いや、若いスターの伸び盛りの話ですから重複しても聞かせてもらいましょう。

賀川:2010年のワールドカップにも、岡田監督は連れて行った。出番はなかったが、実際のナマのワールドカップを見せておきたかったのだろう。J1で夏までプレーし(11試合7得点)ドイツへ移ったのだが……

――あのとき、賀川さんはちょっと慎重論だった

賀川:上り坂だけに、ケガだけが心配だった。先に言ったように、放っておいても上手になる選手だからネ。
 セレッソでの最後の試合で、ペナルティエリア左角から右ポスト内側をこするように入る右足のフックシュートでゴールした。このエリア左角から右ポスト内側ぎりぎりというコースは、ストライカーなら必ず持たなければいけないコース、あるいはシュートの型の一つ。たとえばマンチェスター・ユナイテッドのウェイン・ルーニーなら、ここから右ポスト内側のコースとニアポストぎりぎりに叩きこむ2つを持っている(もちろんパスもある)。真司のこのコースはそれまで見たことはなかったが、セレッソでの最終戦で演じてから加わった。

――シュート技術も絶えず上達を心掛けているということですね。アジアカップで日本代表にに加わって、みなを驚かせました。そう、昨年のキリンチャレンジカップの対アルゼンチンで彼がドリブルで抜いて出てから一気に空気が変わりました。

賀川:いいストライカーの条件として、いいドリブラーというのもある。相手をかわせる身のこなし、抜いて出る速さ。まずドリブルはサッカーのなかでの色々なテクニックの混合プレーだからね。日本でも昔から名のあるストライカーはみないいドリブラーだった。

――釜本邦茂さんも?

賀川:彼は小学生の時からドリブルが上手で知られていた。小さくて速くてね。

――ふーん、それは初耳。

賀川:早大を出てヤンマーに入った1年目の対東洋工業の第1戦で、彼がハーフラインからズバズバと3人を抜いてゴールに迫ったプレーに、長居のスタンドはどよめいたものだ。メキシコ五輪の準々決勝、対フランスの1点目は、彼の右サイドを突破してのドリブルシュートだからね。

――ちょっと横道へ行きました。今度の香川の1点目は?


【つづく】

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【Result】8月10日 日本代表 vs 韓国代表

2011/08/10(水)

キリンチャレンジカップ2011
8月10日19時33分キックオフ(北海道・札幌ドーム)
日本代表 3-0(1-0、2-0) 韓国代表
 得点 日本:香川(35、55)本田(53)

【日本代表メンバー】
GK: 1川島永嗣
DF: 3駒野友一→3槙野智章(55分)6内田篤人、15今野泰幸、20吉田麻也
MF: 7遠藤保仁→14家長昭博(73分)17長谷部誠(Cap.)→22阿部勇樹(66分)
FW: 9岡崎慎司→11清武弘嗣(35分)10香川真司→13細貝萌(85分)18本田圭佑19李忠成
SUB:12西川周作、23東口順昭、2伊野波雅彦、4栗原勇蔵、21柏木陽介、8松井大輔、24森本貴幸

【韓国代表メンバー】
GK: 1チョン・ソンリョン
DF: 3イ・ジェソン、4キム・ヨングォン→12パク・ウォンジェ(25分)→2パク・チュホ(37分)14イ・ジョンス、22チャ・ドゥリ
MF: 6イ・ヨンレ→キム・シンウク(52分)8キム・ジョンウ→20ナム・テヒ(84分)13ク・ジャチョル、16キ・ソンヨン
FW: 10パク・チュヨン(Cap.)→ユン・ビッカラム(58分)11イ・グノ→7キム・ボギョン(52分)
SUB:21キム・ジンヒョン、23キム・ヨングァン、5カク・テヒ、18チョ・ヨンチョル、15パク・ヒョンボム

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6月7日 日本代表 vs チェコ代表(下)

2011/06/12(日)

キリンカップ2011
6月7日19時32分キックオフ(神奈川・横浜国際総合競技場)
日本代表 0-0 チェコ代表



◆左CKからショートコーナーでのチャンスのつかみ方
 遠藤-本田-李-吉田の合作

賀川:左CKのチャンスに、遠藤保仁はボールを置くとボールから離れず近くに立った。ショートコーナーの前兆です。そのとき、ペナルティエリアぎりぎりに本田圭佑が来た。いいボールが遠藤から送られ、トラップした本田は二人にマークされながら縦に持って出て得意の左足でクロスを送った。ゴールライン近く、ペナルティエリア左いっぱいのところからだった。ボールは狙い通り、ゴール前の密集地帯を越えてファーポストの方へ飛び、相手DFの頭上を越えて一番外にいた李のところへ落ちた。李が止めて、左足で蹴ってゴール正面へ高いボールを送った。これに吉田麻也が飛び込んでヘディングしたが、ボールはバーを越えた。

――テレビの解説者たちも、すべてうまくいった、フィニッシュだけが惜しかった――と言っていました。

賀川:吉田にとっては大事なチャンスだった。入れておけば本人とチームにすごいことだった。しかし、私は、日頃の練習でDFの吉田が何回こういう場面のシュミレーションで相手ゴールに向かってヘディングした経験があるのかどうかを知りたいところだ。この日の口惜しさで、彼はこの次のこういう場面でどうするかを決めるだろう。高いボールの見え方で瞬時に自分のジャンプ・ヘディングの形に持ってゆく。そしてチームの一員としてボールの動きを予見・予知することでしょう。まあ、189センチの大型DFが大事な場面での役目を覚えてくれればいいわけだから……

――長友佑都のドリブルシュートもありました。

賀川:あれは伊野波雅彦のいいタイミングでのパスを受けて、まわりにスペースがあったから自分で仕掛けて右のニアポスト狙いでエリア手前からシュートした。叩き方が悪くて左へ外れたが、「よし、行ってやろう」という感じのプレーだった。

――長友の進化は?

賀川:本人は、この1年でこれまでの10年分ぐらい伸びた――と言っているようだ。まあ色々あったし、大きなまわりの変化にも順応して腕を上げ成果を出したのだから大したものです。ただし基礎技術を、まだまだ精度を上げないとこれから壁に当たるだろう。クロスは上手なのだから、そのバリエーションの精度が大切。シュートにももちろん同じことが言える。

――李忠成が後方からのパスを落として本田に渡そうとした、渡れば大チャンス――というのもありました。

賀川:遠藤から足元へピタリときた。この頃になるとだいぶスペースができ始めていた。李はそのボールを相手DFを背にしながら軽く左足に当てて、走り込んできた本田にパスした。ボールがちょっと強くて、本田には渡らず惜しい場面に見えた。

――上手くいっていたら、2002年ワールドカップ、対ロシアの稲本潤一のゴールのようになったかも。

賀川:あれは素晴らしかったネ。この李-本田の場面のミソは、李のパスが本田に渡らなかったところにある。まあ相手DFは李のパスの体勢を見てすぐ彼から離れ本田の動きに備えようともしていた。しかし、エリア内のことだから本田に渡っておればビッグチャンスになるハズだった。

――それがうまくいかなかったのは?

賀川:ここらがサッカーの面白さだろうね。いいボールが足元へきた。仲間がいい位置へ来る。そこへ渡す。一連の動作がスムーズに見えるスタンドから見ていると、きたボールにボンと強く左足を当てたように見えた。

――それが思いのほか強く返すことになった

賀川:昔からパスで苦労した選手はこういうときのボールの送り方を掌(たなごころ)で餅を包むようにしてそっと送るといういい方をしていた。ボールテクニックの上手な李は、こういうところを無難にしかも巧くやってきたのだろうが、エリア内の決定的な場面でのパスは、一見反射的に見えても、いいプレーにはどれも心がこもっているハズですよ。
 外国人はそういう言い方をしないかもしれないが、ボールタッチの天才たちが集まっているバルサのエリア内でのパス交換を見ても、無難に反射的ではあるがそこにちょんと、自分の技の積み重ねがあるように私には見える。

――李忠成という選手はいい素材なのですが

賀川:岡崎慎司も、終盤にはヘディングを取るようになっていた。李や岡崎だけでなく、この日チェコと戦った代表は誰もが何かを身に付けただろう。

――そういえば、レフェリーが大物でした。

賀川:ワールドカップでもチャンピオンズリーグでもビッグゲームのレフェリーで、チェコ側の手を使ったりぶつかったりする反則に少し甘いかなと見ていたら、日本側にも同じ基準でしっかりした判定だった。ボールの奪い合いのときの接触プレーは簡単に笛を吹かないので、双方が頑張ることになった。それでもチェコの反則は22、そのうちイエローカードが4枚だった。こういうレフェリーを招くことができるのも、このキリンカップの伝統というのか、良い点だろうね。

――交代選手のことなどまだまだありますが、まずはここまでにしておきましょう。あとは別の機会に。


【了】

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6月7日 日本代表 vs チェコ代表(中)

2011/06/11(土)

キリンカップ2011
6月7日19時32分キックオフ(神奈川・横浜国際総合競技場)
日本代表 0-0 チェコ代表

◆FKは外れたが、進化する本田のプレーメーク

――日本代表のこの日のシュートは前半4、後半7で計11本(チェコは前半3、後半3で計6本)。ボール保有率は平均して日本が63.2%、チェコが36.8%でした。

賀川:日本のシュートのうち5本がFKで直接狙ったもので、前半2本、後半3本あった。前半のうち1本は遠藤保仁で、ゴール右上隅を狙ったがGKに防がれた。あと4本は全て本田圭佑の左足で、前半11分に低く蹴って壁に当たった以外はゴールを越えている。

――その本田のプレーは

賀川:FK以外に自分でシュートはしていない。FKも狙い通りにボールが落ちていないようだ。彼の強い球が枠内のいいところへ飛ぶ――それをGKペトル・チェフがどうするか見たいところだった。遠藤のシュートは右上の枠内へ行ったが、もう少し右上隅に行かないと、相手がチェフだと決めるのは難しい。このときも本田がアクションを起こす格好をして、遠藤が短い助走で蹴る――というオトリ作戦もあったが、チェフは遠藤のキックに反応した。どういう見方でキックの瞬間をとらえているのか、テレビの別の角度のものがあれば見てみたいものだ。

――攻撃の軸としての本田は?

賀川:全体の流れをつかみ、仲間を使い、パスを受けパスを出し、また受けて、といったプレーメークはますます上手になっている。もちろん、相手にぶつかられてもしっかりバランスを保てる体の強さがあり、衝撃を受けたり流したりする上手さもあるからだが。

――第1戦は彼は後半から入りました。それまでの新しいシステムであった3-4-3を前の形に戻したから、チームプレーがスムーズになったなどという意見もありましたが……。

賀川:システムもあるだろうが、本田がいなくては、前でボールを受けてキープできる者がいない。しっかりボールを持ってくれる者がいなければ、仲間が上がってゆくこともできなくなる。まずはそういうプレーヤーが何人かいるかですヨ。守備的には長谷部誠と遠藤保仁という、パスを出し動いてもらうこともできる優れた支援組がいるのだから、そのもうひとつ前の攻撃陣のなかに、相手がいてもきちんとボールを持てる者がいるかどうかが大事なことなんですヨ。アジアカップの途中まではもう一人、香川真司がいた。

――その本田を中心に、後半は割合うまくボールが回るようになった。

賀川:前半は右の内田篤人、左の長友佑都というサイド攻撃のできる二人をMFの4人の外のポジションに置いて攻めに出ようとした。何回か攻めたもののクロスがきちんと届かなかった。右の側は一度も深い位置、例えばゴールラインぎりぎりのペナルティエリアすぐ外というようなところへ食い込んでゆけなかった。外からも入れなかったし、スルーパスを送っても潰されていた。

――なぜなのでしょう

賀川:スルーパスにしても、ラストパスを出すところが全て相手DFには見えている。相手は自分のマークする選手とパスが出てくるところを同時に見ることができる位置にいる。攻める側はどこかで無理をして、その次に決定的なパスを出さないとね。
 遠藤という選手は、そういう状況のなかでもボールを蹴るタイミングの一呼吸やボールの強さあるいはコースの曲げ方などで決定的な場面をつくれる、得難いプレーヤーだが、新しい仲間はまだそれが飲みこめていない。



◆楽しめた、李と相手DFとの駆け引き

――後半に李忠成と本田のパス交換から何度かチャンスが生まれそうでした

賀川:彼らが話し合ったり、理解が深まったりしたのでしょう。そういうところを見られたのが、先ほども言いましたが、このチェコ戦の面白みなんですヨ。
 李はスピードがあるし、それに器用でフェイクプレーも仕掛ける。ただし相手のDFがなかなかその策に乗って来ないのも確かだった。それには単に見せかけのフェイクでなく、自分の気の入ったプレーが伴わないと上手くゆかないものだ。こういうのは選手自身がつかむものだが。

――いくらフェイントを使っても、マーク相手がはじめからパスをするのだと読んでいれば引っかかりませんよね。

賀川:まあ、そうでしょう。自分で止めて前へ向こうとする、あるいは接近する本田の動きを利用して大きくトラップしシュートへ持ってゆくとか――。もちろん、エリア内外は敵味方ともプレーヤーの多いところだからね。


【つづく】

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6月7日 日本代表 vs チェコ代表(上)

2011/06/10(金)

キリンカップ2011
6月7日19時32分キックオフ(神奈川・横浜国際総合競技場)
日本代表 0-0 チェコ代表



◆相手の好守備により、日本の攻撃のいい点・そうでない点がよく見えた
 チェフという優れたGKと戦ったのもプラス

――観客6万5,856人、チケット完売、満員でしたね。

賀川:いい試合だった。もちろん不満もあったけれど、収穫も多かったし、私自身もとても楽しかった。

――不満はやはり、ノーゴールだったこと?

賀川:それもある。しかし攻撃に関しては相手の守りがしっかりしていたから、そこへ攻め込む日本代表の一人ひとりのプレーや連係がいい点もそうでない点も浮き彫りになり見えたのでとても面白かった。選手たちもそれを肌で感じたでしょう。

――例えば

賀川:李忠成というFWがいますね。これまでは途中出場だったのが、前田遼一が故障とかでこの日はフルタイム出場した。CF(センターフォワード)の彼を相手はしっかりマークし、後方からのボールを受けるときにも厳しく奪いにきた。李ははじめのうちは難しそうだったが、次第に応対が巧くなった。この程度の相手と90分しっかりやり合うという経験はJではそうないだろう。もちろん本田圭佑や岡崎慎司といういい仲間が近くにいることもあるだろうが、この日の経験とつかんだ自信は、李にとってとてもプラスになったと思う。

――本田圭佑とのパスのやりとりなども多くなっていました。チーム全体としてもコンディションは良かったのでしょうか。

賀川:第1戦の対ペルーは、あまり良くなかったが、中5日あったのだから良くなって当たり前ですヨ。しかし見る側には嬉しいものです。それに7日の試合当日、夜になって気温が下がったのも選手たちにはよかった。

――ヨーロッパ人には日本の蒸し暑さは大敵ですからね。

賀川:6人まで交代できる規定があるので、チェコは5人の交代を送りこんでいた。ペルーも5人代えていたでしょう。日本の運動量の多いことは、彼らも知っている。もちろん、それぞれの監督さんには選手のテストということもあるだろうが、両チームとも運動量が大幅に落ちるということがなかった。だから日本は点を取れなかったともいえるのだが……。

――チェコのGKペトル・チェフがいいセーブを再三見せました。

賀川:イングランドのチェルシーで7シーズンプレーしている196センチのGK。チェコ西部の都市プルゼニの出身で、82年5月20日生まれだから29歳だね。16歳で地元のクラブに入り、名門スパルタ・プラハを経てフランスのレンヌで働き、2シーズン後の2004-05シーズン、22歳のときからチェルシーでプレーするようになった。
 チェコのユース、U-20、U-21代表を経験し、フル代表での出場も70試合以上だという。大柄で手も足も長くキック力もすごい。冷静で読みがよく、ポジションを取るのもうまく、ペルー戦でもすぐ目の前からの相手のシュートをしっかり止めていた。とても落ち着いているように見えたね。



◆サッカーには、国や大衆の交流の歴史の面白さもある

――チェコはいいGKを生み出していますよね。

賀川:ワールドカップでもヨーロッパ選手権(EURO)でも、その時々に評価の高いGKがいた。本番で不振な者もいたが……。
 そう、ノッポといえばGKでなくFWにいた1990年イタリア・ワールドカップのチェコ代表FWトマス・スクラビーが190センチをこえる高さで、ヘディングでよく点を取った。いいシューターやいい中盤のプレーヤーも出た。

賀川:チェコといえばJFAが創立されるよりまだ以前、大正8年(1919年)にチェコの軍人チームと神戸一中が神戸で試合をしたこともある。このときショートパスをつなぐチェコ軍人チームに私の先輩たちはとても驚いたそうだ。神戸外人クラブの、いわゆるイングランド流のウイングからのセンタリングに飛び込む――というのが一般的だった頃、チェコはもともとスコットランド人によってサッカーが伝えられたので、ショートパスがスタイルとなっていたのだね。

――その話も面白いですが、92年後に話を戻しましょう。

賀川:サッカーというのは古くから世界の交流がある。そして、それぞれの国のサッカーにはたいてい100余年の歴史があり、しかもその国の大衆のスポーツだから、とても早いうちから国際交流があった。3-4-3というマニアックな話も面白いが、キリンカップのように外国のいいチームとの交流のときには、ペルーの歴史とサッカー、チェコの欧州での立場とそのサッカーなどについても紹介するようにすれば、勝った負けた以外にもサッカーの別の面白さも見ることになるでしょう。試合前のチェコの国歌にしても、とても胸に響く歌い方だったしネ。


【つづく】

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6月1日 日本代表 vs ペルー代表(下)

2011/06/04(土)

キリンカップ2011
6月1日19時23分キックオフ(新潟・東北電力ビッグスワンスタジアム)
日本代表 0-0 ペルー代表

――前半の2本のシュートは、1本は右寄りのFKで、遠藤保仁がペナルティエリア外、中央左寄りにいる長谷部誠にパスをした。ゴール前に両チームの選手が集まっているのを見て、遠藤がそこへクロスを送るのでなくフリーの長谷部にパスをしました。

賀川:長谷部がダイレクトで右足シュートをしたが左へ外れた。彼は28分に奪ったボールを持って出て右足でシュートしたがバーを越えた。日本のシュートはこれだけだった。37分に西大伍の右からの長いクロスに岡崎慎司がファーポストで飛び込んだが、DFと競って結局得点にならなかった場面があった。

――いい攻撃でした。あれは岡崎-前田-長谷部と中央部でボールを動かし、長谷部が右オープンスペースへパスを出して西がクロスを上げたハズです。

賀川:その前の最初のプレーが良かった。後方からのパスを岡崎が中央右寄りのミッドフィールドでワンタッチで前を向き、相手をかわしてそこから中へドリブル。前方の前田に当て、彼はそのまま斜め左前、つまりファーポスト側へ動いた。前田が長谷部に落とし、長谷部が右へパス――という風につながったのだが、ポイントは岡崎が後方からのボールを受け前を向いたところにあった。ボールを受ける前にすでに半身の体勢になっていたから、プレーしやすい状態だったのだろうがね。

――中盤で一挙動で前を向いたことが、後につながったと?

賀川:後方からボールを受けるときに、相手を背にしてボールを止め、どちらかへ逃れるプレーがある。スクリーニングというのだが、どういうわけか日本選手はあまりやらない。

――来たボールをバックパスしますね。

賀川:自分で止めて前を向かない。マーク相手と距離があっても、です。

――いわゆる後方へパスして自分はどちらかへ動き、今度は前を向いてパスをもらうというやり方が多いです。

賀川:その日本のやり方は、対応する相手は皆知っている。そこを(バックパスを受けた者を)潰しに来る者もあるし、そこは放っておく場合もある。

――バルサでもバックパスをよく使いますが……

賀川:彼らの多くは、レベルの高い相手に対してボールを持てば優位に立つ力がある。例え相手を背にしていてもです。しかし、その技をいつ上手く使うかのために、バックパスも使う。こちら(日本)はそうではなく、まずバックパスありきなんだ。守っている相手は、これだといつもマーク相手とボールを視野に入れているから難しくはない。
 今の岡崎が前を向いた話は、そこから岡崎が一気にドリブルしてきたことで相手の守りの構えが違ってくる。だから、このときまでよく潰されていた前田が、受けてダイレクトで長谷部に渡すパスのやり取りも妨害なくスムーズにできたというわけ。ただし、フィニッシュのところで岡崎が飛び込んだとき、相手はGKと他のDFがいて彼と競り合っていた。それでミッドフィールドでちょっと工夫、あるいは無理をして前を向いてドリブルしたことでチャンスボールが来たことになる。

――中盤であまり無理はしない、という考え方もあるでしょう。

賀川:それも大切だが、いつも同じことをするのでなく、ときに変化をつけることも大切。もちろんスクリーニングに自信があってのことだがね。

――本田圭佑はどうでしたか?

賀川:ペナルティエリア外でボールを受けて、後ろからのファウルで倒されながら起き上がってシュートをしたプレーに、この選手の強さを見たでしょう。後半に彼がまず入って、チームが攻められるようになった。中盤から前でボールを奪われずに止められる選手がいることがどれほど大切かを皆に教えてくれた形となった。
 アジアカップの相手とペルーの選手では、ボールを奪い合うときの強さが少し違うと思う。本田は後半はじめに簡単にファルファンにボールを奪われ、奪い返そうとしてファウルで倒してしまった。ヨーロッパの選手とまた違った相手との接触を、このとき感じたのだろうね。もちろん、相手側も、さあというときはファウル覚悟で来る。

――全体として動きの量で勝てないのはコンディショニングの問題だったでしょうか

賀川:いつの試合でも、特に南米のチームと戦うときには、日本側の一人ひとりの体調、連係プレーの精度を高めないとそれぞれの局面で1対1になってやりにくくなる。もちろん、平素から個人能力のアップを心がけることも大切ですが――。

――うーん、そうですね。話は変わりますが、賀川さんはU-22の試合もご覧になっていましたよね。次のチェコ戦の前にこちらの話も聞きたいです。


【了】

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6月1日 日本代表 vs ペルー代表(上)

2011/06/03(金)

キリンカップ2011
6月1日19時23分キックオフ(新潟・東北電力ビッグスワンスタジアム)
日本代表 0-0 ペルー代表

――得点が無かったこと、特に前半は互いの攻め込みが少なかったことで、ちょっと物足りない試合でしたが……

賀川:うーむ。後半、本田圭佑長友佑都という“大物”が入って、李忠成も登場したから、新潟の観客にもテレビ観戦のサポーターにも良かったでしょう。
 試合そのものは相手がしっかりしていたので、なかなか締まったものになり、一つひとつのプレーはとても面白かった。終盤には圧倒的に攻め込まれ、強いシュートがバンバン飛んできてスリル満点だった。それでも守って、最後にはヤット(遠藤保仁)のFKの見せ場もあった。

――日本はあれが入っていれば万々歳?

賀川:まあ、そうはうまくゆかなくても、最後のFKの場面でも、本田が蹴るのか遠藤が蹴るのか、その推理だけでもわずかな時間、テレビの前、あるいはスタンドで楽しめた。サッカー的というより野球的な停止球での推理の楽しみも味わえたのだから、まあ、0-0でも私には色々な意味でとても面白かったよ。

――結論から聞きますが、なぜ1点も取れなかったのでしょう?

賀川:シュートチャンスが少なく、そのチャンスも完全ノーマーク、フリーというのは少なかったことが第一。

――日本のシュートは前半2本、後半3本(ペルーは前半3、後半5)。個人的には、前半は長谷部誠の2本、後半は遠藤の1本、本田の2本という記録になっています。

賀川:決定的なチャンスが少なかったのは、相手の運動量が落ちなかったためでしょう。日本のサッカーは運動量で勝ることが、まず、勝つための大きな条件だが、この試合ではそうではなかった。

――それはこちらのコンディションの問題もある?

賀川:合同練習は2日間、欧州組のうちドイツにいた者はシーズンが終わってもう少し先に帰国していたが、本田と長友は2日前まで試合をしていた。Jリーグ勢も、条件は必ずしも良くなかった。もう一つは、今度の合宿で戦術理解という話が出た。

――3-4-3ですか

賀川:新しいフォーメーションを採用すると、選手は、この特徴は何か――などを聞かされ、それの動きを説明される。しかも、この代表に初めて、あるいは久しぶりに加わった者もいる。となると、選手のなかには監督の意図通りの動きをしようとする者も出てくる。

――もちろん、選手は監督の指示に従うのは当然でしょう

賀川:選手は、自分のボールの持ち方や得意な止め方があり、また得意なキックの型がある。自分が与えられたピッチ上のどこのスペースでプレーするかにも関係してくる。ザッケローニ監督は色々説明したあと、ときには指示に捉われず自分で思い切ってやれ――という人だろうが、そうはいっても、選手は監督に色々語られると、それに頭がいって動きを自分で制限してしまうこともある。

――それが試合にあらわれた?

賀川:少し影響もしていたね。もう一つは、ペルー側が日本代表のことをよく知っていて、動きの量で負けないことを心掛けていた。このキリンカップでは6人まで交代できることになっている。ペルーは後半に5人を代え、新しい彼らの投入によって全体の運動量を落とさなかった。

――日本も6人を交代しました。

賀川:日本はケガの交代もあった。チーム全体の体調が万全とは言い難いうえに、相手の運動量が落ちなかった――。
 アジアカップの決勝でオーストラリアに勝ったとき、延長で李忠成のゴールが生まれたシーンを覚えていますか?

――素晴らしいボレーシュートでした。

賀川:あのころ、オーストラリアの選手たちは疲れ果てていて、長友は余裕を持って仕掛け、余裕を持って見事なクロスを李に送った。

――今度はそういう場面は少なかった。

賀川:長友は(イタリアからの)遠距離移動という相手と同じようなハンディを持っていたけれど、さすがに1対1は強い。攻めに出たとき、受けるボールの関係で奪われたことはあるが、最後の数分間に完全に押し込まれていたとき、彼が粘ったおかげで左サイドで日本ボールのスローインになったことがあった。ここから後ろへ回し、詰まったあと、川島のロングボールが前線へ飛んで岡崎慎司が取った。このあと本田が倒されてFKとなり、タイムアップ前の遠藤というスリルが生まれた。

――そうか。押し込まれていたなかで遠藤のFKがあり、皆が惜しい試合だったと思ったけれど、長友のディフェンスによるスローインがきっかけでしたか。

賀川:もちろん、皆の組織ディフェンスもありますがね……。私たちやサポーターは最後のFKのおかげで、押されっぱなしで引き分けたという印象から、ちょっと楽しい場面を見せてもらった。

――ということは、賀川さんは1対1の強さを強調したいのですね。まあサッカーでは当然のことで、フォーメーションも大事ですが、1対1の奪い合いで勝つことが大切ですからね。

賀川:ホームでの大会で、日本は当然、優勝するつもりでしょう。しかしアウェーのペルーにもちゃんとプランがある。第1戦はまず負けないこと。負ければ次のチェコとの試合に勝てば優勝のチャンスが来る。すると対チェコに高いモチベーションを維持して戦える。そのことが南米選手権を控えている彼らにもとても重要なことでしょう。だから後半はどんどん攻めてきて、1ゴールをもぎ取ろうとした。
 GK川島永嗣をはじめとする守備陣、いや、全員の頑張りでなんとか無失点に抑えたが、ゴールを奪われても――という場面もあったからね。


【つづく】

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【Result】6月1日 日本代表 vs ペルー代表

2011/06/02(木)

キリンカップ2011
6月1日19時23分キックオフ(新潟・東北電力ビッグスワンスタジアム)
日本代表 0-0 ペルー代表

【日本代表メンバー】
GK: 1川島永嗣
DF: 15今野泰幸、4栗原勇蔵、2伊野波雅彦→8森脇良太(75分)21安田理大→24興梠慎三(71分)
MF: 7遠藤保仁、17長谷部誠(Cap.)→13細貝萌(91分)20西大伍→18本田圭佑(46分)
FW: 11前田遼一→19李忠成(67分)16関口訓充→5長友佑都(67分)9岡崎慎司
SUB:23東口順昭、12西川周作、3槙野智章、6内田篤人、22吉田麻也、10家長昭博、14柴崎晃誠、25宇佐美貴史

【ペルー代表メンバー】
GK: 12サロモン・リブマン
DF: 3サンティアゴ・アカシエテ、16ルイス・アドビンクラ、19ヘスス・ラバナル→25ジョシマル・ジョトゥン(62分)13レンソ・レボレド、4ワルテル・ビルチェス(Cap.)
MF: 23アダン・バルビン→7ホセプミル・バジョン(62分)18リナルド・クルサード→27カルロス・ロバトン(73分)24クリスティアン・クエバ→22ウィリアム・チロケ(61分)20ルイス・ラミレス
FW: 10ジェフェルソン・ファルファン→9ラウル・ルイディアス(67分)
SUB:1ラウル・フェルナンデス、17ジャンカルロ・カルモナ、15クリスティアン・ラモス、8マイケル・ゲバラ


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キリンチャレンジカップ2011 3月の対戦予定

2011/03/14(月)

※この試合は、3月11日に発生した東日本大震災のため中止されました


キリンチャレンジカップ2011

(1)対モンテネグロ戦
日時:2011年3月25日(金)19:45キックオフ[予定]
対戦:SAMURAI BLUE(日本代表) 対 モンテネグロ代表
会場:静岡/エコパスタジアム

(2)対ニュージーランド戦
開催日時:2011年3月29日(火)19:20キックオフ[予定]
対戦:SAMURAI BLUE(日本代表) 対 ニュージーランド代表
会場:東京/国立競技


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10月8日 日本代表 vs アルゼンチン代表(下)

2010/10/12(火)

キリンチャレンジカップ2010
10月8日19時54分キックオフ(埼玉・埼玉スタジアム2002)
日本代表 1(1-0、0-0)0 アルゼンチン代表
 得点 日本:岡崎慎司(19)



――アルゼンチンは、来日した22人のプレーヤーは一人がブラジルのチームで、あとはすべてヨーロッパのクラブにいます。したがって長い旅行の疲れに時差というハンディもある。キックオフ早々から素早いプレッシングをかけてきたのも、疲れの出る前に先制して調子に乗りたいという気持ちがあったでしょう。それが、この20分間の攻防戦で失点してしまった。

賀川:はじめの5分間、受け身になっていた日本の体勢挽回は先に言った香川真司のドリブルの仕掛けから。ここで互角の形に持ってゆき、しっかりした全員守備でのボール奪取からの攻撃で先制点を生んだ。これがこの日の試合の流れを大きく左右したネ。

――アルゼンチンはそのあといい攻撃をたくさん見せましたが、結局はゴールを奪えず、日本は世界屈指のサッカー王国との代表の対戦で初勝利をつかむことになる。
 いいゴールだったから、何度も繰り返します。日本は、
(1)相手のミスから
(2)早いサイドからの攻めで
(3)中央の本田圭佑に渡り
(4)本田はシュートできなかったけれど、そのこぼれ球を
(5)長谷部誠がペナルティエリア外から強いシュートをして
(6)GKロメロが弾いたのを
(7)岡崎慎司が決めた

 この攻撃の発端が、相手の左DFエインセの処理ミスを奪った岡崎。奪った勢いを殺さずに一気に右サイドを縦にドリブルしてサイド攻撃を仕掛けました。

賀川:守から攻へのときに、ボールを奪った者が前方のスペースへ一気にドリブルした。速攻の見本のようだったネ。

――ワールドカップでは松井大輔が右サイドだったのが、彼のケガでこの日は岡崎でした。香川の活躍を見て、彼も燃えていたハズでしょう。

賀川:森本貴幸をトップに、本田をトップ下、右に岡崎、左に香川を配置した攻撃陣は自分から仕掛ける気持ちも持っている。本田はいいシュートができなかったが、ボールが長谷部の前に転がったとき、長谷部のシュートを妨害できる相手がいなかった。本田は潰されはしたが、いわばうまい潰れ方でもあった。

――さて、そのゴールでリードした後も相手にゴールを与えませんでした。1-0の勝因にはディフェンス面も大きいですね。

賀川:サッカーは攻めと守りのバランス――と、今度の監督さんは強調している。当然のことだが、もともとイタリアのサッカーは守りについての配慮がしっかりしていて、攻撃のプレーヤーでも守備意識が高かった。だから「攻撃重視の監督」といわれるザックでも、守りへの配慮はしっかりしているハズですヨ。

――その守りでうまくいったのは

賀川:うまくいったというより、今度のアルゼンチン代表は日本にとっての“タイプ”だったといえる。まず、2010年大会でも活躍したゴンサロ・イグアイン(レアル・マドリード)が先発しなかったこと。代わりに出場したディエゴ・ミリト(インテル)も故障があったのだろう。

――イグアインは南アフリカ大会の1次リーグ、対韓国(4-1)でハットトリックをしています。

賀川:184センチの彼がいれば、高さだけでも日本には脅威だが……

――33分に交代で入ってきましたが

賀川:埼玉から自宅に戻ってビデオを見たら、前半初めの頃アルゼンチンの左からのクロスが日本ゴール前に上がったとき、解説の金田喜稔さんが「相手のFWには長身がいないから怖くない」と言っていたが、選手たちもそう思っていただろう。
 アルゼンチン代表はドリブルと鋭いパス交換で狭い地域での突破が伝統的な攻め手の一つ。日本のコーチなら、なぜ外に開かないのか、なぜサイドを使わないのか――と思う場面でも狭いところでの突破を図ることが多い。

――その対策を日本はしっかりやった。

賀川:イタリア・サッカーで育ったザックさんは、こういう防御については得意でしょう。日本代表の南アフリカ大会で得た遺産――勝つためには守りをしっかりする――そのためにはFWの選手の守りも見せかけだけでなく本来の守備をする――が生きていた。

――メッシのドリブルへの囲みも良かった。

賀川:うーむ。それでもときどきやられたが……。彼の仕事を大幅に制限はできた。アルゼンチン代表のスターティング・ラインナップをみると、29~32歳が7人もいる。年齢が高い割に、かつてのアルゼンチン代表らしい“嫌らしさ”という感じが少ないのが不思議だった。それはともかく、南アフリカへゆけなかった私は久しぶりにメッシをナマで見ることができてとても嬉しかった。

――近江達先生枚方フットボールクラブ創立者)が、子どものサッカーがそのまま大きくなった、と言っていたそうですね。

賀川:10月10日に近江ドクターや枚方FCの関係者たちと食事をした。そのときに少年の指導の大権威であるドクターが、メッシを見ていると小さなステップを踏んで相手をかわす子どものサッカーがそのままどんどん上達し、レベルアップしていっているようだ――というふうに言っておられた。
 ディエゴ・マラドーナもそうだったが、私は細かいステップと小さな振りでのキック、そしてボールタッチなどを感嘆しながら見ていた。その彼を生かすためのチームプレーがアルゼンチン代表には乏しかった――というのが、2010年のテレビ観戦の感想だが、今度も同じように見えた。

――86年のマラドーナのときとは違う

賀川:もちろん時代背景も異なっているけれど、当時のカルロス・ビラルド監督はマラドーナの巧みな技を生かすために、もう少し大きい展開も準備し、練習していた。

――だから、今回は日本代表にもやりやすかった?

賀川:それでも何回かは危ない場面があった。しかし全体としては、ゴール近くになってからの密着と多数防御が効いた。それにはまず全員の「勝ちたい」という意識の強さがあったと思う。

――本田が守備で目立ちました。

賀川:FKやCKのとき、ニアサイドのヘディングで頑張ったね。彼を見ていると、ちょっと立場は違うがメキシコ代表の68年の代表チームの選手を思い出すネ。

――と、いうと?

