10月7日 日本代表 vs ベトナム代表

2011/10/11(火)

キリンチャレンジカップ2011
10月7日19時45分キックオフ(兵庫・ホームズスタジアム神戸)
日本代表 1(1-0、0-0)0 ベトナム代表
 得点 日本:李忠成(25)



――不満の残る日本代表の試合ぶりでしたが……それでも1-0で勝ったというべきか、1ゴールしか取れなかったというべきか――

賀川:代表チームが日本サポーターの前で試合をするのだから、勝つことが条件づけられている。と同時に、このキリンチャレンジカップは11日の対タジキスタンとの本番に備えての選手チェック、組合せ裁定という仕事も兼ねている。

――したがって、前半は手持ちのメンバーの中で一番手慣れた組合せでいった、ということですか。

賀川:本田圭佑がいないことは前から分かっている。それに遠藤保仁と岡崎慎司が故障、内田篤人も出られないとなった。

――ザックさんが試したい選手もいて、それを投入したというわけですね。

賀川:若くて売出し中の清武弘嗣まで欠場するのだからね。そこで前半のような攻撃メンバーになった。

――それにしても、ベトナムもしっかりしたプレーをしましたね。賀川さんが試合前に1967年――44年前のメキシコ五輪アジア予選での対ベトナム戦を例に挙げていたとおり、苦戦した。

賀川:日本のサッカーは1960年代から飛躍的に向上した、といっても、実際に試合の中でプレーする代表一人ひとりの技術の精度が飛躍的に向上しているわけではない。プロになり、多くのプレーヤーの動きの量が増え、技術に対する常識が高まったといっても、世界もアジアもやはりレベルアップしている。私は試合を見ながら44年前のプレーと比較していましたよ。


◆45分間に1回だけでも「あうん」の呼吸で1ゴールしたのがいい


――前半のゴールを評価していましたが……

賀川:ハーフウェーライン近くで相手選手のトラッピングミスがあって、長谷部誠が奪ったところからチャンスが生まれた。ここから香川真司-長谷部-藤本淳吾-李忠成とつながって李が決めた。
 ちょっと詳しく振り返ると、
(1)長谷部が奪ったすぐ近くに香川がいた。長谷部は真司にボールを預けて前へ走り、すかさず真司からボールを受けた。相手の守備ラインの手前でノーマークだった。
(2)真司はこの日は顔色も良くなくて、元気のない様子だったが、さすがにこういうときの「何気ないパス」は上手い。
(3)長谷部はまだ前を向いていなかったが、パスのボールのスピードが柔らかくきたから、彼はターンしてボールを持ち直し、前へドリブルした。

――ボールが強ければ長谷部の体勢は楽でなかったと?

賀川:長谷部は、最もプレーが安定し、動きの量も多く、キャプテンシーもあり私の好きな選手。この試合でも前半しっかり働いた。しかしザックさんはウズベキスタンとの試合で彼をトップ下に置いてその失敗を認めたようだ。このポジションよりもボランチ、つまりもう一つ後ろから出てゆく方がいいタイプの選手なんです。

――その長谷部がトップ下の位置へ上がったときに、香川が彼に優しいボールを送ったというわけですね。

賀川:そのスピードとタイミングがね。まあ偶然か意図的か、どちらにしても、ここでそういう「さりげないパス」を出せるのが真司の本領ですよ。
 プレーの続きだが、
(4)前を向いた長谷部がドリブルを仕掛け、
(5)右の藤本へパスをした。
(6)藤本は縦にドリブルし中へ、マイナスのクロスを送る。
(7)そこに李がいて、ノーマークでシュートを決めた。

――長谷部がドリブルを仕掛けたとき、賀川さんは何か口の中でブツブツ言っていたようですが

賀川:李が前へ飛び出したあと、また後方へ戻ろうとした。一方、香川は長谷部の左隣りをフルスピードで駆け上がり、トップへ飛び出していった。この2人の動きも良かったね。

――藤本がドリブルを仕掛けたときに、李の戻る動きと香川の前へ飛び出す動きで李がノーマークになったわけですね。

賀川:この25分のゴールの一連の動きは、それまでよく似た形をつくろうとして失敗していたのを、互いの関連性のあるラン(Run)と、それをよく見ていたボール保持者(藤本)との「あうん」の呼吸でスペースをつくり、ノーマークシュートへ持っていった。しかもボールは外から中へのグラウンダーというシューターには蹴りやすいコースできた。

――香川、李、長谷部というこれまでのメンバーに新しい藤本を加えた4人でのゴールですね。

賀川:まあ、こういうパスやドリブルが組合わされ、得点につながるのがサッカーの攻撃の面白さですよ。

――それを1点だけでも演じたのは立派だと?

