2021/6/11(金)日本/兵庫県神戸市・ノエビアスタジアム
日本代表 1-0(0-0) セルビア代表
――2年ぶりに開催されたキリンチャレンジカップでした。セルビアはFIFAランク25位で28位の日本よりも上。最近のA代表としては、久々に力が拮抗したゲームとなりました
賀川:セルビアという国は旧ユーゴスラビア時代から、技術に秀でた選手が多く、個人でも組織でもボールをキープできるチームでした。今回来日したチームは若手主体のようでしたが、技術も高く、それでいて大柄な選手もいて、フィジカルも強い。一昔前ならば、このクラスの相手には優位に試合を進められていたものですが、この試合は日本がボールをしっかりと保持して、ゲームを支配する時間が多かった。ホームという利点はありますが、欧州の人が日本の戦いぶりをみれば、「ほほう」と思ったでしょうね。セルビア相手にこれだけアジアのチームがボールを持てるということは、それだけ日本のレベルが上がったということ。日本がW杯で8強、4強を目指すということになれば、チームとしてここからどうやって攻めて、点を取るかという、手順が必要になってきます。
――前半はスコアレスでした
賀川:日本が攻撃するエリアが狭かったように感じました。両サイドを目いっぱい使って、幅を広げないと、ゴール前に入っていくスペースをつくることができません。最後にノーマークになって入っていく場所がなくなります。セルビアのように守りが堅いチームが相手ならなおさらです。これはどこと対戦しても同じですが。ピッチを広く使って攻めれば、守備側の選手もゴール前から引っ張り出されるので、侵入するスペースが生まれやすくなります。
――先制点は後半3分、鎌田の右CKからでした
賀川:ニアに走り込んだ谷口がうまく頭で方向を変え、ファーポストにいた伊東が走りこんで右足のインサイドで押し込みました。谷口が方向を変えたところで勝負ありの、きれいなゴールシーンでした。セットプレーは置いてあるボールを蹴るわけで、蹴り終わるまでは、相手にマークされません。日本のように個人技が高いチームは、正確に狙ったところにボールを蹴ることができるわけですから、セットプレーそのものが大きなチャンスになります。自分たちの計算通りにできるわけですから。セルビアのように背の高い選手が多い相手に対して、よく練られ、非常に有効なアイデアでした。ニアに2人いくとか、いろんなやり方があるでしょうね。
――そのまま1-0でした
得点がもっと多く入れば、テレビでみていた人は楽しめたでしょうが、1-0でも、非常に面白い試合でしたね。欧州勢と試合をするのは久しぶりですし、このレベルの相手と試合をすると、このような展開になります。お互いの守備もしっかりとしていました。日本はボールを保持しながら、なかなか前半は決定機を作れなくて、後半になるとダイレクトパスをつないで相手の守備ラインの裏に抜け出すチャンスを狙ったり、あえて相手にボールを持たせて、ショートカウンターを狙ったり、得点を生み出すために、いろんな策を講じていました。親善試合であっても、セルビアは勝負にこだわって、粘り強く戦っていました。最後まで気合が入っていました。得点はたくさん入りませんでしたが、1点差ゲームというのは、緊張感が最後まで保たれて、それはそれで見ごたえがあるものです。
――セルビアの監督は名古屋でプレーし、監督としても名古屋をJリーグ制覇に導いたドラガン・ストイコビッチでした
賀川:昔から好きな選手でした。顔つきは変わらず精悍なままでしたね。彼が19歳でユーゴスラビア代表として出場した1984年の欧州選手権(フランス)で初めてみました。欧州の記者にはすでに情報が入っていたようで、ストイコビッチが途中出場すると、何やら小声で語り合っていたのを覚えています。ドリブルもボールキープもパスもうまい。プレーは知的でエレガントですが、すぐ怒る(笑)。チャンスを創造し、最後にゴール前に現れて、攻撃を完了させるフィニッシャーでもありました。本当に負けず嫌いで魅力的な選手。名古屋の試合もたくさん見に行きました。彼のように本来、高い報酬を得て欧州でプレーを続けることができた選手が、日本で長くプレーしてくれたおかげで、ここ数年、日本では顔なじみの監督や指導者が欧州や南米で増えてきました。今回、コロナ禍の中、セルビアが来日してくれたのも、日本のことをよく知っているストイコビッチ監督の存在があってのことでしょう。以前のように代表チームの往来が簡単でなくなり、日本代表は最近強い相手と試合をする機会がなかったので、本当にありがたいことです。親日家のサッカー関係者が世界中に増えれば、日本サッカーの発展に間違いなくつながるでしょうし、今回のような楽しみも増えていくでしょうね。セルビアは残念ながら、まもなく開幕する欧州選手権の出場は予選で敗退して逃したそうですが、前半反転して左足で惜しいシュートを放った9番(FWデヤン・ヨベリッチ)のような楽しみな若手も多くいました。代々技術も高く、手を変え、品を変え、いろんなことができる国です。現役時代のピクシーのように、ゴール前で変化をつけたり、相手の裏にズバッと抜けたり、決定的な仕事ができる選手が出てくれば、楽しみです。これから本格化するW杯の欧州予選で、どんなチームに仕上げてくるのか、興味深いです。W杯でピクシーが率いるセルビア代表の戦いぶりを見るのが、今から楽しみです。