賀川:あの頃の選手の多くは、今ほど上手ではないが負けず嫌いだった。釜本邦茂は例えば外国のプロとの対戦前に話を聞くと、どんな名選手だろうが、相手が自分より年長だったら「年寄りに負けるか」と思ったという。だから、61年にブラジルのパルメイラスと試合をするときでも、絶対に食ってやろうと思っていたらしい。

――だから天下のプロ、パルメイラスから1勝したのですね。

賀川:いまの日本代表にもそういう気持ちが強くなっているように見えるのが嬉しいネ。



◆FIFAランキングは低くても韓国は韓国
 当方の弱点をよく知っている韓国を相手に、新日本代表の試金石

――12日には韓国と対戦します。

賀川:アルゼンチンのように、上手だが相性のいいチームの次は伝統のライバルだから、とても楽しいヨ。南アフリカでアルゼンチンに1-4で負けた韓国代表が、そのアルゼンチンに勝った日本をホームで迎え撃つ形になった。韓国代表にとっても、久しぶりに一つやってやろう――という気になっているだろう。

――ここのところ韓国は対日本で明らかに精神的優位にあります。日本代表が負けず嫌いをどこまで貫けるか。このエキサイティングな対戦に、彼らがどういうふうに臨むかも楽しみです。

賀川:2010年で折角つくった中澤・闘莉王の大型の2CDFの後継者がどうなるかという課題もあって、見逃せない試合ですヨ。


【了】


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10月8日 日本代表 vs アルゼンチン代表(上)

2010/10/11(月)

キリンチャレンジカップ2010
10月8日19時54分キックオフ(埼玉・埼玉スタジアム2002)
日本代表 1(1-0、0-0)0 アルゼンチン代表
 得点 日本:岡崎慎司(19)

101008argentine
対アルゼンチン戦の公式プログラムは、ザッケローニ新監督が表紙を飾っていた

◆メッシのアルゼンチンを相手に誇るべき1勝
 南アフリカの基礎のうえに香川たちの進歩が大きなプラス



――日本代表、やりましたね。リオネル・メッシのいるアルゼンチン代表を相手に1-0で勝ちました。

賀川:いい試合だった。最後まで緊張感があったし、リードされたアルゼンチンは当然としても、終盤に押し込まれた日本側もいいカウンター攻撃を仕掛けたから、90分間とても面白い試合だった。
 ワールドカップのような“タイトルマッチ”でなくても、こんなスリリングでこんな楽しい試合が見られたことで、あらためてキリンチャレンジカップという企画に感謝したいほどだ。

――アルベルト・ザッケローニ監督の采配ぶりはいかがでしたか。

賀川:日本代表が2010年の南アフリカ大会でつかんだもの、また、大会後にそれぞれの選手が海外で、あるいは日本でのプレーによって加えたものが、それぞれの選手の実力となっている。その選手たちの持っている力が試合で出ていた。選手の力を引き出しているという点で、ザッケローニ(ザック)さんはいい監督なんだろうと思う。選手選考から起用、試合中の交代などを見てもまずは妥当で理に適っているでしょう。

――岡田武史前監督と比べて…

賀川:2010年の成績を見れば、岡田監督の手腕は十分評価されていい。私は昔から彼の監督としての適性を疑ったことはないからネ。選手の見極めも、そんなに間違っていない。香川真司を若いうちから代表に招集し(本大会には使わなかったけれど)チームに同行させたのも岡田監督でしょう。

――その香川の大会後の伸びはすごいですね。

賀川:この試合でも、真司は主役の一人だからネ。開始直後の5分間はアルゼンチン側の早いプレッシング――それもトップからのプレス――で日本は攻撃に出られなかったのだが、それを盛り返したのは、相手のパスミスを取った香川真司のドリブルからですヨ。驚くほどの好パスを相手側からもらったときの最初のトラッピングのうまさと、その後の速いドリブルで相手を引きつけての本田圭佑への短いパスは、ホレボレする見事なものだった。本田がこのパスを受けて右の岡崎慎司へ送ったパスが岡崎と合わなかったが、ビッグチャンスになるハズのものだった。
 アルゼンチン側にとっては前線からのプレスで気分的に優位に立っていたのが、初めてペナルティエリア内に侵入されて崩されかけたのだから、ちょっと勢いを消された格好になり、ここからしばらく互角の流れになったのですヨ。

――相手のDFのパスミスを誘発させた長谷部誠のプレッシングも良かった。

賀川:長谷部キャプテンらしいプレーだった。このスタート時の押し込まれの時期に、本田が皆を落ち着かせようとボールを受けるときにゆっくりしたプレーを示したのに対して、長谷部はこちらから距離を走ってプレスにゆくことで展開を変えようとした。2人の個性が出ていて面白かったネ。

――へぇ、そんなことが…

賀川:埼玉スタジアム2階最前列の記者席はピッチを見やすいからネ。

――自分たちが受け身になったときにどう立て直すかは、選手それぞれにやり方があるでしょうね。

賀川:ちょっと話がそれたが、相手のパスミスからの香川の突進で一気にチャンスが来た。

――長谷部の突っかけに対して、香川の位置が良かったことと、その後の香川の仕掛けが良かったことを賀川さんは強調したいのですね。

賀川:ボールを取っても、自分で仕掛けない――というのがこれまでの日本の攻撃についての定説だった。パスを出せる相手を探すのがまず第一。それが、相手からきたボールをそのまま前へドリブルするようになったのだからネ。

――もちろん、自分よりいい位置の仲間がいればパスを送るのがいいわけですが、このときのドリブルの選択は正しかったと。

賀川:香川は本田にパスを出したあと突進してゴール前へ入り、本田のパスをクリアしたボールを長友が大きくゴール前へ送ったのに反応して、相手GKセルヒオ・ロメロとぶつかってファウルを取られた。この一連の攻めのあとしばらく日本の攻めが続き、右サイドの内田篤人からのクロスを岡崎がシュートする場面が見られた(前半9分)。

――すぐ目の前のゴールキーパーの体に当たってしまったシーンですね。

賀川:内田のクロスが相手選手に当たってゴール正面へ来たのを岡崎が走り込んだが、浮いていたボールをしっかり叩けず、目の前のGKロメロに当ててしまった。

――アルゼンチンにもメッシの速いドリブルからのチャンスがあり、試合はまさに佳境というところで19分の日本の得点が生まれました。

賀川:相手側のミスからだった。

――アルゼンチン側がDFの間でパスを回していました。

賀川:17分に長友佑都が相手の右DFニコラス・ブルディッソにぶつかってファウルを取られ、ブルディッソがしばらく倒れたあとでプレー再開となった。守りを固めた日本側に対して、アルゼンチンは後方でパスをつないでチャンスをうかがった。いったん左のDFガブリエル・エインセが受けたがまた後方へ戻し、GKロメロが右DFのブルディッソへ。これに森本がプレスをかけた。ボールはブルディッソの前のハビエル・マスケラーノに渡り、そこから長いパスを左サイドのエインセへ。このボールはエインセの少し手前に落ちてバウンドした。エインセはこのボールを左タッチラインで頭に当てただけでコントロールできず
(1)高く上がったボールを狙っていた岡崎がかっさらって
(2)ドリブルで前進、
(3)ペナルティエリア3m右外、ゴールラインから15m辺りでクロスを蹴った。
(4)ボールはペナルティエリア外で正面の本田に渡り、
(5)本田はトラップして左足シュートへ入ろうとしたが、相手DFにつぶされた。
(6)しかし、このボールが流れたところへ長谷部が走り上がって右足でシュート
(7)右足インステップで叩かれスライス気味のボールをGKロメロはいったんは防いだが、そのリバウンドを岡崎が走り込んで決めた。

――長谷部のシュート、岡崎の飛び込みがうまく重なりました。

賀川:ゴール後方からのカメラの映像では、GKロメロは右へ寄ったが、ボールのコースがスライスしたために左へセービングする形になり、ボールを止めて前方へ転がしたので、岡崎のダッシュが生きた。


【つづく】


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【Result】10月8日 日本代表 vs アルゼンチン代表

2010/10/08(金)

キリンチャレンジカップ2010
10月8日19時54分キックオフ(埼玉・埼玉スタジアム2002)
日本代表 1(1-0、0-0)0 アルゼンチン代表
 得点 日本:岡崎慎司(19)

【日本代表メンバー】
GK: 1川島永嗣→西川周作(85分)
DF: 20栗原勇蔵、5長友佑都、6内田篤人
MF: 7遠藤保仁→2阿部勇樹(71分)15今野泰幸、17長谷部誠(cap)
FW: 9岡崎慎司→27関口 訓充(71分)18本田圭佑、19森本貴幸→12前田遼一(65分)11香川真司→14中村憲剛(77分)
SUB:23権田修一、3駒野友一、25伊野波雅彦、24槙野智章、13細貝萌、16金崎夢生

【アルゼンチン代表メンバー】
GK: 1セルヒオ・ロメロ
DF: 6ガブリエル・エインセ、18ガブリエル・ミリト、2マルティン・デミチェリス、4ニコラス・ブルディッソ→21エセキエル・ラベッシ(78分)
MF: 19エステバン・カンビアッソ→5マリオ・ボラッティ(45分)→7アンヘル・ディマリア(84分)15アンドレス・ダレッサンドロ→20ハビエル・パストーレ(59分)14ハビエル・マスケラーノ (Cap)
FW: 22ディエゴ・ミリト→9ゴンサロ・イグアイン(33分)11カルロス・テベス、10リオネル・メッシ
SUB:12マリアノ・アンドゥハル、17オスカル・ウスタリ、13ニコラス・パレハ、3クリスティアン・アンサルディ、8ホセ・ソサ、16ニコラス・ガイタン

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9月7日 日本代表 vs グアテマラ代表(下)

2010/09/16(木)

キリンチャレンジカップ2010
9月7日19時48分キックオフ(大阪・大阪長居スタジアム)
日本代表 2(2-1、0-0)1 グアテマラ代表
 得点 日本:森本貴幸(12、20)


――後方からのボールを香川が中央で受け、ダイレクトで本田に渡しました。

賀川:そう、その前に日本の攻めがあったのだが、右DFの駒野のスルーパスが深くて相手GKが取ってキックした。そのボールを日本が取り、右サイドで本田、香川が関わり、そこから左後方へ戻したところから、この2点目の攻撃が始まるのですヨ。

――というと

賀川:左サイドへ開いた長友からボールは内に戻り、橋本がボールを取ったときに森本は左寄りの前方にいて中央へ香川が入っていた。その足元へ橋本から強いグラウンダーが送られた。それを香川はダイレクトですぐ後方の本田に渡す。ボールは浮いたけれど、さすがに本田はヘディングで自分の足元へ落としてすぐにドリブル。香川は自分をマークしていたDFの後方へ動いて、その壁から右斜めへ出ようとした。右のオープンスペースに確か駒野がいた。本田は短くドリブルしたあと香川へスルーパスを送った。香川はゴールエリア内に入り、接近した相手GKリカルド・トリゲニョの前で小さく浮かせて上を抜こうとした。トリゲニョの手に当たったボールが落ちたところへ森本が走り込んで左足に当てゴールした。

――香川の、ウラへの走り込みは第1戦と似ていましたね。

賀川:走り込むスペースの狙い方は似ていたネ。ボールを受けてからも落ち着いていた。森本が詰めていたから、彼にもいい2点目になった。

――この調子でどんどんゴールが決まるかと期待したのですが……

賀川:そううまくゆかないのがサッカー、というところだね。

――2点取ってひと安心という気になる。そして相手はこちらの動きに少し慣れてくる。

賀川:本当はここでたたみかけて3点目を取れば――。だが、相手にすぐ1ゴールが生まれたから、相手側は気分がよくなる。

――こちらのDFはあまり簡単にやられたのでちょっと不安になるというところですかね。

賀川:日本の前半はじめの早い動きには、経験したことのない相手はたいていしばらく対応が遅れるものだヨ。そしてグアテマラは個人的な能力や経験もパラグアイほどではないから、当方には余裕がある。2得点はともにいいゴールだが、そういう点もあっただろう。それが1点返され相手が元気づいて、プレッシングも強くなってくるとそう簡単にはゆかなくなった。
 この試合では、後半特に中盤での組み立てに余裕がなかった。ベテランの橋本はさすがにいいプレーをしたが、もう少し全体を引っ張り落ち着かせてほしかった。何でもできる人なんだが、やはり2CDFも初めてのペアだし、細貝は動きの量は大したものでプレーもしっかりしていたが、攻撃展開はこれからだろうネ。それでも、もう少し森本が落ち着いてプレーすれば得点は増えただろうが――。

――オシムさんなら「独りよがり」と言ったでしょうね。

賀川:森本は得点を挙げただけでも良かったといえるけれど、ボクは、彼ならもっと出来ると思っていた。イタリアで出場機会が少ないから良くなかったのだろうがネ。

――試合はそのまま2-1で終わりましたが、全体としては?

賀川:多くの観客の前で違った国の代表チームと試合する機会をつくっているということで、あらためてこのキリンチャレンジカップやキリンカップの楽しさと同時に強化策の効果について考えた。ことし代表が南アフリカへ行く前に、前の会長の犬飼基昭さんに会ったとき、「強い相手を呼んでやられると代表は叩かれるし、あまり強くないところと試合をするとこんな試合では効果はないということになる」と、強化試合の難しさを言っていた。しかし、そういう色々な経験を経て代表はチームになっていったことを考えれば、やはりこのキリンのシリーズは大切だし、見る者にもプレーする代表にも有難いことですヨ。何といっても、ナマで自分たちの代表の試合を見られるのだから……。
 今度も第1戦は南アフリカ大会の余韻と、相手がパラグアイということもあって、横浜に6万5,000。第2戦も、(初戦の)香川の1ゴールと皆の頑張りが共感を呼び4万4,000余。2試合にざっと11万人のファンが集まった。そして皆が楽しんだ。ボク自身も楽しかった。

――不満はもちろんあったでしょう

賀川:いや、不満というより、第2戦で中村憲剛がいない影響の大きさ感じたのはボクだけじゃないでしょう。日本はMF陣は揃っていると見ていたが、ボールを止めて出すというごくシンプルなパスが、彼がいないとタイミングよく出てこないことが多かった。乾の出来の悪かったのも、そんなところが原因かもね。
 岡田武史と代表が南アフリカで演じたプレーを基盤に、また新しいメンバーを加えた代表の進化をこれから期待するわけだが、Jリーグがはじまって18年経ったいま、まだまだ多くのタレントが出現してくると予想できる。

――楽しみはこれから、ということですね。


【了】


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9月7日 日本代表 vs グアテマラ代表(上)

2010/09/15(水)

キリンチャレンジカップ2010
9月7日19時48分キックオフ(大阪・大阪長居スタジアム)
日本代表 2(2-1、0-0)1 グアテマラ代表
 得点 日本:森本貴幸(12、20)

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対パラグアイ、グアテマラ戦の公式プログラム

――グアテマラ代表に勝って、日本代表は南アフリカ・ワールドカップ後の再開シリーズ2戦2勝です。

賀川:グアテマラは、北米大陸と南米大陸をつなぐ細長い地帯にある国。この中米地域にはアメリカ合衆国のすぐ南にあるメキシコという大きな国があるが、その南隣りにグアテマラがあって、さらに南へエルサルバドル、ホンジュラス、ニアカグラ、コスタリカ、パナマと続いて南アメリカ大陸のコロンビアにつながる。

――FIFA(国際サッカー連盟)の大陸別連盟では北中米カリブ海連盟(CONCACAF)に属しています。この地域ではメキシコが強く、近ごろはアメリカ合衆国もワールドカップの常連になってきた。カリブ海の国ではジャマイカが98年大会で日本を破っています。グアテマラはまだ一度もワールドカップに出ていませんね。

賀川:FIFAランクも100位より下。だからパラグアイよりは弱いだろうと誰もが考えていただろう。

――日本もケガ人が多く、南アフリカ大会の代表から中澤佑二、田中マルクス闘莉王、今野泰幸が抜け、遠藤保仁も疲労が重なり、長谷部誠、阿部勇樹も不参加だった。原さん(強化委員長、監督代行)は中村憲剛をスターティングラインアップから外しましたね。

賀川:まあ、試合が重なっていることもあり、中村なしでどれだけ中盤の格好がつくかも見たかったのだろうし、できるだけ多くの選手のプレーを新任のザッケローニ監督に見せておきたかったのだろうね。

――大幅に変わった代表が、前半に2ゴールを奪った。鮮やかなパスからの得点でした。

賀川:12分に左サイドで長友--橋本-乾-香川-乾と短いパスをつなぎ(乾に渡したあとで前進していた)長友に乾からパス、長友は自分をマークするジョナサン・ロペスをドリブルで縦にかわして中央へクロスを送ると森本貴幸が、DFの前(ニアサイド)へ入って見事なヘディングシュートを決めた。

――森本らしいゴール

賀川:森本は相手の前へ入る速さが一つの特徴で、後方からのパスでもDFの背後から体を(ボールと相手の間へ)入れて取ることもある。その彼の十八番が出た。パラグアイ戦のときは得点できずに途中で交代したが、今度はピシャリと決めた。

――これで4万4,000以上入ったスタンドは一気に盛り上がりました。

賀川:左サイドでの組み立てがとても良かった。長友が乾にパスをして、前へ走り上がったときに、すぐに縦に送らずに乾から橋本(横パス)→乾(斜めの左前へ)→香川(斜め右前)→乾(斜め左後方、タッチ際)とダイレクトでボールを動かし左から乾のパスを受けた。長友は相手が近くにいても有利な態勢でボールを持つことができ、自分から仕掛けることができた。

――それまでは縦の長いパスが多かったですよね。テレビの解説でセルジオ越後さんがちょっと不満そうに言っていました。

賀川:相手のウラを突こうと気負いすぎていたのかもしれないが、この左サイドは乾、香川に橋本が加わってのショートパスでのキープと展開だった。

――長友がいいクロスを送りました。

賀川:長友はドリブルで一度、小さくスローダウンして一気にスパートしてロペスをかわし、かわしたところで、いいタイミングのクロスを送った。このクロスを蹴るまでの間(ま)の取り方で、森本はニアへ入る前に相手を牽制できる余裕があったハズですヨ。

――最後は長友・森本の呼吸ですか。

賀川:彼らは余裕があればこれくらいのことは十分できる。

――もちろん、第1戦のパラグアイよりグアテマラの方が格下ということもあるでしょうけれど……

賀川:相手のレベルも影響することは確かだが、チームの攻撃はやはり、このときのやり方の方がロングパス一本で狙うよりは効率がいいハズですヨ。

――これで新しい代表も勢いづいた。

賀川:20分に2点目が生まれた。これは香川、本田、森本の攻撃トリオのゴールだが、橋本のくさびが効いたネ。


【つづく】


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【Result】9月7日 日本代表 vs グアテマラ代表

2010/09/07(火)

キリンチャレンジカップ2010
9月7日19時48分キックオフ(大阪・大阪長居スタジアム)
日本代表 2(2-1、0-0)1 グアテマラ代表
 得点 日本:森本貴幸(12、20)

【日本代表メンバー】
GK: 1楢崎正剛(cap)
DF: 3駒野友一、13岩政大樹、5長友佑都→25永田充(46分)23槙野智章
MF: 2橋本英郎、16細貝萌、18本田圭佑、24乾貴士→12藤本淳吾(46分)11香川真司→9岡崎慎司(66分)
FW: 19森本貴幸→14中村憲剛(83分)
SUB:21川島永嗣、6内田篤人

【グアテマラ代表メンバー】
GK: 1リカルド・トリゲニョ→22ルイス・モリーナ(46分)
DF: 4リカルド・ロドリゲス、5カルロス・ガジャルド、6グスタボ・カブレラ、8ジョナサン・ロペス
MF: 7カルロス・カスティージョ、11ギジェルモ・ラミレス→16ミノル・ロペス(61分)14エルウィン・アギラル→13フリオ・エスタクイ(67分)15エドガル・コット→9エドガル・チンチージャ(46分)
FW: 3ジョニー・ヒロン→12カルロス・カストリージョ(46分)10マリオ・ロドリゲス→17ドワイト・ペッサロッシ(78分)
SUB:18ケビン・ノラレス

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9月4日 日本代表 vs パラグアイ代表(下)

2010/09/07(火)

キリンチャレンジカップ2010
9月4日19時20分キックオフ(神奈川・日産スタジアム)
日本代表 1(0-0、1-0)0 パラグアイ代表
 得点 日本:香川真司(64)


◆南ア大会代表の遺産のうえに、香川真司のドリブル力・シュート力の向上欲が生んだ新代表の勝利とゴール

賀川:香川はこの試合、前半は必ずしも良くなかったが、後半には動きがスムースになった。逆に相手は疲れて、こちらのタフさにちょっと閉口した感じだったネ。

――点を取った場面は、中村憲剛からのスルーパスを受けてよどみなくシュートへ持っていきました。

賀川:中村のパスは素晴らしかったネ。間(ま)の計り方がよかった。実は、このハーフタイムにラジオのニッポン放送のベテラン記者、小林達彦さんと話をした。日本はやはり走り回るサッカー、パラグアイは一人ひとりのキープがまず先、という特徴が出ていた。そのため見た目に日本は忙しく、相手は落ち着いているように見える――などといっていたのだが、この場面の憲剛は相手の8人がペナルティエリア付近で守備態勢に入っているときにボールをキープしてじっくり“アナ(穴)”を見極めてパスを送った。

――その前に、香川の仕掛けがありました。

賀川:そう、この64分のゴールの数分前に香川がタテにドリブル突破してペナルティエリア内左寄りでシュートし、それを相手がタックルの足に当てて防ぐという場面があった。そのあとパラグアイにチャンスがあって、11番のホナタン・サンタナのシュートがポストをかすめてスタンドをヒヤリとさせた(川島は見切っていたが……)。
 日本は森本に代えて岡崎慎司を投入した。チャンスは相手のキープに対して日本側が守備態勢に入り、攻めあぐねたパラグアイの後方からのロングパスが日本の右タッチラインを割り、そのスローインから始まったんですよ。
 まず松井が右から中へドリブルし、そこから中村-長友と左へ、そして長友がタテにドリブルし、また戻って中村に戻し、中村は少し前の本田へ渡した。

――相手はフィールドプレーヤー8人が引いていましたね。

賀川:そう、前にたくさん相手DFがいて突破できないと見て、いったん中盤でキープした。本田、中村、長友、細貝とつなぎ、そして、
(1)細貝が今度は左サイドへ開いた香川に渡した
(2)香川は内にドリブルして、憲剛へ
(3)そしてまたリターンを受けた
(4)香川の背後からDFが一人接近し、香川のすぐ近くにレフェリーがいて進行の邪魔になった
(5)すると香川は外側へターンして相手をかわし、今度は前へ行かず後方へターンをした(彼の得意の右で持つ形に)

 相手は香川を深く追わなかったが、香川でここでまた中村にボールを渡す。ここで再び日本の攻めは一呼吸置くことになる。ゴール前30メートル辺りの中央近くに日本は香川、中村、松井が数メートルの間隔でいて、ペナルティエリアの外、中央に岡崎、左角寄り少し内に本田。左タッチ際に長友が開いていた。パラグアイ側はペナルティエリアすぐ外に4人、その前に4人がいた。

――2列の厚い守り、これまで日本が手を焼いてきた形です。

賀川:そう。しかしこのときこれまでと違ったのは、パスで仕掛けるのでなくドリブルで仕掛けたことだね。そして、香川がドリブルして結局は前へ行かず、中村にボールを預けたところで状況が変わる。
 中村はボールを持ってスキを狙う。前方の岡崎がボールをもらいに戻ろうとするのと、香川が前にスタートを切るのと、どちらが早かったか――。中央のスペースへ走り出した香川の足元へ、中村からのボールが届く。走っている足元だから難しいのだが、憲剛のボールはスピードがあったから香川には適当だったのだろう。右足で処理し、左手から来る相手より早く右足でシュートした。

――ボールはGKフスト・ビジャルの左手をかすめ、右ポスト内側に当たってネットに飛び込みました。

賀川:得点シーンからゆけば、憲剛のスルーパスを第2列から走った香川が決めたということになるのだが、その前の、香川と中村との2度のパス交換とボールキープ、後方へのドリブルもあって相手がボール注視に追われ、日本の動きがひと休みした後での攻撃にパラグアイは対応が遅れたのだろう。

――パラグアイ側には、遠征の疲れや時差の問題がこの頃になってあらわれたかも

賀川:まあ、それもあるかもしれないが……。今回のチームは火曜日から来日していて準備もしっかりしていた。むしろ日本側の方が、内田、香川、長友は初めての欧州からの戻りだし、本田はすでに気温の下がったロシアから暑い日本への移動だったから、ハンデは日本側の方が大きいかも。これまでのように、遠征側に大きなハンデというわけでもないハズだ。

――その中で、香川のタフさと技術、日本の中盤陣の層の厚さが出たわけですね。

賀川:そうだね。だから、引いて守る相手に対しての攻め手について、これからも勉強は必要だが、一つ面白い例が生まれた。パラグアイの2人のCDFはしっかりしていたのだが、最も警戒すべき本田が自分たちのエリアの左角近くにいたことも響いていただろう。

――栗原や初登場の細貝、あるいは森本たちについてはまた次の機会にしましょう。第2戦の対グアテマラも9月7日に長居で行なわれますからね。


【了】


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9月4日 日本代表 vs パラグアイ代表(上)

2010/09/06(月)

キリンチャレンジカップ2010
9月4日19時20分キックオフ(神奈川・日産スタジアム)
日本代表 1(0-0、1-0)0 パラグアイ代表
 得点 日本:香川真司(64)


◆南ア大会代表の遺産のうえに、香川真司のドリブル力・シュート力の向上欲が生んだ新代表の勝利とゴール

――対パラグアイ戦、良かったですね。特に香川真司がゴールを決めたから、賀川さんも満足でしょう。

賀川:ボクはどの試合でも面白がって見る方だから、例えば2010ワールドカップ直前の強化試合、準備試合で成績の出ないときでも結構楽しんでいましたヨ。対韓国0-2の完敗でもそうだった。その代わり勝った試合でも、例えばカメルーン戦には不満もあったし、0-0からPK戦負けのパラグアイ戦は「よくやった」とはいいながら、別のところでは「○○と××が足りない」「○を△△が半年以上前に上達しておけば勝ったのに」とか――。試合後にまあ満足といえることはない。それだけ欲が深いのだよネ。

――日本代表にはそれだけ期待が高いというわけですね。しかし香川には良い点数をつけたでしょう?

賀川:これくらいはやれるハズだと思う反面、その期待に近いプレーをしてくれることはうれしいネ。彼はゴール場面だけでなく、いくつかいいプレーをした。しかしそれより前に、チーム全体の気持ちの持ち方が良かったよネ。

――何といってもパラグアイ――6月にサッカーの一番の舞台で一番悔しい負け方をした相手との対戦でサポーターの関心も高く、メディアも注視していました。選手たちの気構えも充実していたでしょう。

賀川:CDFの田中マルクス闘莉王、MF遠藤保仁、アンカー役だった阿部勇樹、ゲームキャプテンの長谷部誠、それに大久保嘉人といったレギュラーが5人、故障その他の理由で出場できなかった。どこでもこなせる控えの一番手、今野泰幸もケガで離れていた。

――闘莉王の代わりのCDFに栗原勇蔵、MF陣には細貝萌、中村憲剛、香川真司を入れ、本田圭佑をトップ下に置いて大久保の代わりに森本貴幸をワントップに持ってきました。

賀川:中村憲剛は南アフリカでは出場時間は多くはなかったが、代表経験は長いし、香川も森本も大会中ずっとチームと一緒に練習していたから、2014年を目指す新しい代表といっても南アフリカ大会の代表と同じ考え方ができたハズだ。

――同じスタイル?

賀川:選手の配置やその日のプレーのやり方については、相手によって変わって当たり前だが、日本代表の試合は、どのような相手でも、まず相手よりもよく動いての攻撃の連動プレーが第一となる。こういう労の多い試合だから、そのためには気合が充実していなければならない――というのがボクの考えで、今回はまずその点(環境的にも)が良かった。

――今回は、南アフリカのときの代表より攻撃的にゆこうとしたとか?

賀川:負けたらおしまい、という本番の大会じゃないのだから、こういう強化のための試合でより攻撃的に――というのは当然でしょう。

――そのなかで、香川の攻撃プレーが光ったというわけですね。

賀川:話を真司にもってゆきたいようだね。ボクはサッカーマガジンの2014年代表というアンケートに、香川を代表レギュラーに入れていますヨ。
 この選手はボクと同じカガワだから、JFA発行の日本代表選手のデータ集(『日本代表公式記録集2008』)のなかでボクの兄・太郎と同じページに並んで記載されている。これはこのデータ集が出版されたときにセレッソ大阪の広報・横井素子さんから教えられて気がついたのだが――。

――当時日本代表入りした最も若い香川と、最も古い記者の賀川。2人のカガワで対談もしましたよね。

賀川:あれは1年前だったか、彼はJ2でもズバ抜けていた。ボールを持つときの視野が広く、パスのコースを遠近ともに持っていた。運動量の多い点、ドリブルができ、ボールをしっかり蹴れて、パスでチーム全体を動かせるという点が若いころの兄・太郎によく似ていた。左回りに円弧を描くようにドリブルして相手をかわすのもそっくりだった。もちろん今のプレーヤーだから、70年前の太郎よりボールテクニックが上なのは当然だが――。
 対談した頃の香川はいいパスを出して「どんなものだ、ボクのパスを見てくれたか」という感じもあったが、やがて点を取るようになった。パスを出したあと、前へ飛び出して(ボールを)もらったり、ドリブル突破したりしてね。

――そうですね。昨季J2の得点王(27ゴール)でした。

賀川:得点とともに、パスの感覚も磨きがかかった。何といっても、自分で工夫し、努力する選手ですから。

――神戸で少年期をすごし、仙台で自分のやりたいサッカーができそうだと中学生のときに移り住んで頭角をあらわした彼をスカウトしたのが、賀川さんの後輩だそうですね。

賀川:神戸FCにいて、今はセレッソのコーチとなった小菊昭雄くん。真面目ないいコーチですヨ。
 香川はセレッソに入って前述のようにぐんぐん伸びた。乾貴士という同世代の選手もいたから励みにもなったでしょう。彼や乾のようなプレーヤーは、いいヒントをもらえばどんどん上手になる。もちろん、ヒントなしでも自分で工夫する力を持っているハズ。
 香川は右足のキックは得意で、左サイド寄りからチームの右サイドへのクロスの長いパスもしっかり出せるし、小さな振りでのパスも出せる。ドリブルは前述の円弧を描くやや大きいのと、急角度の切り返しもできる。スピードを緩めておいて飛び出す瞬間のダッシュが早いので、この緩急の落差に相手は手を焼くことになる。
 向上心ということの証(あかし)の一つは、彼がことしのシーズン前半、セレッソでの最終戦だったかでペナルティエリア左角からシュートしてゴール右ポストぎりぎりへ決めたフックシュートだろう。あれは彼のゴールでは初めてのコースだった。高いレベルのFWはこの位置へ来ると、ファーポスト内側ぎりぎりのフックシュートと、ニアポストへの叩きつけと2つの角度を持つようになるもの。マンチェスター・ユナイテッドのウェイン・ルーニーもオランダのデニス・ベルカンプもそうだったが、このとき、香川もしっかりそういう技を身につけようとしていた。

――そうした向上力が、ドイツでも発揮されている、と。

賀川:そうだろうね。ドイツの開幕直前の試合でゴールするのをテレビのニュースで見た。久しぶりに見た感じでは少したくましくなった感じかな。まあ実際はそうでなくても、接触プレーの強い相手の中でプレーすることで、もともとバランスがよく、緩急の変化などで対応できる彼が、その強い当たりにも自信を持ったのだろう。だから落ち着いて見え、こちらの目に頼もしく映るのだろうね。


【つづく】


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【Result】9月4日 日本代表 vs パラグアイ代表

2010/09/04(土)

キリンチャレンジカップ2010
9月4日19時24分キックオフ(神奈川・日産スタジアム)
日本代表 1(0-0、1-0)0 パラグアイ代表
 得点 日本:香川真司(64)

【日本代表メンバー】
GK: 21川島永嗣
DF: 22中澤佑二(Cap)20栗原勇蔵→13岩政大樹(68分)5長友佑都、6内田篤人→23槙野智章(89分)
MF: 14中村憲剛、8松井大輔→12藤本淳吾(65分)16細貝萌、18本田圭佑→2橋本英郎(78分)11香川真司→3駒野友一(90分)
FW: 19森本貴幸(60分)→9岡崎慎司
SUB:1楢﨑正剛、25永田充、24乾貴士

【パラグアイ代表メンバー】
GK: 1フスト・ビジャル(Cap)
DF: 14パウロ・ダシルバ、3アントリン・アルカラス、2マルコス・カセレス→5アダルベルト・ロマン(60分)
MF: 13エンリケ・ベラ→16セルソ・オルティス(81分)11ホナタン・サンタナ→8エルナン・ペレス(72分)17アウレリアーノ・トーレス、20ネストル・オルティゴサ
FW: 9ロケ・サンタクルス→7ホセ・オルティゴサ(81分)19ルーカス・バリオス→18マルセロ・エスティガリビア(86分)15ネストル・カマチョ→10セルヒオ・アキノ(60分)
SUB:12ジョエル・シルバ、4デニス・カニサ、6オスマル・モリナス

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【Preview】9月4日 vsパラグアイ代表 / 7日 vsグアテマラ代表

2010/09/02(木)

キリンチャレンジカップ2010
9月4日19時20分キックオフ(神奈川・日産スタジアム)日本代表 対 パラグアイ代表
4月7日19時45分キックオフ(大阪・長居スタジアム)日本代表 対 グアテマラ代表

――いよいよキリンチャレンジカップですね。9月4日に横浜でパラグアイと、7日に大阪・長居でグアテマラと対戦します。中村俊輔が代表から引退したのと、阿部勇樹が移籍交渉で抜けるぐらいで、あとは南アフリカで成績をあげた日本代表がほぼ揃います。

賀川:田中マルクス闘莉王が外れると発表された。ヨーロッパ組は全員戻ってくるらしい。日本のサポーターは久しぶりにナマの代表を見る楽しみを味わいたいところだ。

――アルベルト・ザッケローニ新監督は指揮しないのですね。

賀川:ビザの関係だそうだが、新しく決まった監督が観戦するのだから、選手も気分を新しくするだろう。まずはそれぞれの選手がいいコンディションで、パラグアイと当たってほしい。

――今回は何を楽しみに?

賀川:代表のサッカーは常に目いっぱい走るということが外国の強チームと試合するときの前提条件となる。そこではじめて技術や戦術が生きてくる。そのことは南アフリカの大会中に選手たちもサポーターも実感したハズ。だから選手には、本番と同じような気持ちと体調で試合してほしい。

――パラグアイは16強1回戦で日本と0-0、PK戦で日本は負けています。リベンジですね。

賀川:酷暑の日本という条件は、相手にも日本代表にも気の毒だが、ともかく気合のこもった試合を見たいね。もちろん南アフリカで実際に顔を合わせた相手と試合をするのだから、代表一人ひとり、あるいはペアで、あるいはグループで、相手のそれぞれの特徴を思い出しているだろう。

――原監督代行やコーチ陣も、対パラグアイの反省はしているでしょう。

賀川:それを、監督がいなくても、コーチに言われなくても、選手たちが自らの工夫でどう解決しようとするかも一つの見どころですヨ。

――香川真司、長友佑都内田篤人たちが欧州から戻ってきての試合になります。

賀川:彼らにとっては初めての環境変化の中での長途の旅行という経験になる。ボクは、香川、長友、内田たちの今回の欧州移籍を強い興味を持って眺めている。彼らが成功するかどうかは、もちろん本人の努力もあるけれど、それぞれのエージェントやバックアップした人たちの腕もまた問われることになる。これまでも中田英寿や稲本潤一をはじめ多くの日本選手がヨーロッパに渡った。成功もあり不成功もあった。そうした事例を関係者たちが今度の欧州移籍でどれだけ生かしているか――。少しずつこうした経験を重ねてきた日本サッカーがそれをプラスにしているのか、問われるハズだ。

――香川や長友は評価を上げているようですね。

賀川:彼らや本田圭佑は貪欲に吸収し、努力し、負けん気も強い。しかしフットボールでは何が起こるか分からない怖さもある。違う環境でつけた自信や学んだ失敗をこの最初の“里帰り”でも見せてくれるかもしれない。たとえそれが見られなくても、これから長い間でじっくり見てゆける。近ごろはパソコンで海外のプレーも見ることができるようだからネ。

――森本貴幸は?

賀川:南アフリカではチャンスがなかったが、ワールドカップの本番を目の前で見て何かを掴んでいるハズ。イタリアで必ずしも大活躍とはいえないようだが、この帰国試合で何かを見せてくれればうれしいね。もちろん、松井大輔、岡崎慎司たちも久しぶりの代表だし、新しく加わった槙野智章がサムライブルーでどうプレーするかも見てみたいと思っていますヨ。


【了】


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5月24日 日本代表 vs 韓国代表(続)

2010/05/29(土)

キリンチャレンジカップ2010
5月24日19時20分キックオフ(埼玉・埼玉スタジアム2002)
日本代表 0(0-1、0-1)2 韓国代表
 得点 韓国:パク・チソン(6)パク・チュヨン(90'+1)

――韓国戦、日本の良かった点は?

賀川:選手の体調把握ができたことだね。GKの楢崎正剛やCDFの中澤佑二の調子が良くなってきている。それから森本貴幸が30分程度出場して、思っていた通りにプレーできたこともある。ボツボツ彼をFWの主力の一人と考えてもいいのじゃないかな。

――賀川さんなら、戦術練習やフィジカル調整以外に何か考えますか?

賀川:無理をしてはいけないけれど、ボールを蹴らせることだね。ゴールに向かってボールを蹴ること、シュートすることで、どの選手もシュート位置に立つことに自信を持つようになるハズです。

――岡田監督には何を望んでいますか?