賀川:1点だけという見方もあるし、45分で1回できた、という言い方もできる。
 このコースのもう一つの意味は――攻撃は中央突破もいいがちょっと相手が手薄なハズのサイドで崩し、サイドから入ってくるボールを決める方が易しいということだ。このときも、藤本の侵入とクロスに対して、相手GKは自分のいいポジションから動いて出てくることになっている。
 あうんの呼吸のゴールを1点も取れないのと、1点でも取るのとでは全く違う。魚釣りでも、1匹も釣れないのと1匹でも釣るのとは全く違うからね。


◆どんな相手と戦うにも、日本代表は走って、チームプレーをすること

――システムの問題は

賀川:サッカーは試合の状況に応じてDFが4人になることもあるし、5人になることもある。その大づかみな配列も大切だが、結局は1対1での競り合いに負けないこと。もし1対1の競り合いが難しいのなら人数をかけてボールを奪うことになる。すると、まず動きの量が必要となる。
 日本のサッカーは例え相手がFIFAランキング100位以下であっても、常に1対1の奪い合いで勝てるとは限らない。サッカーはあくまでチームゲームであって、どんなにドリブルが上手であっても、どんなにスピードがあっても、常に仲間との協力は欠かせないものなんです。
 ベトナムとの試合で、日本の多くの選手、特に若いプレーヤーは、日本代表では常にいコンディションを保ち、豊富な運動量で自分たちの機敏性と組織力を生かすことを心掛けないと苦しい戦いになることを体で感じたと思う。その意味で、対ベトナムのキリンチャレンジカップはとても良い経験だったと思いますよ。

――本田がいなくても、良いコンビネーションの展開で点を取れることも見せてくれました。

賀川:代表として築いてきたものをベースに、ここに加わった選手たちがどういうプレーをするかは、選手自身が考え、監督の意図を察し、分からなければ相談して解決し、いいチームにすることなんですよ。11日はそういう意味でとても期待を持って見つめる試合ですね。

【了】

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【Result】10月7日 日本代表 vs ベトナム代表

2011/10/07(金)

キリンチャレンジカップ2011
10月7日19時45分キックオフ(兵庫・ホームズスタジアム神戸)
日本代表 1(1-0、0-0)0 ベトナム代表
 得点 日本:李忠成(25)

【日本代表メンバー】
GK: 12西川周作
DF: 2伊野波雅彦→22阿部勇樹(45分)3駒野友一、5長友佑都→4栗原勇蔵(45分)15今野泰幸、6槙野智章→20吉田麻也(68分)
MF: 13細貝萌、17長谷部誠(Cap.)→14中村憲剛(45分)
FW: 10香川真司→21原口元気(45分)11藤本淳吾、19李忠成
SUB:1川島永嗣、23権田修一、9岡崎慎司

【ベトナム代表メンバー】
GK: 18ブイ・タン・チュオン
DF: 4レ・フオック・トゥ、23チャン・チ・コン、16フイン・クアン・タイン、2ドアン・ビエト・クオン
MF: 5グエン・ミン・チャウ→7グエン・バン・クエット(78分)15グエン・コン・フイ、14レ・タン・タイ→10グエン・ゴック・タイン(59分)8グエン・チョン・ホアン→3グエン・アイン・トゥアン(分)19ファム・タイン・ルオン→12ホアン・ディン・トゥン(67分)
FW: 9レ・コン・ビン→13グエン・クアン・ハイ(81分)
SUB:1グエン・マイン・ズン、24グエン・テー・アイン、6チャン・ディン・ドン、11グエン・ゴック・ズイ

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【Preview】10月7日 vsベトナム代表 (下)

2011/10/05(水)

キリンチャレンジカップ2011
10月7日19時45分キックオフ(兵庫・ホームズスタジアム神戸)

日本代表 対 ベトナム代表

本番前のリハーサル。東南アジアの仲間ベトナムがやってくる
44年前メキシコ五輪予選でのスリルと喜びの思い出

111004vietnam


――賀川:6ヶ国のリーグで日本はまず、9月27日の開幕試合でフィリピンに大勝し、次いで台湾に勝ち、レバノンも破って3勝した。韓国も、まず台湾、次いでレバノン、ベトナム(南ベトナム)に勝って3勝。10月7日に日本と韓国が対戦した。

――歴史に残る3-3の試合ですね。

賀川:雨の中の壮烈な試合だったが、実はこの引き分けのあとが大変だった。10月9日に韓国はフィリピンに勝った。残る試合は10日の最終日の日本とベトナム。日本はそれまでの試合で得点を稼いでいたから、日本はベトナムに勝てば4勝1分け韓国と同勝点、得失点差で1位となりアジア1組代表としてメキシコへゆけることになっていた。

――勝ちさえすればいい、と。

賀川:その「勝てばいい」がプレッシャーとなって日本の選手にのしかかっていた。ベトナムは守りを厚くしてときおりカウンターに出るという、極めて当たり前の作戦だが、それがとても効果的だった。

――ふーむ、

賀川:引き分けに終われば韓国が1位だからね。満員の観客はハラハラだった。レバノン戦でひどいタックルを受け肩を痛め、包帯を巻いた痛々しい姿の杉山(隆一)が後半に相手ゴールキーパーのキックミスを拾ってドリブルシュートを決めたので、どうやら1-0で勝った。

――大きな日の丸を持って、イレブンが場内を1周、スタンドから飛び下りた人も一緒に走ったという象徴的なフォトが残っていますね。

賀川:ベトナムといえば、私はこの44年前のシーンを今も思い出します。この日の彼らは本当に立派な試合ぶりだった。その堅固な守りに手を焼きながら、スタンドと選手が一体となって1ゴールをもぎ取った。NHK総合テレビは20%以上の視聴率だった。

――それが10月10日ですか

賀川:ベトナムは東京オリンピックの前の年に国際大会を開いて、いわば“東京”の大会運営のリハーサルをしたときにも西ドイツ代表とともに代表チームを参加させてくれたんですヨ。

