10月7日 日本代表 vs ベトナム代表
キリンチャレンジカップ2011
10月7日19時45分キックオフ(兵庫・ホームズスタジアム神戸)
日本代表 1(1-0、0-0)0 ベトナム代表
得点 日本:李忠成(25)
――不満の残る日本代表の試合ぶりでしたが……それでも1-0で勝ったというべきか、1ゴールしか取れなかったというべきか――
賀川:代表チームが日本サポーターの前で試合をするのだから、勝つことが条件づけられている。と同時に、このキリンチャレンジカップは11日の対タジキスタンとの本番に備えての選手チェック、組合せ裁定という仕事も兼ねている。
――したがって、前半は手持ちのメンバーの中で一番手慣れた組合せでいった、ということですか。
賀川:本田圭佑がいないことは前から分かっている。それに遠藤保仁と岡崎慎司が故障、内田篤人も出られないとなった。
――ザックさんが試したい選手もいて、それを投入したというわけですね。
賀川:若くて売出し中の清武弘嗣まで欠場するのだからね。そこで前半のような攻撃メンバーになった。
――それにしても、ベトナムもしっかりしたプレーをしましたね。賀川さんが試合前に1967年――44年前のメキシコ五輪アジア予選での対ベトナム戦を例に挙げていたとおり、苦戦した。
賀川:日本のサッカーは1960年代から飛躍的に向上した、といっても、実際に試合の中でプレーする代表一人ひとりの技術の精度が飛躍的に向上しているわけではない。プロになり、多くのプレーヤーの動きの量が増え、技術に対する常識が高まったといっても、世界もアジアもやはりレベルアップしている。私は試合を見ながら44年前のプレーと比較していましたよ。
◆45分間に1回だけでも「あうん」の呼吸で1ゴールしたのがいい
――前半のゴールを評価していましたが……
賀川:ハーフウェーライン近くで相手選手のトラッピングミスがあって、長谷部誠が奪ったところからチャンスが生まれた。ここから香川真司-長谷部-藤本淳吾-李忠成とつながって李が決めた。
ちょっと詳しく振り返ると、
(1)長谷部が奪ったすぐ近くに香川がいた。長谷部は真司にボールを預けて前へ走り、すかさず真司からボールを受けた。相手の守備ラインの手前でノーマークだった。
(2)真司はこの日は顔色も良くなくて、元気のない様子だったが、さすがにこういうときの「何気ないパス」は上手い。
(3)長谷部はまだ前を向いていなかったが、パスのボールのスピードが柔らかくきたから、彼はターンしてボールを持ち直し、前へドリブルした。
――ボールが強ければ長谷部の体勢は楽でなかったと?
賀川:長谷部は、最もプレーが安定し、動きの量も多く、キャプテンシーもあり私の好きな選手。この試合でも前半しっかり働いた。しかしザックさんはウズベキスタンとの試合で彼をトップ下に置いてその失敗を認めたようだ。このポジションよりもボランチ、つまりもう一つ後ろから出てゆく方がいいタイプの選手なんです。
――その長谷部がトップ下の位置へ上がったときに、香川が彼に優しいボールを送ったというわけですね。
賀川:そのスピードとタイミングがね。まあ偶然か意図的か、どちらにしても、ここでそういう「さりげないパス」を出せるのが真司の本領ですよ。
プレーの続きだが、
(4)前を向いた長谷部がドリブルを仕掛け、
(5)右の藤本へパスをした。
(6)藤本は縦にドリブルし中へ、マイナスのクロスを送る。
(7)そこに李がいて、ノーマークでシュートを決めた。
――長谷部がドリブルを仕掛けたとき、賀川さんは何か口の中でブツブツ言っていたようですが
賀川:李が前へ飛び出したあと、また後方へ戻ろうとした。一方、香川は長谷部の左隣りをフルスピードで駆け上がり、トップへ飛び出していった。この2人の動きも良かったね。
――藤本がドリブルを仕掛けたときに、李の戻る動きと香川の前へ飛び出す動きで李がノーマークになったわけですね。
賀川:この25分のゴールの一連の動きは、それまでよく似た形をつくろうとして失敗していたのを、互いの関連性のあるラン(Run)と、それをよく見ていたボール保持者(藤本)との「あうん」の呼吸でスペースをつくり、ノーマークシュートへ持っていった。しかもボールは外から中へのグラウンダーというシューターには蹴りやすいコースできた。
――香川、李、長谷部というこれまでのメンバーに新しい藤本を加えた4人でのゴールですね。
賀川:まあ、こういうパスやドリブルが組合わされ、得点につながるのがサッカーの攻撃の面白さですよ。
――それを1点だけでも演じたのは立派だと?
賀川:1点だけという見方もあるし、45分で1回できた、という言い方もできる。
このコースのもう一つの意味は――攻撃は中央突破もいいがちょっと相手が手薄なハズのサイドで崩し、サイドから入ってくるボールを決める方が易しいということだ。このときも、藤本の侵入とクロスに対して、相手GKは自分のいいポジションから動いて出てくることになっている。
あうんの呼吸のゴールを1点も取れないのと、1点でも取るのとでは全く違う。魚釣りでも、1匹も釣れないのと1匹でも釣るのとは全く違うからね。
◆どんな相手と戦うにも、日本代表は走って、チームプレーをすること
――システムの問題は
賀川:サッカーは試合の状況に応じてDFが4人になることもあるし、5人になることもある。その大づかみな配列も大切だが、結局は1対1での競り合いに負けないこと。もし1対1の競り合いが難しいのなら人数をかけてボールを奪うことになる。すると、まず動きの量が必要となる。
日本のサッカーは例え相手がFIFAランキング100位以下であっても、常に1対1の奪い合いで勝てるとは限らない。サッカーはあくまでチームゲームであって、どんなにドリブルが上手であっても、どんなにスピードがあっても、常に仲間との協力は欠かせないものなんです。
ベトナムとの試合で、日本の多くの選手、特に若いプレーヤーは、日本代表では常にいコンディションを保ち、豊富な運動量で自分たちの機敏性と組織力を生かすことを心掛けないと苦しい戦いになることを体で感じたと思う。その意味で、対ベトナムのキリンチャレンジカップはとても良い経験だったと思いますよ。
――本田がいなくても、良いコンビネーションの展開で点を取れることも見せてくれました。
賀川:代表として築いてきたものをベースに、ここに加わった選手たちがどういうプレーをするかは、選手自身が考え、監督の意図を察し、分からなければ相談して解決し、いいチームにすることなんですよ。11日はそういう意味でとても期待を持って見つめる試合ですね。
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