賀川:アフリカというのは人類発祥の地。学問上では類人猿がこの地で二足歩行のヒトへ進化したということになっている。その土地で、二足歩行だからこそできるフットボールのワールドカップが史上初めて行なわれ、そこへ日本代表として乗り込むのだから、人類の歴史のうえでも、SAMURAI BLUEはまことに素晴らしい場にゆけるわけだ。その折角の楽しい試合を、さらに楽しくして帰ってくるためには、もうひと踏ん張りして、勝って帰ることですよ。
 英国のブックメーカーでは、日本の優勝は賭け率200対1。グループE突破は9対4。ワールドサッカー誌の順位予想はE組4位となっている。気を楽にして、ちょっと彼らの鼻をあかしてほしいネ。


【つづく】


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5月24日 日本代表 vs 韓国代表(下)

2010/05/28(金)

キリンチャレンジカップ2010
5月24日19時20分キックオフ(埼玉・埼玉スタジアム2002)
日本代表 0(0-1、0-1)2 韓国代表
 得点 韓国:パク・チソン(6)パク・チュヨン(90'+1)


――パク・チソンの先制ゴールはさすが、マンチェスター・ユナイテッドのレギュラーという感じでしたね。

賀川:日本側はパスで崩されたのではなく、中盤でのヘディングの応酬のあとボールを拾われ、そこから突破された――いわば突発的なゴールと考えているようだが、そういうゴールを取れる選手が韓国にはいる、ということでしょう。
 パク・チソンがボールを取ったとき、長谷部誠が奪いに行ったが、パクが粘り勝ちして自分のものにした。ビデオを見直すと、腰を低く下げ、いかにもアジア人というスタイルのボールキープで粘った。そのあとドリブル発進したのだが、彼は自分の右手側から体を入れようとする今野泰幸を右手で押えて排除し、ゴールへドリブルして右足でしっかり蹴っている。やはりいいプレーヤーですヨ。
 韓国のサポーターはもちろん喜んだことだろうが、日本のサッカー好きにとっても、パク・チソンのこのゴールは国内で見る好プレーの一つだと思う。

――大久保嘉人が頑張りました。

賀川:彼は、こういう緊迫の試合にはしっかりプレーするタイプ。それだけに、前半21分のシュート――ペナルティエリア外やや左寄りからのシュート――を決めてほしかったネ。あの位置からのシュートなら、サッカーのプロを志すプロにはシュートの型が決まっているハズですよ。惜しいけれど、彼ほどの選手なら決めてほしいものです。

――岡崎慎司はほとんど出番なし。本田圭佑も良くありませんでした。

賀川:本田の場合は、ちょっと気合が入りすぎていたのかも知れない。固い感じだった。いろいろな話題を持つ人だが、決して生まれつき特別に図々しいというタイプじゃないからネ……。
 岡崎の場合は、中村俊輔からいいボールが出なかったのは大きい。前を向いて飛び出すのを得意とする選手だが、それだけでゆけるかどうかだろう。特に、第2列からのバックアップがなければネ。

――長友佑都とパク・チソンの「ボールをめぐる戦い」は沸かせましたね。

賀川:長友はパクを相手によく戦った。彼が奪ったボールをパクが長い距離を走って奪い返したときは、長友贔屓(びいき)の私でも拍手しましたヨ。

――日本はこの完敗劇をどう生かすかですね。

賀川:岡田監督が試合後に、1年間に二度も韓国代表に敗れた――ということで、犬飼会長に「このまま監督を続けていいのですか」と尋ねた、いわば進退伺いをした。犬飼会長は「続けてやれ」と言ったということだが、このことを記者会見の席上でメディアに語ったものだから、スポーツ紙の多くは岡田進退問題を大きく取り上げた。

――ちょっと軽率だったという意見もありました。

賀川:どうせ記者会見で、メディアの方から進退問題を聞いてくる。それなら先に言っておこうということだろうが、自分から言い出さなくても良かっただろうネ。「自信を無くしたのか」「敵前逃亡」などとも言われた。そうしたことより、これから2週間で選手たちのコンディションを整えることだ。チーム全体の調子を上げることが大切だろう。
 2006年は大会前のドイツとの試合までは良かったが、日本代表の本番での試合が始まると思いのほか体調の優れない選手がいた。今回は20日前に一部の選手の故障が明らかになったのだから、前大会よりは条件は悪くない。しかし、次の試合で調子の悪いベテランを休ませ、回復させて本番に出場させるのか、あるいは休ませるのか、非常に難しいところですヨ……。


【了】


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5月24日 日本代表 vs 韓国代表(上)

2010/05/27(木)

キリンチャレンジカップ2010
5月24日19時20分キックオフ(埼玉・埼玉スタジアム2002)
日本代表 0(0-1、0-1)2 韓国代表
 得点 韓国:パク・チソン(6)パク・チュヨン(90'+1)


◆韓国戦のおかげで、本番3週間前の選手の体調が明らかに


――完敗でしたね。パク・チソンに6分に先制され、同点ゴールを狙って後半、前掛かりになったところをロスタイムにカウンターで2点目(PK)を奪われました。

賀川:試合そのものは面白かった。日韓戦らしく気迫のこもったプレーが見られた。2月以来の代表の試合に比べると、この点はとても良かったと思いますよ。

――それでも負けました。

賀川:いい負け方だったと思うよ。いつも言っているように、このチームは全員が揃って、しかもいいコンディションに仕上げて、気持ちのうえでも充実すれば相当なことができる。しかし、そういう条件のいくつかが欠けると、そうはゆかなくなる。

――闘莉王がいない、内田篤人がいない、そういえば松井大輔や稲本潤一もベンチにも入っていなかった。

賀川:内田の代わりに長友佑都を右に回し、左に今野泰幸を配した。闘莉王の代役には阿部勇樹をおいた。それぞれしっかりプレーしたが、どこか違っていて当たり前ですヨ。それよりも、チーム全体が韓国の激しいプレッシングに浮足立ってしまったからね。

――中村俊輔もよく奪われたし、本田圭佑も持ち堪えられませんでした。

賀川:相手のプレッシングが強くても、例えばこれまで、右サイドで俊輔と内田、時に岡崎慎司に遠藤保仁が加わったりするとボールを動かせてキープすることもできた――という見方もあるが、この日の韓国のプレッシングでどうだったか――。そういう意味で、せっかくの相手との試合に予定のメンバーを組めなかったのはもったいなかった。

――しかし、本番ではケガもありますから。常に同じメンバーとはいかないでしょう。

賀川:そう。選手たちはこれからの2週間で受験勉強をして、互いの呼吸が合うペアプレーやトリオの連係をつくらなくてはならない。無理とは思っていないがね、ただ、韓国ほど日本に対して真剣にプレッシングするところは少ないからね。それで、惜しい機会を逃したと言っているのです。南アフリカ大会のためだけでなく、選手たちにはいい経験だから。

――さすが、少年期から韓国のチームと試合をしてきた経験者の話ですね。
 そういえば、賀川さんは韓国は対日本代表の「テ」を知っていると言っていましたが、それがこのプレッシング?

賀川:そう。プレッシングで追いこんで、いいパスを中盤から出させないようにする。奪ったら随所に1対1を仕掛ける。それも前へ走ってスピードを上げることで、彼らの体の粘っこさを生かそうとする。もちろん、ボールを上げることもそうだ。朝鮮半島の人たちは昔から、日本人は小さいと思っていた。今度の両チームのメンバーでも身長がずいぶん違った。

――公式のスターティングリストを見ると、韓国は平均身長182.2cm、体重75.5kg。日本は178cm、73.8kgでした。

賀川:ついでにいえば、韓国の24人の平均も182cm、76.4kg。日本の22人は178.6cm、74kgとなっている。ただし僕は、平均を出すやり方がいいとは思えないので、いつも私流の身長比較をする。

――185cm以上が何人、というのでしょう。

賀川:そう。今度の韓国の登録24人のうち、GKの3人を除くフィールドプレーヤーは
 ▽185cm以上 4人
 ▽180-184cm 12人
 ▽177-179cm 5人(合計21人)となっています。

――GKを勘定しないで、フィールドプレーヤーの高さを見るわけですね。

賀川:そう。日本側の、3人のGKを外した19人は
 ▽185cm以上 3人
 ▽180-184cm 3人
 ▽177-179cm 6人
 ▽174-176cm 3人
 ▽170-173cm 4人

――つまり、韓国は全て177cm以上で、180-184cmのクラスが12対4(人)と圧倒的に多い。

賀川:いま世界ではリオネル・メッシをはじめとするバルセロナの小型選手のプレーが注目されていて、必ずしも「大きいことはいいことだ」とは言わないのだが、スポーツの世界で180cmといえば昔の中肉中背という時代だからね。

――まあ、小型選手については賀川さん自身がそうだったから一家言あるでしょう。それは別にして、韓国の大きさもそこそこあって、その一人ひとりの足腰が強いというのはテレビでも充分見せつけられましたよ。

賀川:そういう韓国、日本の事情も知っていて、速く激しいプレッシングを仕かけてくるのに対して、埼玉では有効なプレーができなかったわけです。


【つづく】


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【Result】5月24日 日本代表 vs 韓国代表

2010/05/24(月)

キリンチャレンジカップ2010
5月24日19時20分キックオフ(埼玉・埼玉スタジアム2002)
日本代表 0(0-1、0-1)2 韓国代表
 得点 韓国:パク・チソン(6)パク・チュヨン(90'+1)

【日本代表メンバー】
GK: 1楢崎正剛
DF: 22中澤佑二(cap)15今野泰幸、5長友佑都
MF: 10中村俊輔→19森本貴幸(63分)7遠藤保仁→3駒野友一(79分)2阿部勇樹、17長谷部誠、18本田圭佑→14中村憲剛(72分)
FW: 16大久保嘉人→12矢野貴章(87分)9岡崎慎司
SUB:23川口能活、21川島永嗣、13岩政大樹、25酒井高徳、24香川真司、27山村和也、26永井謙佑

【韓国代表メンバー】
GK: 1チョン・ソンリョン
DF: 30カク・テヒ、17イ・ヨンピョ、25イ・ジョンス、24チャ・ドゥリ→4オ・ボムソク(67分)
MF: 22キ・ソンヨン→7キム・ボギョン(76分)28キム・ジョンウ、14パク・チソン(cap)→20イ・スンリョル(76分)27イ・チョンヨン
FW: 10ヨム・ギフン→19パク・チュヨン(46分)12イ・グノ→15キム・ナミル(46分)
SUB:21イ・ウンジェ、18キム・ヨングァン、5キム・ドンジン、23キム・ヒョンイル、2チョ・ヨンヒョン、6ク・ジャチョル、29シン・ヒョンミン、8アン・ジョンファン


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4月7日 日本代表 vs セルビア代表(下)

2010/04/10(土)

キリンチャレンジカップ2010
4月7日(大阪・長居スタジアム)19:24
日本代表 0(0-2 0-1)3 セルビア代表



◆諦めるのはまだ早い
 2ヶ月半の努力で一歩でも速く、1センチでも高く、全員の能力アップが組織力を高める


――試合後に選手たちの話をメディアが取材するミックスゾーンの空気も、沈んでいたとか……

賀川:僕も行ってみたが、明るくないのは当然でしょうね。何しろ90分間で1ゴールもなかったのだから。

――こんなときは、どうするんですか。

賀川:そのうちにW杯の出場メンバーを発表することになる。そしてチームとしての練習が再開し、韓国とのキリンチャレンジカップのあと、欧州での合宿練習、そののち南アフリカに乗り込むというスケジュールはこれからそんなに変わらないだろう。
 選手たちはそれまでに、Jリーグの戦いの中で自分のコンディションを整えてゆくことでさらに練習を重ねるという、当たり前のことを懸命にすることですヨ。

――岡田武史監督へのアドバイスはありますか?

賀川:彼は立派な監督で、今回がW杯も2度目です。自分で苦しみ、自分で工夫し、きちんと仕事をしてゆくでしょう。それを応援するだけですヨ。

――サッカーの先輩として一言……

賀川:選手への話というより一般論だが――。サッカーでどうしようもなくなったとき、ゆきづまったとき、私はまず“走ること”そして“ボールを蹴る”ことだと思っている。走って、ボールを蹴る。もちろんシュートも走ってシュートする、走り込んでシュートをする。ヘディングの強い者はもう一度、ジャンプヘディングのタイミングを体で確認し、自信をつける。
 ディフェンダーならタックルの一番基礎のスライディングタックルの繰り返しで、自分の間合いを再確認する。走ってのスライディングも、立ったまま足を出すスライディングもですヨ。
 もちろん、仲間での1対1の接触プレーもいいだろうし、中盤から前の選手に大切な技の一つであるスクリーニングも自分で心掛ければ、体を練るためにもステップワークを上げるためにも大事な練習の一つです。
 うんと走れば、うんと動けば、たくさんボールを蹴ることで道は開けると思う。サッカーというのは難しそうでシンプルなスポーツだからね。

――選手同士の話し合いも大切でしょうね。

賀川:そんなことは人に言われなくても、代表選手なんだから……。まあ、パスの出し手と受け手、どこでもらうか、どこへパスを出すかは大切だからね。互いに話し合うことも必要でしょう。話し合いが不必要になるくらいまで。

――J開幕から今まで代表選手の多くはACLもあって試合数も多く、決していい条件でなかった。これからの回復力に期待しましょう。

賀川:何といっても、危うい基礎の上に立っているのだから、何かあるとグラグラするのは仕方ない。それはJスタート18年以来の諸々の、選手育成の流れが係わっていることであって、その中で育った選手たちに責任を全部かぶせるのは気の毒ですヨ。それよりも、選手一人ひとりが自分たちの現状を考えて、ここから2ヶ月半の間どれだけ精進するか。その精進は彼らの人生にとっても大きなプラスとなると思う。それは監督はじめコーチ陣にとっても同じことです。
 まあ、いつも言うように、自分や仲間のために一生懸命にやること――。ただし、僕たち古い人間が経験したような「負ければ死ぬ」戦いと違って、結果が出なければまた努力をすればいいという“平和の戦い”だということを忘れず、諦めないでほしいネ。

――そうですね。賀川さんがいつも言われるように、選手は、2ヶ月半のトレーニングでヘディングのジャンプが1センチ高くなればそれだけチームと自分にチャンスが増えるのですから……。


【了】


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4月7日 日本代表 vs セルビア代表(中)

2010/04/09(金)

キリンチャレンジカップ2010
4月7日(大阪・長居スタジアム)19:24
日本代表 0(0-2 0-1)3 セルビア代表

Crow
会場で配られていた「SAMURAI BLUE CROWプロジェクト」の折り紙。
日本代表へのメッセージを記した折り紙でカラスを折り、南アフリカに送ろう、というもの。

※日本代表 vs セルビア代表(上)はこちら


◆少数でも攻めて点を取ったセルビア。個人の戦いにサッカーの原点

賀川:スタンドの記者席から見て、上手い蹴り方だ、ベッケンバウアー式のトウ(足の先端)を使ってのチョップキックかなと思った。家へ戻ってビデオを見直したら、ラドサフ・ペトロビッチは右足のアウトサイドのトウでボールの下を蹴ったようだった。ボールにスピンがかかり小さく上がって、落下してから少し後戻りしたから、走り込んできたムルジャにとってはおあつらえ向きのボールだった。近ごろは無回転ボールの話が賑やかだが、こういうボールを蹴れることも大切ですヨ。
 74年W杯の決勝のときにベッケンバウアーのロングボールが相手エリア近くの芝生の上で弾みながら前へゆかずにむしろ戻る感じに見えたのに感嘆したことがあるが、それほどでなくても、21歳のキャプテンのこのボールは素晴らしかった。

――そうそう、マッチデープログラムを見たら、原博実技術委員長のインタビューが掲載されていて、その中に「ほんの小さなプレーで勝敗は変わる」という言葉がありました。

賀川:その通りですヨ。ただし、それを相手が上手くやって、こちらができないのでは苦しいネ。
 そう、98年のクロアチア戦の話が出たから言うけれど、当時の岡田武史監督は日本の力が相手より下、特に1対1では負けそうだからと組織プレーを強調していた。したがって、攻めにも出たが守りも重視していた。だからバックパスを奪われた第1次攻撃はいったん防いだが(辛うじて井原の足に当たった)リバウンドを拾われて右へ送られ、そこにストライカー、ダボール・シュケルがいて、トラップしDFをかわして得意の左足シュートへ持っていった。

――今回は、いったん防ぐということもなかった。

賀川:栗原勇蔵と中澤佑二の二人は横浜F・マリノスのCDFのペアだが、こういう相手とは初体験だし、相手の引きの早い守りに、むしろ攻撃の方に頭がいっていたのかもしれない。日本のDFの要(かなめ)の中澤も、ここのところ相手への寄りやタックルの間合いなどにこれまでと違って少し迷いが出ているのかもしれない。まあ、国内の試合ではほとんど自分の方が体格的に有利な相手と当たる。それがアジア勢でなく久しぶりにセルビアの大型で上手な選手との対戦を経験したのだからね。

――1点だけならともかく、8分後に2点目を取られました。

賀川:これも左サイドで攻めに出たとき、阿部勇樹と長友、岡崎で短いパスをつなごうとして、阿部―長友のやり取りに失敗した。手詰まりになりかけていたから、一度この地域からボールを大きく動かせばよかったのだが……

――こちら3人に対して相手も3人囲みに来ました。

賀川:長友は、前日の練習を見て体調が良さそうだった。この試合でも体のキレも良くていいプレーがいっぱいあった。しかし、このときは狭い地域でトラッピングがほんの少し大きくなった。相手が詰めてきたので阿部へ渡した短いボールが阿部の利き足でない左へ行った。阿部は右のキックの上手な選手で、左も使えるが、こういう接近戦のときは苦しい。体を寄せられ、左足でダイレクトで前に送ったパスをカットされた。そこから相手の攻撃が始まった。

――セルビアは試合後の記者会見で、日本側のミスを上手く掴んだのが良かったと言っていたそうですね。

賀川:このカウンターからの展開は面白かったね。第1波の攻撃の右からのグラウンダーのクロスを中澤がクリアすると、それをセルビア側が拾って、今度も同じ右からパブレ・ニンコフがファーサイドへ浮いたクロスを送った。それをドゥシャン・タディッチが右足ボレーでシュートし、右ポスト際へ飛んで来たのを、ムルジャが右足に当てた。GK楢崎がいったん止めたが、それをまたムルジャが倒れた体を起して左足で決めた。

――パスを奪われてカウンターを食らったとき、岡崎が懸命に戻ってそのクロスを防ぎに行きましたが、結局は取れませんでした。

賀川:岡崎は相手の第2波の攻撃のときにクロスを出すニンコフに向かってゆき、そのボールがゴール前に戻ってきてムルジャが最初の右足タッチをしたときにゴールラインから上がっておればムルジャをオフサイドにできたのに、と反省していた。まあ、そこまでできればいいがネ。

――後半に石川直宏が栗原に代わり、玉田圭司が興梠に代わった。でも玉田はケガもあって82分に矢野貴章が交代で出場しています。また、山瀬功治が中村俊輔に代わって70分から登場しました。これはどうご覧になりましたか?

賀川:石川と玉田は突破力に期待したのだろう。多数防御を破るには、パスだけではよほどの精度がなければネ。ドリブル突破は当然、大切な攻撃の手だから……。

――しかしゴールは生まれなかった。

賀川:海外の強いチームに勝つ、あるいは互角の試合をするためには、何度も言うように、今の候補に入っている選手のベストメンバーがいい体調で戦って初めて結果が期待できるのですヨ。

――体が強くて、キック力のある本田圭佑も必要だと。

賀川:そういうレギュラークラスがいかにうまく組合わされて一つのチームになるかどうかだからね。サイド攻撃といっても、サイドでまずボールを持てる、あるいはそこから崩してゆけるという強さがなければならない。そこで初めて攻撃の広がりもあって、中央から攻めるスペースも生まれるわけ。そういうためにはいいドリブラーは必要だが、そのタイプの選手にしても、ドリブルができるだけではダメで、ドリブルで相手の痛いところに行って何ができるか――が大切なのですヨ。

――3点目はFKで取られました。

賀川:いいシュートだったね。サイドキックでああいう強いボールを蹴る力がある。蹴るということの重要さがよく分かるでしょう。しかし、日本側にも、たとえばCKをしっかり仲間の上へ送り込める遠藤や俊輔もいるわけで、中澤や栗原のヘディングの落下点で誰かが合わせればゴールなんですヨ。
 いつも言うように、選手一人ひとりが自分の技術を最高に発揮すればいいので、決して悲観することはありません。

――今度のキリンチャレンジカップ、対セルビアは有意義だったでしょうか?

賀川:とても良かったのじゃないかね。皆の関心が高まった大会近くになって、いつもやっている日本式サッカーとはまた別のサッカーのやり方があることを見せてくれた。そして、それをするには個人的な力がとても大切だということを、多くのサッカー人が改めて考えることになったのだから。

――ちょっと長くなりましたね。今日はここまでにしておきましょう。


【つづく】


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4月7日 日本代表 vs セルビア代表(上)

2010/04/08(木)

キリンチャレンジカップ2010
4月7日(大阪・長居スタジアム)19:24
日本代表 0(0-2 0-1)3 セルビア代表

*両チームのメンバーはこちら

100407program
日本対セルビア戦の公式プログラム。
原博実技術委員長のインタビューやセルビアサッカーの歴史、EXLILEのインタビューなど内容盛りだくさん。



――0-3の完敗。少しずつ良くなっているハズの日本代表が、セルビア代表の2軍、というより若手主体の代表に零敗ですからね。ガッカリしました。

賀川:まあ、そうも言えるだろうが、この前のバーレーン戦でもACLでもお話したように、今の日本代表は中村俊輔ヤット(遠藤保仁)をはじめとするレギュラーメンバーが揃い、調子が良くて運動量も多く、組合せの練習も充分というときに初めて実力の出るチームだから、その何人かがいなくて、しかも本番で戦う選手の何人かの当否をここで決めようというのだから、チーム全体のモチベーションとしても、必ずしも死力を尽くしてでも勝とう、点を取ろう、守り切ろう――といった気分ではないだろう。
 火曜日に試合前の練習があるというので新しい堺市立ナショナルトレーニングセンターまで見に行ったが、グラウンド全体にそういう気迫はなかったネ。

――Aマッチといっても親善試合ですからね。

賀川:ところが、相手のセルビア代表(B)はそうではない。この日の試合登録18人のうちの何人かは、南アフリカ行きのセルビア・フル代表にひょっとすると加えられるかもしれない、ということだった。

――セルビアの選手は、個人能力の高いことで知られています。

賀川:近ごろ不勉強で若い人ほど海外からの通信を読まなくなった私でも、ヨーロッパのビッグ5リーグで27人のセルビア人が働いていることは知っている。

――ビッグ5といえば、プレミアリーグ(イングランド)リーガエスパニョーラ(スペイン)セリエA(イタリア)ブンデスリーガ(ドイツ)と、少し落ちますがリーグ1(フランス)ですね。

賀川:そう。ことしの各国リーグのメンバーリストを見ると、イングランドとスペインで2人、イタリアで5人、ドイツは10人、フランスでは8人がプレーしているハズだ。その後、多少変わったかもしれないが、なかには、マンチェスター・ユナイテッド(イングランド)のセントラルディフェンダー(CDF)ネマニャ・ビディッチやインテル(イタリア)のMFデヤン・スタンコビッチ、バレンシア(スペイン)の長身202センチのニコラ・ジギッチといった、僕でも名前を知っているスターもいる。

――そういう、いわばチャンピオンズリーグの上の方に出てくるバリバリがいる、ということですね。日本にも今、本田圭佑がいますが。

賀川:彼と同じCSKAモスクワ所属のクラシッチもセルビアですヨ。もちろん日本にも中村俊輔というスターがいるのだが、要はそのレベル、そのすぐ下のレベルがセルビアにはぞろぞろいるわけ。長谷部誠のボルフスブルクにも、松井大輔のグルノーブルにもセルビア人が複数いる。

――来日した若手選手の意気込みが分かりますね。

賀川:実は、こういう条件のときの若手主力のチームは日本代表にとってとてもやりにくい。強い体、長いリーチを使ってバンバンぶつかってくる。東京五輪の前の強化試合で西ドイツ代表の若手選抜が来たときにも、大敗したことがある。ベテランのスター選手がいるチームよりも、日本選手にとっては体のハンディキャップがまともに出てくるから、スタンドで見ているより選手たちはやり難いのですヨ。

――そういえばテレビ解説者が、日本仕様のやり方ではこういうクラスを相手にするとボールを取られることが多い、速さもリーチも違うと言っていました。

賀川:しかも、このチームは日本と戦うためのしっかりした戦略を立ててきた。

――アウェーだからまず守備を厚く、ボールを奪われたら引きを早くする。

賀川:そう。監督さんのいう試合戦略にどこまで合わせられるか――というのも、上のチームに上がる選考基準になるから、トップの選手も奪われれば日本のDFにプレスをかけて押さえにかかり、その間に防御体制を素早く取る。そして日本のボールを奪うとカウンターに出る――というわけ。ごくシンプルだが対日本には最も効果的な戦略ですヨ。

――日本の選手にとっては、ボールを奪って前を向いたら相手のMF4人がいて、その背後にDF4人が控えている。背が高く構えが大きいし、リーチが長いから、パスを通す隙間を探すのに苦労する――というわけですね。

賀川:さすがに中村俊輔はタイミングを少しずらせたり、うまい持ち方をして隙間を作っていくつかの好パスを出していたね。

――前半20分には長友佑都からのクロスに興梠慎三と岡崎慎司が飛び込んで、岡崎がタッチした惜しい場面もありました。

賀川:例によって、なかなか点にはならなかったけれどね。


◆98年W杯の苦い経験。バックパスを奪われた失点


――こちらがパスをつないで攻めるのに対して、相手はカウンター1発で先制ゴールを決めました。

賀川:先制ゴールを見て、ボクは98年の岡田武史監督の日本代表がクロアチアに0-1で負けた、その決勝ゴールを思い出した。

――ワールドカップ(W杯)の第2戦でした。そういえば、あのとき頑張った名良橋晃さんが、ハーフタイムに場内の大画面のリプレーにコメントしていましたね。

賀川:12年前のあの試合は、この日の長居の寒さとは全然違っていて、ナントの会場はものすごく暑かった。暑さの苦手なクロアチアの選手たちはとても疲れていたが、日本の命取りとなった1点は、中田英寿のバックパスを奪ったクロアチアの攻撃からだった。

――今度も、バックパス。

賀川:そう、日本側がハーフラインでボールをキープし、俊輔が仲間からのパスを確かダイレクトで興梠に送った。相手のCDFミロバン・ミロビッチを背にボールを受けた興梠は、余裕が少しあったのに習慣的にダイレクトでバックパスをした。中村俊輔が上がってくると見ていたのだろうね。ところが俊輔よりも7番をつけたリュボミール・フェイサがその位置へ先に入ってきた。
 セルビアはおそらく、日本代表がトップに上がってからいったんバックパスをするのをチームとして把握していたのだろうし、また、試合が始まってすぐ、その傾向を確認したのだろう。

――いわれてみて、ビデオを見直しましたが、フェイサはためらうことなくそこへ戻っています。

賀川:そのあとが上手かったネ。奪ったボールはすぐにラドサフ・ペトロビッチに渡った。

――キャプテンですね。21歳の若さです。29歳のミロバン・ミロビッチをはじめ、24~26歳の選手もいるのに……。

賀川:彼のことはよく知らないが、多分、それだけ技もあり試合の流れも読める選手だから、若いのに主将になっているのだろう。彼がドリブルして日本のDFの裏へ小さく浮かせたボールを落とした。スタンドで見ていて、いいボールを出したなと思った。ドラガン・ムルジャという18番をつけたストライカーの位置がオフサイドでなかったとしたら、このパスで決まりというボールだった。

――というと?


【つづく】


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【Result】4月7日 日本代表 vs セルビア代表

2010/04/07(水)

キリンチャレンジカップ2010
4月7日(大阪・長居スタジアム)19:24
日本代表 0(0-2 0-1)3 セルビア代表

【日本代表メンバー】
GK: 1楢﨑正剛
DF: 22中澤佑二(Cap.)19栗原勇蔵→16石川直宏(HT)21徳永悠平、5長友佑都
MF: 10中村俊輔→8山瀬功治(70分)20稲本潤一、7遠藤保仁→18槙野智章(82分)2阿部勇樹
FW: 9岡崎慎司、13興梠慎三→11玉田圭司(HT)→12矢野貴章(82分)
SUB:18川島永嗣、24永井謙佑

【セルビア代表メンバー】
GK: 1ジェリコ・ブルキッチ→12ミラン・ヨバニッチ(86分)
DF: 2パブレ・ニンコフ→3ミロスラフ・ブリチェビッチ(64分)6ミロバン・ミロビッチ、13マルコ・ロミッチ、4ボイスラフ・スタンコビッチ
MF: 7リュボミール・フェイサ→14ニコラ・ミトロビッチ(70分)5ラドサフ・ペトロビッチ(Cap.)10ドゥシャン・タディッチ→17アレクサンダル・ダビドフ(52分)8ネマーニャ・トミッチ→16ニコラ・ベリッチ(85分)
FW: 18ドラガン・ムルジャ、9デヤン・レキッチ→11アレクサンダル・ダビドフ(78分)
SUB:15ミラン・ビロティッチ

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【Preview】4月7日 日本代表 vs セルビア代表(下)

2010/03/31(水)

※【Preview】4月7日 日本代表 vs セルビア代表(上)はこちら


賀川:幅68.5、縦105メートルの広さのなかで、高さ2メートル44、幅7メートル32の大きさのゴールへボールを入れるために、あるいは自分のゴールにボールを入れさせないために、双方同数、ゴールキーパー以外は手を使えない10人ずつが戦うこの競技では、自らどこへ行けばこういう技術、こういうプレーが必要ということが出てくる。
 例えば、日本の内田篤人のように、右前へ出て行って攻めに加われば、ゴールライン近くまでサイドを走り上がり、あるいはドリブルしそこから中へ仲間あるいはスペースへパスを送る技術が必要になるし、また自らシュートする。こういうプレーが、それぞれの位置で要求され、何十年も昔からポジションプレーと呼んでそれぞれのプレーヤーが練習してきた。
 ストライカーのプレーもそのポジションプレーの一つにすぎないが、ここで点を取ってくれないとせっかく攻めを組み立てても勝てないことになる。

――ワールドカップ(W杯)本番間際になって改めて、基本的なポジションプレーの話が出るとは思いませんでした。

賀川:いつの時代でもサッカーの基本が一番大切ですね。いまサッカーマガジンで連載しているウェイン・ルーニーは、若いうちから右足でも左足でもシュートして点を取った。
 90年W杯優勝の西ドイツのキャプテン、ローター・マテウスは中盤の選手で右足が得意で左は駄目だったのが、27歳でイタリアのインテルへ移ってから左足を練習して、左足のすごいシュートを決めるようになった。
 今ごろ、こういう基本をむしかえすのはおかしいかも知れないが、サッカー選手はいつでも技術の向上を心がけ、また向上するものなんです。
 先日、セレッソの試合の前に選手たちがボールを蹴っているのを見たけれど、自分のいちばん得意な形に入れて蹴るといった着意、走り込んで蹴るとかペナルティエリアの根っこへドリブルして入ってきて中へどの角度で流し込むとか――そういった実戦用のコースや型をしないでただ止めてボカーンとシュートしている者が多かったネ。
 W杯の本番が近付き、キリンチャレンジカップのような大事な試合に直面するたびに、僕は、この選手はこの前見たときから何本ボールを蹴り、どの点を改良し、どのプレーを身につけたかを見るようにしているのですヨ。

――基礎プレーと代表一人ひとりのコンディション、そして彼らの連係ぶり。欲張っていい試合を見たいですね。

賀川:相手のメンバーが未発表だが、セルビアの選手だから個人はしっかりしたテクニックと体を備えているハズ。彼らの一人ひとりの強さに、こちらがどれだけ対応できるかも面白いですヨ。ストイコビッチの育ったところだから、僕も楽しみにしているのです。


【了】

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【Preview】4月7日 日本代表 vs セルビア代表(上)

2010/03/30(火)

キリンチャレンジカップ2010
4月7日19時20分キックオフ(大阪・長居スタジアム)
日本代表 対 セルビア代表

――対セルビアの日本代表メンバーが3月29日に発表されました。会場へは行かれたのですか?

賀川:久しぶりに岡田武史監督の顔を見たいので上京する予定だったのだが、急用ができてゆけなかった。まあ、4月7日には大阪・長居でも会えるわけだから……。

――今回はヨーロッパ組は呼んでいませんね。

賀川:各チームとも、ヨーロッパはいまシーズンの追い込み期だからね。今回はフランスにいる松井、ドイツの長谷部ロシア本田、イタリアの森本たちへの招集はなく国内選手ばかりだ。

――といってもいまは、中村俊輔(横浜FM)と稲本潤一(川崎F)という、これまでの欧州組が日本に帰っています。

賀川:いつも言っているように、中村俊輔と遠藤保仁の二人が揃って出場することでチームの柱はできるだろう。

――俊輔の体調を、前から心配されていましたね。

賀川:32歳の中村だけでなく30歳の遠藤もですヨ。彼らだけでなく中澤佑二も32歳。年齢が高くなったうえに試合が多く、小さなケガでもあとで大きく響くことになりやすい。各チームのフィジカルトレーナーや代表のコーチングスタッフが体調管理に充分目を向けてほしいネ。2006年のジーコ監督のときは、本番になって調子が下降してしまったから。

――若いDFの栗原勇蔵(横浜FM)やFWの永井謙佑(福岡大)も呼ばれました。

賀川:栗原は184センチと長身で、マリノスで中澤とともにDFとして働いている。中村俊輔のクロスをヘディングしてJリーグで得点もしている(3月20日、川崎戦)。鹿島に岩政大樹という長身のいいDFがいるが、監督は栗原も試したいのだろうね。
 山瀬功治(横浜FM)も興梠慎三(鹿島)も石川直宏(F東京)も、攻撃プレーヤーとして少しずつ違うが、速さが魅力。長いあいだケガでリーグも代表も休んでいた石川がどうか――というのは誰もが考えるところだろう。

――矢野貴章以外は大型がいませんね、FWに。永井が177センチですが……。

賀川:不勉強でこの選手のことはよく知らない。長居では試合に出なくとも練習だけでも見てみたいネ。

――賀川さんはFWを見るとき、まず何を重点にするのですか?

賀川:もちろん全体にゴールの能力があるかですよ。ただし、それには基礎となる技術や体の強さ、速さなどもある。何といってもボールを蹴る能力、そして相手との対応力です。

――若い選手が右足だけ、左足だけでなく右も左も蹴れるかどうかを、賀川さんはいつも指摘されます。

賀川:とても大事なことですヨ。もちろん、相手と競り合いながらの高速プレーとなれば、利き足を使うことになるだろうが、点を取るためのシュートというのは時にピンポイントのキックもあれば、やや“おおまか”に「あの辺へ蹴っておけ」という場合――それでも蹴らないよりマシなこと――もある。

――そういう、しっかりした基礎がないと、いいストライカーにはなれない。

賀川:まあ、そうでしょうね。ただし僕は、ストライカーが全てと言っているのではないんですヨ。


【つづく】


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4月セルビア、5月韓国戦に向けて(下)

2010/02/26(金)

――5月の韓国戦はライバル同士の壮行試合という形。ところで、東アジア選手権の3位、とくに韓国との1-3でずいぶん代表の評価が落ちました。岡田武史監督への風当たりも強いですね。

賀川:監督更迭論を真剣に唱える人もいるようだネ。

――賀川さんはどう思います?

賀川:2月シリーズではコンディショニング――気持ちも含めての失敗につきるね。いちばん点を取っている岡崎慎司も出遅れていたでしょう。

――監督云々は……

賀川:もともと日本代表は、例えばリーガエスパニョーラに加わってそのベスト4を目指すというチームではない。しかし、W杯という1ヶ月の大会なら、強い方でどのくらい上位にゆけるかはやってみなければ分からないものですヨ。大会が近付けば対戦相手それぞれについての勉強も進み、対策を練って、そこで初めて自信のようなものが生まれてくるかもしれない。

――しかし、そこで本当に勝つにはもっと技術・体力が必要でしょう。

賀川:日本の歴史で大人のチームが世界大会でメダルを取った(ベスト3に入った)のは1968年のメキシコ・オリンピックだけ。このときは日本の高地対策が非常に上手くいって、勝つための、負けないための、そして6試合を戦い切るコンディションの維持ができた。他のチームの中には高地対策の不十分なところもあったという。2002年大会は、日本の蒸し暑さがヨーロッパにチームのハンデになっていたのは確かだろう。

――そういう有利な環境条件は、今度はどうですかね。

賀川:ドイツ大会は開幕直前までドイツらしく涼しかった。それが始まった途端に暑くなった。それは乾燥した暑さで、日本の選手たちには堪えたハズですよ。
 技術的なミスが出ると、その疲れはいっそう大きくなった。今度は気温が低いと予想され、ヨーロッパ勢には好条件でしょう。もちろん日本のラン・サッカーにもいいわけだが、別に大プラスというわけではない。

――だから技術も体力も少しでもレベルアップが大切だと……。

賀川:いつも同じことを言うけれど――。
 2月24日のACLの2試合で、広島がホームで中国チームに敗れ、ガンバはアウェーで韓国No.1の水原と0-0で引き分けるのをテレビで見た。技術力と、それをもとにしたチーム力の高いガンバは、苦しい試合だったがまずいい試合をした。この試合を見ても、まだ左右からのクロスが仲間に届いていない。
 初めて見た平井将生(ひらい・しょうき)というガンバの若いFWは速くて、二度シュートチャンスをつかんだ。左右1本ずつ入らなかったのだが、それを本人がこのあとどう考え、どう工夫するかですよ。
 どの選手も上手だし、よく頑張るし、素晴らしいのだが、もう一つ上の基本技術――特に蹴る技術を上げておけばいいのになぁと思いながら見ていた。そういう例は広島にもたくさんあったし、いまの日本代表にも通じることなんです。

――成長期の練習が足りないとおっしゃる?