――そういう古くからつきあいのあるベトナムが、今度も来てくれる。

賀川:神戸ではどのような試合になるか。守備重視でくるのか、中盤でプレッシングをするのか、あるいは何人かの素早い個人技術で私たちを驚かせるのか――。

――サッカーには色々な楽しみがありますが、今度のキリンチャレンジカップでもまた一つの歴史が生まれることになるでしょう。


【了】


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【Preview】10月7日 vsベトナム代表 (上)

2011/10/04(火)

キリンチャレンジカップ2011
10月7日19時45分キックオフ(兵庫・ホームズスタジアム神戸)

日本代表 対 ベトナム代表

本番前のリハーサル。東南アジアの仲間ベトナムがやってくる
44年前メキシコ五輪予選でのスリルと喜びの思い出

111004mexico

メキシコ五輪予選の大会プログラム(表紙)


――キリンチャレンジカップの日本代表対ベトナム代表が10月7日に神戸で、11日に大阪でワールドカップ・アジア3次予選の日本代表対タジキスタン代表が組まれています。
 2試合続けて代表の試合を関西で見られるのは、ファンには嬉しいですね。

賀川:神戸のホームズスタジアムも、大阪の長居競技場も、新幹線の新神戸駅や新大阪駅からの交通の便利の良いところだから、東京や九州のサポーターにもチャンスですヨ。秋のスポーツシーズンのまたとないプレゼントです。

――アジア3次予選で日本は、9月2日に埼玉で北朝鮮に1-0で勝ち、9月6日のウズベキスタンとのアウェーを1-1で引き分けた。2010年の南アフリカ・ワールドカップでの16強からアジアカップ優勝(2011年1月、カタール)、さらには女子のワールドカップ優勝と、昨年から大きく盛り上がってきた日本サッカーですが、ここのところ負けてはいないもののちょっと勢いが鈍った感じもあります。

賀川:男子のフル代表にとっては、本田圭佑が故障で離脱したのが響いたね。アウェーの対ウズベキスタンでは、阿部勇樹のアンカー役という策に出たが成功しなかった。若手有望株の清武弘嗣も足を痛めてしまった。

――ザッケローニさんの魔術もトーンダウン?

賀川:サァー、どうですかネ。どんなチームでも調子の波はありますヨ。特に今の代表のように海外でプレーする選手も多いときは、コンディションの把握が難しいもの。ただ私たちが知っていなければならないのは、日本代表はヨーロッパや南米のトップクラスのチームと戦うときにも、それより少し下のクラスのアジア勢と戦うときでも、常にしっかりした組織プレーができることが大切で、運動量の多いことが必要となる。そして、いいチームワークで攻め、守るには、選手たちの組み合わせが重大ということですヨ。

――手慣れたポジションでするということ

賀川:選手たちがそれぞれ得意な形でプレーできるようにすることが大切。それで自信がつくと、バリエーションもついてくる。

――ヨーロッパのリーグの最中の海外組、Jのタフな終盤の争いをしている国内組を、本番でもあるワールドカップ予選3試合目のタジキスタン戦の前にキリンチャレンジカップというリハーサルができるのはプラスですね。

賀川:招集している全員が揃うかどうかは別として、ベトナムとの試合を一つ持てるのはとても大事なことですヨ。

――ベトナムはFIFAランキング130位(9月21日発表)ですね。

賀川:ベトナムの力がどうこうというよりも、まず代表イレブンがどのようなコンディションで揃うかですね。ベトナムはかつては長い内戦があったが、今は経済も良くなっている。古くからサッカーの盛んなところだから、私は期待しているんですヨ。特に、この10月になると、ベトナムと日本の試合には強い思い出がありますからね。

――というと

賀川:1968年に日本代表がオリンピックの銅メダルを取ったでしょう。

――メキシコ・オリンピックですね。まだプロでなくアマチュアの時代でした。

賀川:メキシコ予選のアジア第1組が1967年9月27日から10月10日まで東京で開催されたのです。日本、韓国、台湾(当時は中華民国といっていた)レバノン、フィリピン、そしてベトナムの6ヶ国が集結した。

――そうでしたか。今から44年前ですね。そうそう、日本と韓国がすごい試合をしたと聞いています。


【つづく】


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8月10日 日本代表 vs 韓国代表(下)

2011/08/18(木)

キリンチャレンジカップ2011
8月10日19時33分キックオフ(北海道・札幌ドーム)
日本代表 3-0(1-0、2-0) 韓国代表
 得点 日本:香川(35、55)本田(53)

――香川の1点目は?

賀川:右サイドで攻めに出て遠藤保仁が奪われたボールを奪い返して一気に優位に立った。岡崎だったか、右前へ一人が動いた。しかし遠藤は一呼吸おいてペナルティエリア中央部の李忠成にパスを送った。相手DFの前へ走り込んできた李は、ヒールで後方の香川へ渡した。香川がこのボールをトラップしたとき、接近してきた相手DFの足にボールが当たる。香川はそのリバウンドが落ちたところで右足でシュートし、これがゴール左下へ飛び込んだ。

――遠藤のパスのタイミングが上手かったのと、李のヒールパスで相手側の体制にずれが出た?

賀川:香川がゴール正面ペナルティエリアに入って来たとき、彼の左前と右後方と左後ろにDFがいた。李からボールを受けると香川はそのボールをトラップして前へ抜け出るのでなくボールを右足でタッチして自分の左足に当てた(おそらくもう一度右足の前へボールを置こうとしたのだろう)。しかしそのボールは相手DFの左足に当たった。当たったけれど、相手のモノにはならず、香川の右前に落ちる。それをタイミングよくシュートへ持っていった。

――抜いて出るのでなく、同じ位置でボールを動かしただけ?

