2021年7月17日 U-24日本代表 対 U-24スペイン代表
2021/7/17(土)日本/神戸市・ノエビアスタジアム
U-24日本代表 1-1(1-0) U-24スペイン代表
――東京五輪2020に向けた最終調整の相手が優勝候補のスペインでした。最近の日本代表はどこと対戦してもボールを保持する展開が多かったのですが、スペインが相手ではそうはいきませんでした
賀川:日本の選手もうまくなっているし、お互いのレベルが高いので、ミスも少ない。非常にレベルの高い試合になりましたが、さすがにこれぐらいのレベルを相手にしては、思うようにはいきません。前半日本がボールを保持する時間は短かったのですが、自分のところのボールになって攻めに出たとき、スペインもさすがで守備に入る動きが早かったですね。すぐに攻撃に出れば有利になるのは間違いないのですが、相手の守備陣形が整うので、マイボールにしてからちょっとゆっくりしているようなところもありました。そこから1人でいくのか、2人がかりでいくのか、人数のかけ方がはっきりせず、一気に優位になる可能性があった局面がそうでなくなったケースもありました。自分の方に危険性があっても、人数をかけて攻めに出るとか、そういうシーンが増えれば、どうなったのかなとは思います。互いに中盤で自分たちのペースにもっていく駆け引きは非常におもしろかった。これぐらいの攻防を見せてもらえると見応えのある試合になりますね。
――先制点は日本でした。前半42分、久保が左サイドから崩して、堂安が左足で決めました
賀川:左サイドのスローインを受けた久保が左足でドリブルに出て、右腕で相手を抑えるような形で前に出ました。相手も体を寄せてきましたが、久保が右腕をうまく使って押さえるような形になり、体勢を崩したマーカーは、空を見上げるような形でゴロンと転びました。フリーになって余裕ができた久保は左サイドに侵入してから、スペースに張り込んだ堂安にピッタリと合わせて、先制点になりました。堂安は動きの量としては多くないですが、ここぞという場面をきっちりと決める選手ですね。ダイレクトで左足のインフロント部分でボールを巻き込むように蹴り、ゴール左上、GKの頭上を抜きました。決めて当たり前みたいな顔をしていました。ファーストシュートをしっかり決めるというのは簡単なことではありません。堂安にしても久保にしてもボール扱いが達者で、欧州の選手と試合をするのも慣れていますから。最終調整で最高の結果が出ました。
――久保のドリブルは大きな武器になる
賀川:これぐらいの相手に勝とうとするなら、どこかで無理をする必要があります。守備も堅いわけですから、ボールを回しているだけでは守備網を破れません。そういうときは個人の突破、久保のような強引なドリブルが、有効になります。久保は幼い頃からスペインでプレーしていたので、よく知っている相手ばかりなのでしょう。気後れすることもなかった。やってやろうとずいぶん意識もしていたようです。左足でボールを持ったときに、マークを外しにかかるときでも、わざと余分に時間を使うときがあります。そうすることによって、後ろから上がっていく選手が前線に到着するまでの時間を数秒稼ぐとか、チーム全体の攻撃の時間を調整する役割を自然と果たしています。スペインは強国のひとつですが、久保にとっては、いつもやっている連中なので、普通にできていた。いろんなことができる久保が危険な選手なのは明らかで、おのずと相手が引きつけられます。だから、堂安が割合楽にプレーでき、得点を取ることに集中できています。この左利きコンビは本番でも大いに期待しています。
――後半、スペインが意地を見せて、ドローに終わりました。スペインは欧州選手権に参加していたメンバーが加わったばかりで、チームとしての調整はこれからのようでしたが、後半主力を出してきてからの攻撃はさすがでした
賀川:彼らにとっては完全な調整試合だったのでしょう。とはいえ、さすがに日本に負ければバツが悪いので、引き分けならばスペインにとっても上出来だったのでは。格が上の相手に、試合開始からボールを支配されることになっても、数少ない得点機を決めて、ゲームは負けない…というような試合をしょっちゅう見せてもらえるようになれば、日本も欧州レベルに近づいたということになるのでしょうね。ただスペインは日本が守備ラインでボールを持っているときの、前の選手のつぶしがそれほど激しくありませんでした。本番のように前の選手が死にものぐるいでガリガリとつぶしに来ていれば、スコアも違っていたかもしれません。この試合はそういう試合ではありませんでした。
――いよいよ開会式の前日の22日、南アフリカとの初戦を迎えます、25日にメキシコ、28日にフランスと対戦します。
賀川:ワールドカップでも五輪でもそうですが、大きな国際大会は何においても最初の試合がもっとも大切になります。強豪国であっても、初戦に負けて、そこから勝ち上がるというのは本当に難しいことになります。勝ち点うんぬんでなく、結果、引き分けになっても初戦で勢いづくゲームをすることが、勝ち上がるための絶対条件です。1964年の東京五輪は駒沢競技場でアルゼンチンと対戦し、3−2で勝ちました。デッドマール・クラマーをコーチに迎え、強化を図って臨んだオリンピックでしたが、当時のサッカーの関係者にはお祭り気分はありませんでした。サッカーは世界で最も人気があるスポーツですが、日本国内ではまだまだマイナースポーツの域を出ておらず、自国開催の五輪で結果を出さないと置いていかれるのでは…という悲壮感でいっぱいでした。五輪は陸上、水泳がメジャーですが、実はほとんどの競技がマイナーで、普段はあまり関心を持ってもらえません。プロが参加しているとの疑惑が持ち上がったイタリアの辞退で2試合となったファーストラウンドは初戦のアルゼンチンに3−2で逆転勝ち。2試合目は負けたのですが、初戦の奮闘があり、2位で準々決勝に進みました。4年後の1968年メキシコ五輪も初戦で釜本邦茂がハットトリックを決めて、ナイジェリアに勝ち、大いに自信をつかんで、銅メダルまで駆け上がりました。ワールドカップや五輪で優勝経験はまだない日本ですが、この20数年は欠かさず両大会に出場しており、経験を積んできました。初戦の重要性は森保監督も熟知しているでしょう。だから、このままいけば番狂わせの可能性があったこの試合でも、後半7人もメンバーを入れ替えて、調整を優先させました。1年延期されたことで、選手は大変だったと思いますが、このチームに関してはしっかりとした準備ができたのではないでしょうか。大会が無観客になったのは非常に残念ですが、このコロナ禍の状況下で、五輪の開催そのものについても、さまざまな声が寄せられる中、自分たちができることに向き合い、取り組み、まさにコロナと戦ってきた1年間だったと思います。今回の五輪では、サッカーに限らず、アスリートのみなさんが持つ、本当の人間の強さを見せてもらえるような予感がしています。