賀川:それもある。しかしサッカーは27歳になってもまだ上手になりますヨ。

――中村俊輔が横浜へ戻ってくれば……?

賀川:そういう噂だね。それはそれでいいことでしょう。ことしの彼にも非常に大きなことになるだろうからね。


【了】

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4月セルビア、5月韓国戦に向けて(上)

2010/02/25(木)

――キリンチャレンジカップのスケジュールが発表されました。4月7日にセルビア代表と(大阪・長居)5月24日に韓国代表(埼玉)と、ということです。

賀川:その前(3月3日)にアジアカップ予選の対バーレーン(豊田)があり、このキリンチャレンジの2試合のあと5月30日と6月4日に強化試合としてそれぞれイングランド(会場オーストラリア)コートジボワール(同スイス)との試合が組まれている。これは本番前のヨーロッパでの強化合宿中のハズ。

――3月6日に始まるJリーグが5月15、16日の第12節で中休みになり、そこから6月11日開幕のワールドカップ(W杯)までの約1ヶ月(実際の日本の第1戦は6月14日、対カメルーン)をどういうふうにもってゆくかでしょうが、その前にある国内の2試合もファンには嬉しいことですね。

賀川:4月7日といえば、第5節と第6節の間の水曜日。Jの試合で代表も体が動くようになっているだろう。

――ACL(AFCチャンピオンズリーグ)に出るチームは3月9、10日にも試合があるから、日程が込んでいますけれどね。

賀川:自分のチームでそれぞれのチーム特有の戦い方もあり、また外国人選手もいるわけだから、このあたりで代表が顔を合わせておくのは悪くはないだろう。それに相手はかつてのユーゴスラビアが分裂したあとのセルビア――つまりスラブ人の本流だからね。ストイコビッチ名古屋監督)の育ったところのハズだ。

――ボールテクニックが高いこと、それにスラブですから大柄な選手もいるでしょう。

賀川:マンチェスター・ユナイテッドのネマニャ・ビディッチが有名だが……。ことしのヨーロッパのスペイン、イタリア、イングランド、ドイツ、そしてフランス――いわゆるビッグ5リーグのメンバー表を見ると、セルビア人のプレーヤーはプレミアリーグ(イングランド)とスペインに2人ずつ、イタリアに5人、フランスに8人、ドイツには10人がいる。代表メンバーもほとんどがこうしたレベルの高いリーグで働いている。

――いい選手が揃えば強いのですね。彼らも本番前の一つとして極東へ遠征するのは、体力的にはともかく気持ちをまとめるのにはいいでしょうね。

賀川:全部が揃わなくても、久しぶりにかつてのユーゴスラビア的なプレーを見たいね。


【つづく】

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2月2日 日本代表 vs ベネズエラ代表(下)

2010/02/04(木)

ベネズエラのプレッシングに押され不満足な試合
それでも休養明けに小笠原、平山たち新戦力を試すことができた
走る原点に返って東アジアのライバルに勝つこと



キリンチャレンジカップ2010
2月2日(大分・九州石油ドーム)19:13
日本代表 0(0-0 0-0)0 ベネズエラ代表

*両チームのメンバーはこちら

――小笠原満男はどうでした?

賀川:彼らしくプレーしていた。シュートも2本あった。もともとこの選手はパスもうまいがゴール近くに現れたときに、ボールを止めて蹴るという技術がしっかりしている。だから落ち着いてシュートへ持ってゆくという点で岡田監督は前の方でプレーさせたいと考えているのだろう。1本目の右足でゴールキーパーの右へ(キッカーから見て)蹴ったシュートは、もう少しコースが上だったらゴールになったかもしれない。

――平山相太は後半に出場しました。

賀川:東アジア選手権でも使うつもりなのだろうネ。彼はかなり長い間、まわり道をしていた感があって、昨シーズンにJ1リーグに出場するようになってから少し意欲的になったようだ。城福監督のおかげだろうが、大事な成長期に必ずしもしっかり蓄積したかどうか分からないから、少し調子が上がってきたいま、どしどし代表でプレーし調子を上げつつ、技と体力、走力をつけることだろうね。
 長身でヘディングが強いといっても、40年前の大型FW釜本邦茂に比べてもヘディングが上手だとはいえない。ただ、いまは自分でゆけると思いノッているようだから、いまの日本では珍しい大型FWをステップアップさせるチャンスだろうね。

――もちろん、他にもFWはいますが

賀川:小型のストライカーはそれ自体が一つの特色だから、大型ばかりを求める必要はないが、テンポの変化ということもあり、攻撃陣は多様な素材があっていい。

――これからの3試合をどう見るのですか

賀川:中国は身体の大きさが一つの特色。激しくくることもあり、ファウルも少なくない。駆け引きもうまいから、体の接触のあとの挑発に乗らないよう冷静な試合運びを身につけるのに良い相手だ。
 香港は日本のことをよく知っていて、厚く守ればどの程度持ちこたえられるかを考えてくるだろう。そういう相手から点を取ることもできなければなるまい。
 韓国は永年の好敵手で、伝統的にもっとも日本のことをよく知っていて、中盤でプレスをかけにくるのか、ロングボールでくるのか。日本の嫌なこともやれるチームですヨ。
 こういうそれぞれの相手国を乗り越えて優勝することは、チームの自信につながるでしょう。

――初戦で0-0という結果になりましたが、まあ良いクスリだと思って、東アジア勢を相手にいい試合をして勝ってほしいものですね。

賀川:サッカーはうまくゆかないときはまず走ることだと私は思っている。ベネズエラのおかげで、選手たちも目が覚めたことだろう。日本の選手たちは体調を上げて、走ることで組織力も個人力も増すことが多い。初戦の不満足試合を糧に、今度はいい試合をしてくれるだろうと思っていますヨ。


【了】

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2月2日 日本代表 vs ベネズエラ代表(上)

2010/02/03(水)

ベネズエラのプレッシングに押され不満足な試合
それでも休養明けに小笠原、平山たち新戦力を試すことができた
走る原点に返って東アジアのライバルに勝つこと



キリンチャレンジカップ2010
2月2日(大分・九州石油ドーム)19:13
日本代表 0(0-0 0-0)0 ベネズエラ代表

*両チームのメンバーはこちら

――楽しみにしていたのに、さっぱりという感じでした。

賀川:取材申請もし、出かける予定だったが腰の調子が思わしくなくて、結局私は今回はテレビ観戦になってしまった。まあ私はどんな試合でも面白いと思える方ではあるが、代表選手の中には重い感じのする選手もいたネ。失望したファンも多かっただろう。
 折角、相手のベネズエラがしっかり準備して遠征のハンデを克服して良いプレーをしてくれたのだから、こちらもいい体調でゆきたかったネ。

――休養期間明けで、日本代表一人ひとりの体調はシーズン中に比べると良くないのでしょうがね。2月2日にこの試合が予定されていて、準備合宿が1週間前からスタートする。そう決まっていれば、選手たちはそれに合わせて休養期間中にもコンディションを整えてゆくのと違うのですか?

賀川:そのあたりのことはどうだろう。試合を見た限りでは、例えば大久保嘉人はこの試合にかける意気込みが相当に見えていた。本番で代表メンバーに入るために、このシリーズ(2月4連戦)でどれだけのプレーをするかが重要だと感じているハズだからね。
 まあ大久保の話はともかく。私がこの休み明けの初戦で不思議に思うのは、コンディショニングもそうだが、それぞれの基礎の技術がシーズン中よりも落ちていることですヨ。もちろんケガなどでボールを触れない選手もいるだろうが、サイドからのクロスといった一番初歩的で大切なポジションプレーが、前より下手になって出てくる。そしてシーズンに入ってまた少し伸びてゆく――という繰り返しになっているように見える。

――その原因はどこにあるのでしょう。

賀川:まあ、だいたい察しはつくが、それは別の機会にしておきましょう。
 試合の場面でいうと、前半に遠藤からのパスを長友佑都が左サイドのペナルティエリア近くからクロスを出すことになったとき、相手の足に当たって止められている。
 また、大久保が右サイドへ出て中へクロスを送った。彼は少し浮かそうとしたが、相手がその高さを読んで足を少し上げたからこれも不成功だった。
 内田篤人に代わって先発で右サイドを務めた徳永悠平も、クロスパスを送るという点では良くなかったネ。
 こういう技は調子が悪いとかいいとかいうものでなくて、ボールのどこを足のどこで蹴るかという形が身についておれば良いわけですヨ……。私は、それはシーズンオフでもシーズン中でも上手になろうと思えば上手になれると思っている。

――練習のスケジュールなどの問題もあるのでしょうが……

賀川:近ごろは練習するのにいろいろ制約もあるらしいけれど、必要な練習は繰り返さないと落ちますヨ。


【つづく】

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【Result】2月2日 日本代表 vs ベネズエラ代表

2010/02/02(火)

キリンチャレンジカップ2010
2月2日(大分・九州石油ドーム)19:13
日本代表 0(0-0 0-0)0 ベネズエラ代表

【日本代表メンバー】
GK: 1楢﨑正剛
DF: 22中澤佑二(Cap.)4田中マルクス闘莉王、21徳永悠平→3駒野友一(59分)15長友佑都
MF: 25小笠原満男→26金崎夢生(75分)7遠藤保仁、8稲本潤一、14中村憲剛→20平山相太(59分)
FW: 16大久保嘉人→17香川真司(84分)9岡崎慎司→13佐藤寿人(75分)
SUB:18川島永嗣、23西川周作、12岩政大樹、15今野泰幸、6内田篤人、24石川直宏、2阿部勇樹、10乾貴士、19興梠慎三

【ベネズエラ代表メンバー】
GK: 1レオナルド・モラレス
DF: 18ジオバニー・ロメロ、3ホセ・マヌエル・レイ (Cap.)6ガブリエル・シチェロ、4カルロス・サラサール
MF: 8フランクリン・ルセナ→2グレンディー・ペロソ(84分)5ジャコモ・ディ・ジョルジ、20アグネル・フローレス→13フアン・フエンマジョル(73分)14アレハンドロ・ゲラ→10ヘスス・ゴメス(81分)
FW: 15アレハンドロ・モレノ→19エデル・ファリアス(90分)7フェルナンド・アリスティギエタ→9アレクサンデル・ロンドン(68分)
SUB:12ダニエル・バルデス、16ヘンリー・ペルニア、11ヘスス・ルゴ、17オルランド・コルデロ

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【Preview】2月2日 日本代表 vs ベネズエラ代表(下)

2010/01/22(金)

――平山相太は復活……いや、初めてのA代表参加ですね。

賀川:私は、彼はもっと早くA代表に入っているべき選手だと思っていたが、Jでは実績がなく、ずいぶん遠まわりをしてきた。

――このサイトでもブログ(片言隻句)でも、何度も語ってこられましたね。それでも、イエメン戦での3ゴールがモノを言いました。

賀川:ストライカーは、何といっても実績だからネ。私が今でも釜本邦茂を例に挙げると多くの人は「今さら釜本でもあるまい」と言うが、歴代日本代表の通算最高得点、それもAマッチだけでなく当時の日本代表に比べて実力の上のアーセナル(イングランド)ボルシア・MG(ドイツ)パルメイラス(ブラジル)といった一流プロチームを相手にしてのゴールを含めてのゴール数を見れば、誰も納得ということになる。
 平山の今度のイエメン戦でのゴールは、彼にも日本サッカーにも岡田監督にも、とてもいいきっかけとなったと思う。

――テレビ放送があればよかったのに。

賀川:そう、平山といえば、昨年秋はFC東京で出番をもらって懸命にプレーする姿をテレビで見ていた。ただし、背を丸めてトコトコ走る姿勢に、高校を出てからの大切な成長期を日本のコーチ達や彼自身はどういう過ごし方をしたのか、寂しく思っていたものですヨ。
 それでも、彼のように才能を持つ大型FWが、調子がよければ代表に入れますよ――という岡田監督の意思表示には大賛成。日本人は小型が多いから敏捷性を生かすというテーマはいいけれど、大型でいいストライカーがいれば役に立つものだ。

――体格も含めて、日本人にはストライカーの資質がないという評論家も多い。

賀川:まあ、その話は別として、平山にはこれをきっかけに上昇してほしい。実際は大切な期間を空白にしておいたから、これから一段上にあがるのは大変だと思うけれど、せっかくの素材が、ともかく24歳までサッカーを続けたのだから、満25歳になる6月のW杯にはぜひ出られるように頑張ってほしい。
 たとえ出られなくても、ここしばらくの努力は将来決して無駄にはならないと思うヨ。ヨーロッパのスーパースター、ウェイン・ルーニークリスチアーノ・ロナウドも同じ1985年生まれだからね。もっと平山自身も、周囲も、彼の資質を大切に思ってほしい。


【了】

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【Preview】2月2日 日本代表 vs ベネズエラ代表(上)

2010/01/19(火)

さあ、日本代表2010冬の陣


キリンチャレンジカップ2010
2月2日19時10分キックオフ(大分・九州石油ドーム)
日本代表 対 ベネズエラ代表



――キリンチャレンジカップ2010、日本代表対ベネズエラ代表(2月2日19時10分、大分・九州石油ドーム)の日本代表メンバーが発表されました。このあと東アジア選手権大会(2月6日-14日、東京)の試合が3試合あるので、キリンチャレンジカップに始まる2月2日から14日までの4試合は6月のFIFAワールドカップ(W杯)に向かってのとても重要なシリーズになりますね。

賀川:Jリーグの2010シーズンが3月6日にスタートする。各クラブにとっても、この2月は大切なトレーニングの時期だが、日本代表にとっても1月25日から2月2日まで9日間、指宿(いぶすき/鹿児島県)で代表候補を集めて練習できるのはとてもいいことだ。そしてその後も対中国(6日、味スタ)対香港(11日、国立)対韓国(14日、国立)と試合が続くので、国内組の候補たちはずっと一緒にいることになる。

――発表されたメンバーはこれまでのお馴染みの顔ぶれですが、DFの村松大輔(湘南)が私たちには新しい名前です。また、大分から名古屋に移ったMF金崎夢生や、セレッソの香川真司も入りました。しかし何といっても注目は大物の小笠原満男(鹿島)の代表への返り咲きと、長身FW平山相太でしょう。

賀川:GK3人、DF9人、MF8人、FW5人がまず発表され、そのあとでフランスから日本に戻ってくる稲本潤一(川崎)が追加され、合計26人の名が挙がった。
 小笠原については実績のあるプレーヤーで、Jリーグ3年連続優勝チームのキャプテンという看板もある。彼のような選手を代表に入れ、今のチームの強化になるかどうかを見るのには、この時期だと考えていたようだ。

――一度やってみて、チームに合わないから次のチャンス――というような選手ではないということ?

賀川:チームの考え方もどうやら共通になってきた現段階の代表に、小笠原といういい個性がどういう働きでチームのプラスになるかを知りたい。実力はある程度分かっている。性格も、代表の仲間にもよく知られている。

――それが、今まで代表に呼ばれなかったのは……

賀川:彼の働き場所がどこにあるか、周囲との組み合わせはどうか、ということだろうね。そして、もっと早い時期に入れて難しいことになった場合は、本人にとっても日本サッカーにとってもプラスにならない。

――岡田監督は、そういうことまで考えるのですかね?

賀川:うん。物事をしっかり考え、そして今どうするかを決めているのだろう。だから、今回が小笠原を呼ぶ最後のチャンスと見たのだろう。

――中盤のプレーヤーはいっぱいいるでしょう、日本代表は。

賀川:そうだね。小笠原は相手の攻めの芽をつぶして、そのボールをこちらの攻撃に転向するのがうまい選手で、鹿島でもボランチ役で成功している。そこから出ていって点を取ることもできる。

――発表されたときの記者会見で、岡田監督は攻撃的MFで使ってみたいと言ったそうですね。

賀川:ボクも聞きましたヨ。ボールを受ける前を含めた視野の広さ、ボールを持ったときの落ち着き、パスに移る早さなどが、いわゆるプレーメーカー役としても生きるとみているのだろうね。

――ここには、中村俊輔というこれまでの大黒柱もいる。そこに新たに小笠原が加われるかなぁ…

賀川:俊輔のいないチームで、彼がどんなふうに働くかも楽しみだ。
 一般論でゆくと、今のサッカーのやり方で、今の日本人選手がヨーロッパのビッグリーグでプレーメーカー役として活躍するのは非常に難しい。相手のマークやプレスが厳しいから、技術だけでなく体の強さやリーチの問題もある。中田英寿でさえ、セリエAのペルージャではともかく、ローマというクラスになると(スター選手がいたこともあって)このポジションを好きでありながら、実際にはそこで使ってもらえなかった。
 小笠原も海外での経験の上で、鹿島に戻ってもう一つ後ろのポジションでチーム全体を動かすことに成功したのだが、日本代表というチームは海外のトップリーグのチームではなく、また別のカラー、別の性格、別の力を備えたチームだから、小笠原がその気になれば――と私はある種の期待を持っている。


【つづく】

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【Member追加招集】2月2日 日本代表 vs ベネズエラ代表

2010/01/15(金)

 日本サッカー協会は15日、キリンチャレンジカップのベネズエラ戦(2月2日・九州石油ドーム)に臨む日本代表に、川崎加入が決まったMF稲本潤一を追加招集すると発表した。
 これでメンバーは計26人。稲本は21日から川崎の合宿に入るが、その後25日には鹿児島・指宿での代表合宿に移動する。

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【Member】2月2日 日本代表 vs ベネズエラ代表

2010/01/13(水)

ベネズエラ戦に25選手招集、小笠原が復帰


日本サッカー協会(JFA)は13日、来月2日のキリンチャレンジカップ、対ベネズエラ戦(九州石油ドーム)に向けた代表メンバーを発表した。

国内組のみの招集となった今回、岡田監督は昨季JリーグMVPのMF小笠原を選出。06年ドイツW杯以来、3年7ヶ月ぶりの復帰のチャンスを与えた。
このほか、若手主体のイエメン戦(6日、3-2)のメンバーからは、この試合3得点のFW平山と、負傷のため遠征を途中離脱したDF村松が選ばれている。

チームは25日から鹿児島・指宿で合宿に入り、2日にベネズエラと対戦。その後メンバーは東アジア選手権に向け23人に絞られる。

メンバーは以下のとおり。

【GK】
楢崎正剛(名古屋)川島永嗣(川崎)西川周作(広島)

【DF】
中澤佑二(横浜M)田中マルクス闘莉王(名古屋)駒野友一(磐田)
岩政大樹、内田篤人(以上鹿島)
今野泰幸、徳永悠平、長友佑都(以上FC東京)村松大輔(湘南)

【MF】
小笠原満男(鹿島)遠藤保仁(G大阪)中村憲剛(川崎)石川直宏(FC東京)
阿部勇樹(浦和)大久保嘉人(神戸)金崎夢生(名古屋)香川真司(C大阪)

【FW】
玉田圭司(名古屋)佐藤寿人(広島)平山相太(FC東京)
岡崎慎司(清水)興梠慎三(鹿島)


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10月14日 日本代表 vs トーゴ代表(続)

2009/10/19(月)

――トーゴ戦の話をもう少し。
 後半はあたまから大久保嘉人森本に代わり、本田圭佑が遠藤に代わりました。CDFは中澤佑二と田中マルクス闘莉王はそのまま。右の徳永悠平に代えて内田篤人が出場しました。終盤に石川直宏や佐藤寿人も入りました。

賀川:遠藤は体調がよくないということだった。日本のMF陣はいま絶頂期だが、年齢的にも大事な時期。それだけに故障も起こり得る。中村俊輔のプレーも相変わらずホレボレするが、ケガをしないことを祈りたいね。ただでさえ運動量の多い日本サッカーだから、海外の選手も含めて、代表の体調管理にはJFA(日本サッカー協会)も(クラブと協力して)気をつけて欲しいヨ。

――その後半の20分に、岡崎が3点目を取った。2試合連続ハットトリックだということですが……

賀川:オランダでの対ガーナでも、稲本からのロブをヘディングで決めていた。今度は右からの長谷部のクロスだったが、狙う位置もいいしヘディングもうまかった。相手が彼のプレーを防ぎにゆけず、見ているだけという感じだったのは感心しないが、かといって岡崎のヘディングのうまさ、いつも自分の点になる位置を狙う“気組み”の素晴らしさは賞讃して当然でしょう。

――ただし、彼自身、取り損ねたチャンスもありました。チーム全体にも、こういうときに点を取っておきたいという「点にならないチャンス」も少なくなかった。

賀川:シュートのタイミングの問題、そしてシュートのときのインパクト(ボールの捉え方)といった基本的な問題もある。日本代表のFWといっても、成長期に自分のシュートの型をきっちりと作り上げてきたかどうかについては及第点といえない者もあるからね。一人ひとり個々の技術についてはここでは言わないが、一般的に指導者が若い選手のシュート練習のときになぜシュートがバーを越すのか、なぜ右へ外れたのか、なぜみすみすGK(ゴールキーパー)の正面へ行ったのか(強くてはじくようなボールでないのに)などについて、その理由を選手とともに考え、指導し、修正しているかだろうね。

――走り込んでのシュート練習や反転してのシュートなどもやっているのですかね。

賀川:横浜の対スコットランド戦にでかけるとき偶然、釜本邦茂さんに会ったヨ。近頃は子どもたちの指導に身を入れているようだが、彼の話によると、やはり一般的にはボールを回す練習時間が多く、ゴールを目指す練習が少ないところが多いと言っていた。


【つづく】

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10月14日 日本代表 vs トーゴ代表(下)

2009/10/18(日)

対トーゴ戦、5得点の評価


■ボールが動いている間の森本の動き

――そういえば、長友が森本にパスを出す前の、ボールの動かし方が面白かったと?

賀川:まず長友のドリブルにはじまり、10本以上のパスを交換してボールを動かしておいたあと、最後に遠藤と俊輔のリターンパスから遠藤がダイレクトで再び左前の長友に送り、ここで長友がパスを森本に送ったのだが、ボールを動かして相手の目を引き付けている間に森本が少しずつ動いて自分のポジションをずらせ、ボールが長友に渡ったときはマーク相手のアキンソラの前(ボールのニアサイド)へ入ってボールを受けている。

――いつもいう、ストライカーはいったん消えて出てくるというヤツですね。

賀川:21歳の彼はそのコツを知っているところがいい。彼のターンにアキンソラはついてゆけず、もう一人のDFマンゴが絡みにきたがダメだった。

――もちろん、これがオランダ代表のDFだったらどうかとか、相手のコンディションがもっと良かったらどうなのか――という話にはなりますが……

賀川:だからといって、森本がこうしたプレーを日常的にできるという値打ちを下げることにはならない。もっと上のクラスに通じるかどうかはやってみればいいわけだから。そして、そういう相手との試合でも、何回かやれて、それが成功すればいいわけなんですヨ。

――やっぱりストライカーの話になると力が入りますね。


【了】

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10月14日 日本代表 vs トーゴ代表(中)

2009/10/17(土)

対トーゴ戦、5得点の評価


――NHKのテレビでは解説者の山本昌邦さん(元・日本代表コーチ)が、ペナルティエリアぎりぎりからのクロスだったら距離が短くて、それだけ到達する時間が短く、相手DFに対応する余裕がない、だから効果的と言っていましたね。

賀川:そう、そのとおり。ボクたち神戸一中の中学生は非力だったから、右タッチ沿いからのクロスが中央に届くのは時間がかかるだけでなく、蹴るのも力んでコントロールが難しい。ペナルティエリアの根っこからだと、ゴールの中央までたかだか20メートルで楽にコントロールパスができるということもあった。当時はそれほど理屈をいうのでなく、そのあたりからやればうまくゆくと思っていたので、チーム全体では攻めるときはペナルティエリアの左右の幅を使うという風に考えていた。

――いまのガンバの攻撃がそうですね。

賀川:いつの時代でも考えることはあまり変わりませんヨ。ただし、いまの代表は何度も言うようにそう、色々なテというより一つ、外からの速いクロスパス、それも人に合わせるというよりスペースへ送り込む――ということに重点を置いているようだ。

――それが得点を生むことを試合で見せたのですね。

賀川:そう。前半の11分で3ゴールした。最初の得点は5分に遠藤が左から斜め前へ速いクロスを送り、これを森本がコースに入って相手DFが潰れる形となってボールを通し、その背後へ出てきたボールを岡崎が右足で合わせてゴールを奪った。一つのボールのコースに二人のFWが入ってきた効果で、森本がノータッチでいったのが意図的かどうかは別にしていいプレーだった。

――エリア内での相手の多数防御を破る一つのテは、パスでかわすことでなくボールのコースにいる相手を妨害すること、つまり潰すこと――だとよく言ってましたね。

賀川:どこの国のFWでも常識の一つだが、二人のトップが初めて組んだ公式試合で演じたところが、うれしいネ。まあこのときに、岡崎が反応しているのに、岡崎をマークしていた相手が無反応だったところに手放しで喜べないところもあるのだが……



■飛び出す岡崎の本領とパートナー・森本


――2点目も岡崎。中村憲剛の右からのクロスでした。

賀川:7分の得点だネ。右CKで俊輔と憲剛のパスのやり取りのあと、いったん後ろにボールを下げておいて俊輔-遠藤のやり取りがあって、闘莉王が右前にいる憲剛へ送る――という日本のMFらしいタイミングのずらせ方で、憲剛がノーマークで受けすぐにクロスを送って岡崎がニアへ走って右足インサイド(かかと)で決めた。相手もついてきたが、余裕があった。
 このとき、ビデオを見直すと、ペナルティエリア中央少し入ったところにいた森本と岡崎の二人が、憲剛へボールが出たとき右斜めつまりニアへ走ったが、森本は岡崎が近いのを見てファーへ方向を変えた。このあたりはサッカーを知ってるナという感じ……。

――3点目が森本のターンとシュートですね。

賀川:簡単にいえば長友から送られたゴールラインに並行のクロスをゴールを背にして左で止め、右へ出て右足でシュートした。相手DFに絡まれたがそれを振り切ってシュートをゴール左下へ決めた。

――代表初得点、彼の株がまた上がりましたね。

賀川:ゴールを背にしてボールを止めターンしてシュートへ持ってゆくこの形は、対スコットランド戦と同じ方向変換だが、今回はスペースがあるので大きなターンをして蹴っている。ニュースか何かの場面で彼は左へも開いてシュートしたシーンを見たことがあるから、反転シュートはどちらの側も出来るのじゃないかネ。そして彼はこのとき、蹴り足のインパクトがきちんとボールを捉えている。ここが彼のストライカーとしての一つの資質だといえる。いまの日本の選手はせっかくいいところへ出てきてもシュートするときに足首が寝ていることが多い。

――賀川さん流の言い方ですね。“寝ている”というのはインステップで蹴っていないということですか?

賀川:まあテレビのスロー再生をみて、もう一度確かめて下さい。森本はきちんと叩いているハズですヨ。


【つづく】

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10月14日 日本代表 vs トーゴ代表(上)

2009/10/16(金)

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スコットランド、トーゴ戦のマッチデープログラム


対トーゴ戦、5得点の評価


キリンチャレンジカップリンカップサッカー2009~ALLFOR2010!~
10月14日(宮城・宮城スタジアム)19:35
日本代表 5(3-0 2-0)0 トーゴ代表
得点者:岡崎(日5分、8分、65分)森本(日11分)本田(日85分)

 *両チームのメンバーはこちら


――森本貴幸岡崎慎司の2トップが実現しましたね。

賀川:いまの勢いを見れば、誰もが2トップを組ませてみたいと思うでしょう。
 長谷部誠、遠藤保仁、中村俊輔、中村憲剛のMFにこの2トップ、そして右に徳永悠平、左に長友佑都と配した先発メンバーを見ると、ちょっとワクワクしたでしょう。

――右サイドが内田篤人でなかったのは……

賀川:内田の体調もあっただろうし、こういうときに徳永を出しておきたいという(監督の)意図があったのだろう。FC東京の徳永は国見高校、早大のころから注目されていた。180センチで大きい方ではないが、小さくはない(内田は176センチ)。体も強い。長い疾走を繰り返すこのポジションの選手は試合中の交代にも必要になる場合もある。また、相手選手との相性もあって、違ったタイプがいてもいい。この時期に彼が登場するようになったのはいいことだと思っていますヨ。

――5-0と大量点になりましたが、トーゴ代表がワールドカップ(W杯)予選に負けた直後で気落ちしていたこと、アデバヨールをはじめレギュラーが来日しなかったことで、“喜びもなかばなり”という感じでした。

賀川:強化試合としてあまり役に立たない――という人もいたネ。マッチメークはそう易しいものではないが、もう少し頑張れる相手を選びたかったヨネ。来日してくれた選手たちにとっても、慣れない遠距離移動もあって大変だったハズです。


■サイド攻撃の狙い


――といって全く、5ゴールの評価はそれ相応のものがありますか?

賀川:キリンチャレンジカップ第1戦、対スコットランドの2ゴールが全て、右サイドの駒野友一からの速いクロスだった。これに見られるように、速いクロスを相手のゴールキーパー(GK)とDFラインの間に入れてそれに合わせるという攻撃を、ここしばらく代表は強調し、練習しているらしい。

――それも賀川さんのいうペナルティエリアすぐ外、あるいはせいぜい10メートルぐらいの外からのクロスというわけですね。

賀川:うーむ。今回は必ずしもそうではないが……

――2008年の欧州選手権(EURO2008)でスペイン代表が演じたペナルティエリア内での攻めが、小柄な選手の多いスペインらしくて日本でもこのやり方がいいという人も増えているそうですが。

賀川:それをいうなら、1940年代からすでにその傾向はあったヨ。私たちは少年の頃、ペナルティエリアの根っこ、つまりペナルティエリアの縦のラインとゴールラインとの接点へは外から入る、あるいは揺さぶってそこから仕掛けるのが一つの手法だったからネ。
そんな昔話はとにかくとして、いまの代表の狙いはそこまでペナルティエリアに近づかなくてもDFラインとGKの間にスペースがあればそこへ速いボールを送り込むというのが、とりあえずのテのようだネ。


【つづく】

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【Result】10月14日 日本代表 vs トーゴ代表

2009/10/14(水)

キリンチャレンジカップサッカー2009~ALLFOR2010!~
10月14日(宮城・宮城スタジアム)19:35
日本代表 5(3-0 2-0)0 トーゴ代表
得点者:岡崎(日5分、8分、65分)森本(日11分)本田(日85分)

【日本代表メンバー】
GK: 1川島永嗣
DF: 22中澤佑二(Cap.)4田中マルクス闘莉王、24徳永悠平→6内田篤人(46分)25長友佑都
MF: 10中村俊輔→21石川直宏(82分)7遠藤保仁→20本田圭佑(46分)14中村憲剛→15今野泰幸(69分)17長谷部誠
FW: 9岡崎慎司→13佐藤寿人(78分)28森本貴幸→16大久保嘉人(46分)
SUB:18西川周作、3駒野友一、26岩下敬輔、5稲本潤一、8松井大輔、

【トーゴ代表メンバー】
GK: 1ドジ・オビラレ(Cap.)
DF: 13セナ・マンゴ、5セルジュ・アカッポ、12ブサリ・アキンソラ、6アシミウ・トゥレ→3ジョナタン・トクプレ(78分)2マニエマ・タワリ
MF: 14サポル・マニ、8ギヨーム・ブレネール、10ユロージュ・アホディクペ→11ドヴェ・ウォメ(69分)
FW: 7リアベ・クパトゥンビ、18セルジュ・ガクペ
SUB:16オモル・ジャバカティエ

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10月10日 日本代表 vs スコットランド代表(4)

2009/10/14(水)

――さて、アジアカップ予選の対香港戦と、このキリンチャレンジカップの対スコットランドの2試合を見ての総まとめは?

賀川:岡田武史監督がオシムの後を継いで最初に日本代表の試合をしたのが2008年1月26日のキリンチャレンジカップ、対チリ戦だった。31試合(~オランダ遠征)をして、その中でFIFAワールドカップ・アジア3次予選6試合(4勝1分け1敗、得点12失点3)アジア最終予選8試合(4勝3分け1敗、得点11失点6)を勝ち上がって南アフリカ大会への出場権を握った。
 アジアの予選では一貫して速く組織的で運動量の多い攻守を心掛けてきた。そして守りではときに1対1の場面で防ぎ切れず失点し、攻撃はチャンスの作り方は良くなってきたがフィニッシュがまずいことがはっきりした。

――そこでメディアも各クラブのコーチも異口同音に「思い切ってシュートを」と叫び出した。

賀川:ボールを止める、正確で強いシュートあるいはコントロールシュートができるという基礎はともかく、代表もJリーグもゴールを狙う積極性が出てきた。少しずつ代表の得点力もアップしているように見えたが……

――9月にオランダに完敗しました。

賀川:まあ、その次のガーナ戦では、相手のコンディションもあったが4ゴールした。勢いのついた代表は、だからオランダ戦の無得点も自分たちで嘆くのでなく、いい勉強で、プラスにしようと考えた。

――スコットランドはオランダよりも弱くても、さらに上昇への足掛かりとなりましたか?

賀川:組織的なパス交換でキープすることと同時に、対スコットランドでは個々の仕掛けのドリブルやシュートの気配をちらつかせるドリブルというものの効果を見られるようになった。本田や森本たちが加わったことで、日本代表にも新たなバリエーションが少し増えた感じだネ。

――少しだけ?