賀川:テレビのリピートを見たらそういう感じだね。ゴール裏からのカメラは、彼が走り出すのでなく両足を広げて立っている姿勢を捉えている。右足でタッチしてボールを左へ動かし、それを左足のタッチで右前へ置くのはフェイクの一つの型で、古いところでは私達世代の代表の右ウイング・鴇田正憲がこのフェイクを使っていた。1956年のメルボルン五輪予選の1回戦で、予想を覆して韓国に勝ったときも、彼は滑りやすいグラウンドを利用してこの小さなフェイクで相手を悩ませたことを覚えている。近くは(といっても80年代だが)フランスのミッシェル・プラティニがこれで縦に持って出るのを見たし、日本のカズ(三浦知良)もやっていましたヨ。

――香川はそれで隙間をつくってシュートしようとしたのですかね。

賀川:今度会ったら聞いてみたいね。ここでシュートをすると狙っていたのだろう。咄嗟のプレーだが、囲まれながら前へ出るよりシュートチャンスと感じたのだろう。

――彼の談話に、イメージどおりとありました。

賀川:テレビ画面に戻ると、香川が右足を振ってボールを叩いた横から同じような形で韓国選手の足が映っていたハズですヨ。彼が蹴っていなければ、相手は潰しにきていた。その間一髪のタイミングをつかんだのでしょう。

――上手くなるというのは、こういう形の蹴り方というだけでなくて、一瞬のタイミングのつかみ方もあるわけですね。

賀川:それをタイミングと言う人もあれば、別の見方で、スペースという言い方をする人もあるが、まあいずれにしてもゴール前の、いわば修羅場での争いに勝つことだね。

――彼は、ゴール前で落ち着いてやれるようになったともどこかで言っていました。

賀川:それは、そこへ走り込むことが多くなり、そこで成功が増えるからですヨ。再三、ゴール前へ向かうことで、その位置、そのスペースが自分の居場所のようになるのだろう。それが経験であり練習にもつながるのですヨ。

――点を取るためには、その重要な場所でのプレーに慣れろ、と?

賀川:一概に言えるかどうかは別にして、例えば岡崎はこの試合で故障のため途中で退いたが、開始すぐにエリア右寄りから左足でゴール左ポスト側へシュートした。これは彼が今シーズンの最初のドイツでの試合で後半に出場して左足シュートを決めた角度とよく似ていた。ちょっと左足のインパクト(ボールを叩く)がドイツのときとは違っていて、このシュートは外れたが、この位からここへ――という感覚が一つできていたのだと思う。

――後半に日本が2点目を取り、相手がちょっと気分が落ちたときに香川が3点目(本人の2点目)を取りました。

賀川:このときは香川のダッシュ力、速さと、相当な距離を相当なスピードで走っても体のバランスが崩れないでシュートできるという良さが出た。清武との大きなトライアングルパスだったが、清武のパスも良かった。
 この試合で香川が別の場面でもしていたパスのキックで、自分の前にあるボールを体の向きのとおり真っ直ぐ前方へ蹴るパスをしていたことに私は注目した。彼はどちらかというとドリブルで円弧を描きながら角度のあるキックをする。前にあるボールを真っ直ぐ蹴ることは少なかったが、ドイツでその必要性を知ったのでしょう。清武へのパスもその一つだった。自分のチームのために、自分にはどういうキックが必要か、どういうプレーが重要かをいつも考えているから、バリエーションはどんどん広がる。

――もっといっぱい話を聞きたいのですが、今日は日本の3ゴールと香川くんの進化について、ということで。

賀川:いまの日本代表のサッカーは皆が積極的になっているからとても面白い。ただし3-0の対韓国勝利といっても、浮かれてはいけません。サッカーは相手のあるスポーツ。相手も、この日本にどう対応するかはすぐまた考えるでしょう。全選手の向上心とザック監督の指導力、長谷部キャプテンの全人格的プレーとチームの団結力に期待して、ワールドカップ予選を楽しみにしましょう。
 選手のみなさん、まずは良いキリンチャレンジカップをありがとう。


【了】

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8月10日 日本代表 vs 韓国代表(上)

2011/08/17(水)

キリンチャレンジカップ2011
8月10日19時33分キックオフ(北海道・札幌ドーム)
日本代表 3-0(1-0、2-0) 韓国代表
 得点 日本:香川(35、55)本田(53)


――なでしこのワールドカップ優勝で大いに喜び盛り上がったあとに、今度はキリンチャレンジカップの日本対韓国は3-0の快勝。それこそ盆と正月が一度に来た――というところですね。

賀川:喜びの二重奏、楽しみの重なりを“盆と正月”というところにあなたの年が分かりますヨ――。
 それはともかく、男の方の日本代表はいまとても面白い。「伸び盛り」――それもインターナショナルなレベルで――の選手がいると、試合に活気がありますから……。
 それに、遠藤保仁のように滋味あふれるプレーを見せてくれる経験豊かなプレーヤーもいるから、代表の試合はとても楽しいものになっている。

