11月13日 日本代表 vs シリア代表
シリア戦のマッチデープログラム
表紙のデザインは大会公式ポスターと同じ。
ポスターの方には選手ごとに切り取り線が入っていて、選手カードとしても活用できるようになっていた。
レギュラーがそろわなくても、一歩ずつの進歩。
輝いた左サイド長友のドリブルシュート
キリンチャレンジカップ2008 ~ ALL FOR 2010! ~
11月13日(兵庫・ホームズスタジアム神戸)19:22
日本代表 3(2-0 1-1)1 シリア代表
得点者:長友(日 3分)玉田(日 26分)大久保(日 62分)M.アルジノ(シ 78分)
【日本代表メンバー】
GK: 1川口能活(Cap.)
DF: 2寺田周平→5今野泰幸(46分)4田中マルクス闘莉王→21高木和道(56分)6阿部勇樹、15長友佑都、20内田篤人→3駒野友一(78分)
MF: 13中村憲剛
FW: 11玉田圭司→9佐藤寿人(46分)16大久保嘉人→12巻誠一郎(68分)19田中達也→8香川真司(46分)13岡崎慎司
SUB:18都築龍太、23川島永嗣
【シリア代表メンバー】
GK: 1ムサブ・バルフス→16モハメド・レドワン・アルアズハル(65分)
DF: 13アーテフ・ジェニアト→18アブドゥル・ファタハ・アルアガ(81分)17アブドルカデル・ダッカ、3アリ・ディアブ、5フェラス・イスマイル→8マハムード・アルアミナ(51分)
MF: 14 ワエル・アヤン、11アデル・アブドゥラ
FW: 10ジアド・シャポ→24モハマド・アルジノ(46分)12ラジャ・ラフェ、19ヤヒア・アルラシド→23ハムゼ・アルエイトゥニ(46分)9マヘル・アルサイド(Cap.)→2ブルハン・サヒユニ(63分)
SUB:6バセル・アルシャール、7アハマド・ディーブ
久しぶりの神戸での試合なので、プレス席でなく兵庫協会の招待席で観戦することにした。試合のあとさきにレセプションルームで古い神戸のサッカー仲間に会えるだろうと考えたからである。代表の試合が久しぶりということもあって、ずいぶん多くの旧友と顔を合わせることができた。70歳をこえてまだボールを蹴っていますという人も少なくなかった。
かつてウィークデーの国際試合でナイターとなれば、この国では国立競技場以外に照明設備のあるスタジアムは神戸御崎(この日の会場、ホームズスタジアムの前身)だけだったから、神戸のサッカー好きは代表を声援するとともに相手をしてくれたペレやベッケンバウアー、ヨハン・クライフ、エウゼビオといった、時代のスーパースターをナマで見ることができたのだが……。
ジャパンブルーを着て声援し、試合のあと代表チームのバスを見送ろうと集まる若者たちを見ながら、あらためて日本サッカーの大変化と、その中でキリンチャレンジカップの地方での試合の果たす役割の大きさを思った。
近ごろ、サッカーはすでに野球と並ぶ国民スポーツとなったと思っている人もいるようだが、野球という、手でボールを扱う遊びが盛んになってしまった国(あるいは地域)で、日本ほどサッカーが盛んになったところはないことを知れば、これまで続けてきた先人達の普及への努力を、今も手を抜いてはならないとの思いを強くする。
その意味で、若年層への働きかけはますます大事になる。この日の試合前のセレモニーで「なでしこ」のメンバーであるTASAKIペルーレFCの池田浩美、大谷未央、下小鶴綾の3選手と小学生26人が君が代を歌ったのはまことに素晴らしかった。
もちろん、この試合の目的は普及面だけでなくワールドカップ・アジア最終予選の対カタール(19日、カタール)への準備という目的があった。そちらの方はどうだったか――。
率直にいって、ドレス・リハーサルという意味で満足のゆくものであったかどうか――中村俊輔をはじめとする欧州組(カタールで合流)と、ACL(アジアチャンピオンズリーグ)の決勝で勝ったばかりのガンバ大阪勢は不在。GK楢崎正剛、DF中澤佑二は故障で欠場した。レギュラーからこれだけ抜ければ、本番用の演習は難しいだろう。ただし、玉田圭司、大久保嘉人、田中達也、岡崎慎司のスターティング・ラインアップをFWと書き込んで演じた4人の攻め込みは、ときにいいパス交換による突破もあり、選手たちの間に少しずつ共通のアイデアが出来上がっている感じが見えた。
中村憲剛はこの日の中盤での主役として左右にボールを散らし、ときおりのDFラインの裏への走り込みなどに彼らしいプレーを見せた。
CDF中澤の穴は、前半は寺田周平(33歳、189cm)が務めた。後半に闘莉王に代わった高木和道(27歳、188cm)ともども、日本のセンターDFは長身者を揃えられることを示した。ただし、守備動作については日本DF陣の共通の問題もあるようで、経験ある中澤が不在だったときにどこまで補えるかは、この日だけでは見えていない。
岡田武史監督となってから、右と左のサイドDFに起用されている内田篤人と長友佑都は、この日もスタートから起用された。左サイドの長友が、この日最も輝いた。