賀川:まだまだ代表はよくなるだろう。選手たちも、いまサッカーが面白いときでレベルアップすると思いますヨ。


【了】

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10月10日 日本代表 vs スコットランド代表(3)

2009/10/14(水)

賀川:代表チーム全体としては、初のCDFフル出場の岩政に安定感があり、阿部勇樹もしっかりした守りを見せていた。徳永も相手のサイドからの突破に競り負けなかった。交代メンバーが入ってから、中村憲剛が今野とともにボランチに入り、ボールの回りがスムースになって、左の松井と右の本田というキープ力のある人の前に、それまでワントップだった森本が大久保と2トップの形になり、ボールタッチの回数が増えた。
 タイムアップ間際の2点目は、日本のGK川島からのロングボールを森本がDFとヘディングを競るところから始まった。相手陣25ヤードでの競り合いヘッドは相手DFが取った。が、ボールは今野がヘディングで前へ、相手側に渡ろうとしたのを
 (1)森本が鋭い速い動きで自分のものにし
 (2)中村に渡した。中村はこれを左の今野に
 (3)今野からさらに左の駒野へとパスがつながる。
 (4)駒野が短くドリブルして、中へ速いグラウンダーのパスを送ると、そこに森本がいた。
 (5)森本は左ポスト前ゴールエリアの手前にいて、ゴールに背を向けた形でこのボールを左で止めて右足でシュート
 (6)このシュートがDFの足に当たって転がったのが本田の足元へ。
 (7)彼は左足サイドキックでしっかりボールをとらえてゴール右ポストぎりぎりに蹴り込んだ

――反転シュートという、いつも話題にしているストライカーの技術が森本クンのところで出てきましたね。

賀川:得点の一つのチャンスはゴールを背にしているとき――と、前にも話しました。ことしのコンフェデ杯決勝で、ブラジルのルイス・ファビアーノ(セビリア)が後方からのボールを相手DFを背に止めて左足でシュートしてゴールしたのがブラジルの勝因の一つと語りもし、書きもしました。こういうプレーはストライカーとしては必須科目のプレーの一つですが、森本はごく普通にこういうシュートをすることもできることをみせたのです。彼のマーク相手でなく一つ下がったポジションにいたDFの足に当たってリバウンドし、それが本田のところへ転がっていったのが良かったのですが、こういう場面をつくれるようになってきたところに、日本の進化があるといえる。
 そう、このときの森本が、1点目と同じポジションでなく中村にボールを渡したあと、いったんファーポスト側へ動いておいて、駒野からのパスが来るときにはニアサイドへ入ってきているところも注目しておきたい。

――いったん消えて出てくるやり方ですね。
 試合後の岡田監督の談話で、色々ないい選手がいいプレーをするようになって、選手選出に嬉しい悩みが出てきたとありました。

賀川:そう、誰と誰が組めばどういう風になるか。私は森本や本田という新しい素材が入ってきたこと、2人とも個人的にキープとキックがしっかりしていることがとても嬉しい。そして、森本という、これまでになかった(大柄とはいえないが)CFタイプの体も技術もしっかりした若いFWが加わったことで、いよいよ日本のサッカーは楽しく強くなると思ったのです。もちろん、DFに岩政だけでなくもう一人くらい大型が欲しいのと、このFWの争いに平山相太が加わっていないことに、本人へというより日本サッカー全体への不満はありますがネ。

――中村憲剛がよく働いていましたが、得点できなかったことについても。

賀川:これは別の機会にしましょう。彼は自分で反省しているだろうが、俊輔も遠藤もいないこの日のメンバーでは、彼の仕事の比重が別の方にかかっただろうからね。
 なんといっても、日本代表の試合のやり方では体力の消耗が激しい。いくら練習を積んでも、その日の調子の問題もあるので、試合中の選手交代も大切だし、ひとつの短期間の大会では途中でメンバーを大幅に変えなければならないときもある。だからいまはどれだけのトップクラスが互いにどれだけ相互理解をするかが大切。そのために、一つの試合や合宿によって「あうん」の呼吸のパスや守りができるメンバーが増えなければならないのですヨ。

――その意味で、このキリンチャレンジカップはいいチャンスですね。

賀川:そう、もうひと試合、仙台でのトーゴ戦があるからね。


【つづく】

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10月10日 日本代表 vs スコットランド代表(2)

2009/10/13(火)

――日本の2ゴールは……

賀川:1点目も2点目も森本の仕掛けで始まったのが面白かった。

――ふーん。

賀川:このゴール(82分)の1分前に、代表チームに選手交代があった。稲本潤一を駒野友一に代えた。

――稲本はキャプテン章を腕につけて、この試合ではずいぶん頑張っていました。

賀川:彼はガーナ戦(9月9日)とこの試合で日本のサポーターにも稲本復活を印象付けた。この試合でも良かったが、疲れが見えはじめていた。試合後の話では足がつりそうになっていたらしい。それを見て監督は稲本をひっこめた。ボランチはそれまで左DFだった今野泰幸をあて、左サイドに駒野を置いた。すでに右サイドは内田篤人を徳永悠平に代えていた。同時に橋本英郎大久保嘉人に代わっていた(65分)。この辺りが、交代プランをよく考えているという感じだった。81分の駒野の登場は明らかに、駒野からのクロスという戦術的な目論見(もくろみ)があったハズ。

――そういう布陣で、左サイドの相手スローインのボールを奪って森本がドリブルを始めた。

賀川:左タッチ際で松井が自分のミスでスローインにしてしまった。この相手のスローインを松井と森本とで奪って、
 (1)森本が外から内へ向かってドリブルし
 (2)ペナルティエリア左角から少し中央へ寄ったところで突破できないとみてゴール正面25mの本田にパスした
 (3)本田はパスを受け、ちょっと右への小さなフェイクのあと、左へボールを動かしてシュートの構えに入ろうとしたが、相手の一人に体を寄せられ、その背後にも2人のDFがいたからシュートを諦めて左へパスを出す

――森本が外から内へドリブルして、今度は本田が中央から左へシュートチャンスを狙う……。エリアすぐ近くの攻防の面白いところですね。

賀川:もちろん実際はほんのわずかな時間のことだが、2人の仕掛けに対してスコットランドのDFが防ぎに入る――。サッカーの一つのスリルですヨ。
 そして、このシュートチャンスは無理とみて本田が左外へ一度ボールを散らす。

――そこに駒野がいるわけだ。

賀川:そう。駒野はこれをペナルティエリア左外7~8m、ゴールラインから12~13m辺りで左足のダイレクトで蹴った。

――サイドからの速いボールということですね。

賀川:この前に、本田にパスを送った森本は、本田が中央から左へ流れているうちに左前から中央へ、さらに少し右へとボールを見ながらポジションを移していた。テレビのリピートをスローで見ると、ボールが駒野に渡る前に森本は手を挙げて駒野に自分のポジションを知らせている。

――駒野は狙ったのかな

賀川:駒野がボールを少し浮かそうとしたのをみれば、森本へ届かせようと思ったかもしれない。しかしボールは高くは上がらず、低いライナーでゴール前を通った。それを防ごうとDFクリストフ・ベラが足で止めようとしたが無理だった。足に当たってボールはゴールに飛び込んだ。

――テレビの解説ではセルジオ越後さんが、ベラは背後に森本が来ていることを知って、防ごうとしたんだろうと言っていましたよ。

賀川:そうだろうね。スローで森本が手を挙げたあたりから、そのマーク役であるCDFの彼は森本の気配は察知していただろう。
 森本がゴール前を、本田のドリブルの方向とは逆にスタスタという感じで右へ開いていったところが、やっぱりなぁ――という感じがした。いいポジションへ入ってチャンスを待つというのが、このCFタイプのストライカーの一つの条件だからね。

――オウンゴールではありましたが、森本が仕掛けて、最後のチャンスにも顔を出そうとしたところに賀川さんは森本の存在感を見たわけですね。


【つづく】

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10月10日 日本代表 vs スコットランド代表(1)

2009/10/12(月)

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試合会場では、売店のドリンクカップも大会仕様


キリンチャレンジカップサッカー2009~ALLFOR2010!~
10月10日(神奈川・日産スタジアム)19:21
日本代表 2(0-0 2-0)0 スコットランド代表
得点者:オウンゴール(日 82分)本田(日 90+分)

 *両チームのメンバーはこちら


――森本、良かったですね。キリンチャレンジカップ第1戦の次の日の新聞の見出しは森本貴幸(もりもと・たかゆき)でした。

賀川:横浜スタジアムに集まった6万1,285人の観客のほとんども、彼に期待していたのだろう。56分(後半11分)に前田遼一と交代で森本の名が告げられたとき、すごい歓声が上がったからネ。

――賀川さんがわざわざ腰の痛みをおして芦屋から出かけたのも、ナマの彼を見るためだったんでしょう?

賀川:日本代表の試合のなかでも、10日の試合は大切なものになると思っていた。森本のプレーを私は残念ながらこれまでナマで見ていない。映像でもほんのチラリ程度だった。ただし、そのチラリでも、彼が左足でシュートする場面はとても魅力的だった。体がしっかりしていて足の振りが速い。180センチで特別に大きい方ではないが、いまの多くの日本代表のFWと比べると上背もある方だ。それに動きが速い――ということもあって、ぜひナマで見たいと思っていた。

――で、良かった?

賀川:試合に出た時間は30分少々だったが、良かったネ。岡田武史監督は運がいいと思った。10年以上も前になるが、ナマの中田英寿を大阪の長居で初めて見た(97年6月15日、キリンカップサッカー97第2戦1-0トルコ)とき、これで日本代表はフランス・ワールドカップに行けるだろうと思ったのと同じ感じですヨ。あのとき、中田は中盤の軸になるだろうと思った。
 そのころから日本はMF陣に人材が集まるようになった。いまの代表もMF陣はなかなかのものだが、FW難――とくにむかしでいうセンターフォワード(CF)タイプ――が続いてきた。そこへ森本貴幸が現れたということだ。

――30分間でそんなに良い印象ですか。

賀川:本当のところは、もっと長く見たかった。野次馬的に言えば、岡田監督に「出し惜しみしないでよ」と言いたいところだが……。

――監督には監督の都合や手順が……

賀川:もちろんだ。アジアカップは公式試合だから、香港とは力の差はあると知っていても、やはりキッチリと勝っておきたいこともあるだろうし、2戦目にこれまでの控えのメンバーを主に出場させて、3戦目の対トーゴで本番のMF陣と新しい攻撃プレーヤーの組み合わせを考えたのだろう。

――岡田監督のことはよくご存じですからね。

賀川:思い切りもいいが、非常に綿密に練って考えるようだからね。まあ私とすれば、横浜で30分間であっても見せてもらったのがとても良かったヨ。
 10月10日は1964年の東京オリンピック開幕の日。それを体育の日という祝日にしていたが、私にもこのキリンチャレンジカップの日は12年前の6月のキリンカップで中田を見た嬉しさに匹敵する。

――2得点に絡みました。

賀川:日本代表の2得点とも、試合の終盤だった。

――コメンテイターの中に、相手の動きが落ちてきたからだと言っている人がいました。

賀川:そのとおり。それに違いないが、とにかくゴールはゴール。いくらベストメンバーでないといってもスコットランド代表で、少なくとも香港よりは上。長旅の疲れやW杯予選を戦った(結局は本大会には出場できないが)主力が6人欠けた――ということはあっても、ここのプレーヤーは真面目に、懸命にプレーをする。その点はまことに素晴らしい。その彼らを相手に、いわば日本代表のリザーブメンバーに途中から森本を入れたチームで2-0で勝ったのは立派なものですヨ。


【つづく】

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【Result】10月10日 日本代表 vs スコットランド代表 ほか

2009/10/10(土)

キリンチャレンジカップサッカー2009~ALLFOR2010!~
10月10日(神奈川・日産スタジアム)19:21
日本代表 2(0-0 2-0)0 スコットランド代表
得点者:オウンゴール(日 82分)本田(日 90+分)

【日本代表メンバー】
GK: 1川島永嗣
DF: 2阿部勇樹、12今野泰幸、15岩政大樹、6内田篤人→24徳永悠平(65分)
MF: 27橋本英郎→16大久保嘉人(65分)5稲本潤一(cap.)→3駒野友一(81分)14中村憲剛、21石川直宏→8松井大輔(65分)20本田圭佑
FW: 19前田遼一→28森本貴幸(56分)
SUB:23山本海人、4田中マルクス闘莉王、26岩下敬輔、10中村俊輔、7遠藤保仁、13佐藤寿人

【スコットランド代表メンバー】
GK: 1クレイグ・ゴードン
DF: 13クリストフ・ベラ、5ガリー・コルドウェル、4スティーブン・マクマナス(Cap.)3スティーブン・ホイッテカー、15リー・ウォレス
MF: 10チャールズ・アダム→6スティーブン・ヒューズ(67分)8グラハム・ドランズ、18ロス・ウォレス→19ドン・コウィ(46分)11ロス・ウォレス→16デレク・リオーダン(74分)
FW: 17リー・ミラー→9スティーブン・フレッチャー(46分)
SUB:21ジェイミー・ラングフィールド、12デービッド・マーシャル、14ダレン・バー


AFCアジアカップ2011カタール予選
10月8日(静岡・アウトソーシングスタジアム日本平)19:20
日本代表 6(2-0 4-0)0 香港代表
得点者:岡崎(日 18、75、78分)長友(日 29分)中澤(日 51分)闘莉王(日 67分)

【日本代表メンバー】
GK: 35西川周作
DF: 3駒野友一→36徳永悠平(60分)4田中マルクス闘莉王、22中澤佑二(cap.)25長友佑都
MF: 7遠藤保仁、10中村俊輔、17長谷部誠、
FW: 11玉田圭司→8松井大輔(33分)16大久保嘉人→27佐藤寿人(75分)33岡崎慎司
SUB:23川島永嗣、5稲本潤一、15今野泰幸、57本田圭佑

【香港代表メンバー】
GK: 28張春暉
DF: 2李志豪、24鄧景煌、30高尼路(Cap.)32沈國輝→5利偉倫(53分)
MF: 12盧均宜、23林嘉緯→21李威廉(69分)29李康廉、35白鶴
FW: 7陳肇麒、26巣鵬飛→6高文(46分)
SUB:27葉鴻輝、13張健峰、25黄展鴻、8徐德帥

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【Preview】10月10~14日 日本代表 vs スコットランド、トーゴ代表(下)

2009/10/08(木)

キリンチャレンジカップ2009 ALL FOR 2010!
10月10日19時20分キックオフ(神奈川・日産スタジアム)日本代表 対 スコットランド代表
10月14日19時30分キックオフ(宮城・宮城スタジアム)日本代表 対 トーゴ代表


――賀川さんはいつも、岡崎慎司と中村憲剛に期待をかけているフシが見えますが?

賀川:岡崎は上背はともかくヘディングが上手だし、ニアへ飛び込んでゆくのが強い。足のシュートも練習すればまだ上達しますヨ。インサイドを使うのとインステップで蹴る使い分けがしっかりできるといいのだが……。飛び込み型で走り込んでのシュートのときにも体が崩れない強さがあるのがいい。

 中村憲剛はプレーヤーとしての充実期のいま、点を取る意欲が湧き、そのためどこへ走り込めばよいかをつかんできた。
 シュートの型を若いうちに身につけた――というわけではないが、何でも出来るプレーヤーだから、この位置ならこの形で蹴れば入る――とつかんでしまえばそこでのシュミレーション、反復練習で腕は上がる。

――本番の9ヶ月前でも、上手になると。

賀川:サッカーマガジンをはじめ多くの雑誌やテレビでの選手たちのインタビューを見聞すると、多数のプレーヤーがシュートの練習をはじめとする技術力アップや体力アップに取り組もうと言っているようだ。本番が近付いてからのレベルアップは、日本代表の成功例にいくつかあるけれど、私は1968年のメキシコ・オリンピックの本番の9ヶ月前に釜本邦茂が西ドイツのザールブリュッケンへ留学し、ユップ・デアバル・コーチのマンツーマンの2ヶ月の指導で一気に開花したのを見ている。
 メキシコ五輪の銅メダルは高度対策をはじめ周到な準備と監督コーチ、選手たちの全員の頑張り、それをサポートしたJFAということになるが、そうした全体の努力があってもなおかつ、釜本邦茂のズバ抜けた得点力が必要だったことは、多くの人の認めるところだろう。その釜本は本番9ヶ月前にステップアップしたのですヨ。

――もともと、天性のストライカーという話でしたが……

賀川:もちろん彼は稀に見るゴールゲッターの素材だった。右も左もシュートできた。トラッピングも自ら工夫して上手になっていった。しかしそうしたいくつかの技術が組み合わされ見事にまとまって、シュートを成功するようになってゆく。その動きのスピードやまとまりの良さなどが一段上に上がった。
 彼はこのステップアップのあと、あの5月の対アーセナル戦のスーパーゴールをはじめヨーロッパ遠征でプロの強チーム相手に点を取るようになって、チームの仲間から信頼を得たのですヨ。

――一番の点取り屋が国際クラスになったのは大きいですネ。

賀川:いまの代表に釜本がいるかといえば、彼のようなタイプのFWはまだ現れていない。しかし、本田圭佑は左足でボールを叩くことに関しては高校を出て名古屋グランパスに入ったときからすでに出色だった。オランダに行ってからパスだけでなくシュートすることを覚えて実体をつかんできた。
 森本は動きのスピードという点で本田の頑健とはまた違ったものを持っている。そしてシュートそのものはイタリアでも注目されている選手です。
 彼らがこのチームの中でどうすれば有効に働き、自らの特色を生かして、またチーム全体に貢献するかも、このシリーズで見えるでしょう。

――いままで頑張ってきたFWたちの進化と本田や森本という新しい選手への期待がふくらみますね。

賀川:1968年の古い話を持ち出したけれど、サッカーというのはいつの時代にもゴールを奪わなければ勝てないですからね。この秋の日本代表の3試合、とくにスコットランドトーゴといったレベルの高いチームと戦う試合で、誰が、どのようなプレーを見せるかを、とても楽しみにしています。


【了】

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【Preview】10月10~14日 日本代表 vs スコットランド、トーゴ代表(上)

2009/10/07(水)

キリンチャレンジカップ2009 ALL FOR 2010!
10月10日19時20分キックオフ(神奈川・日産スタジアム)日本代表 対 スコットランド代表
10月14日19時30分キックオフ(宮城・宮城スタジアム)日本代表 対 トーゴ代表



――28人の選手を選んでの日本代表は8日からの1週間、3試合を戦います。イタリアでプレーしている森本貴幸(カターニャ)やオランダで活躍中の本田圭佑(フェンロ)も加わっていますね。

賀川:中村俊輔(エスパニョール)稲本潤一(レーヌ)松井大輔(グルノーブル)長谷部誠(ボルフスブルク)も呼んでいる。

――GKも楢崎正剛の故障もあって、山本海人清水西川周作大分)の2人を入れています。

賀川:ワールドカップ(W杯)まであと9ヶ月だから、せっかくのチャンスに監督としては選手たちの特徴や彼ら同士の組合せを見ておきたいのだろう。試合に出なくても、練習を一緒にするだけでも見るところはあるハズですヨ。

――私たちファンにとってはアジア予選を突破してきたチームに新しく誰が加わるのか、それによってチームがどう進化するのかを見たい。

賀川:そうですネ。岩政大樹はまだ代表でAマッチを戦っていない。鹿島で実績を積んだ実力者だが、今度のチャンスで実際にプレーするだろう。中央に大型ディフェンダーの数が少ないのが気になっていたのだから……。

――DFには今度は清水の岩下敬輔が入っています。

賀川:チームワークを大切にする日本のディフェンスは、新しい顔を加えるのに慎重になるだろう。いつも言っているように、岡田武史監督のもとで、初めて大型(185㎝以上)の2人のディフェンダーが定着したのだが、試合日程を考えるともう二人では厳しいハズだ。

――Jリーグで得点王争いの上位に顔を出しているストライカーが選ばれています。

賀川:オシムさんが病に倒れて岡田監督に代わってから、キリンカップ(キリンチャレンジカップを含む)10試合、東アジア選手権3試合、アジアカップ予選2試合、W杯予選14試合、オランダ遠征2試合の合計31試合を戦ってきた。
 これまでの日本代表の伝統的な戦いの上に、岡田監督は一段と動きの量を多くすることを心掛けていた。ゴールを奪うためのパスワークも良くなってきた。あとは点を取るだけで、それについてもまず、代表の攻撃陣に入った選手たちがゴールを奪うことに積極的になってきたのが目立っている。
 そして彼らのそうした勢いがいまのJでの得点ランキングに日本人選手の名が多くなった理由ともいえる。

――さて、それが本番でどういうことになりますか……

賀川:本番の前に、キリンチャレンジカップやアジア選手権の試合で自分たちの攻撃力を確認するのはとても有益ですよ。

――賀川さんは、シュート力アップ、得点力アップに割合、楽観的に見えます。

賀川:「ゴールが見えたら打て」と言ったのは、1922~24年に日本の学生たちを教えたビルマ(現・ミャンマー)人のチョウ・ディンの話です。昔から、点を取ろうと思わなければ――言い換えれば、シュートをどんどん打ってゆかなければ、ゴールは奪えません。石川直宏東京)がことし点を取っているのも、これまでタッチライン沿いに走って中へクロスを送っていたのを、中へ切れ込んでゴールに向かってシュートをするようになったからです。

――それが得点力アップに。

賀川:彼は縦に走って横に蹴るクロスはそれほどうまくはなかった。いわば“彼の”キックの角度は、一番低い球を蹴る角度も、もっと浅いもの。つまり、持ち込んでのシュートに向いている。そこで一気に開花したのだと思いますよ。しばらくJでの得点が足踏みしていたが、また決めるようになっている。シーズン初めの頃の思い切りの良さが戻ってきている感じに見える。


【つづく】

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5月31日 日本代表 vs ベルギー代表(4)

2009/06/06(土)

最終予選6月シリーズに向かって代表全員が一つのチームに――(4)

リンカップサッカー2009 ~ ALL FOR 2010! ~
5月31日(東京・国立競技場)19:24
日本代表 4(2-0 2-0)0 ベルギー代表
得点者:長友(日 21分)中村憲(日 23分)岡崎(日 60分)矢野(日 77分)


―――後半の2得点はサイドからの速いクロス、右から左からと絵にかいたようなゴールでした。

賀川:60分(後半15分)は橋本-本田-内田-大久保と右でつないで、大久保からの低いクロスが飛び、ニアへ岡崎が飛び込んだ。これは、ベルギーが攻めて、右寄り30メートルのFKがあって、相手のキックをGK楢崎正剛がキャッチしてからの攻めの続きだった。
 この攻めはいったん左タッチに出て、そのスローインから中央の橋本に渡り、橋本が右に振ってタッチラインから本田が内へドリブルし中にいる内田へ、その内田から右外の前方にいる大久保へとボールが回り、大久保が低いライナーをゴール前へ送った。
 14番のDFアルデルウェイレルドの前(ニアサイド)に岡崎が低い姿勢で飛び込んでヘディングした。ビデオのリピートを見たら、さすがに大久保はしっかりボールを注視して、カーブをかけて蹴っていた。

――大久保はアシスト2本です。

賀川:こういうプレーは上手だからネ。77分(後半32分)の4点目の後で、相手GKの蹴ったボールに当たって倒れるといった災難もあったが…

――4点目は70分に岡崎と交代で入った矢野貴章が決めました。

賀川:このゴールは、本田が倒されたFKから橋本が短く前に出し、本田が受けて得意のスタンディングキックでスルーパスを送り、長友が相手側ペナルティエリア外ギリギリ、ゴールラインから5メートルで速いクロスを送り、ファーサイドから走り込んできた矢野がDFにスピードで勝ってスライディングシュートで決めたものだった。

――これで2戦続けての4得点、キリンカップ3連覇を達成した。それで、ウズベキスタン戦は? となりますね。

賀川:もちろん、キリンカップの優勝、2試合で8ゴールを決めたことが直接ウズベキスタンの試合に当てはまるかどうかは別の話。しかし、岡田監督はキリンチャレンジカップやキリンカップなどを経て、昨年の11月から半年かかって岡崎慎司というFWを代表の一人に育て上げた。岡崎だけでなく、自分の特徴を出せるプレーヤーが増えてきて、代表チームの層は厚くなっているといえるだろう。
 そして、得点力不足といわれていたなかで、ともかくも、チームとしてゴールを奪うためのパスコースの設定やタイミングの取り方、それぞれの選手の得意な技の組み合わせが形となって表れてきた。あとは高い目標を実現するために、選手たちが自分たちの力を出し尽くすことだと思う。
 予選突破はもちろん、来年の本大会に向けて、これからまだまだ選手たちは上手になり、強くなると思っている。

――俊輔は大丈夫ですかね?

賀川:いまやどの選手も代表には欠かせぬプレーヤーだが、俊輔は何といっても実績からいっても実力から見てもチームの柱といえる。彼自身が自分の体調を考え、プレーするだろう。

――まずウズベキスタンからの朗報を待つことにしましょう。

賀川:最後に、余計なことだが…。何しろアウェー、何が起こるか分からない。もしここで決まらなくても、まだ後があるわけですヨ。余裕を持って、強く戦ってほしいネ。


【了】


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5月31日 日本代表 vs ベルギー代表(3)

2009/06/05(金)

最終予選6月シリーズに向かって代表全員が一つのチームに――(3)

リンカップサッカー2009 ~ ALL FOR 2010! ~
5月31日(東京・国立競技場)19:24
日本代表 4(2-0 2-0)0 ベルギー代表
得点者:長友(日 21分)中村憲(日 23分)岡崎(日 60分)矢野(日 77分)


―――2分後の23分に2点目、中村憲剛が決めました。

賀川:中村憲剛の第2列からの“飛び出し”の成果を多くのファンも見たいと思い、監督も考えているのだろう。チリ戦でも彼はシュートもしたし飛び出しもあったが、シュートそのものは感心しなかった。

――この得点は文句なしでしたね。

賀川:これは日本側がいったん自陣深くへバックパスしたあと、闘莉王中澤のパスのやり取りから、闘莉王が左へ開いた大久保へ長いパスを送った。

――大久保がフリーで取りました。

賀川:ベルギーは20分間バンバン攻められながらなんとか無失点できたあと、21分に奪われた。少しガッカリしたかもしれない。どこでプレスをかけるのかも曖昧になっていた。(1)闘莉王のパスの出し方が上手だったこともあって、大久保がノーマークで受けた。そのとき岡崎が中央の2人のCDFの間にいた。
(2)大久保が内へターンした外の左タッチ際を長友が前進していた。
(3)大久保は中村憲剛の動きを視野に入れていたのだろうか、顔はもっと内側に向けていて、巧みなフェイクとタイミングでパスを前方に流し込んだ。
(4)憲剛はペナルティエリアに入ったところやや左寄りでボールを取った。右足のアウトでの深い切り返しが効いて追いつくのに精一杯だった相手は大きく離れてしまう。
(5)中へ持ち込んで蹴った位置は憲剛の“角度”だったから、ボールはニアポストぎりぎりに転がり込んだ。

――勝負アリ、ですね。

賀川:前半23分でネ。力が違うことは、やっている日本選手は体で感じている。点差が2になったとなれば誰もが一息つきたくなる。2点目から前半が終わるまでシュートは3本だけだった。

――後半は中村俊輔を休ませ本田圭佑を入れ、長谷部誠に代えて橋本英郎を登場させました。

賀川:俊輔は故障や疲労を考えてのことだろう。前半でも段違いのプレーを見せていた。長谷部も、チリ戦同様にしっかりしていたが、もう出来ることが分かっているから、本番でのことを考えて橋本を起用したのだろう。橋本は後半いいパスを出し、相変わらず流れの中でのうまいプレーを見せたからね。

――ハーフタイムに監督が雷を落としたとか…

賀川:試合後の記者会見で、岡田監督は25分を過ぎて動きが落ちたことを厳しく言ったそうだ。面白かったのは、ベテランの記者が、「スタートから息もつかせぬ勢いで攻め立て、なかなか点につながらなかったのが2-0となった。選手たちの動きが落ちるのも自然のように思うが――」と訊ねたら、監督は「相手は中一日で戦っている。こちらは休養十分なのだから前半のあの程度のことで調子が落ちるのは許せない。そういうところをちゃんとやれるチームだと思っているから、ハーフタイムにも厳しく言ったのだ」と返していた。

――それだけ望みが高いということですね。

賀川:後半また動きが速くなって、雨で滑る芝のおかげと、チーム全体がパスを速くすることを考えたせいで、この日は全体にパスにスピードがあって見た目にもとても良かった。いつもヨーロッパの試合のテレビを見ると、日本とパスの速さの違いを思うのだがネ…。


【つづく】


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5月31日 日本代表 vs ベルギー代表(2)

2009/06/04(木)

最終予選6月シリーズに向かって代表全員が一つのチームに――(2)

リンカップサッカー2009 ~ ALL FOR 2010! ~
5月31日(東京・国立競技場)19:24
日本代表 4(2-0 2-0)0 ベルギー代表
得点者:長友(日 21分)中村憲(日 23分)岡崎(日 60分)矢野(日 77分)


――岡崎慎司が点を取りましたね。

賀川:後半15分(60分)の、右からのクロスをダイビングヘディングで決めたチームの3点目だね。彼らしいいいゴールだったが、私はこの日の先制ゴールに岡崎の良さが表れたと思っている。

――たしか、中村憲剛が左の長友佑都にパスをして、長友がダイレクトシュートをニアに蹴り込んだのでした。

賀川:21分のこのゴールは、日本のDFの間でボールを動かしておいて、
(1)田中マルクス闘莉王が左サイドの中村憲剛へパス
(2)受けた憲剛は右斜め前へドリブルして岡崎の足元へ
(3)岡崎はこれをすぐ左の大久保へ渡した
(4)大久保がトラップをして、潰しにくる相手DFをかわそうとする
(5)そのボールをDFのアルデルウェイレルドが取ろうと前に出ようとしたとき
(6)すぐ近くにいた岡崎が体を入れてそのボールを自分のものにし、
(7)横へ移動してきた憲剛へ短いパスを送った
(8)ペナルティエリアいっぱいでこのボールを受けた憲剛は、一つ止めてそれをエリア内、左サイドへ侵入してきた長友にパス
(9)長友がニアサイドにズバリと決めた


■ゴール前で潰れる・潰す効果


――クロスを予測したGKスティーン・スティーネンの逆をとった、見事なシュートでしたね。

賀川:ビデオを見ると、解説の城彰二がそう言っていた。彼はストライカーだからね。そう、やはり解説の武田修宏も、岡崎が粘って取ったところをちゃんと説明していた。専門家だけあってしっかり見てくれているわけだが、私はこの相手ボールになりかけたのを体を入れて奪い返したところに、岡崎慎司というFWの本質があると思う。大久保の“切れ味”に比べると華やかさはないが、接触プレーに強く、ポストプレーのときでも少々のプッシングでは倒れない。このときも、姿勢を低くして腰を入れ、持ち堪えてボールを取ったからね。

――賀川さんがいつも言っている、多数防御を破るテの一つですね。

賀川:相手DFのやろうとしたプレーを潰したから、ペナルティエリアから5~3メートル辺りでの大久保、岡崎と相手の2人のDFの絡み合いにベルギーはさらに2人、DFが寄ってくる。取れるという感じになったから、第2列の選手たちは戻らない。だから岡崎が奪ったときには中村とその左の長友もフリーになっていた。中村にボールが出て、慌てて戻る相手MFを尻目に中村から長友にボールが渡ったときは全くのフリーだった。

――それまで速いパスと動きで「これは」というチャンスがありましたが…

賀川:この21分の長友のゴールまでに、11本のシュートと6本のCKがあった。8本がゴール枠内に飛んだが、GKに防がれたり、相手選手に当たったりした。見た目にパスがスムースに回ってシュートになったのが入らなくて、一度絡まれて、奪い返したのが先制ゴールになるのだから。この面白さについては、サッカー好きの間でしばらく話題になるだろう。

――もちろん、相手DFの強さにもよるのでしょうが…

賀川:相手のCDF(セントラルディフェンス)がカンナバーロであれば、そこで岡崎がボールを取れたかどうか、また、取ったあと、ベルギーのDFは離れてしまった――日本のDFも、局面で一度取り合いを演じたあと相手から体を離すという、気になる傾向がないでもない――が、カンナバーロなら取られたあとも追い詰めてくるだろう。
 ベルギー側は疲れもあっただろうが、長友も矢野も走る速さで勝っていたところが、いまの日本サッカーの一面を表していた。だから試合での成果を論じるときに相手のレベルが問題になるのは当然だが、とりあえず私は日本代表のFWにこういうプレーができるようになり、それを自分の普通の仕事として演じられるFWが出てきたということが嬉しい。もちろん、このチャンスでそれぞれ、各選手がいいポジションをとって役割を果たしたことは、チーム力の進歩としてとてもいいことだ。


【つづく】


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5月31日 日本代表 vs ベルギー代表(1)

2009/06/03(水)

最終予選6月シリーズに向かって代表全員が一つのチームに――(1)

キリンカップサッカー2009 ~ ALL FOR 2010! ~
5月31日(東京・国立競技場)19:24
日本代表 4(2-0 2-0)0 ベルギー代表
得点者:長友(日 21分)中村憲(日 23分)岡崎(日 60分)矢野(日 77分)

【日本代表メンバー】
GK: 1楢﨑正剛
DF: 22中澤佑二(Cap.)4田中マルクス闘莉王→5山口智(74分)15長友佑都、6内田篤人
MF: 10中村俊輔→19本田圭佑(46分)7遠藤保仁→2阿部勇樹(62分)14中村憲剛→13興梠慎三(67分)17長谷部誠→27橋本英郎(46分)
FW: 16大久保嘉人、9岡崎慎司→12矢野貴章(70分)
SUB:18都築龍太、23川島永嗣、3駒野友一、20今野泰幸、21槙野智章、25香川真司、24山田直輝、11玉田圭司

【ベルギー代表メンバー】
GK: 1スティーン・スティーネン
DF: 14トビー・アルデルウェイレルド、5セバスティアン・ポコニョリ→9イエル・ボッセン(69分)3ティミー・シモン(Cap.)6ヒル・スウェルツ、4トマス・ベルメーレン
MF: 7ファリス・ハルン、13ケビン・ローランツ→18ムッサ・デンベレ(82分)17リッチー・ドゥラート
FW: 10マールテン・マルテンス、15ビア・ムヤンジ→11ステイン・フイセヘムス(62分)
SUB:12オリビエ・ルナール、21ブライアン・バンデンブッシェ、2フィリップ・ダームス、8ヨアヒム・ムヌンガ、16リッチー・キトコ、19ラジャ・ナインゴラン


――4-0、チリ戦に続いての快勝で、2戦2勝の優勝ということですね。ワールドカップ(W杯)のアジア最終予選の6月シリーズに向かうためにも良い準備になりましたね。

賀川:チリは1対1で厳しく競り合いになるのがいい経験だろうと見ていた。攻撃的に来てくれて、そのためにこちらの攻撃も効果が表れて4-0という試合結果が生まれた。ベルギーは守りを厚くしてカウンター狙いになるだろう――その多数守備からどうして得点するかが課題になる。誰もがそう予想していたことでしょう。

――その厚い守りから4ゴール奪ったということですね。

賀川:ボールがよく動いて、選手たちもよく走ったからネ。

――相手が弱かったから、本番の準備としてはどうか? という声もあるようですが…

賀川:ベルギーは1904年にFIFA(国際サッカー連盟)が設立されたときのファンディングメンバーで、W杯でも1986年メキシコ大会でベスト4に入ったこともある。前回の対談でもふれたとおり、2010年大会の予選では4位と不振、来日したメンバーはその代表のレギュラーというわけではない――まぁ、いまの日本代表から見ればそれほど難しい相手ではないと見ていた。

――それでも、試合をした価値はありましたか。

賀川:もちろんですヨ。相手が強くても弱くても、幅7メートル32、高さ2メートル44のゴールの大きさは変わりないのだから…。この枠の中へボールを入れる、それを4回も成功したのだから、値打ちはあります。
 一般的にいって、相手のプレッシングが強く厳しければチャンスをつくるための最初のボールポゼッションが難しくなり、相手のエリア付近での組織的な守りが上手で、また一人ひとりの守備能力が高ければ、チャンスをつくることも、チャンスに得点することも難しい。また、ゴールキーパーが難攻不落のように見えるほど調子が良ければ、それだけでも点を取るのは難しくなる。本番前の試合である以上、本番のためにこういうことを経験しておきたいという希望もあるでしょうが、相手側にも代表チーム構成については問題もあるでしょう。こちら側とすれば、まず自分たちがどういう意図でプレーするかということが大切になってくる。

――最後まで動きが止まらなかった点や、トップ下でプレーした中村憲剛が“飛び出し”でゴールに絡み、自らも奪ったこと、また、サイドからの早いクロスで得点したことなどは良かったということですか。

賀川:そうそう、その通りですよ。まず、チーム全体に、岡田武史監督のいう守から攻への切り替えの早さ、そのためにも足を止めるな――という動きの量も質も少しずつ上がってきていること、そしてゴールへの意欲が強くなっていることなどがプレーに表れていた。


【つづく】


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5月27日 日本代表 vs チリ代表(3)

2009/05/30(土)

代表チームを勢いづける4-0の快勝(下)


キリンカップサッカー2009 ~ ALL FOR 2010! ~
5月27日(大阪長居スタジアム)19:35
日本代表 4(2-0 2-0)0 チリ代表
得点者:岡崎(日 20、24分)阿部(日 52分)本田(日 92+分)

――日本の“代表力”は上がりましたか?

賀川:上がっているでしょう。ただし、この試合が4-0であったことをそれほど私は喜んではいない。チリが攻撃的に来てくれたことで、こちらのチャンスも増えた。もしチリに98年のイバン・サモラーノマルセロ・サラスといったクラスのFWがいれば、長居の試合は先に点をとられたかもしれない。そうなるとまた形勢も変わったものとなっただろう。今回は、いろいろな意味でいい相手だった。

――しかし、4ゴールは4ゴールです。

賀川:そう、4点というのはゴールの枠の中へ4度ボールを入れることだから、それは大いに誇っていい。ベルギー戦には中村俊輔が加わるだろうが、相手がどのような出方をするかも面白い。そして、ベルギー戦を経てウズベキスタンへ乗り込むことになる。


■強気でしかも慎重に本番へ


――ここでしっかり勝って、グループ2位の確保、本大会の出場権を獲りたいですね。

賀川:アウェーの本番試合は厳しいものになるだろうが、しかし、そういう今後のことを考えてもいろいろな不満もあり、不安もないではないが、ともかくキリンカップの第1戦で勢いのあるプレーをして勝ったことは、いまのサッカー全体のために良いことだ。
 若い選手もベテランも、日頃(代表で)控えであった選手たちが力を発揮してみせたのは、彼らにも、サポーターにも嬉しいことだった。

――最後に、香川選手はどうでした?

賀川:時間は短くて真価発揮とはゆかなくても、J2でも少し“仕掛け”が早くなってきているように見える。山田といういい刺激もあっただろうしネ――。


【了】


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5月27日 日本代表 vs チリ代表(2)

2009/05/29(金)

代表チームを勢いづける4-0の快勝(中)


キリンカップサッカー2009 ~ ALL FOR 2010! ~
5月27日(大阪長居スタジアム)19:35
日本代表 4(2-0 2-0)0 チリ代表
得点者:岡崎(日 20、24分)阿部(日 52分)本田(日 92+分)


■“場”で出来た長谷部


――ブンデスリーガ・チャンピオンのボルフスブルクで働いた長谷部は?