――“ご贔屓”の真司クン、香川真司がすごい活躍で2ゴールを決めました。

賀川:香川だけでなく内田篤人も岡崎慎司もみな上昇あるいは上昇志向だね。しばらく会わずにいて、香川に会うと刺激を受けるのかもしれない。

――ベテランの駒野友一も、長友佑都の故障による出番ですごく頑張って、2点目のきっかけを作りましたからね。

賀川:サッカーはチームゲームであることは全ての人が知っている。しかし、互いのコミュニケーションや特徴をうまく発揮するということと同時に、絶えず個人力のアップを心掛けなければならない。そのことも選手たちはよく知っていて、自分たちが練習したプレーを実戦の役割のなかで発揮しようと積極的になっている。彼(駒野)が左サイドでドリブルを仕掛けペナルティエリアに侵入してシュートをした(チームの2点目)の攻撃は、そういう駒野の心意気から出ていますヨ。

――GKチョン・ソンリョンがセーブしたそのボールが、ペナルティエリアの右いっぱいにいた清武弘嗣のところへ転がり、清武がダイレクトでゴール正面の本田圭佑へスクエアパス(横パス)を送った。

賀川:清武の判断は良かったネ。ダイレクトで、しかも心のこもったパスが本田に届いた。

――本田が左足で蹴りやすいボールでした。

賀川:清武は、香川がドイツへ去り、そのあと一気に自らの才能を見せ付けた。家長昭博もスペインに去ったあとのセレッソでぐんぐん伸びて、いまやチームの中心的プレーヤーになってきた。それだけのテクニックもあり、運動量もある。その清武のボールタッチのうまさと判断がこのシュートのリバウンドボールの処理にあらわれた。

――本田の左足ダイレクト・サイドキックはさすがでした。

賀川:これは本田の十八番(おはこ)。彼が高校を出て名古屋グランパスでプレーしているのを初めて見たとき、「立ったまま(助走なしで)」しっかり蹴れる選手がやってきた――との印象だった。その十八番が出ただけのことでしょう。それにしても、きっちりと左下隅へシュートを送りこんでいるのはさすがだ。

――試合後の談話は、「清武のいいパスが全てですよ」と。

賀川:ここのところ、メディアでは香川の働きが注目されている。新聞にはスペース、テレビには時間内で収めるというそれぞれの制限があって色々なプレーを取り上げることは難しいのだが、本田は狭いスペースで有効な働きのできる香川が出てきたので早速、彼への短い効果的なパスを使うようにしている。もちろん、マーク相手にぶつかられてもバランスの崩れないしっかりした体の彼だから出来るプレーなのだが……。そういう仲間の持ち味を引き出すところなどは、いかにも本田らしい。とても頭のいい選手ですヨ。だから上達も止まることがない。

――ふーむ。そういうふうにいってもらえ嬉しいですが、まず2得点と派手に活躍した香川について語って下さい。巷では何故急に上手くなったのか、どこが上手になったのか、聞きたい人が多いハズです。

賀川:彼は自分で考え工夫して努力する。努力するというより練習するのが苦にならないプレーヤーのハズ。だから、どんどん上手になる。人にいわれたことも、いいと思えばすぐ取り入れるタイプでしょう。
 もともとドリブルが上手で、自分のそういう好きなプレーができそうだということで(神戸から)仙台へ移って中学年齢をすごした。それをセレッソの小菊昭雄コーチが誘って大阪へきた。J2の試合でもドリブルし、逆サイドへいいパスを送って広い展開を図り、スルーパスを出して仲間のチャンスをつくった。
 岡田武史監督が19歳で日本代表候補に加えた(2008年)あたりから、パスを出したあと前へ走り込んでゴールすることに興味を持ち始めた。シュートのコースも、自分の得意の角度はしっかり持っていたから、2009年には27ゴールでJ2の得点王になった。この話は一度したかもしれないから省いた方がいいかな。

――いや、若いスターの伸び盛りの話ですから重複しても聞かせてもらいましょう。

賀川:2010年のワールドカップにも、岡田監督は連れて行った。出番はなかったが、実際のナマのワールドカップを見せておきたかったのだろう。J1で夏までプレーし(11試合7得点)ドイツへ移ったのだが……

――あのとき、賀川さんはちょっと慎重論だった

賀川:上り坂だけに、ケガだけが心配だった。先に言ったように、放っておいても上手になる選手だからネ。
 セレッソでの最後の試合で、ペナルティエリア左角から右ポスト内側をこするように入る右足のフックシュートでゴールした。このエリア左角から右ポスト内側ぎりぎりというコースは、ストライカーなら必ず持たなければいけないコース、あるいはシュートの型の一つ。たとえばマンチェスター・ユナイテッドのウェイン・ルーニーなら、ここから右ポスト内側のコースとニアポストぎりぎりに叩きこむ2つを持っている(もちろんパスもある)。真司のこのコースはそれまで見たことはなかったが、セレッソでの最終戦で演じてから加わった。

――シュート技術も絶えず上達を心掛けているということですね。アジアカップで日本代表にに加わって、みなを驚かせました。そう、昨年のキリンチャレンジカップの対アルゼンチンで彼がドリブルで抜いて出てから一気に空気が変わりました。

賀川:いいストライカーの条件として、いいドリブラーというのもある。相手をかわせる身のこなし、抜いて出る速さ。まずドリブルはサッカーのなかでの色々なテクニックの混合プレーだからね。日本でも昔から名のあるストライカーはみないいドリブラーだった。

――釜本邦茂さんも?