前半3分に相手のCDFから右サイドへのパスをインターセプトして、ハーフラインからドリブルで持ち上がり、中へ切れ込んで右足シュートをゴール左下に決めた。ドリブル開始のハーフライン、シュートの位置はペナルティエリア中央すぐ外だった。
インターセプトして左へ流れそこから右斜めへ持ち上がって、奪いにきたヤヒア・アルラシドをかわし、そのあとのスペースを右斜めにドリブルしてエリア中央すぐ外から右足で叩いた――そのコースの取り方、右足アウトサイドでのボールタッチのうまさは、惚れ惚れするほどだった。
86年生まれの長友と、88年生まれの内田の2人の若いサイドDFの起用は、代表の新しい魅力。2人のクロスの精度をはじめとして不満な点はまだまだ多いが、サイド攻撃の担い手としてはここしばらくの日本代表のなかで最もいい素材であることは多くが認めるところだろう。
まず第一に、長友も内田もドリブルができる。ドリブルで相手をかわせる自信があるから、ボールを受けたとき相手が前にいても落ち着いていられる――そして、相当なスピードがある――という、このポジションの基本的条件を備えている。
古くはサイド攻撃を担うプレーヤーをウイングと呼んだ。そのウイングの攻めでの大きな仕事は(1)サイドからゴール前へのいいパス(クロスパス)を送ること(2)自らシュート地点へ入ってシュートを決める(3)サイドでキープして相手の動きを分散させ、また、味方に攻めで(守りでも)ひと呼吸の間をもたせる――というところだが、これまで残念ながら、自らゴールしようという姿勢を見せる者は(駒野友一は別としても)少なかった。
ブラジルのロベルト・カルロス。あの小柄な左利きのサイドDFも、シュートの強さで知られていた。98年フランス代表の左サイドのビセンテ・リザラズも2006年ドイツ代表のフィリップ・ラームも小柄な左サイドで、左からのクロスだけでなく持ち込んでのシュートでも相手の脅威となった。
日本では、68年メキシコ五輪銅メダルチームの左FW杉山隆一は、メキシコではパサーに徹したが、左サイドから中へ持ち込んでの右足シュートは日本代表と三菱重工の武器だった。日本代表で国際試合で最初にハットトリックを演じたのは1930年の対フィリピン戦での若林竹雄さん(東大)だが、私より17歳上のこの先輩は左ウイングのポジションから内へ入って右足のシュートを度々決めて“天才”といわれていた。
いいチームにはいいサイド攻撃の選手、それも自ら点を取れるプレーヤーがいることは古今東西、明らかなこと――それがようやく、今の日本代表にも現れてきたといえる。
この日の日本のゴールはこの長友の先制にはじまり、26分、中村憲剛が右斜め後方からのDFラインの裏へ送ったクロスに玉田がノーマークで合わせたもの。中村にボールが回る前に岡崎慎司と田中達也が絡み、中央からいったん右サイドへ出たボールを内田が後方の中村へ戻したもの。いわば4人のFWと右サイドの内田との連動で生まれたチャンスだった。
3点目は後半17分(62分)に左の長友から大久保嘉人へ、そこから佐藤寿人(後半に玉田と交代)を経由してもう一度左の長友へ。長友が内の大久保にパスして、大久保が右足シュートを決めたもの。相手DFの寄せを見て、トウ(つま先)で蹴ったシュートのタイミングがよく、それが相手側に当たってコースが変わり、GKムサブ・バルフスには取れないボールとなった。
後半の4人のFWは、田中達也に代わって香川真司も出場した。巻誠一郎も68分に大久保と交代し、また、駒野が内田と(78分)、今野が玉田と代わる(ハーフタイムから)など、国内メンバーの総出演となった。
ドレス・リハーサルとゆかなくとも、この機会に選手たちの状況を見られたのは結構なことだった。田中達也のすごいスピードでの相手ボールへの寄せと奪取をはじめ、奪われれば奪い返すというこのチームの共通姿勢が生きていること、4人FWにつなぎの工夫の跡のあったことは、長友のドリブルシュートとともに、代表全体の底上げと見てよさそうだ。ただし後半には相手が前がかりになったのに対し、香川がDFラインの裏へ飛び出し、そこへスルーパスを送るプレーが再三あった。こういう形のチャンスがなぜゴールにならないのかを、つくり方そのものから考えることが大切だろう。
シリアが予想していたより手応えがなかったという声もあるが、こういう時期にそこそこの試合経験を積み、それが個にもチーム全体にも少しでもプラスになっていると考えることが重要だろう。長友が進歩の跡を披露したといっても、何十年も前にあったプレーが再現されたといって喜ぶ――その程度のところに私たちはいることを思えば、少しずつの進歩を大切にしたい。
さて本番、気候・風土の違うアウェーでの戦いである。選手たちの頑張りを祈りつつ、テレビ前で応援しよう。
KIRIN LOVES SOCCERへ
固定リンク | 日本代表(A代表) | コメント (0) | トラックバック (0)
コメント