賀川:前のキリンシリーズのときにも語ったハズだが――
 27日の長谷部はグラウンドで大きく見えていた。いわゆる“場(ば)”で出来たということだね。バイエルン・ミュンヘンをはじめとする名だたる強チームを抑えてブンデス王者になった。そのチームでしっかり働いたことが、体に備わっていた。だから局面局面でも余裕があった。


■新時代の申し子たち


――玉田圭司が足を痛めて交代したのが、なんと18歳の山田直輝でした。

賀川:浦和でのプレーをテレビで見ていたから驚きはしなかった。18歳といえば大迫勇也たちと同じだから、私たち戦前戦中派の感覚でゆけば、いまの高2が旧制中学の5年生、高3は昔の大学予科1年。したがって山田クンや大迫クンは大学予科2年にあたる。ベルリン・オリンピック(1936年)のCFで逆転劇の口火を切るシュートを決めた川本泰三は早稲田の予科2年のときに全東西対抗の東軍に出場してゴールしているから、決して早すぎることはない。ペレは17歳でW杯のブラジル代表で大事な試合のゴールを決めているしね。

――日本にもそういう時代がきました

賀川:1990年生まれといえば、彼らが3歳のときにJリーグが開幕している。いわば、彼らが物心ついたときには日本の社会にはプロサッカーというものがあった。このキリンカップが始まったのは1978年、その次の年の1979年に日本で第2回ワールドユースが開催された。

――マラドーナがアルゼンチン代表で優勝したとき。ラモン・ディアスもいました。

賀川:私はJFA(日本サッカー協会)の技術委員会で開催招致の動きがあったときに反対した。それは、生まれたときからプロになろうと思ってサッカーを志している外国の若者と、アマチュアの日本リーグが最高峰である日本のユースとを戦わせることには無理がある――という理由からだった。

――ようやく、同じ環境でプレーヤーが育つことになったわけですね。


■岡田監督の狙いが徐々に――

賀川:岡田武史監督は、病によるオシムさんの退任を受けて、このキリンカップ、キリンチャレンジカップとW杯予選、アジアカップ予選などの合計25試合を重ねて、徐々に自分の考えを浸透させつつ、個々のプレーヤーの実力アップを図ってきた。

――代表チームのコンセプトは、攻守の切り替えの速さ、ボールを奪われれば奪い返す、ボールを奪えば有効な攻めにつなげること。そのためには運動量を多くする、ですね。

賀川:もちろん、それぞれのポジションプレーの上達も大切だ。しかし代表になってから練習することも重要なことだが、同時に少しでもいい素材を発見し、チームの層を厚くすることも図ってきた。

――得点力不足といわれてきたFWに、興梠慎三や岡崎慎司が加わり、サイド攻撃に内田篤人や長友佑都がきましたね。

賀川:安定した力は分かっていても、万一を考えてガンバのベテラン山口智を今回加えたのも岡田監督らしい。


【つづく】


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5月27日 日本代表 vs チリ代表(1)

2009/05/28(木)

代表チームを勢いづける4-0の快勝(上)


キリンカップサッカー2009 ~ ALL FOR 2010! ~
5月27日(大阪長居スタジアム)19:35
日本代表 4(2-0 2-0)0 チリ代表
得点者:岡崎(日 20、24分)阿部(日 52分)本田(日 92+分)

【日本代表メンバー】

GK: 1楢﨑正剛
DF: 22中澤佑二(Cap.)3駒野友一、7遠藤保仁→27橋本英郎(61分)
MF: 14中村憲剛→25香川真司(83分)2阿部勇樹、17長谷部誠→5山口智(78分)19本田圭佑
FW: 11玉田圭司→24山田直輝(39分)9岡崎慎司→12矢野貴章(71分)
SUB:18都築龍太、23川島永嗣、21槙野智章、6内田篤人、16大久保嘉人、13興梠慎三

【チリ代表メンバー】
GK: 1ミゲル・ピント(Cap.)
DF: 17ガリー・メデル→7ホセ・フエンサリダ(46分)18ゴンサロ・ハラ、6ロベルト・セレセダ→2ホセ・ロハス(67分)4イスマエル・フエンテス
MF: 13マルコ・エストラーダ、ロドリゴ・ミジャル、10ホルヘ・バルディビア→5エドソン・プッチ(46分)
FW: 14ファビアン・オレジャナ、11エステバン・パレデス、15ジャン・ボセジュール
SUB:12ネリー・ベロソ、16マヌエル・イトゥーラ、3ブラウリオ・レアル、9ダウ・ガサレ


■粘り腰のゴールゲッター・岡崎慎司

――ワールドカップ(W杯)の南米予選で現在3位、アルゼンチンよりも上にいるチリ代表に4-0の快勝。すごいですね。

賀川:チリ代表は南米予選を戦っているレギュラーというわけじゃないが、個人力のしっかりしたチリの選手を相手にそれぞれの局面で「負けないゾ」という意欲を見せたこと。その意志力に運動量の優位が加わって局面で余裕を生み、好パス、好シュートにつながってゴールを生んだ。

――岡崎慎司が2得点しました。キリンチャレンジカップのシリーズで、前にも岡崎の話をしていましたね。

賀川:兵庫県の滝川第二出身で、黒田和生先生の弟子だからネ。私が買っているのは、
(1)ひたむきさ
(2)大きくはないが体がしっかりしていること。特に膝と腰に粘りがある感じがすること
(3)いつもシュートを狙っているから、シュートの構えに入るのが早く、右利きだが左でも点を取れる
(4)ヘディングがうまい。ニアへ入り込んでくるときはズカズカという感じでとてもいい
(5)ヘディングが強いということは空中のボールへの自信につながり、それがロングボールの落下点での処理などで力を発揮する

――1点目も高いボールの落下点での勝負に勝ったのですよね。

賀川:中村憲剛が右後方からペナルティエリアぎりぎりのところへ、ロブ(空中に上げたボール)のパスを送り、その落下点で2人に囲まれながら見事に処理して、後方からフォローしてきた本田圭佑にパスを送り、本田がシュート。彼らしい強いボールをGKミゲル・ピントがセーブしてはじいたのを、岡崎が走り込んで右足ダイレクトでシュートで決めた。

――2点目も岡崎でした。

賀川:右サイドのカウンター攻撃で長谷部がボールを取ったときに、右外側を中澤佑二が走り上がる。長谷部からボールを受けた中澤が中央に飛び出す岡崎にパスを送り、彼がいいトラッピングをしてゴールキーパーをかわしてシュートをゴールへ送り込んだ。
 何度も言うとおり、岡崎の足腰の強さ、バランスの良さが、こういう風に相手DFラインの間を走り抜けてシュートする――私がいつも言う、走り込んでのシュート――ときに姿勢が崩れないし、また、引っ張られたり絡まれたりしてバランスが崩れかけてもそれを回復する復原力がある。かつての釜本邦茂にあったそんな“しなやかさ”と“強さ”が岡崎にもある感じだネ。


■持って生まれたキック力に経験がプラスされた本田


――本田圭佑のシュート力が生きましたね。

賀川:金沢の高校生のとき(星稜高校)から名古屋グランパスでのプロの初期にも、彼はズバ抜けた左足のシュートを持っていた。今はベテランの部に入る阿部勇樹が同世代の中で長い正確なキックで群れを抜いていたのと似ている。こちらはより攻撃的なキックだがネ。それがオランダで試合を重ねることで体が強くなり、奪いに来る相手を手で押さえ、体でカバーして左右でパスをし、ドリブルし、シュートへ持ってゆける強さをつけてきた。1点目のシュートも、左へドリブルしながら完全に叩く形に持っていったからね。

――オランダといっても2部リーグですが…

賀川:まず、常に試合に出ることだよ。伸び盛りの選手が、いくら外国のトップクラブにいても試合に出ないのなら、日本でしっかりしたコーチの下でマンツーマンの練習をした方がマシですよ。本田は試合を重ねることで身につけたプレーと自信が、この日のプレーに表れていたヨ。


【つづく】


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【Preview2】5月27~31日 日本代表 vs チリ、ベルギー代表(3)

2009/05/27(水)

本番を控え、好敵手とのドレスリハーサル
勝ちへの意欲を高め、調子を整え上げてゆくチャンス(下)



■キリンカップ、30年の歴史の意味

――そういえば、キリンカップも1978年のジャパンカップからもう30年になりますね。

賀川:78年5月に日本代表と日本選抜、それにタイ代表、韓国代表とアジアの3ヶ国代表と日本選抜、それにイングランドのコベントリー・シティ、ブラジルのパルメイラス、西ドイツのボルシア・メンヒェングラッドバッハ1FCケルンと、欧州南米のクラブチームの合計8チームが出場した。

――すごい顔ぶれですね。

賀川:日本代表の強化だけでなく、アジアの各国代表の刺激のもなって欲しいという考えもあった。4チームずつの予選リーグの各組上位2チームが準決勝、決勝へと進んだ。
 グループ1からコベントリーとケルン。グループ2からボルシアMGとパルメイラスが勝ち上がり、決勝はボルシアMGとパルメイラスが1-1でともに1位となった。欧州南米のプロの前に、アマチュアだったアジアのナショナルチームは勝てなかった――というわけだ。


■車範根もアントニーニョもバティも西野監督も

――当時の日本代表は?

賀川:77年に釜本邦茂が代表チームから引退していた。いま、ガンバの監督の西野朗がMFにいた。FWには金田喜稔(テレビ解説者)が左サイドにいたが、この年は78年W杯の年で、私には初めての南米行きだったから、大会前にブラジルの様子を見ておこうと5月23日に日本を出たものだから、5月20日にスタートしたこの第1回はほとんど見ていない。次の第2回大会には、イングランドのトットナム、スコットランドのダンディー・ユナイテッド、イタリアのフィオレンティーナ、アルゼンチンのサンロレンソといったクラブがやってきた。日本代表と日本選抜、インドネシア代表、ビルマ(現・ミャンマー)代表のアジア勢が欧州南米のプロと戦った。
 サンロレンソはカルロス・ビラルドさん(86年W杯優勝監督)が監督だった。フィオレンティーナには有名なアントニーニョがいた。もったいないことに、彼は退場処分となって、次の試合も出場できなかった。
 トットナムが優勝した。71年にトットナムが来日したときは、アプレンティス上がりで初々しかったスティーブ・ぺリマンが今度はチームの中心になっていた。彼は後にJリーグの清水の監督にもなったネ。

――トットナムには、アルゼンチンのアルディレスがいましたね。

賀川:78年W杯の後に、ビジャとアルディレスが移ってきて、当時はアルゼンチンからイングランドへ――というので大きな話題になった。アルディレスはこの大会でも活躍したし、ゴールもした。彼は日本でも有名人。Jの監督もしたネ。

――キリンカップワールドサッカーと80年に名が変わり、88年にキリンカップ・サッカーとなり、1992年から今の形になりました。

賀川:アルゼンチン代表、ウェールズ代表と日本代表の3チーム。もう日本代表もプロフェッショナルだった。そう、このときのアルゼンチンにはバティストゥータがいて、結局、彼の得点でアルゼンチンが2勝して優勝した。

――10年ひと昔と日本ではいいますが、30年といえば歴史ですね。

賀川:いまの形となった92年からでも18年ですよ。日本サッカーがいまのようになるのにどれだけ多くの人たちの世話になったか、どれだけ多くの人がかかわったかを改めて思うね。
 私が韓国の大スター、車範根(チャ・ブンクン)を初めて見たのもキリンカップだったし、後につき合いの深まるカルロス・ビラルドさんともこの大会が初対面。そう、早大在籍中の岡田武史監督の日本代表の試合もこれで見たよ。

――そんな話も、これから聞かせてもらうことにして、まず、今回は大阪と東京での日本代表の好プレーを期待しましょう。


【了】


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【Preview2】5月27~31日 日本代表 vs チリ、ベルギー代表(2)

2009/05/26(火)

本番を控え、好敵手とのドレスリハーサル
勝ちへの意欲を高め、調子を整え上げてゆくチャンス(中)



■Jとは違った個々の強さを再体験

賀川:両チームがどういう選手でどんな考えでキリンカップにやってくるのかは詳しくは分からないが、チリの代表もベルギーの代表も、まず個々の力が相当しっかりしている。そして、といって、クリスチアーノ・ロナウドマンチェスター・ユナイテッドポルトガル)といった世界のトップクラスというわけじゃない。先に、“恰好”と言ったのは、ちょうど良い相手ということ。個々の強さはあるが、とても敵わないというクラスではないハズだから、日本代表にとって、1対1の競り合いにはじまり、基本コンセプトの攻から守への切り替えの早さ、組織的な囲い込み――といった代表レベルのプレーをこの2試合で確認してできるようにしたいだろう。もちろん、試合中に実行し、勝負に勝たなければならない。

――ドレスリハーサルといっても、練習ではありませんからね。

賀川:選手たちは負けるのが嫌いだから、勝つためにいいプレーが生まれるのだからね。観客やメディアも高いレベルのパフォーマンスを期待する。ただし、うまくゆかなくても、金切り声で悲鳴を上げる必要もないけれど……

――得点力不足の解消はどうでしょう

賀川:ゴールを奪う能力を選手たちがどれだけ伸ばしたかどうか。リーグで伸ばした者もいるが……代表のやり方で、自らのチームとはまた違ったヒントを掴んだりすることもあるのだがネ。
 中村俊輔遠藤保仁らの体調や、両サイド、2DF、そしてFW、いま一人ひとりの顔を浮かべ、そうしたメンバーがまず長居でいいコンディションの試合を見せてくれることを願いたいネ。もちろん、コンディションが悪ければ、本番までに回復すればいいのだから――。繰り返すようだが、今の日本代表のサポート力は、そういう点でも安心できるレベルにいるハズだから。

――2006年のドイツでは苦い経験をしましたからね。

賀川:そういう一つひとつの積み重ねが、日本サッカー全体の力になっている。このキリンカップやキリンチャレンジカップという催しも、代表が本番前に試合をすることでケガを心配する声もあるけれど、サッカーファンにとっても、選手たちにも、こういう形で各国代表と試合できるのは大事なことだと思う。


【つづく】


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【Preview2】5月27~31日 日本代表 vs チリ、ベルギー代表(1)

2009/05/25(月)

本番を控え、好敵手とのドレスリハーサル
勝ちへの意欲を高め、調子を整え上げてゆくチャンス(上)


 日本代表の季節がやってきた。
 5月の最終週に「
キリンカップサッカー2009 ALL FOR 2010!」で、日本にチリ代表、ベルギー代表を迎えて3チームのリーグを行ない、6月に入るといよいよワールドカップ(W杯)アジア最終予選第2組の3試合を戦う。

5月27日 日本代表対チリ代表(大阪・長居スタジアム)
  29日 チリ代表対ベルギー代表(千葉・フクダ電子アリーナ)
  31日 日本代表対ベルギー代表5月(東京・国立競技場)



■経験十分の選手たちが一体になる期間

――ことしはJリーグも賑やかでずいぶん盛り上がっていますが、そのJ1は中断期に入り、日本代表のシーズンですね。

賀川:キリンカップサッカー2009は、「ALL FOR 2010」というテーマがついているように、南アフリカでの2010年W杯を目指すもの。南米、欧州の強国の代表を招いた今度の対戦も、最終予選のためのドレスリハーサルになるだろう。

――予選の3試合のスケジュールは

 6月6日 対ウズベキスタン(アウェー)
   10日 対カタール(ホーム・横浜)
   17日 対オーストラリア(アウェー)

 12日間に3試合、それも遠距離の移動が伴うから、決して楽ではありません。

賀川:そういう点からも、キリンカップにはじまる25日から約20日間での代表チームの結束は大切だろう。

――ウズベキスタン戦でいい結果を得れば、一気に楽になりますからね。

賀川:コンディションのもってゆき方とか、選手の気合の充実といった点では、いまや監督・コーチ・選手たちは経験豊富だから、あまり心配はしていない。このチームはできることとできないことがはっきりしていて、チリやベルギーという恰好の相手との試合でそれがどれくらいの度合いかが知れる。


■南米予選好調のチリ、ベルギーは苦戦中

――チリは南米予選で3位ですね。

賀川:10ヶ国の総当たりリーグ(ホーム&アウェー)の各国12試合が終わったところで、首位パラグアイ(7勝3分け2敗)2位ブラジル(5勝6分け1敗)に次いで6勝2分け4敗の3位。アルゼンチン(5勝4分け3敗)より勝点1上にいる。4位までが自動的に南米の代表となり、5位のチームが北中米カリブ海地域の4位との大陸間プレーオフで南アフリカ行きを決める。
 残り6試合で、チリはキリンカップのあと6月にパラグアイ(6日、アウェー)ボリビア(10日、ホーム)の2試合が組まれている。

――ベルギーは欧州第5組で苦戦中です。

賀川:スペインボスニア・ヘルツェゴビナトルコエストニアアルメニアと同じグループで、合計6チームのホーム&アウェー。4月1日に各チーム6試合を終えたところで、ベルギーは2勝1分け3敗で4位だから先行きは少し苦しいネ。残り4試合は9月に入ってから再開されるのだが……。

――そんな背景をもったチリとベルギーの代表チームを相手に、日本代表は何を見せてくれるのでしょうか。


【つづく】


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【Member】5月27~31日 キリン杯、6月6~17日 W杯予選

2009/05/21(木)

キリン杯、W杯予選メンバーに山田、槙野を初招集


日本サッカー協会(JFA)は21日、チリ(27日)ベルギー(31日)と対戦する「キリンカップサッカー2009 ~ALL FOR 2010~」と、ワールドカップ(W杯)南アフリカ大会アジア最終予選の3試合に臨む日本代表メンバー26名を発表した。

海外組では、中村俊(セルティック)松井(サンテチエンヌ)長谷部大久保(ボルフスブルク)に加え、オランダ・2部リーグのMVPに選出された本田(フェンロ)がメンバー入り。浦和で成長著しい18歳のMF山田、広島のDF槙野は初選出、ガンバのDF山口は岡田監督指揮下では初招集となった。

チームは25日から合宿をスタートするが、中村俊は26日、香川(C大阪)は29日に合流予定。松井は6月2日にウズベキスタンでチームに加わる。

W杯アジア最終予選・グループ1の日本は、5試合を終え3勝2分けの勝点11でオーストラリアに次ぐ2位。6月6日の対ウズベキスタン、10日の対カタール、17日の対オーストラリアと3戦を残しているが、アウェーでウズベキスタン戦を下せば2位以内が確定し、4大会連続の本大会出場が決まる。

メンバーは以下のとおり。

【GK】
楢崎正剛(名古屋)都築龍太(浦和)川島永嗣(川崎F)

【DF】
中澤佑二(横浜FM)山口智(G大阪)田中マルクス闘莉王(浦和)駒野友一(磐田)
今野泰幸、長友佑都(以上、東京)槙野智章(広島)内田篤人(鹿島)

【MF】
中村俊輔(セルティック)橋本英郎、遠藤保仁(以上、G大阪)中村憲剛(川崎F)
松井大輔(サンテチエンヌ)阿部勇樹、山田直輝(以上、浦和)
長谷部誠(ボルフスブルク)本田圭佑(フェンロ)香川真司(C大阪)

【FW】
玉田圭司(名古屋)大久保嘉人(ボルフスブルク)矢野貴章(新潟)
岡崎慎司(清水)興梠慎三(鹿島)


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【Preview1】5月27~31日 日本代表 vs チリ、ベルギー代表

2009/02/27(金)

キリンカップサッカー2009 ~ALLFOR2010!~
5月27日 日本代表対チリ代表(大阪・長居スタジアム)
5月29日 チリ代表対ベルギー代表(千葉・フクダ電子アリーナ)
5月31日 日本代表対ベルギー代表5月
(東京・国立競技場)


――キリンカップのスケジュールが発表されました。3試合ともナイターで、開始時間は調整中とか。

賀川:南米のチリ、ヨーロッパのベルギーのそれぞれ代表チームを招いての3ヶ国リーグで優勝を決める。賞金総額16万ドル(約1560万円)で、優勝チームは10万ドル、2位が5万ドル、3位が1万ドルと発表されている。

――テレビ放送は第1戦がTBS系、第3戦が日本テレビ系で全国生中継。外国チーム同士の第2戦はまだ決まっていないようです。

賀川:3ヶ国対抗だから勝つことが大事だが、ワールドカップ(W杯)のアジア予選の6月シリーズ3試合を控えているから、その準備としてもとても重要ですヨ。

――6月は、対ウズベキスタン(6日、アウェー)対カタール(10日、横浜)対オーストラリア(17日、アウェー)と、相手国へ乗り込んでのアウェー戦2試合と日本で1試合。アウェーの相手はウズベクと豪州の2国ともホームで引き分けているから、この2週間は日本サポーターのテンションが上がりますね。

賀川:そういうこと――。その前に、代表チームには3月28日(土)の対バーレーンが組まれている。ここには昨年9月6日のマナマでのアウェーで勝っている(3-2)。

――しかし、ことし1月のアジアカップ予選では負けました。

賀川:バーレーンとはW杯の第3次予選でも2回試合して、アウェー(0-1)で負け、埼玉(1-0)で勝って1勝1敗だから1年間に4試合して2勝2敗。すべて1点差の接戦だった。

――3月のバーレーンの前にキリンカップをすればいいのに…。

賀川:3月7日からJリーグが開幕している。キリンカップを組み込むのは日程上ムリですヨ。
 代表選手たちはJリーグに入って体も仕上がっているだろうし、第3節からバーレーン戦までの1週間でまとめ上げられるだろう。埼玉の入場券は完売したというから、ファンの期待も大きい。

――3月の試合は別に話し合うとして、この5月のチリ、ベルギーを相手にするのは…

賀川:昨年のキリンカップはアフリカからコートジボワール、南米からパラグアイが来日した。その次の週からこのW杯アジア第3次予選の4試合があった。その4試合を3勝1分けにして、3次予選を突破して、いまの最終予選へ進出したのだから、昨年のキリンカップの2試合は予選の準備としても役立っていたといえるだろう。

――チリやベルギーのサッカーのスタイルや代表チームについては、次に聞かせてもらうことにして。ことしもいい結果を期待しましょう。


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2月4日 日本代表 vs フィンランド代表

2009/02/07(土)

仮想オーストラリアというには力不足の相手だが、収穫はいろいろ。
ゴールを楽しみ、若手の進歩を喜び、あわせて本番の不安も感じた90分。ごくろうさま、森と湖の国の選手たち



キリンチャレンジカップ2009~ALLFOR2010!~
2月4日(東京・国立競技場)19:20
日本代表 5(3-0 2-1)1 フィンランド代表
得点者:岡崎(日 15、32分)香川(日 44分)ポロカラ(フ 50分)中澤(日 57分)安田(日 86分)

【日本代表メンバー】
GK: 18都築龍太
DF: 22中澤佑二(Cap.)4田中マルクス闘莉王→24高木和道(55分)15長友佑都、6内田篤人→3駒野友一(72分)
MF: 27橋本英郎、7遠藤保仁→5今野泰幸(77分)14中村憲剛、29香川真司→21安田理大(81分)
FW: 11玉田圭司→12巻誠一郎(84分)33岡崎慎司
SUB:23川島永嗣、26菅野孝憲、2寺田周平、9田中達也

【フィンランド代表メンバー】
GK: 1トミ・マーノヤ
DF: 5マルクス・ハルスティ、14トニ・クイバスト、2ヨニ・アホ、15トゥオモ・トゥルネン→16ユッカ・ライタラ(55分)
MF: 17ティム・スパルフ、20ロニ・ポロカラ、21カリ・アルキブオ→11ペルパリム・ヘテマイ(85分)6ユッシ・クヤラ→8メフメト・ヘテマイ(45分)
FW: 10ヤリ・リトマネン(Cap.)→18テーム・プッキ(68分)9ニクラス・タルバヤルビ→19ヤルノ・パリッカ(77分)
SUB:12ヘンリ・シランパー、4ヨナス・ポルティン、3トゥオモ・ケネーネン、13サミ・レハメーネン、7ミカ・オヤラ

――5-1の大勝、いい気分ですね。もっとも、フィンランド代表が仮想オーストラリアというにはちょっと弱すぎて、2月11日に向けてあまり効果的でなかろうという声もあります。

賀川:とても良かったと思う。強敵との本番を1週間後に控えている岡田武史監督にすれば、“とても”とは言えず慎重な言い方だったが、選手たちにも収穫があり、ファン、サポーターにも見どころが多かった試合ですヨ。

――岡崎慎司が2ゴールしたことも、“よかった”の一つですね。前回のお話で、フィンランド戦での彼の得点を期待していました。

賀川:滝川二高出身、黒田和生先生の教え子だからネ。田中達也や玉田圭司のような際立った早さはともかく、よく走れて、その上に体に粘りがあって反転のときに崩れない。右も左も蹴れる。173センチと小型の方だが、ジャンプのタイミングもいいし、ヘディングもできる。点を取るためにどこへ走り込むかをいつも狙っているところがいいので、まわりの仲間と意思が通じるようになればゴールを奪うか、ゴールにからむようになると眺めていた。
 相手のディフェンダーが一流というわけではなかったから、などという言い方もできるけれど、やはり狙ったところへ動き、そこへボールが来て、それをシュートしてゴールする――という経験を代表で積んでゆけるのがいい。

――相手DFのウラへ簡単に入れましたね。

賀川:岡崎はこの2得点で自信を持っただろう。自信を持てば、シュートの練習にももっと力が入るだろう。ただし、岡崎のゴールを含めてこの日の日本の攻撃全体がアジアカップの2試合――対イエメン(2-1)対バーレーン(0-1)とまったく違っていたことが重要だと思う。

――メンバーとしては、ディフェンスの中央が中澤佑二と闘莉王がそろったこと。GKは故障の楢崎正剛や川口能活に代わって新しい3人が入ったこと。それにガンバの2人がボランチをしましたね。

賀川:闘莉王のコンディションは万全とはいえなかったにしても、ピッチの上で試すことができた。一番大きかったのは、遠藤保仁と橋本英郎の2人が入ったことで、1月のアジアカップ予選2試合の展開に比べて攻めに緩急の変化がついたこと。遠藤はその攻めのタイミングの変化のうまさでは歴史的に見ても日本では第一級だから、両サイドの内田篤人や長友佑都がイキイキとプレーをしたのはもちろん、対バーレーン戦の反省もあってのことだろうが、何といってもガンバ組のところでタメをつくってくれるのだから――。

――ちょっと難しい理屈のように聞こえますが。

賀川:日本のサッカーは昔から“早さ”が信条なんです。兵法でも「兵は巧遅より拙速を尊ぶ」などと言っている。家のなかでもお母さんはたいてい子どもたちを「早く早く」と急きたてて学校へ送り出し、電車の駅ではすぐに乗りなさいと急がされる。日常もそうだし、サッカーもそうだが、戦争だって相手の準備ができていなければ拙速(せっそく)――マズくても早い攻めの方がいい場合があるが、相手が準備して待ち構えているときには充分にこちらも準備しなければならない。

――アジアカップの予選2試合は、相手が引いて守っているところへ、拙速でいったということ?

賀川:サッカーは同じ人数で、ピッチの広さも決まっていて、グラウンドの外から攻めることはできないし、ゴールの後方から攻めることもできない。となると大切なのはタイミング、“いつ”ということになる。

――岡崎のゴールでも、それがありましたか?

賀川:15分の1点目はその少し前に右サイドで小さなパス交換があったが、そこから突破しないで後方へ、そして左へとボールを動かし、今度は闘莉王が左寄りから(1)右へ長いボールを送ってきた。(2)右タッチ際で内田が受けて、(3)遠藤に渡した。(4)遠藤はそれをダイレクトで、もう一度内田へ戻し、自分はスタスタと右前へ出た。(5)そのとき、相手ゴールエリア外、中央やや右寄りにいた岡崎が右前へスタートした。(6)内田はそれに合わせて高いボールを蹴り、(7)そのボールの落下点へ岡崎が走って、(8)ゴールエリア近くで左足ボレーでシュートしてニアポスト際へ決めた。

――遠藤がからんだところがミソ?

賀川:左から右へ、長いパスが来た。長いボールだから当然、相手はその行方を見ている。それを受けた内田が、自分がハーフラインから直接前線のFWへパスを出すのでなく、小さく遠藤に渡したのがまず第1点。その遠藤がさり気なくまた内田に戻して、自分はすぐ動いたのが第2。相手側のプレーヤーの視線はボールの動きと、遠藤の動きに集中する。岡崎をマークしていたCDFもそうだった。その瞬間(そのDFの目が内田と遠藤に向けられたときに)に岡崎は走り出した(いわゆる動き出し)。並んでいる彼に先に動かれ、一瞬遅れたDFのコースへ入るように岡崎が走って、左足でシュートを決めた――ということになる。
 遠藤との小さなパスのやり取りが小さなタメとなり、岡崎のスタートのチャンス――それも相手の視野の外で――をつくったことになるだろう。

――ふーむ。

賀川:相手の中盤のプレッシングが強いときに、こうした“無駄に見えるパスのやり取り”は潰されることもあり、それを嫌うコーチもいる。それはそれとして、攻め急ぎでイエメンやバーレーン相手に苦しい試合を経験したメンバーにとって、あらためてタメの必要なこと、遠藤、橋本のガンバコンビによるボールの動かしを理解できたと思う。

――その通りやっていいかは別として、でしょう。

賀川:プレーヤーにはそれぞれのやり方があっていい。しかし“押してダメなら引いてみよ”の歌にもあるとおり、一つだけではちょっと強い相手を攻略するのは難しいからね。日本代表の特色のランプレーを成功させるには、強さと、こうした間(ま)が必要なのだから……。

――海外組はそれができる?

賀川:まぁ、人によるだろう。中村俊輔はそれの達人だし、あの得意のクロスでも、ファーポスト側に合わせるのかニアで合わせるのかライナーにするのか上げて落とすボールにするのか、その時々に判断して実行している。

――内田はこの日、CKから中澤佑二のヘディングシュート成功のクロスを蹴りましたね。

賀川:後半、相手に1点を返され3-1になったのが50分。その7分後の得点で4-1にした。この右CKは遠藤がキッカーで、ショートコーナーにして後方やや内側の内田に渡したところが面白かった。

――というのは?

賀川:この日、遠藤は流れのなかで何回かロングパスを蹴っていた。小さなつなぎで一方のサイドに相手側をひきつけ、逆に振る、攻めの一つのやり方だが、その遠藤がキッカーだから、直接ファーポスト側へボールが来ることも相手は考える。ところが彼は中澤がいるのを見て、自分が直接そこへボールを送りこまずに内田に渡して、内田にクロスキックさせた。距離の問題と、ボールがサイドで動くことで相手DFの目がいったん動くボールに注がれる。その間に中澤が位置をずらしてもマーク相手は気付くのが一瞬遅れてしまうことになる。

――そういうことですか。

賀川:このやり方は、これまでに俊輔と遠藤のコンビで何度か成功していますヨ。

――若い内田がそういう仲間に入れるようになったと言うのは早すぎますかね。

賀川:こうして、若い選手が重要な場面にからんでゆくことで個人の進歩も、チーム全体も向上するわけです。CKの場面を取り上げたけれど、岡田監督になって新しく加わってきた19~22歳の若手――オリンピック世代ともいえる――が伸びてきている。27~30歳の多い代表チームに若い力が入ってくるのはとても良いことですよ。それがまた今野泰幸や駒野友一、巻誠一郎、田中達也といった中堅組の励みにもなるだろうしね。

――香川真司も点を取りました。

賀川:ここのところ、ちょっと伸び悩みかな。プレーヤーが伸びるのは階段状だから…。
 それにしても、相手のバックパスだったか、ボールを拾って小さなバウンドを利用して左足で浮かせて抜いて出て、そのあと左へかわして左足シュートをしたのだから、図々しいプレーができるネ。

――相手が下手だからできたと?

賀川:香川自身は相手を上から見ていた感じだね。しかしフィンランドだって前半の2つのチャンスで点を取っていたら、そんなに見下すことができる相手ではない。あの6分のユッシ・クヤラのシュートは、闘莉王が背後にいながらいったん間合をあけて、そのあと競りに行ってシュートされている。誰かがこぼれ球に行っていたら…というところだ。
 27分のティム・スパルフの左足のボレーがバーに当たって観衆はヒヤリとした。21歳の194センチ――。背が高いということは膝の位置が高いので、日本人には無理な高さのボールをボレーで叩いて、それをバーの高さに押さえるのだからネ。

――全体としては?

賀川:遠い北欧から試合に来てくれた彼らのおかげで、本番の一週間前にともかくリハーサルできたプレーヤーもあり、自らの上達を確認したものもありで、結果は良かっただろう。GK都築龍太が相手のノッポと競って叩いたボールが遠くへ飛ばなかったことも、分かったのだから良かったじゃない。
 そうそう、試合後の記者会見でフィンランドのスチュアート・バクスター監督(広島と神戸で監督をした)が、ヴィッセル神戸のサポーターがスタンドからバクスターに拍手をしてくれてとても嬉しかった、有難う――と言っていた。

――こういうサッカー人のつきあいは大事にしたいところです。

賀川:どんな試合をしても、そこで得たものをプラスにして次の試合に結びつけるかどうかは選手自身だからね。オーストラリアが相手といっても、自分たちがJや海外のリーグで培ったものを、チームにしてぶつけるだけ。俊輔をはじめ海外組が合流してからいいコンディションのチームに仕上げてほしい。

――オーストラリア戦は勝てますかね?

賀川:ワールドカップの本番で上位を目指すには、いまの日本代表はまだ、必要なポジションプレーのできる人材が少し不足している。しかし、アジア予選を突破できる力はあるだろう。オーストラリアとは、互いに勝っても負けても不思議でないライバル。こういう相手と戦えることは選手たちにはとても幸福なことだろう。
 フィンランド戦で、ちょっぴりニガ味を味わいながらいい勝ち方で盛り上がったのだから、大いに期待したいね。勝とうという意地の強さを見たい。


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【Preview】2月4日 日本代表 vs フィンランド代表

2009/02/02(月)

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(写真1)フィンランド対ハンガリー戦のプログラム。
フィンランド語で書かれた表紙のSUOMIはフィンランド、UNKARIはハンガリーのこと



対オーストラリア戦を前に、大型プレーヤー相手にみたい気迫とひたむきさ

キリンチャレンジカップ2009 ALL FOR 2010!
2月4日19時20分キックオフ(東京・国立競技場)
日本代表 対 フィンランド代表



――2月4日にキリンチャレンジカップの日本代表対フィンランド代表が国立競技場で行なわれます。1週間後のFIFAワールドカップ(W杯)2010アジア最終予選、第3戦の対オーストラリア(横浜)に備えてのもの。とても楽しみです。

賀川:日本代表は1月にアジアカップの予選を2試合しました。20日熊本での対イエメンは2-1で勝ち、28日(現地時間)マナマでの対バーレーンは0-1で負けました。

――この試合はアジアカップ・カタール大会(2011)に向けての最終予選で、19ヶ国が5組に分かれて展開中です。ホーム&アウェーで戦い、各組の上位2チームが本大会に進みます。日本はイエメン、バーレーン、香港とともにA組に入っていますね。
 W杯に向かう日本代表の骨組みはほぼ決まっていますが、岡田監督はこのアジアカップ予選の1月の2試合で新しい代表レギュラー候補の台頭を期待したのでしょう。

賀川:勝てば、出場したメンバーも自信をつけただろう。ホームでのイエメン戦はともかくも勝ったが、アウェーのバーレーン戦は無得点で負けた。

――先制され、引いて守られると崩せなかったというパターンだったらしいですね。

賀川:中村俊輔や遠藤保仁がいなくても引いて守る相手を崩せれば一つの成果だが、そうはゆかなかった。日本とバーレーンは昨年3試合して2勝1敗(3月26日 アウェーでのW杯3次予選 ●0-1、6月22日 ホームでのW杯3次予選 ○1-0、9月6日 アウェーでのW杯最終予選 ○3-2)の成績だが、勝った試合は中村と遠藤の2人がいた。日本のやり方をよく知っているバーレーンのような相手に対しては、経験ある彼らの臨機応変の判断と正確なキックが必要なのだろう。
 今年の対バーレーン、アウェーでの敗戦は、私はそう深刻には受け止めていない。むしろ、戦った選手たちが、自分たちだけで勝つには何が必要かを工夫するきっかけになると思っている。

――さて、対オーストラリア戦を控えての対フィンランドでは何を期待しますか?

賀川:オーストラリアの選手はヨーロッパ系が多く、アジア各国の中では体格の良いことで知られている。英国の植民地であった関係から、本国の上流社会への憧れもあって伝統的にラグビーやテニスが盛んだった。第2次大戦後に東欧からの移民の激増によってサッカーが浸透し、プロのリーグもあり、欧州へ選手を輸出するようになった。
 もともとスポーツ好き。陸上競技や水泳などでもトップクラスを輩出してきたところだから、サッカーが根をおろせばいいプレーヤーが出ても当然。したがって、かつての力強さだけでなく“上手”で強いプレーヤーも出てきている。
 2006年ドイツでのW杯第1戦で日本が終了間際に3点を奪われたのは当時の日本選手のコンディショニングの失敗もあったが、相手が体力だけでなく技術もしっかりしていたからだろう。

――プレミアリーグのエバートンで、ケーヒルという選手が活躍しています。

賀川:オーストラリアの選手については別の機会にしたいが、プレミアリーグのテレビ放送を見ても、彼のヘディングの能力は素晴らしい。オーストラリアの選手としては大きい方ではない(178cm)が、しなやかで足元もいいし、何よりマークを外して消えておいて出てくるといういいストライカーの特性を備えている。

――フィンランドは大柄なのですか?