賀川:彼は小学生の時からドリブルが上手で知られていた。小さくて速くてね。

――ふーん、それは初耳。

賀川:早大を出てヤンマーに入った1年目の対東洋工業の第1戦で、彼がハーフラインからズバズバと3人を抜いてゴールに迫ったプレーに、長居のスタンドはどよめいたものだ。メキシコ五輪の準々決勝、対フランスの1点目は、彼の右サイドを突破してのドリブルシュートだからね。

――ちょっと横道へ行きました。今度の香川の1点目は?


【つづく】

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【Result】8月10日 日本代表 vs 韓国代表

2011/08/10(水)

キリンチャレンジカップ2011
8月10日19時33分キックオフ(北海道・札幌ドーム)
日本代表 3-0(1-0、2-0) 韓国代表
 得点 日本:香川(35、55)本田(53)

【日本代表メンバー】
GK: 1川島永嗣
DF: 3駒野友一→3槙野智章(55分)6内田篤人、15今野泰幸、20吉田麻也
MF: 7遠藤保仁→14家長昭博(73分)17長谷部誠(Cap.)→22阿部勇樹(66分)
FW: 9岡崎慎司→11清武弘嗣(35分)10香川真司→13細貝萌(85分)18本田圭佑19李忠成
SUB:12西川周作、23東口順昭、2伊野波雅彦、4栗原勇蔵、21柏木陽介、8松井大輔、24森本貴幸

【韓国代表メンバー】
GK: 1チョン・ソンリョン
DF: 3イ・ジェソン、4キム・ヨングォン→12パク・ウォンジェ(25分)→2パク・チュホ(37分)14イ・ジョンス、22チャ・ドゥリ
MF: 6イ・ヨンレ→キム・シンウク(52分)8キム・ジョンウ→20ナム・テヒ(84分)13ク・ジャチョル、16キ・ソンヨン
FW: 10パク・チュヨン(Cap.)→ユン・ビッカラム(58分)11イ・グノ→7キム・ボギョン(52分)
SUB:21キム・ジンヒョン、23キム・ヨングァン、5カク・テヒ、18チョ・ヨンチョル、15パク・ヒョンボム

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6月7日 日本代表 vs チェコ代表(下)

2011/06/12(日)

キリンカップ2011
6月7日19時32分キックオフ(神奈川・横浜国際総合競技場)
日本代表 0-0 チェコ代表



◆左CKからショートコーナーでのチャンスのつかみ方
 遠藤-本田-李-吉田の合作

賀川:左CKのチャンスに、遠藤保仁はボールを置くとボールから離れず近くに立った。ショートコーナーの前兆です。そのとき、ペナルティエリアぎりぎりに本田圭佑が来た。いいボールが遠藤から送られ、トラップした本田は二人にマークされながら縦に持って出て得意の左足でクロスを送った。ゴールライン近く、ペナルティエリア左いっぱいのところからだった。ボールは狙い通り、ゴール前の密集地帯を越えてファーポストの方へ飛び、相手DFの頭上を越えて一番外にいた李のところへ落ちた。李が止めて、左足で蹴ってゴール正面へ高いボールを送った。これに吉田麻也が飛び込んでヘディングしたが、ボールはバーを越えた。

――テレビの解説者たちも、すべてうまくいった、フィニッシュだけが惜しかった――と言っていました。

賀川:吉田にとっては大事なチャンスだった。入れておけば本人とチームにすごいことだった。しかし、私は、日頃の練習でDFの吉田が何回こういう場面のシュミレーションで相手ゴールに向かってヘディングした経験があるのかどうかを知りたいところだ。この日の口惜しさで、彼はこの次のこういう場面でどうするかを決めるだろう。高いボールの見え方で瞬時に自分のジャンプ・ヘディングの形に持ってゆく。そしてチームの一員としてボールの動きを予見・予知することでしょう。まあ、189センチの大型DFが大事な場面での役目を覚えてくれればいいわけだから……

――長友佑都のドリブルシュートもありました。

賀川:あれは伊野波雅彦のいいタイミングでのパスを受けて、まわりにスペースがあったから自分で仕掛けて右のニアポスト狙いでエリア手前からシュートした。叩き方が悪くて左へ外れたが、「よし、行ってやろう」という感じのプレーだった。

――長友の進化は?

賀川:本人は、この1年でこれまでの10年分ぐらい伸びた――と言っているようだ。まあ色々あったし、大きなまわりの変化にも順応して腕を上げ成果を出したのだから大したものです。ただし基礎技術を、まだまだ精度を上げないとこれから壁に当たるだろう。クロスは上手なのだから、そのバリエーションの精度が大切。シュートにももちろん同じことが言える。

――李忠成が後方からのパスを落として本田に渡そうとした、渡れば大チャンス――というのもありました。

賀川:遠藤から足元へピタリときた。この頃になるとだいぶスペースができ始めていた。李はそのボールを相手DFを背にしながら軽く左足に当てて、走り込んできた本田にパスした。ボールがちょっと強くて、本田には渡らず惜しい場面に見えた。

――上手くいっていたら、2002年ワールドカップ、対ロシアの稲本潤一のゴールのようになったかも。

賀川:あれは素晴らしかったネ。この李-本田の場面のミソは、李のパスが本田に渡らなかったところにある。まあ相手DFは李のパスの体勢を見てすぐ彼から離れ本田の動きに備えようともしていた。しかし、エリア内のことだから本田に渡っておればビッグチャンスになるハズだった。

――それがうまくいかなかったのは?

賀川:ここらがサッカーの面白さだろうね。いいボールが足元へきた。仲間がいい位置へ来る。そこへ渡す。一連の動作がスムーズに見えるスタンドから見ていると、きたボールにボンと強く左足を当てたように見えた。

――それが思いのほか強く返すことになった

賀川:昔からパスで苦労した選手はこういうときのボールの送り方を掌(たなごころ)で餅を包むようにしてそっと送るといういい方をしていた。ボールテクニックの上手な李は、こういうところを無難にしかも巧くやってきたのだろうが、エリア内の決定的な場面でのパスは、一見反射的に見えても、いいプレーにはどれも心がこもっているハズですよ。
 外国人はそういう言い方をしないかもしれないが、ボールタッチの天才たちが集まっているバルサのエリア内でのパス交換を見ても、無難に反射的ではあるがそこにちょんと、自分の技の積み重ねがあるように私には見える。

――李忠成という選手はいい素材なのですが

賀川:岡崎慎司も、終盤にはヘディングを取るようになっていた。李や岡崎だけでなく、この日チェコと戦った代表は誰もが何かを身に付けただろう。

――そういえば、レフェリーが大物でした。

賀川:ワールドカップでもチャンピオンズリーグでもビッグゲームのレフェリーで、チェコ側の手を使ったりぶつかったりする反則に少し甘いかなと見ていたら、日本側にも同じ基準でしっかりした判定だった。ボールの奪い合いのときの接触プレーは簡単に笛を吹かないので、双方が頑張ることになった。それでもチェコの反則は22、そのうちイエローカードが4枚だった。こういうレフェリーを招くことができるのも、このキリンカップの伝統というのか、良い点だろうね。

――交代選手のことなどまだまだありますが、まずはここまでにしておきましょう。あとは別の機会に。


【了】

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6月7日 日本代表 vs チェコ代表(中)

2011/06/11(土)

キリンカップ2011
6月7日19時32分キックオフ(神奈川・横浜国際総合競技場)
日本代表 0-0 チェコ代表

◆FKは外れたが、進化する本田のプレーメーク

――日本代表のこの日のシュートは前半4、後半7で計11本(チェコは前半3、後半3で計6本)。ボール保有率は平均して日本が63.2%、チェコが36.8%でした。

賀川:日本のシュートのうち5本がFKで直接狙ったもので、前半2本、後半3本あった。前半のうち1本は遠藤保仁で、ゴール右上隅を狙ったがGKに防がれた。あと4本は全て本田圭佑の左足で、前半11分に低く蹴って壁に当たった以外はゴールを越えている。

――その本田のプレーは

賀川:FK以外に自分でシュートはしていない。FKも狙い通りにボールが落ちていないようだ。彼の強い球が枠内のいいところへ飛ぶ――それをGKペトル・チェフがどうするか見たいところだった。遠藤のシュートは右上の枠内へ行ったが、もう少し右上隅に行かないと、相手がチェフだと決めるのは難しい。このときも本田がアクションを起こす格好をして、遠藤が短い助走で蹴る――というオトリ作戦もあったが、チェフは遠藤のキックに反応した。どういう見方でキックの瞬間をとらえているのか、テレビの別の角度のものがあれば見てみたいものだ。

――攻撃の軸としての本田は?

賀川:全体の流れをつかみ、仲間を使い、パスを受けパスを出し、また受けて、といったプレーメークはますます上手になっている。もちろん、相手にぶつかられてもしっかりバランスを保てる体の強さがあり、衝撃を受けたり流したりする上手さもあるからだが。

――第1戦は彼は後半から入りました。それまでの新しいシステムであった3-4-3を前の形に戻したから、チームプレーがスムーズになったなどという意見もありましたが……。

賀川:システムもあるだろうが、本田がいなくては、前でボールを受けてキープできる者がいない。しっかりボールを持ってくれる者がいなければ、仲間が上がってゆくこともできなくなる。まずはそういうプレーヤーが何人かいるかですヨ。守備的には長谷部誠と遠藤保仁という、パスを出し動いてもらうこともできる優れた支援組がいるのだから、そのもうひとつ前の攻撃陣のなかに、相手がいてもきちんとボールを持てる者がいるかどうかが大事なことなんですヨ。アジアカップの途中まではもう一人、香川真司がいた。

――その本田を中心に、後半は割合うまくボールが回るようになった。

賀川:前半は右の内田篤人、左の長友佑都というサイド攻撃のできる二人をMFの4人の外のポジションに置いて攻めに出ようとした。何回か攻めたもののクロスがきちんと届かなかった。右の側は一度も深い位置、例えばゴールラインぎりぎりのペナルティエリアすぐ外というようなところへ食い込んでゆけなかった。外からも入れなかったし、スルーパスを送っても潰されていた。

――なぜなのでしょう

賀川:スルーパスにしても、ラストパスを出すところが全て相手DFには見えている。相手は自分のマークする選手とパスが出てくるところを同時に見ることができる位置にいる。攻める側はどこかで無理をして、その次に決定的なパスを出さないとね。
 遠藤という選手は、そういう状況のなかでもボールを蹴るタイミングの一呼吸やボールの強さあるいはコースの曲げ方などで決定的な場面をつくれる、得難いプレーヤーだが、新しい仲間はまだそれが飲みこめていない。