賀川:この国の人たちはアジア系のフィン族だから、北欧のスウェーデン、ノルウェー、デンマークなどの北方ゲルマンとは人種的にちょっと違っているが、体格となると大男はたくさんいる。発表された来日メンバーを見ても、2人のGKが196cmと189cmは当然としても、DF8人のうち183㎝以上が4人、MFにも183㎝以上が4人(うち一人は194㎝)。FWにもオランダでプレーするニクラス・タルバヤルビの187㎝がいる。

――欧州のW杯予選でドイツと引き分けたとか。

賀川:欧州第4組で、ドイツと同じグループで3試合をして、9月にホームでドイツに3-3、10月にホームでアゼルバイジャンに1-0、その後のロシアとのアウェーは0-3で負けている(1勝1分け1敗)。3月にはウェールズとの対戦を予定している。

――フィンランドは2006年のキリンチャレンジカップでも来日していますね。

賀川:2月18日だったか、日本は当時すでにW杯ドイツ大会の予選を突破していた。フィンランドは欧州第1組の予選4位で敗退したあとだった。チームの勢いの差がそのまま出て日本が2-0で勝った。
 今度はチーム全体の士気も高いだろうし、監督のスチュアート・バクスターはサンフレッチェ広島やヴィッセル神戸で監督も務めた日本通でもある。スウェーデンリーグ(5人)ギリシャ(2)オランダ(1)スペイン(1)ノルウェー(2)と各国リーグで働いているプレーヤーが主力だ。
 私が注目したいのは、18歳の若いテーム・プッキ。スペインのセビリアにいるとのこと。172cmと小柄な方だが、北欧の大型選手の多い国から現れる小兵選手には目を見張る逸材が出ることがある。ひょっとしたら……と期待している。
 もう一人、大ベテランのヤリ・リトマネン(37歳)が加わっているのも注目。オランダのアヤックスとイングランドのリバプールで活躍した選手だから、日本のサッカー通にはよく知られているハズ。彼らにとっても、日本代表にとっても、いい試合になると期待している。

――日本代表の欧州組はこの試合に出場しないのですね。

賀川:スケジュールの都合でね。中村俊輔は少し早めに戻ってくるが、これには出ないだろう。したがって、俊輔のパスからのゴールといった場面はこの試合ではないだろうが、そうした点よりも、

(1)選手たちが久しぶりに、体が大きく強い欧州勢を相手に積極的なプレーをして、その感覚をつかむこと
(2)もちろん、彼らがこれまで培ってきた、速い動きでの組織的なボール奪取やボールの動かし方などのいいリハーサルでもある
(3)また守りでは長身者の多い相手のFKやCKなどのセットプレーも大切だ

 日本代表は長い歴史の上で岡田監督になって初めて、中澤佑二(187cm)闘莉王(185cm)という長身の2人のCDFを置けるようになった(この条件を備えていなかった2006年のドイツ大会では、オーストラリアにしてやられた)。今度は控えに高木和道(188cm)寺田周平(189cm)も加わっているが、世界の大型化はさらに進んでいる。フィンランド戦はこれも見どころだろう。
 さらに今回はGKの顔触れが変わった。GKとDFの連係もみたいところだ。

――攻撃面では?

賀川:田中達也や玉田圭司、岡崎慎司、巻誠一郎(彼の長身とヘディングは守りのセットプレーでも働くだろうが……)たちは徐々に良くなっている。新しい岡崎は、代表チームでゴール前に入ってくるのは良くなっている。あとは、ちょっとしたタイミングの修正だろう。香川真司も同様だ。
 中澤、闘莉王で中央の守りが安定すれば、欧州組がいなくてもとても面白いフィンランド戦になると思っている。


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(写真2)中面の見開きページは両チームのイレブン。
配列(フォーメーション)は戦前からの習慣の2FB、3HB、5FWで記されている。
左がフィンランド、右がハンガリーチーム



――フィンランドについてはどうですか?

賀川:森と湖が美しいが、同時に北の厳しい自然の中で暮らすこの国の人たちは逞しい体と強い心を持ち、戦前のオリンピックでは陸上長距離のヒーローを生んだ。私が小学6年のときの1936年ベルリン・オリンピックの選手、1万メートルでの村社講平(むらこそ・こうへい)選手の活躍は今も語られるが、そのときの相手となったのもフィンランドの選手たちだった。

――フィンランドのサッカーについては?

賀川:何といっても忘れられないのはこの国の首都ヘルシンキで開催された1952年のオリンピック大会。1945年に太平洋戦争が終わり、48年のロンドン・オリンピックには日本とドイツは戦争を起こした国として招かれず、4年後のヘルシンキのときに参加を許された。ただし、日本サッカーはまだJOC内での力がなく参加できず、竹腰重丸(たけのこし・しげまる)さん(故人)が視察に派遣されただけだった。
 私は当時、産経新聞の記者で、大会には木村象雷(きむら・しょうらい=故人)という先輩が特派員で出かけたのだが、木村さんは帰国後に私にお土産品――大会直前に行なわれたフィンランド対ハンガリー戦の小さなプログラム(写真1)をくれた。
 ハンガリーはこの試合のあとヘルシンキ大会で優勝し、次の年、53年にはウェンブリーでイングランド代表を6-3で破って“マイティ・マジャール(偉大なハンガリー人)”といわれたのだが、そのハンガリーとフィンランドとの試合のプログラムだった。プログラムに書かれたフェレンツ・プスカシュやナーンドル・ヒデクチ、シャーンドル・コチシュなどのワールドクラスのプレーヤーについて、私はそのあと何度も記事に書くことになったのだが、初めてこのプログラムで全メンバーを見たときの感激は今も覚えている(写真2)。
 この試合は6-1でハンガリーが勝つのだが、「フィンランドが1ゴールを返したときの、満員のスタンドの観客の興奮はすごかった。私のすぐ近くの女性は涙を流していたからね」と私に語った木村特派員の言葉は長く心に残った。私がヨーロッパのサッカーに目を向けるようになったのは、この言葉とプログラムがきっかけのひとつだった。


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11月13日 日本代表 vs シリア代表

2008/11/18(火)

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シリア戦のマッチデープログラム
表紙のデザインは大会公式ポスターと同じ。
ポスターの方には選手ごとに切り取り線が入っていて、選手カードとしても活用できるようになっていた。



レギュラーがそろわなくても、一歩ずつの進歩。

輝いた左サイド長友のドリブルシュート


キリンチャレンジカップ2008 ~ ALL FOR 2010! ~
11月13日(兵庫・ホームズスタジアム神戸)19:22
日本代表 3(2-0 1-1)1 シリア代表
得点者:長友(日 3分)玉田(日 26分)大久保(日 62分)M.アルジノ(シ 78分)

【日本代表メンバー】
GK: 1川口能活(Cap.)
DF: 2寺田周平→5今野泰幸(46分)4田中マルクス闘莉王→21高木和道(56分)6阿部勇樹、15長友佑都、20内田篤人→3駒野友一(78分)
MF: 13中村憲剛
FW: 11玉田圭司→9佐藤寿人(46分)16大久保嘉人→12巻誠一郎(68分)19田中達也→8香川真司(46分)13岡崎慎司
SUB:18都築龍太、23川島永嗣

【シリア代表メンバー】
GK: 1ムサブ・バルフス→16モハメド・レドワン・アルアズハル(65分)
DF: 13アーテフ・ジェニアト→18アブドゥル・ファタハ・アルアガ(81分)17アブドルカデル・ダッカ、3アリ・ディアブ、5フェラス・イスマイル→8マハムード・アルアミナ(51分)
MF: 14 ワエル・アヤン、11アデル・アブドゥラ
FW: 10ジアド・シャポ→24モハマド・アルジノ(46分)12ラジャ・ラフェ、19ヤヒア・アルラシド→23ハムゼ・アルエイトゥニ(46分)9マヘル・アルサイド(Cap.)→2ブルハン・サヒユニ(63分)
SUB:6バセル・アルシャール、7アハマド・ディーブ

 久しぶりの神戸での試合なので、プレス席でなく兵庫協会の招待席で観戦することにした。試合のあとさきにレセプションルームで古い神戸のサッカー仲間に会えるだろうと考えたからである。代表の試合が久しぶりということもあって、ずいぶん多くの旧友と顔を合わせることができた。70歳をこえてまだボールを蹴っていますという人も少なくなかった。
 かつてウィークデーの国際試合でナイターとなれば、この国では国立競技場以外に照明設備のあるスタジアムは神戸御崎(この日の会場、ホームズスタジアムの前身)だけだったから、神戸のサッカー好きは代表を声援するとともに相手をしてくれたペレやベッケンバウアー、ヨハン・クライフ、エウゼビオといった、時代のスーパースターをナマで見ることができたのだが……。
 ジャパンブルーを着て声援し、試合のあと代表チームのバスを見送ろうと集まる若者たちを見ながら、あらためて日本サッカーの大変化と、その中でキリンチャレンジカップの地方での試合の果たす役割の大きさを思った。

 近ごろ、サッカーはすでに野球と並ぶ国民スポーツとなったと思っている人もいるようだが、野球という、手でボールを扱う遊びが盛んになってしまった国(あるいは地域)で、日本ほどサッカーが盛んになったところはないことを知れば、これまで続けてきた先人達の普及への努力を、今も手を抜いてはならないとの思いを強くする。
 その意味で、若年層への働きかけはますます大事になる。この日の試合前のセレモニーで「なでしこ」のメンバーであるTASAKIペルーレFCの池田浩美、大谷未央、下小鶴綾の3選手と小学生26人が君が代を歌ったのはまことに素晴らしかった。

 もちろん、この試合の目的は普及面だけでなくワールドカップ・アジア最終予選の対カタール(19日、カタール)への準備という目的があった。そちらの方はどうだったか――。

 率直にいって、ドレス・リハーサルという意味で満足のゆくものであったかどうか――中村俊輔をはじめとする欧州組(カタールで合流)と、ACL(アジアチャンピオンズリーグ)の決勝で勝ったばかりのガンバ大阪勢は不在。GK楢崎正剛、DF中澤佑二は故障で欠場した。レギュラーからこれだけ抜ければ、本番用の演習は難しいだろう。ただし、玉田圭司、大久保嘉人、田中達也、岡崎慎司のスターティング・ラインアップをFWと書き込んで演じた4人の攻め込みは、ときにいいパス交換による突破もあり、選手たちの間に少しずつ共通のアイデアが出来上がっている感じが見えた。
 中村憲剛はこの日の中盤での主役として左右にボールを散らし、ときおりのDFラインの裏への走り込みなどに彼らしいプレーを見せた。
 CDF中澤の穴は、前半は寺田周平(33歳、189cm)が務めた。後半に闘莉王に代わった高木和道(27歳、188cm)ともども、日本のセンターDFは長身者を揃えられることを示した。ただし、守備動作については日本DF陣の共通の問題もあるようで、経験ある中澤が不在だったときにどこまで補えるかは、この日だけでは見えていない。

 岡田武史監督となってから、右と左のサイドDFに起用されている内田篤人と長友佑都は、この日もスタートから起用された。左サイドの長友が、この日最も輝いた。
 前半3分に相手のCDFから右サイドへのパスをインターセプトして、ハーフラインからドリブルで持ち上がり、中へ切れ込んで右足シュートをゴール左下に決めた。ドリブル開始のハーフライン、シュートの位置はペナルティエリア中央すぐ外だった。
 インターセプトして左へ流れそこから右斜めへ持ち上がって、奪いにきたヤヒア・アルラシドをかわし、そのあとのスペースを右斜めにドリブルしてエリア中央すぐ外から右足で叩いた――そのコースの取り方、右足アウトサイドでのボールタッチのうまさは、惚れ惚れするほどだった。

 86年生まれの長友と、88年生まれの内田の2人の若いサイドDFの起用は、代表の新しい魅力。2人のクロスの精度をはじめとして不満な点はまだまだ多いが、サイド攻撃の担い手としてはここしばらくの日本代表のなかで最もいい素材であることは多くが認めるところだろう。
 まず第一に、長友も内田もドリブルができる。ドリブルで相手をかわせる自信があるから、ボールを受けたとき相手が前にいても落ち着いていられる――そして、相当なスピードがある――という、このポジションの基本的条件を備えている。

 古くはサイド攻撃を担うプレーヤーをウイングと呼んだ。そのウイングの攻めでの大きな仕事は(1)サイドからゴール前へのいいパス(クロスパス)を送ること(2)自らシュート地点へ入ってシュートを決める(3)サイドでキープして相手の動きを分散させ、また、味方に攻めで(守りでも)ひと呼吸の間をもたせる――というところだが、これまで残念ながら、自らゴールしようという姿勢を見せる者は(駒野友一は別としても)少なかった。

 ブラジルのロベルト・カルロス。あの小柄な左利きのサイドDFも、シュートの強さで知られていた。98年フランス代表の左サイドのビセンテ・リザラズも2006年ドイツ代表のフィリップ・ラームも小柄な左サイドで、左からのクロスだけでなく持ち込んでのシュートでも相手の脅威となった。
 日本では、68年メキシコ五輪銅メダルチームの左FW杉山隆一は、メキシコではパサーに徹したが、左サイドから中へ持ち込んでの右足シュートは日本代表と三菱重工の武器だった。日本代表で国際試合で最初にハットトリックを演じたのは1930年の対フィリピン戦での若林竹雄さん(東大)だが、私より17歳上のこの先輩は左ウイングのポジションから内へ入って右足のシュートを度々決めて“天才”といわれていた。
 いいチームにはいいサイド攻撃の選手、それも自ら点を取れるプレーヤーがいることは古今東西、明らかなこと――それがようやく、今の日本代表にも現れてきたといえる。

 この日の日本のゴールはこの長友の先制にはじまり、26分、中村憲剛が右斜め後方からのDFラインの裏へ送ったクロスに玉田がノーマークで合わせたもの。中村にボールが回る前に岡崎慎司と田中達也が絡み、中央からいったん右サイドへ出たボールを内田が後方の中村へ戻したもの。いわば4人のFWと右サイドの内田との連動で生まれたチャンスだった。

 3点目は後半17分(62分)に左の長友から大久保嘉人へ、そこから佐藤寿人(後半に玉田と交代)を経由してもう一度左の長友へ。長友が内の大久保にパスして、大久保が右足シュートを決めたもの。相手DFの寄せを見て、トウ(つま先)で蹴ったシュートのタイミングがよく、それが相手側に当たってコースが変わり、GKムサブ・バルフスには取れないボールとなった。

 後半の4人のFWは、田中達也に代わって香川真司も出場した。巻誠一郎も68分に大久保と交代し、また、駒野が内田と(78分)、今野が玉田と代わる(ハーフタイムから)など、国内メンバーの総出演となった。
 ドレス・リハーサルとゆかなくとも、この機会に選手たちの状況を見られたのは結構なことだった。田中達也のすごいスピードでの相手ボールへの寄せと奪取をはじめ、奪われれば奪い返すというこのチームの共通姿勢が生きていること、4人FWにつなぎの工夫の跡のあったことは、長友のドリブルシュートとともに、代表全体の底上げと見てよさそうだ。ただし後半には相手が前がかりになったのに対し、香川がDFラインの裏へ飛び出し、そこへスルーパスを送るプレーが再三あった。こういう形のチャンスがなぜゴールにならないのかを、つくり方そのものから考えることが大切だろう。

 シリアが予想していたより手応えがなかったという声もあるが、こういう時期にそこそこの試合経験を積み、それが個にもチーム全体にも少しでもプラスになっていると考えることが重要だろう。長友が進歩の跡を披露したといっても、何十年も前にあったプレーが再現されたといって喜ぶ――その程度のところに私たちはいることを思えば、少しずつの進歩を大切にしたい。

 さて本番、気候・風土の違うアウェーでの戦いである。選手たちの頑張りを祈りつつ、テレビ前で応援しよう。


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10月9日 日本代表 vs UAE代表

2008/10/09(木)

快速突破、反転、切り返し…新代表の個性に瞠目

 シュート、キックの精度は日本全体の問題


キリンチャレンジカップ2008 ~ ALL FOR 2010! ~
10月9日(新潟・東北電力ビッグスワンスタジアム)19:24
日本代表 1(0-0 1-1)1 UAE代表
得点者:香川(日 72分)アルハマディ(U 77分)

【日本代表メンバー】
GK: 18楢崎正剛
DF: 2 寺田周平→15高木和道(46分)22中澤佑二(Cap.)27長友佑都、25内田篤人
MF: 10中村俊輔→26香川真司(70分)8稲本潤一→14中村憲剛(65分)17長谷部誠
FW: 11 玉田圭司→13興梠慎三(57分)16大久保嘉人→9佐藤寿人(82分)24岡崎慎司→12巻誠一郎(82分)
SUB:1川口能活、23川島永嗣、3駒野友一、28森重真人、21青木剛、5今野泰幸、20森島康仁

【UAE代表メンバー】
GK: 1ナセル
DF: 8ハイダル・アリ、14サイード、5ジュマ、18マララー→21オスマン(46分)3メスマーリ
MF: 16イブライム(Cap.)→9ナワフ・ムバラク(64分)6ジャベル、20アメール・ムバラク
FW: 10マタル、7アルシェヒ→15アルハマディ(74分)
SUB:22ラビー、12アルタウィラ、19ハサン、17アッバス、4ファエズ、13アハメド・ムバラク(ダダ)2モアダド、11モハメド

――たくさんチャンスはあったけれど、結局は1-1。今度のキリンチャレンジカップの収穫は?

賀川:興梠慎三(こうろき・しんぞう)だろうね。それに岡崎慎司も良かった。

――香川真司も19歳で点を取った。戦後では史上3番目の若さだそうだが…

賀川:香川は、まあ、あのシュートの位置へ出ていったことを誉めるべきだろう。この右足シュートでの得点のあと、胸でのトラッピングからの右のボレーシュートはバー越え、また、ヘディングも右外へはずしている。本人もまだまだと思っているだろう。代表初ゴールは記録や記念にはなるが…。

――興梠のスピードと反転を前から買っていた?

賀川:この試合で、日本代表にもペナルティエリア内で反転するプレーヤーが出てきたなと思わずニンマリした。
反転といえば1970年ワールドカップ得点王のゲルト・ミュラー(西ドイツ)が有名で、74年大会の西ドイツ対オランダの歴史に残る決勝ゴールも一種の反転シュートだった。

――すごい!! ゲルト・ミュラーと比べるのか?

賀川:身長は同じ175cmで、ミュラーはドイツ人としては背は低い方だがガッシリとして、腰が安定していた。それが、高速ダッシュのあとの反転の基盤だった。
興梠は175cm、ガッシリしたところはよく似ている。スタートダッシュの早さがいまの日本選手のなかでも際立っている。

――反転の効果は?

賀川:シュートチャンス、あるいは突破のチャンスに、「いまはダメ」ということになることもある。そのときにターンして、そこからシュートあるいは突破、またはパスなど選択ができる。ペナルティエリア内でこういう反転プレーが入ると(シュートチャンスを逸することもあるが)、相手はファウルが怖いし、仲間にとってはいいポジションを取るための間(ま)が生まれることになって、パスを受けやすくなり、シュートのリバウンドにも対応できる。

――そういえば香川のゴールも中央の興梠のファーサイド(左側)に香川が入っていってシュートした。

賀川:後半27分のこのゴールは、右サイドで大久保、内田のパスのやり取りから大久保が左足でクロスを送り、相手DFの2人の間のスペースに入った興梠がヘディングした。ボールはバーに当たってはね返った。それを内田が拾ってゴールライン近くまで持ち込み、中へグラウンダーのクロスパスを送り込む。ニアサイドの興梠の後方を通り中央へボールが出てきたところに香川がいた。いわば2段攻撃となって香川はノーマークだった。

――彼には、何かの対談のときに点を取れと言ったとか?

賀川:もともといいパスを出して攻撃を組み立てて、ゴールが決まったときに「どうだ、僕のパスを見てくれたか――」というような気持ちを持つ方だったそうだが、いいパスを出し、そのあとシュートポジションへ走り込むことをもっとやって欲しいと話した。それが効いたのかどうかは別にして、自分が決めることでまたプレー・メークも上達するハズだ。

――岡崎は?

賀川:岡田武史監督が岡崎をスタートから出したのは、彼の実践的なところを確かめたかったのだろう。キックオフ早々に相手のMFのドリブルに絡んでボールを奪い、そのパスを受けた玉田が倒されてFKを取ることができた。俊輔のこのFKはグラウンダーを左ポスト側へ蹴って、GKナセルが防いだ(俊輔はもう1本後半のFKを右上へ蹴って、やはりGKが防いだ)。
この相手ボール奪取にも見られるように、岡崎は絡んでも絡まれても粘り強いのと、ランが途切れない。前半にエリア内右寄りでタテに走って俊輔からのパスを受けて反転して、左足シュートをした。失敗はしたが、走った勢いで右足ダイレクトシュートかと思ったのに切り返して左足に持っていった。成功はしなかったが、これがやれるというのは興梠のスピード、そのあとのターンとはまた別の形のランと反転ができるということ。いわばそういう粘っこさがあるということだ。

――玉田圭司や大久保嘉人とはまた別の……

賀川:玉田は173cm、大久保は170cm、岡崎173cm、興梠175cm――と、佐藤寿人(170cm)を含めていわゆる大型FWではないが、玉田も大久保もスピードが一つの持ち味で、新しい2人はそれに反転と粘っこさが加わっている。反転は別の形でいえば“切り返し”でもあるけれど、この切り返しはときおり話しているように一種の“引きワザ”でなければ取られやすい。それを興梠はまずスピードで脅しておいての切り返しだから成功することが多い。

――じゃ、若い3人は新戦力として役立つ

賀川:戦力になりうるだろう。ただし、それはシュートがうまくできるかどうかにかかってくる。たとえば、岡崎はいいシュートポジションを見つけて走り込み、そこでプレーをする、あるいはそこへのパスが潰されたあとも、すぐ次のポジションへ移る。いわば立て直しの移動のランがうまいし、労を惜しまない。かつての日本代表、森島寛晃と同じだろう。シュートは上手なハズだが、まだ代表では見せていない。その点がこれからだろう。
今度の試合の得点シーンのように、攻撃が一つの波だけでなく一波、二波と繰り返してその揺さぶりでノーマークの場面を増やしたのが、対UAEの収穫だと思う。
対ウズベクで使うかどうかはともかく、この選手が入ればこういう攻めができるという実験をしただけでも監督さんにはプラスだろう。

――シュートはまだ課題

賀川:チームのコンセプトは監督やコーチの指導やヒントで作ることはできるし、攻撃の組み立てもある程度はできるだろう。点を取れるかどうかはプレーヤーの仕事になる。練習をしないプレーは試合で成功しないものだヨ。

――最終予選の第2戦を前にして、これで良いのかナ

賀川:岡田監督のおかげで、日本代表の候補にはいろいろなタイプのプレーヤーがいることを見せてもらって、本当に面白かった。ただし、せっかくいい選手が集まっても、何人かは別にして、精密なキックということになるとまだまだだし、シュートという点では皆さんも見てのとおり。
相手の得点はイスマイル・アルハマディが1人でドリブルし、左タッチ沿いで奪われかけたのを持ち直し、中央へ持ち込んでシュートして決めている。世界中、たいていの代表チームにこの程度のFWは2人くらいはいるものだから、どこと試合をしても失点1は計算しておいた方が良い。こちらが2点以上取ればいいのだから。

――シュート力不足は未解決のまま。

賀川:これは大型CF(センターフォワード)の問題とともに、世界のトップクラスを目指すためには日本全体の底上げだろうね。それでも、今のチームのなかで1人でも2人でもゴールを奪うコツをつかみ、自分の能力に目覚めてくれればガラリと変わるだろう。チームの後方と中盤の骨組みはできていて(おっと、クロスの精度はまだだが…)優秀なパサーがいる。大久保だって、9日の超不出来を取り返す気になっているだろうしね。
今度のキリンチャレンジカップは目前のウズベキスタン戦のための調整ともう少し遠くを見てのチーム全体のレベルアップを考えての選考だったハズ。ピックアップされて、ウズベク戦の候補から外された人も励みになったハズだから、自分のチームでさらに努力して力を備えてほしい。


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【Preview 2】10月9日 日本代表 vs UAE代表

2008/10/08(水)

背水のUAEを迎えて、対ウズベク戦のリハーサル


キリンチャレンジカップ2008 ALL FOR 2010!
10月9日19:20キックオフ(新潟・東北電力ビッグスワンスタジアム)
日本代表 対 アラブ首長国連邦(UAE)代表


A:今日は対談の形でゆきましょう。
この試合は、10月15日(水)の対ウズベキスタン戦(埼玉)に備えての、日本代表の最終テストとも言えますネ。

B:そう、ことしのキリンチャレンジカップは“ALL FOR 2010!”のタイトルがついているように、すべて2010年FIFAワールドカップを目指すもの。このUAE戦は1週間後のアジア最終予選第2戦を控えた代表選手にとって大事な試合となる。彼らは今日10月7日に集結して9日にUAE戦、中5日をおいて15日の試合に臨む。

A:この2試合のために招集される選手はGK3、DF9(※当初は8、寺田の追加招集で9に)、MF8、FW7人の合計27人。海外組の中村俊輔、稲本潤一、長谷部誠も入っている。
DFに大分の森重真人、FWに清水の岡崎慎司、鹿島の興梠慎三(こうろき・しんぞう)森島康仁(もりしま・やすひと)が入りました。

B:最終予選の第1戦、対バーレーン戦(9月6日、マナマ)は3-2で勝った。3-0から87分と88分に失点して、終わりごろはよくなかったが、まずアウェーで勝点3を取った。

A:玉田圭司、田中達也といったトップの守備、ことに奪われた直後に奪い返す素早い守りが成功して日本のペースとなりました。

B:バーレーン戦の直前のキリンチャレンジカップでウルグアイと戦い、無残な戦いぶりになった(8月20日、1-3)が、それが薬になって日本チームの特色を出せた。
岡田武史監督は、第3次予選突破の間にあるていど選手たちの間に自分の考えが浸透したと思ったのが、代表チームを解散して、しばらくぶりに集まったら攻から守へ、守から攻への切り替えの早さとか連動性といったものが消えていた。そして、そういう組織で守り、攻めること、そのための動きの量や早さが乏しければ1対1に強いウルグアイを相手に惨めなことになることを、選手たちは改めて思い知らされた。

A:その反省がいい方に出たと――

B:もちろん、岡田監督も選手たちにそう強調しただろうが、選手たちもしっかりと考えただろう。

A:バーレーン戦はスタートから違っていたと。

B:日本の早い集散、失ったボールを高い位置で奪いにゆく、それも複数が協力してね。
その早い動きにバーレーンの選手たちはおそらく驚いただろう。日本と対戦した経験はあっても、しばらく忘れていたハズ。ああいう素早い動きで攻め、守るチームは世界にそうないし、自分たちのリーグでは経験することは少ない。

A:いわば異質のサッカー――

B:そう、別の見方をすれば、サッカーというのはあくまで1対1の戦いが基調なんだが、日本代表の場合は日本の特色を生かすために早い動きとその運動量で相手をしのぐやり方だ。これは、いまに始まったことではなく、1936年のベルリン・オリンピックでもそうだった。

A:そんないい戦いをしながら、終盤に2点取られた。

B:相手が10人になって、しかも3-0。誰だって気が緩むだろう。疲れも出てきて動きが鈍くなる。すると相手は1対1の場面でボールを取り攻めに出れば、こちらの人数が多いという条件は消えてしまう。2点取られたのはよくないが、私はいい反省材料になったと思う。

A:動きの量を落としてはいけないと?

B:もちろんそうだが、90分間フル回転できるかどうか、そこに、今度は1対1の能力、体の強さや走る早さなど、もちろんシュートの正確さ、パスの確かさなどを、代表の一人ひとりが自分で伸ばすことを考えなければならない。


ベテランMFと若手FWの組合せ

A:監督をはじめスタッフはより高い能力を求めることになる?

B:今度のオリンピック世代の若い選手が必ずしもいまの時点で常連選手より上かどうかは別にして、少しでも可能性のあるプレーヤーを試したいのは監督さんとして当然だろうね。

A:点取り屋のFWが少ないという声が多いから、3人の若手FWに期待がかかる?

B:チームの練習で見てみたいのか、実際にキリンチャレンジカップの舞台で試してみるのか――だが、岡崎はともかく動きの止まらないプレーヤーで、ひとつの穴を見つけて走り込んだあとすぐ次にいいところがあれば移動する。競り合って点を取るコツが身についているように見える。それがJだけでなく代表レベルでどうか。見てみたいプレーヤーだね。
興梠(こうろき)というのは私たちには珍しい名前だが、九州・宮崎県高千穂町には割合多い姓らしい。本人も宮崎出身。鹿島で得点を重ねているが、ドリブルがうまくスピードがあり、ウラへ入るのが早い。ただし私が見たACL(アジアチャンピオンズリーグ)のテレビでは2回走り込んで2回とも右に持ちかえて潰されていた。得意の形にこだわるところがいいのか、左足でスパッと蹴れないのかはともかく、点を取りにゆこうという意欲はありそう。

A:森島はよく知っているでしょう?

B:セレッソ大阪にいたから、ナマで何度も見ている。滝川第二出身だし……。
体が大きくてしっかりしている。身長は巻誠一郎(184cm)より2cm高く、代表ではDF寺田周平(189cm)DF高木和道(188cm)GK楢﨑正剛(187cm)中澤佑二(187cm)に次いで5番目の高さだ。
現代のゴール前での多数防御を破るひとつのテはヘディングで、そのために長身でヘディングの強いFWは大切なポイントでもある。ヨーロッパでは大男の少ないハズのイタリアが2006年に196cmのFWルカ・トーニを持ってきたのはご承知のとおり。セレッソで小柄な森島寛晃(モリシ)と対照的にデカモリシと呼ばれていたが、私が期待していたほどには伸びていない。だが、体が大きく、しかも強くて、そこそこの技術があるということに加えて、ゴールへの意欲も強いし、体を張ることもいとわないから、大切な素材であることは間違いないところ。

A:大分へ行ってから注目されています。

B:シャムスカ監督の使い方のうまさもあるだろうが、ウェズレイというベテラン・ストライカーがいることがプラスになっていて、いま自分のいいところを出せばいいという立場にある。それが活躍のもとだが…。

A:彼自身の成長のきっかけになればいいですね。

B:もちろん、そう願うヨ。しかし別の見方をすれば、いまのデカモリシをも招集するということは、岡田監督の、日本全国の指導者へのメッセージとみてもいいのじゃないか。大久保嘉人や佐藤寿人、玉田圭司といった小柄で早いストライカーもいいが、巻以外にも、大型で体の強いCF(センターフォワード)がほしいのだと――。

A:UAEは最終予選で日本と別のグループで戦って2敗しています。何とか立て直しを図るためにも、このキリンチャレンジカップは大事な試合と考えているでしょう。互いに調子を高めるため、真剣で面白い試合になるでしょう。

B:その中で、中村俊輔たちのベテランと組む若い力も見てみたい。

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【Preview】10月9日 日本代表 vs UAE代表

2008/09/30(火)

081001kirin

注目! デカモリシ招集。対UAE戦で登場か


 日本サッカー協会(JFA)は9月29日、JFAハウスで、11月13日にキリンチャレンジカップ2008 ALL FOR 2010!日本代表対シリア代表を神戸ホームズスタジアムで行なうことと、FIFAワールドカップ(W杯)2010南アフリカ、アジア最終予選の第2戦(対カザフスタン、10月15日、埼玉)、その6日前に新潟で行なわれるキリンチャレンジカップ2008 ALL FOR 2010! 対UAE代表戦に臨む日本代表メンバーを発表した。

 シリア戦は、11月19日に予定されているW杯アジア最終予選の第3戦(対カタール=アウェー)に備えてのもの。JFA犬飼基昭会長、キリンビバレッジの斎藤信二社長、日本代表・岡田武史監督が出席して、この試合の意義を語った。
 最終予選第2戦と、キリンチャレンジ 対UAE戦のメンバーは、北京オリンピック世代4人を含む26人の顔ぶれが紹介され、岡田武史監督が記者たちの質問に答えた。

 ホームでのカザフスタン戦を前に監督がチームの中で見てみたい選手として、大分のDF森重真人(もりしげ・まさと)FW森島康仁(もりしま・やすひと)清水のFW岡崎慎司(おかざき・しんじ)鹿島のFW興梠慎三(こうろき・しんぞう)の4人を新しく加えた。大分の2人は1987年生まれ、岡崎と興梠は86年生まれ。

 岡田監督の森重評は、「ディフェンダーの中では球出しがよく、しかもボール際も強い」つまり、味方へのパスもうまく、ボールの取り合いでも頑張れる選手ということ。今の大分の特徴の守りを支える選手。FWの3人のうち岡崎は173cm、興梠は175cmと大きくはないが、岡崎は“頑張り”、興梠はスピードに、それぞれ特色がある。興梠はACL(アジアチャンピオンズリーグ)で相手のDFのウラへ入る速さに非凡なところを見せた。

 森島康仁は、岡崎の後輩。滝川第二高校からセレッソ大阪に入り、ベテラン森島寛晃(もりしま・ひろあき)と比べて大柄であるところから、“デカモリシ”と呼ばれていた。
 昨シーズンはそこそこの働きをしたが、今季は出番が少なく、7月に大分へ期限付きで移ると、ウェズレイと2トップを組んで大分躍進の力となった。
 体がしっかりしていて、186cmの長身で、ツボへ来たときのジャンプ・ヘディングには目を見張る。日本代表の常連・巻誠一郎(184cm)のひたむきさとはまた違った爆発的な魅力がある。
 岡田監督は「パワーがあり、大きな体で、スピードがある。背が高くて悪いということはないのだから…」と、大きさとパワーに目をつけていたようだ。

 ドイツで実績をあげた高原直泰が帰国後に調子が上がらず、平山相太もまた期待ほどに伸びず、Jリーグでも長身でヘディングが強く、シュートもうまいというタイプのFWは多くない。したがって、代表では巻誠一郎一人となっている。もちろん、大柄でない優れたストライカーもいるし、外国にも例はあるが、やはり、長身の優れたストライカーはチームをつくる上で重要なポイントである。
 今度のデカモリシの招集は、本人にとってもいいチャンスだが、私はむしろ、大学やJリーグのコーチたちが、これを刺激として代表チームのために大型FWの育成に力を尽くす意欲を燃やして欲しいと思っている。


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8月20日 日本代表 vs ウルグアイ代表

2008/08/20(水)

日本選手にもファンにもいい経験――。ウルグアイのタテに出るサッカーとシュートする面白さ

キリンチャレンジカップ2008 ~ ALL FOR 2010! ~
8月20日(北海道・札幌ドーム)19:13
日本代表 1(0-0 1-3)3 ウルグアイ代表
得点者:OG(日 48分)S.エグレン(ウ 55分)I.ゴンサレス(ウ 83分)S.アブレウ(ウ 93+分)

【日本代表メンバー】
GK: 18楢崎正剛
DF: 22中澤佑二(Cap.)2高木和道、3駒野友一、6阿部勇樹
MF: 8小野伸二、14中村憲剛→9佐藤寿人(75分)7青木剛→15長友佑都(46分)17長谷部誠
FW: 11玉田圭司→12大黒将志(68分)19田中達也→8山瀬功治(78分)
SUB:1川口能活、4田中マルクス闘莉王、13鈴木啓太、5今野泰幸、16大久保嘉人

【ウルグアイ代表メンバー】
GK: 1フアン・カスティージョ
DF: 4ホルへ・フシレ、2ディエゴ・ルガノ (Cap.)18ブルノ・シルバ→17ヘラルド・アルコバ(88分)3カルロス・バルデス
MF: 8セバスティアン・エグレン、16マキシミリアノ・ペレイラ→6アルバロ・ゴンサレス(60分)15ディエゴ・ペレス→10イグナシオ・ゴンサレス(69分)7クリスティアン・ロドリゲス→14ビセンテ・サンチェス(60分)
FW: 20カルロス・ブエノ→13セバスティアン・アブレウ(69分)9ルイス・スアレス→5ホルヘ・ロドリゲス(84分)
SUB:12ファビアン・カリニ、19ディエゴ・アリスメンディ

◇さすがは北海道――気温23度。北京オリンピックでは口グセのようになっていた“暑さ”もなく、ピッチ不良の不満もない。
 スターティング・ラインナップのうち9人がヨーロッパのクラブの所属で、ウルグアイとブラジル(つまり南半球)から一人ずつというウルグアイ代表には長旅と時差のハンディはあっても、日本特有の蒸し暑さから解放されることになる。いいプレーを見せてくれるだろうとの予感のとおりの展開となった。

◇前半22分までに、日本のシュートは田中達也の1本だけ。ウルグアイは7本。日本側がヒヤリとしたのは8分の右CKだったろう。
 クリスティアン・ロドリゲスが左足のカーブキックをゴール正面、ややニア寄りに送り込み、FWのカルロス・ブエノがヘッド。ボールがファーポスト側に落ちたところへ、DFのカルロス・バルデスが走り込んで左足ボレーでタッチ。ボールは楢崎正剛の横を通り、カバーに入っていた中村憲剛が右足キックでクリアした。