◆楽しめた、李と相手DFとの駆け引き

――後半に李忠成と本田のパス交換から何度かチャンスが生まれそうでした

賀川:彼らが話し合ったり、理解が深まったりしたのでしょう。そういうところを見られたのが、先ほども言いましたが、このチェコ戦の面白みなんですヨ。
 李はスピードがあるし、それに器用でフェイクプレーも仕掛ける。ただし相手のDFがなかなかその策に乗って来ないのも確かだった。それには単に見せかけのフェイクでなく、自分の気の入ったプレーが伴わないと上手くゆかないものだ。こういうのは選手自身がつかむものだが。

――いくらフェイントを使っても、マーク相手がはじめからパスをするのだと読んでいれば引っかかりませんよね。

賀川:まあ、そうでしょう。自分で止めて前へ向こうとする、あるいは接近する本田の動きを利用して大きくトラップしシュートへ持ってゆくとか――。もちろん、エリア内外は敵味方ともプレーヤーの多いところだからね。


【つづく】

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6月7日 日本代表 vs チェコ代表(上)

2011/06/10(金)

キリンカップ2011
6月7日19時32分キックオフ(神奈川・横浜国際総合競技場)
日本代表 0-0 チェコ代表



◆相手の好守備により、日本の攻撃のいい点・そうでない点がよく見えた
 チェフという優れたGKと戦ったのもプラス

――観客6万5,856人、チケット完売、満員でしたね。

賀川:いい試合だった。もちろん不満もあったけれど、収穫も多かったし、私自身もとても楽しかった。

――不満はやはり、ノーゴールだったこと?

賀川:それもある。しかし攻撃に関しては相手の守りがしっかりしていたから、そこへ攻め込む日本代表の一人ひとりのプレーや連係がいい点もそうでない点も浮き彫りになり見えたのでとても面白かった。選手たちもそれを肌で感じたでしょう。

――例えば

賀川:李忠成というFWがいますね。これまでは途中出場だったのが、前田遼一が故障とかでこの日はフルタイム出場した。CF(センターフォワード)の彼を相手はしっかりマークし、後方からのボールを受けるときにも厳しく奪いにきた。李ははじめのうちは難しそうだったが、次第に応対が巧くなった。この程度の相手と90分しっかりやり合うという経験はJではそうないだろう。もちろん本田圭佑や岡崎慎司といういい仲間が近くにいることもあるだろうが、この日の経験とつかんだ自信は、李にとってとてもプラスになったと思う。

――本田圭佑とのパスのやりとりなども多くなっていました。チーム全体としてもコンディションは良かったのでしょうか。

賀川:第1戦の対ペルーは、あまり良くなかったが、中5日あったのだから良くなって当たり前ですヨ。しかし見る側には嬉しいものです。それに7日の試合当日、夜になって気温が下がったのも選手たちにはよかった。

――ヨーロッパ人には日本の蒸し暑さは大敵ですからね。

賀川:6人まで交代できる規定があるので、チェコは5人の交代を送りこんでいた。ペルーも5人代えていたでしょう。日本の運動量の多いことは、彼らも知っている。もちろん、それぞれの監督さんには選手のテストということもあるだろうが、両チームとも運動量が大幅に落ちるということがなかった。だから日本は点を取れなかったともいえるのだが……。

――チェコのGKペトル・チェフがいいセーブを再三見せました。

賀川:イングランドのチェルシーで7シーズンプレーしている196センチのGK。チェコ西部の都市プルゼニの出身で、82年5月20日生まれだから29歳だね。16歳で地元のクラブに入り、名門スパルタ・プラハを経てフランスのレンヌで働き、2シーズン後の2004-05シーズン、22歳のときからチェルシーでプレーするようになった。
 チェコのユース、U-20、U-21代表を経験し、フル代表での出場も70試合以上だという。大柄で手も足も長くキック力もすごい。冷静で読みがよく、ポジションを取るのもうまく、ペルー戦でもすぐ目の前からの相手のシュートをしっかり止めていた。とても落ち着いているように見えたね。



◆サッカーには、国や大衆の交流の歴史の面白さもある

――チェコはいいGKを生み出していますよね。

賀川:ワールドカップでもヨーロッパ選手権(EURO)でも、その時々に評価の高いGKがいた。本番で不振な者もいたが……。
 そう、ノッポといえばGKでなくFWにいた1990年イタリア・ワールドカップのチェコ代表FWトマス・スクラビーが190センチをこえる高さで、ヘディングでよく点を取った。いいシューターやいい中盤のプレーヤーも出た。

賀川:チェコといえばJFAが創立されるよりまだ以前、大正8年(1919年)にチェコの軍人チームと神戸一中が神戸で試合をしたこともある。このときショートパスをつなぐチェコ軍人チームに私の先輩たちはとても驚いたそうだ。神戸外人クラブの、いわゆるイングランド流のウイングからのセンタリングに飛び込む――というのが一般的だった頃、チェコはもともとスコットランド人によってサッカーが伝えられたので、ショートパスがスタイルとなっていたのだね。

――その話も面白いですが、92年後に話を戻しましょう。

賀川:サッカーというのは古くから世界の交流がある。そして、それぞれの国のサッカーにはたいてい100余年の歴史があり、しかもその国の大衆のスポーツだから、とても早いうちから国際交流があった。3-4-3というマニアックな話も面白いが、キリンカップのように外国のいいチームとの交流のときには、ペルーの歴史とサッカー、チェコの欧州での立場とそのサッカーなどについても紹介するようにすれば、勝った負けた以外にもサッカーの別の面白さも見ることになるでしょう。試合前のチェコの国歌にしても、とても胸に響く歌い方だったしネ。


【つづく】

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