 このCKは、その前にウルグアイが右タッチライン際の深い位置でのスローインのとき、後方から
(1)セバスティアン・エグレン(だった?)がゴールライン近くへ飛び出し(スローインだからオフサイドはない)
(2)ボールを受けてバックパス。これを
(3)ルイス・スアレスがタテにドリブルしてゴールライン際からクロスを蹴り、日本側に当たってCKとなったもの。
 彼らのダッシュの速さに日本側が振り切られるのを見ながら、日本ならバックパスを受けた者が、たいていは味方へのパス経路を探すのに、スアレスがためらうことなくタテに突進したのに(当然のことながら)やっぱりなぁ……と思った。

◇そして、ロドリゲスの右CKでFWのブエノがヘディングしたときには、日本側は誰も体を寄せていなかった。スロービデオでのリピートを見ると、相手側の長身187cmのディエゴ・ルガノ(主将)には中澤佑二、もう一人の184cm、カルロス・バルデスは高木和道がマークしていた。
 中央のエグレンとブエノ、スアレスには阿部勇樹、青木剛、長谷部誠がついていたが、キックの前の3人のフェイクの動きをとらえきれず、ブエノのヘッドを許した。
 また、高木はボールの落下点へダッシュするバルデスに振り切られていた。バルデスのボールタッチが左足に当てただけだったので、ゴールにはならなかったといえる。

◇日本のチャンスは前半32分のFK。小野がゴール前へ送らずに、右のオープンスペースへ走った中村憲剛にパスを出し、中村が中央へクロスを上げて中澤佑二がヘディングした。
 ライナーのヘディングシュートがゴールバーの50cm上を越える惜しい場面だったが、相手DFのルガノが体をくっつけてジャンプしていたから、中澤もパーフェクトに叩けなかったのかもしれない。この場面だけでなく、ウルグアイ側のCKのときにも、長身ルガノが日本のゴール前で中澤をマークする場面が見られたが、中澤のヘディングの強さがすでにウルグアイ側にも十分伝わっていて、彼のヘディングを押さえることが、攻撃でも守りでも重要課題とみていたのだろう。

◇後半3分に日本のゴールが生まれた。
 左サイドに長友佑都(青木剛と交代)を入れ、阿部を第2列に上げた日本は、後半初めから攻めに出た。そして右CKを小野がニアに蹴り、リバウンドを拾って再び右タッチ際の小野へまわる。小野は、タテに走った中村にパスを送り、ノーマークの中村がゴールラインぎりぎりから速いクロスをゴール前に送ると、相手DFの足に当たってゴールイン(オウンゴール)した。一つのプレーがあった後に、
(1)後方から前へ飛び出すという中村の得意のランがあり
(2)それに小野がいいパスを出したこと
(3)さらに中村が相手DFとGKの間へ、鋭いヒザの高さのボールを送り込んだことがオウンゴールにつながった。
 もちろんCKだから中澤、高木の日本側長身2人もゴールを狙っていた。それが高いボールでなく低いボールのCK、ニアへ(中澤がいた)出し、そのリバウンドを取って再び深いところから低い速いボールと、あえて空中戦にしなかったのが、頭の使いどころというべきだろう。

◇勢いづいた日本は、なお攻めに意欲を燃やす。ウルグアイはそれを食い止め早いカウンターで――と、互いに攻め合ってスピーディな展開となる。
 その攻め合う形から54分に日本の右サイドのクロスを防がれ、そのカウンターをハーフラインの手前で阿部がつぶして、相手側の左サイドスローインとなったところから、同点ゴールが生まれる。

 ウルグアイは左サイドからパスを2本つないで右サイドへ展開し、マキシミリアノ・ペレイラがボールを受けて長友をひきつけ、内側ノーマークのスアレスに渡す。彼がまったくフリーなのを見て、日本の2人のCDFのうち高木が応対に出てゆく。もう一人の中澤は2トップの一人、ブエノを警戒する形――。余裕を持って高木の接近を見ながら、スアレスはボールを浮かせて、ブエノへ送る。ブエノは落下点(ペナルティエリアぎりぎり内側、ゴール正面)でボールタッチ、再び浮いたボールが右へ上がって、落ちたところへセバスティアン・エグレンが走り込んで来て、ノーマークでダイレクトシュートした。強烈なシュートではなかったが、ゴール右ポストぎりぎりへ転がるボールは楢崎のリーチの外だった。
 日本の攻めには多くのプレーヤーを送り込むため、奪われてからの帰陣が遅くなっていた(もちろん、相手側のドリブルの上手さやボールを浮かせる着想の良さもあるのだが…)。

◇その直後、日本はFKから中澤が飛び込んでノーマークとなるチャンスがあったが、ワンバウンドしたボールは胸に当たってゴールを外れた。
 その後にも66分に小野伸二のヘッド(GKキャッチ)長谷部誠の中距離シュート(GKキャッチ)があったし、玉田圭司にも(シュートしなかったが)惜しい場面もあった。

◇68分に、その玉田に代わって大黒将志が起用される。ウルグアイはそ8分前にすでにペレイラとC.ロドリゲスを、アルバロ・ゴンサレスとビセンテ・サンチェスに代えていて、さらに69分にはディエゴ・ペレス(MF)に代わってイグナシオ・ゴンサレスが入る。

◇83分にそのイグナシオ・ゴンサレスのゴールでウルグアイがリードする。
 発端は、駒野が相手側センターサークルの右外あたりでボールを奪われたことからだが……。このボール奪取後のウルグアイの攻めは驚くほど速く、効果的だった。
 ルーズボールを拾ってドリブルし、ハーフラインを越えて右オープンスペースを走るスアレスにボールが渡る。スアレスはペナルティエリアぎりぎりの右内側へ入って左へクロスを送り、走り込んできたゴンサレスがゴール正面やや左寄り8mあたりで、ノーマークのスタンディング・ヘッドでゴール左下隅へ叩き込んだ。

 攻撃に多くのプレーヤーが加わって手数をかける日本の攻めは、そのボールのやり取りでミスが起きて奪われると致命傷になり得る――このことは、誰もが知っていることで、それをなくそうとしているのだが……。もちろん、駒野がボールを失う前のパスのやり取りでも、パスをつないでいるうちに追い込まれる形になっていったことも遠因――。

◇2-1となってもウルグアイは攻めの手を休めない。
 ロスタイム(4分)に入って、92分に日本は山瀬功治(76分に田中達也と交代)のシュートがあったが防がれ、93分にウルグアイはビセンテ・サンチェス―ホルヘ・ロドリゲス(84分にスアレスと交代)とつないで、セバスティアン・アブレウ(ブエノと69分に交代)が右ポストぎりぎりにシュートを決めて3-1とした。

◇この相手と、こういう試合展開をすれば、今日のメンバーならこの結果になっても致し方ない(良いとは言わない)が、選手たち一人一人にはいい経験――同時にテレビ観戦の日本中のファンにとっても、北京オリンピックと同じように、サッカーでは走ること、パスは大切だが、それとともにドリブルもまた有効な武器であり、何よりもシュートをすること、シュートを決めることが勝敗を決する要素というきわめて当たり前のことを見せてもらった試合だった。

◇日本代表はこの日の有益なテストを足場に、最終予選に向けて、岡田武史監督と選手たちが勝ち抜くチームをつくりあげてゆくことになる。


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5月27日 日本代表 vs パラグアイ代表

2008/05/27(火)

俊輔加入のテストは済んだ。あとはチームワークと個人の頑張り

キリンカップサッカー2008
5月27日(埼玉・埼玉スタジアム2002)19:20
日本代表 0(0-0 0-0)0 パラグアイ代表

【日本代表メンバー】
GK: 18楢崎正剛
DF: 2寺田周平、4田中マルクス闘莉王、6阿部勇樹→3駒野友一(69分)27長友佑都
MF: 10中村俊輔、7遠藤保仁→9松井大輔(HT)14中村憲剛→5今野泰幸(85分)13鈴木啓太(Cap.)→17長谷部誠(63分)8山瀬功治→16大久保嘉人(77分)
FW: 12巻誠一郎→19高原直泰(63分)
SUB: 1川口能活、23川島永嗣、22中澤佑二、24井川祐輔、26香川真司、11玉田圭司、20矢野貴章

【パラグアイ代表メンバー】

GK: 1デルリス・ゴメス
DF: 3ペドロ・ベニテス、14ホルヘ・ヌニェス→5エドガル・バルブエナ(82分)4デニス・カニサ(Cap.)2ダリオ・ベロン
MF: 6ホルヘ・ブリテス→10ルイス・カセレス(79分)8セルヒオ・アキノ→19フリオ・アギラル(88分)16エドガル・ゴンサレス→15ビクトル・カセレス(79分)17マルセロ・エスティガリビア、18オスバルド・マルティネス→9ファビオ・エスコバル(79分)
FW: 11クリスティアン・ボガド→7ダンテ・ロペス(66分)
SUB: 12オラシオ・ゴンサレス、13カルロス・パレデス

◇キリンカップの第1戦で、コートジボワールとの果敢な攻め合いを見た。ほとんどがヨーロッパのリーグでプレーしている選手相手だったから、後半に当方の動きの量やスピードが落ちると攻め込まれ、ハラハラする場面も何度かあった。
 個人力が揃っていて(もちろん、とてもかなわぬというレベルではない)組織攻撃をする相手と、たとえボール保持率が少なくなっても、こちらの調子の出ているときに点を取ってしまえば、サッカーでは勝ちに通ずるもの――そのことを自分たちにも納得させる試合でもあった。

◇さて――。パラグアイはこのキリンカップの開幕戦、対コートジボワール戦で1-1。ボール支配は55対45 程度で観客にはアフリカ勢のパスワーク優勢と見えたが、パラグアイは1点を失った4分後にロングボールからクリスティアン・ボガドの左足シュートで同点とした。厚く守って、巧みなカウンターで勝とうとする伝統的な強さは、アルゼンチンやブラジルという大国にも厄介なチームで、日本には伝統的に勝つことの難しい相手――。新しい日本代表が彼らをどう崩すかに期待がかかっていた。

◇得点は生まれなかった。しかしスタンドに集まった人たちがナマの中村俊輔をご覧になったのが何よりだった。足の故障は全快していないようだが、左足から繰り出すパスの巧さはまさに天下一品といえた。
  彼の長短のパスを見ていると、ある時期に使われた“ゲームメーカー”という言葉を思い出す。
  70年代の西ドイツにベッケンバウアーとともに名を挙げた中盤のパスの名手、ネッツァーとはややタイプは違うが、長いパスの強さ、高さ、そして落下点の選択と、世界のトップにあったネッツァーに匹敵する。
  それに、ボールそのもの、球筋(タマすじ)の美しいこと。まことに惚れ惚れするほどだった。

◇ 前半に左サイドで、自らも加わって小さなパス交換をしたあと、ノーマークでボールを受けた俊輔がタッチ際からゴール前へ送った長いクロスボールに田中マルクス闘莉王が飛び込んでヘディングしたチャンス。これはGKゴメスの手に当たって得点とはならなかったが、俊輔のパス能力と仲間を使っての短パスの連続で自らのスペースと時間の余裕をつくり出す巧さ――それと闘莉王の攻撃センスの組み合ったものだった。

◇闘莉王は攻めの意欲とともに、そのパスのセンスや攻め上がるときのポジションどりの巧さに、見る度にヒザをうつ思いがするが、このときも、その少し前の攻め込みでペナルティエリア左へ進出し、左サイドで前述の短パス交換がはじまると右へ――つまりファーサイドへ移動して俊輔のパスを引き出し、ジャンプヘディングしたのだった。

◇前半25分までは手も足も出なかった、とはパラグアイのヘラルド・マルティノ監督の言葉だが、この時間の攻撃で点を取っておけば、対コートジボワールと同じように勝てたかも知れない。

◇ ただしこの日は、久しぶりに、それも試合間際に合流した中村俊輔の調子を見るのが第一。さらには巻誠一郎や鈴木啓太、阿部勇樹、中村憲剛、山瀬功治といったこれまでの常連で多少の故障や疲れのあった選手たちの回復度を見ることも大切なポイントだったから、組み合わせとしてはベストというわけではなく、全体に「あ・うん」の呼吸で手を叩く場面が少なかった。ボールキープ率は高くても決定的なゴールチャンスは多くなかったが、私はむしろ、こういう組み合わせでも負けないチームになってしまう選手の能力を嬉しく思ったものだ。

◇DFに30歳をこえて初登場の寺田周平が加わって、センターDFは中澤佑二とともに185センチ以上が揃うことになった。当然のことながら、自らも代表チームで守りに苦労したハズの岡田武史監督は、全員が動く現代サッカーの中でも各ポジションの特性をわきまえ、それに合うプレーヤーを選んでいるようだ。
  サイドは若い右の内田篤人はすでに経験済み、タフで経験ある駒野友一のグループに左の長友佑都が加わってきた。

◇ただし、長年、日本サッカーが「点を取る」ことを第一義としなかったツケは、ここ何年かのストライカー不足となって表れていた。
  成長途中に少し道草を食った感のある玉田圭司と大久保嘉人の2人にそれぞれキレが戻り経験も重ねてきたが、大型ナンバーワンの平山相太が足踏みのままという。ドイツで実績を残した高原直泰は調子を落としている。
  ボールを狙ったところへ落とせる俊輔がいるのに、平山が間に合わないのは淋しいが、巻と矢野貴章たちが3次予選シリーズで“サムシング”をつかんでくれることを期待することになる。

◇ 今度のキリンカップで、中村憲剛を含む豊富な中盤勢の上に松井大輔、長谷部誠、さらには大御所・中村俊輔も加わった。当然、俊輔にはシーズン最後まで優勝を争ったリーグでの疲れもあるだろう。キリンカップで有益なテストとチェックを済ませたいま。これから6月2日の対オマーン第1戦にはじまる1ヶ月の戦いを、いいコンディションで乗り切ってくれることを祈りたい。


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5月24日 日本代表 vs コートジボワール代表

2008/05/24(土)

コートジボワールに勝つ ~瞠目――松井、長谷部、イレブンの粘り~

キリンカップ2008
5月24日(愛知・豊田スタジアム)19:20
日本代表 1(1-0 0-0)0 コートジボワール代表
得点者:玉田圭司(21分)

【日本代表メンバー】
GK: 18楢崎正剛
DF: 22中澤佑二(Cap.)4田中マルクス闘莉王、3駒野友一、27長友佑都
MF: 7遠藤保仁、9松井大輔→26香川真司(75分)5今野泰幸、17長谷部誠
FW: 11玉田圭司→20矢野貴章(75分)16大久保嘉人
SUB: 1川口能活、23川島永嗣、2寺田周平、6阿部勇樹、24井川祐輔、14中村憲剛、13鈴木啓太、8山瀬功治、19高原直泰、12巻誠一郎

【コートジボワール代表メンバー】
GK: 16アリスティド・ブノワ・ゾクボ
DF: 21エマニュエル・エブエ、3エティエンヌ・アルトゥール・ボカ、22マルク・アンドレ・ゾロ、12メイテ・アブドゥラエ、8ギー・ロラン・ドメル→6イゴール・アレクサンドル・ロロ(67分)
MF: 17シアカ・ティエヌ、5ディディエ・ゾコラ(Cap.)7エメルス・ファエ→10セイドゥ・ドゥンビア(83分)2カンガ・アカレ→9カイン・カンディア・エミル・トラオレ(75分)
FW: 20ブバカル・サノゴ
SUB: 23バンサン・ドポール・アンバン、1ブバカル・バリ、4コロ・アビブ・トゥーレ

◇いい試合だった。日本が開始直後から積極的で、相手ボールへのプレッシング、奪えばそこから攻めに入り、それを取られればすぐ取り返そうと奪いにゆく――現代のトップクラスのサッカーはまことに労は多いが、それを続けなければ互角あるいは互角以上の相手には勝てない。
 そういうやり方を日本代表は実行し、また息の合った組織プレーがあって前半21分には右サイドの見事な攻めから玉田圭司のゴールが生まれてリードした。後半は勢いを盛り返した相手に攻められピンチも再三あったが、無失点で切り抜け1-0で勝った。
  GK楢崎正剛の落ち着いた守り、ファインセーブもあり、選手たちが諦めずに追い、タックルに行った粘り強さが大きかった。
  エレファント(コートジボワール代表の愛称)の現在のレギュラーから7人が抜けているチームであっても、ひとりひとりの体も技術も戦術能力も高いこの日のチームを相手に勝利をもぎ取ったことは、日本代表にとって大きなプラスになるだろう。

◇6月にワールドカップアジア第3次予選の4試合を控えている代表にとって、欧州で活躍中の松井大輔と長谷部誠の2人を加えたのもよかった。2人はその特色と強さを見せ、また、チーム内での選手の組み合わせもよかった。もちろん、岡目八目でゆけばまだ不満は残るにしても、選手たちの気持ちが伝わってくる楽しい試合――まずは皆さんおめでとう。

◇楽しいということになれば、やはり前半21分のゴールを振り返ることから――。
  攻撃に絡む各選手のイメージがうまく一致した、今の日本代表にとっては会心のゴールの一つと言えるだろう。

◇順序を追って記すと
1)相手の高いボールのパスを駒野友一がヘディングして長谷部誠の足もとへボールを送ったところから始まった。
2)長谷部はハーフラインより自陣に戻ってこのボールを受け、後方からつぶしに来る相手をトラッピングの際に右へターンしつつかわし、
3)ボールを右タッチライン際の松井大輔に渡した。
  この1)2)3)でチームは守から攻へ切り変ることになる。
4)パスを出した長谷部は走るのを止めずに右前へ上がる。松井は妨害に来る相手DFボカを前にボールを少し左へずらせる。
5)前方へ出ていた今野泰幸が戻ってくる。松井はボカを引きつけ、ボールを今野へ。
6)今野は受け取るとすぐ、右前方へ出ていた長谷部の前のスペースへパスを送る。
7)松井と今野にマーク、そして玉田圭司、大久保嘉人の日本の2トップを警戒していたコートジボワール側には長谷部へのマークはなく、長谷部はドリブルでペナルティエリア外へ進みゴールラインから5メートルのペナルティエリア右外から中央へクロスを送る。
8)長谷部にボールが渡ったとき、玉田は右(つまりボールのニヤーサイド)大久保は左(ファーサイド)にいたが、
9)大久保はニヤーサイドを狙って走り込んでくる。それを見た玉田はファーへ向かってスタート。
10)長谷部の右サイドキックで送った早いクロスはエリアの中、一番ボールに近いDFの頭上を越える。
11)ニヤーに走り込んだ大久保を押さえようと2人のDFがともにニヤーへ。
12)その3人を越えたボールがゴール正面やや左寄り、ゴールエリアライン近くに落ちたところへ、玉田が走り込んできた。
13)落下点で玉田は得意の左足ボレーで合わせ、ボールはGKゾクボの左足のすぐそばを走り抜けてゴールへ飛び込んだ。

◇ゴールを決めた玉田は、ご存じ2006年のドイツ・ワールドカップ日本代表。足が早くドリブルもうまい、173センチと小柄。ドイツ大会でのブラジル戦での左足シュートは今も語り草だが、波が大きく、柏から名古屋グランパスに移ってからも調子が出なかった。
  ストイコビッチが名古屋の監督になり試合に出るようになってから、調子が良くなってきた。しっかりした技巧とスピードを持ちながら足踏み期間の長かったこのストライカーにとっては、この日のゴールは何よりの励みだろう。

◇玉田のフィニッシュに到るまでの各プレーヤーの人と人の仕事は、まさに攻撃を組み立てるためのチームプレーだった。長谷部のドリブルでファーを狙ったクロスも、その長谷部の走る勢いを殺すことなく取れるボールを送った今野のパスもさすがと言えた。
 フランスで活躍中の松井はもともとドリブルが上手で、素早い動きでは日本では最上級だった。フランスでプレーすることで強い当たりや粘っこい絡みに耐える強さを身につけ、そうした相手と戦うためのポジショニングがうまく、サイドの使い方に長じている。キックの長さも強さも増し、視野も広くなっているようだ。はじめからイタリアやスペインでなくフランスを選んだことも、彼の成長にプラスになったのだろう。自ら欧州での努力で切り開いた今の彼のプレーは、日本サッカーにとっての大事な財産と言えるかも知れない。

◇ 中澤佑二と田中マルクス闘莉王がそろって、今野泰幸というディフェンシブハーフのために生まれてきた男を本来のポジションに置けるようになったのはとてもいいことだ。ただし彼自身、ホームチームの都合や代表チームの都合でDFを務めることがしばらくあって、本来ならもっと中盤のプレーヤーとしての攻守のキメの細かさが伸びる時期に足踏みしているのが惜しい。1点目のチャンスのときのスルーパスは素晴らしかったが、試合ではいくつかのミスも出た。

◇ 新しい左サイドの長友佑都は、初陣プレーとしてはなかなかのもの。この日の相手チームの3番、166センチのボカをはじめ小柄で早くてドリブルとシュートに長じた選手がサイドFBで成功した例は多い。右も左も蹴れるのは頼もしいが、ますます磨きをかけることがチームプレー上達とともに大切だろう。

◇21 歳の長友より2歳若い香川真司が終盤に出場した。セレッソ大阪でよく見ている選手だが、これも小柄でドリブルが巧みでパスの視野が広く、タイミングのつかみ方がうまい。この試合ではほとんどいいプレーはなかった――というより、ボールを渡してもらえなかった――が、タイムアップ前にゴール前に送ったクロスは片鱗を見せた。大久保が気配を察知して飛び込んだが、GKの方が一瞬早く飛び出してキャッチしたため結果は出なかったが…。

◇最後にコートジボワール側からの見方を――。
  バヒド・ハリルホジッチという監督さんはこう言った。
“試合の終盤に疲れて動きが落ちてはいけないので、前半はセーブすることにした”とある選手は言っていた。1点を奪われて、いわば、そこから目を覚ましたということになる。したがって前半の中ごろまでは日本の動きがよかった。
  そのあとはこちらの方が試合をコントロールすることになった。チャンスに点を取れなかったのが惜しかった。もちろん不満ではあるが、選手たちは立派に試合したと思う。
 日本はいいチームだが、こちらがプレスをかけ、特にボランチに対してそれを強めてからはほとんどチャンスがなくなった。余裕がなくなり、ボールを奪ってもつなげなくなる。そういうときはロングボールになることが多いが、この日の日本の2人のFWは上背がないので、高いボールは私たちの脅威にはならなかった ――。

◇監督となって日の浅いこの人は、7人のレギュラーの不参加については処罰もあり得ると自国のテレビに向かって語っていたが、試合の流れ全体の解説は整然としていた。

◇日本にとってこの日の勝ちは喜ぶべきものであっても、これからも努力と蓄積、そしてその基盤となる選手個々の力の向上と互いの連係プレーへの熱意が必要なのは言うまでもない。


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1月30日 日本代表 vs ボスニア・ヘルツェゴビナ代表

2008/01/30(水)

岡田監督にも日本代表チームにも10年の歴史がプラス

キリンチャレンジカップ2008
1月30日(東京・国立競技場)19:20
日本代表 3(0-0 3-0)0 ボスニア・ヘルツェゴビナ代表
得点者:中澤佑二(68分)山瀬功治(83分、88分)

【日本代表メンバー】
GK: 18楢崎正剛
DF: 22中澤佑二、3駒野友一、25内田篤人
MF: 7遠藤保仁、14中村憲剛→2今野泰幸(78分)13鈴木啓太(Cap.)6阿部勇樹
FW: 19高原直泰→11播戸竜二(82分)、12巻誠一郎→10山瀬功治(33分)16大久保嘉人→8羽生直剛(88分)
SUB: 1川口能活、23川島永嗣、5坪井慶介、21加地亮、4岩政大樹、15水本裕貴、24橋本英郎、9山岸智、17前田遼一、20矢野貴章


【ボスニア・ヘルツェゴビナ代表メンバー】
GK: 1ケナン・ハサギッチ
DF: 5エミル・スパヒッチ(Cap.)2スタニシャ・ニコリッチ→4ボヤン・レゴイエ(53分)6ブラスティミル・ヨバノビッチ→17アメル・ユーゴ(HT)8ダリオ・ダムヤノビッチ、13ベリミル・ビディッチ
MF: 3サミル・メルジッチ、11ミルコ・フルゴビッチ→15フェナン・サルチノビッチ(83分)7アドミル・ブラダビッチ→18アレン・シュコロ(61分)10ムラデン・ジジョビッチ→16セミル・スティリッチ(83分)
FW: 9アドミル・ラシュチッチ→14ステボ・ニコリッチ(HT)
SUB: 12ヤスミン・ブリッチ

◇ イビチャ・オシムの母国ボスニア・ヘルツェゴビナは旧ユーゴスラビア社会主義連邦国家体制の分裂後に独立した。サッカーの旧ユーゴ代表にも優秀プレーヤーを送り出してきたところ(オシムもその一人)で、平均して体が大きく、やわらかいボールタッチという旧ユーゴの流れを引き継いでいて、チリとは違うタイプのチーム。2戦目の日本代表がどれだけ調子を上向きにしてきたか、また守備が固いはずの相手をどう崩すかを誰もが期待した。

◇日本のスターティング・メンバーは、DF4人は中央に中澤佑二、阿部勇樹、右に内田篤人、左に駒野友一と変わらず、MFは鈴木啓太、中村憲剛、遠藤保仁に大久保嘉人、FWは巻誠一郎と高原直泰。フィールドプレーヤーでは山岸に代わって大久保が入っていた。ゴールキーパーも川口能活から楢崎正剛に代わっていた。超ファインプレーでボールを止めることもあるが、ポカの出ることもある川口とは別に、安定度で信頼されている楢崎にも出番を持ってきたところに、予選開幕を間近にしているこの試合の意味がある。
 大久保をトップ下に置いたのは、この位置での彼のプレーを仲間に馴染ませることも考えたのだろう。もともと大久保はキープ力もありドリブル突破もできるしパスもうまい。彼のような小柄なプレーヤーは前に残ってゴールを背にしてプレーするよりも、広く走り回ることで彼の決定力も生きる――かねがね私は思っていた。体を張って積極的に前線から守備をし、長身で空中戦で相手の脅威となる巻誠一郎と、ストライカーとしてのポジションプレーの習熟度を増した高原直泰と、大久保との組合せには多くの人が期待したハズ。

◇相手の中盤でのプレッシングが第1戦に比べて少なかったから、日本のボールキープと展開はスムーズだった。前半のボール保持率は日本65.3%。5分に高原がペナルティ・エリア左角の外から右足でシュートした。しっかり踏み込み、押さえのきいたシュートだった。GKハサギッチが防いだが、どうやら調子が戻り始めていると見た。
  第1戦の終盤に左からのクロスにヘディングを合わせることのできなかった巻だが、相変わらず意欲あふれるプレーを見せた。GKハサギッチとの衝突もあり、前半33分に退くことになった。交代は山瀬功治。大久保、高原の2トップの下に入る形。

◇前回にいささか“指針”にこだわったイレブンに対して、岡田監督はその時々の選手の自主判断を求めたという。パスのテンポ、長短などについて(相手の動きもあるから)当然のことだが、遠藤や中村たちも短いパスで相手を一方に引きつけておいて逆サイドへふる――変化ある展開を見せるようになった。

◇もっとも、中盤での抵抗が薄くても、それだけゴール前での守りはしっかりしている相手に対して日本側はボールを上手に回すが決定的なシュートチャンスにはならない。
 ゴールが生まれるのは後半23分(68分)になってからだった。この頃になると、ボスニア側の動きが落ちる。競り合ったときの足の出る早さが鈍くなる。手を変え品を変え――といった、日本の攻撃を防ぎ、ボールを奪えばカウンターに出てゴールを奪いにくるといったハードな動きを繰り返してきたボスニア側の守りにほころびが出はじめる。
  65分から立て続けに右CKが3本あった。キッカーの遠藤はその前の2本とはコースを変え、ペナルティ・エリア右角内側へ送って山瀬のシュートを期待した。山瀬の右足のシュートは誰かに当たってコースが変わり、ゴール前にいた中澤の足元へ。中澤はこれを左サイドキックで決めた。コースの変わったボールが中澤に達するのに、ボスニア側の反応はほとんどなかった。

◇CK、FKの停止球からの、いわゆるセットプレーは日本の攻撃の重要なテのひとつだが、岡田監督の下での初ゴールもやはり停止球からだった。
  1点の回復を狙ってボスニア側が攻撃に出ようとする意志を高めることで、日本にはカウンターのチャンスが生まれる。

◇2点目は左サイドで、こちらのミスでいったん奪われたボールを今野泰幸(78分に中村と交代)が追走して奪い、そこからボールが大久保に渡ったところから始まった。
 相手のDFの裏へすでに播戸竜二(82分に高原と交代)が飛び出していた。オフサイドだった。大久保はゆっくりキープし、戻ろうとする播戸と自分の右側を駆け上がる山瀬を見て、山瀬の前へボールを送った。相手DFの間を通し、取られないように浮かせたボールが、バウンドし山瀬の前に転がった。山瀬が追いついたときにはDFは誰もおらず、目の前へ出てきたGKハサギッチの右下を抜くシュートを送り込めばよかった。

◇トップの播戸が飛び出し、第2列から山瀬が走り上がるという形は3点目も生む。
  88分のこのゴールはハーフライン近くの左タッチラインでのスローインから今野が前方へロングボールを送り、播戸が相手DF2人の間でヘディングを取って中央へ落とす。誰もいないところへ出てきたボールに山瀬が長いダッシュで追いつき、ノーマークシュートを決めた。

◇チリに比べると中盤の抵抗が少なかった点では、日本にはやりやすい相手だったかもしれないが、3ゴールを奪った得点への意欲は素晴らしい。
  10年前、1998年のフランス・ワールドカップの日本代表監督を務めてから10年後に再び代表監督を務めることになった岡田武史は52歳の働き盛りであり、また、10年の経験を積んでいる。同時にまた日本代表チームそのものも(選手は入れ代わっても)ワールドカップ初出場から10年を積み重ねている。監督もフィリップ・トルシエというフランス人からブラジルの名選手ジーコ、そしてオシムが関わってくれた。
 今度のチームと岡田監督をサイドから見ていると、この2試合を見た限りでは、選手も監督も前へ進んでいることが読み取れる。
 もちろん個々のプレーには不満もあるが、チーム全体が監督が代わっても進化の足を止めていないことで、今後を期待することにしたい。


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1月26日 日本代表 vs チリ代表

2008/01/26(土)

監督は代わっても日本流サッカーの進化は続く

キリンチャレンジカップ2008
1月26日(東京・国立競技場)19:10
日本代表 0(0-0 0-0)0 チリ代表

【日本代表メンバー】
GK: 1川口能活(cap)
DF: 22中澤佑二、3駒野友一、25内田篤人→21加地亮(71分)
MF: 7遠藤保仁、14中村憲剛→10山瀬功治(80分)13鈴木啓太、6阿部勇樹、9山岸智→8羽生直剛(57分)
FW: 19高原直泰→16大久保嘉人(62分)12巻誠一郎→20矢野貴章(80分)
SUB: 18楢崎正剛、23川島永嗣、5坪井慶介、4岩政大樹、15水本裕貴、24橋本英郎、2今野泰幸、11播戸竜二、17前田遼一

【チリ代表メンバー】
GK: 1ミゲル・ピント
DF: 18ゴンサロ・ハラ、5ハンス・マルチネス、4ロベルト・セレセダ
MF: 11ゴンサロ・フィエロ、2マルコ・エストラーダ、17ガリー・メデル、16マヌエル・イトゥーラ(Cap.)10ペドロ・モラレス
FW: 13ジャン・ボセジュール、7エドゥアルド・ルビオ
SUB: 12クリストファー・トセリ、3オスバルド・ゴンサレス、15ラファエル・カロカ、8フェルナンド・メネセス、14ホアン・ムニョス、9マティアス・ビダンゴシー、6ポリス・サグレド

ダゴさんのチリ国歌

◇46年前の開催国大会の3位の栄光のあと、チリはワールドカップに4度出場したが、ベスト8に届くことはなかった。
  2010年の南米予選はすでに始まり、10チームのホーム&アウェー総当りリーグで昨年の11月7日までの各チーム4試合終了時でチリは1勝1分け2敗、得点4失点7で7位とやや不振。4位までが本大会へ、5位は北中米カリブ海地域のチームとのプレーオフに勝つことが出場の条件となっている。
  こういう形勢のなかで、今年6月に再開される予選を控えて、代表強化はアルゼンチン人監督のマルセロ・ビエルサ監督にとっての急務、キリンチャレンジカップでの東アジア遠征(このあとの韓国戦を含めて)は新しいメンバーを選ぶチャンスとなっている。
 来日メンバー18人は24歳(4人)を年長に23歳(4)22歳(3)21歳(2)20歳(1)19歳(1)18歳(3)と若手ばかりで、1月初めから合同練習を始め20日からJヴィレッジで合宿練習したのも、この遠征にかける熱意の表れだろう。南米予選のレギュラーは3~4人で準代表といえるメンバーだが、モチベーションが高く、準備も充分だった。

◇先発メンバーの平均年齢は日本が26.5歳、チリは22.7歳。経験ではこちらのほうが上で、しかもホームグラウンドでありながら、日本側が苦戦したのは、相手の方が選手個々の調子がそろっていたからだろう。
 もともとチリの選手は体格は大きくなくても、1対1のボールの取り合い、奪い合いの粘り強さには定評がある。私は87年の南米選手権であのディエゴ・マラドーナ(86年W杯優勝・アルゼンチン主将)がチリの選手にからまれて、ほとんどいいプレーができなかったのを見たことがある。その伝統は、今度の若手にも生きていた。手をからめ、足をからめ反則を交えつつ、相手の動きを封じるところ。また“ここでボールを奪われてはピンチになる”と見たときには反則覚悟で(それもさり気なく)つぶしにくる狡猾さも備えていた。

◇こういう相手がプレッシングをかけ続けてくれば、日本側の試合展開は難しくなる。試合全体では4分6分、前半は相手優勢との印象となった。
 それでも前半9分に巻誠一郎、38分に高原直泰のシュートチャンスがあった。1本は中央左寄りで3本のパス交換のあと遠藤―巻とラストパスがつながったもの。巻のトラッピングが少し内に入ったのが惜しかった。高原のシュートは巻が相手ボールを奪ってパスをしたもので、高原はペナルティ・エリアすぐ外、中央右寄りでノーマークとなったが、トラッピングが外へ流れ、踏み込みが遠くなってボールは右上へそれた。

大久保のシュート

◇ スタンドの観客もテレビ観戦者も、この日は岡田イズム云々よりも後半に高原と交代した大久保嘉人の4本のシュートに驚いたハズ。1本目は62分に交代してすぐ、相手バックラインの裏へ走り、GKミゲル・ピントのミスに乗じてボールを奪いシュート(オーバー)。65分に左サイドへ飛び出し、ボールを受けて中へ入ってシュート(オーバー)。3本目は遠藤の右CKをヘディング(GKに防がれた)。86分の4本目は矢野貴章へのロングボールのコボレ(相手DFが矢野をプッシングで倒した)を大久保がDFに競り勝ってのダイレクトシュート(オーバー)だった。この試合90分間の10本のシュートのうち、大久保だけで4回もシュートし、しかもそれが全て成功しなかったのだから……。

◇日本代表にも良い点はいくつかあった。まず、右サイドに内田篤人を起用したこと。このポジションには滝川二高出身でセレッソ大阪にもいたことがあり私自身も注目し続けている加地亮がプレーしているが、彼との比較は別にして、ボールを持つときにキープやドリブルに自信があり、足が早く、フォームの良い内田が若いうちから代表で働くことは彼にも代表にもいいことだと思う。ボールを奪われない自信があるから、相手を前にして落ち着きがあり、姿勢が良いので視野が広く、パスコースの選択もできる。守備面もまずまずだった。

◇遠来のチリ側が後半になっても選手交代をしないのに、日本側が交代を5人送り込んだが、それぞれの特徴が生きたこと、特に大久保の瞬間的なダッシュの早さとDFラインの裏へ出る動き、相手にとってそれまでの高原や巻とは違うタイプだったから効果があったハズだ。
 ただし、得意の右足シュートを3本とも決められなかったこと、それも(1本目はゴールカバーのDFの頭上を抜こうとしたのだろうが)3本ともバーを越えたのは残念なことだった。こういうチャンスを作りながらなぜシュートを失敗したのか、彼自身もコーチもその原因を突き止め、修正しなければなるまい。

◇ 岡田武史監督は「接近、展開、連続」という指針を打ち出した。それをどうピッチ上で表現するかも反復練習するだろうが、試合中の状況に応じて、その時々の判断は選手がするべきもの――という考えを持っているハズ。指針は示しても教条主義でないところが試合中のチームに表れていたのも(当然ながら)良かったと思う。

 第1戦の0-0、決して満足とはいえないが、全体としてはいい流れで進んでいるように見えた。

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