2022年6月14日 日本代表 対 チュニジア代表

2022/06/15(水)

2022/6/14(火)日本/大阪・パナソニックスタジアム吹田
日本代表0-3(0-0) チュニジア代表

――チリに勝ってキリン杯の決勝に進んできたチュニジアは、今秋のカタールW杯出場を決めています。20年前の6月14日、日本が2002年の日韓W杯、ファーストラウンド最終戦でチュニジアと対戦し、2-0で勝利。不思議な巡りあわせの対戦でした

賀川:あれから20年ですか。あの日、当時の自宅があった芦屋から電車に乗り、長居スタジアムに向かいました。家から電車でW杯を観に行ける日がくるとは…と思ったことを覚えています。後半から出場した森島寛晃がすぐにゴールを決めて、盛り上がりました。途中出場でしたが、所属していたセレッソ大阪のホームスタジアムだったので、違和感なくプレーできたのでしょう。スタジアムの形状が頭に入っているので、自分の位置、ゴールの位置が頭に入っていました。得意の角度からシュートを打つまで迷いがなく、思い切って右足を振りぬいたのをよく覚えていますよ。中田英寿がダイビングヘッドを決めて、追加点。試合が終わった後のスタジアムでサポーターから万歳三唱が起こり、まるで甲子園のような雰囲気でした。フィリップ・トルシエ監督に率いられたあのチームもうまい選手が多かったですが、いまの代表チームは技術的にさらにうまくなっていますね。ちなみにその28年前の1974年の6月14日、西ドイツW杯の西ドイツ―チリをベルリン・オリンピック・スタジアムで取材しました。当時はサンケイスポーツの局次長でしたが、上司の理解があって、初めてW杯を取材することができました。ベッケンバウアーのエレガントなふるまいや、ミュラーの迫力、ブライトナーのシュートに驚嘆した1日でした。6月14日という日は、私にとっても思い出深い日であります。

――前半は0-0。右サイドの伊東から何度もいいクロスが入りました。絶好機だった鎌田はミスショットになりました。あれが決まっていれば…というシーンでした

賀川:雨が降っていたので思っていたより球足が速かったのか、空振りになりました。強く蹴らなくてもいい、ボールに合わせればいいシュートでした。右サイドからチャンスを作っていましたが、中で待ち受ける人数が少ない気がしました。サイド攻撃から人数をかけてゴール前になだれ込んでいくような形をつくることができれば、得点の可能性が高まります。

――ところが、後半3失点。吉田がPKを献上してしまいました

賀川:相手のカウンターに対応した吉田が引っ掛けてしまいました。VTRを見ると吉田が抜かれても、裏を板倉がカバーしていたので、対応できていたかもしれません。焦りがあったのか、声の連携がどこまでできていたのか。課題が残りました。

――2失点目は敵陣深くから相手GKが蹴りこんだロングボールを吉田、板倉、シュミット・ダニエルがお見合いした感じになりました

賀川:吉田と板倉からすれば、GKが出てきて処理すると思ったのかもしれませんね。スキを見逃さなかったチュニジアはさすがでした。ボールを奪い返されたところで、シュミット・ダニエルが前に出てきましたが、ゴール前にはもう味方が来ていて、パスをつながれて、がら空きのゴールに決められました。これも声の連携がどこまでできていたのかというシーンですね。

――3失点目はカウンターから。豪快にけりこまれました
賀川:得点を奪いに行った日本は人数をかけていたので、ボールを失った瞬間、守りの人数が足りませんでした。こういうときはまず誰かが行って、止められなくても、相手の攻撃を遅らせるような手立てをするのですが、それができず、左右に振られて、豪快に決められました。

――ホームで3失点です

賀川:守備が崩壊したというか、声や連携といった割と理由がはっきりしているミスからの失点でした。改善の余地はあるでしょう。ブラジルに0-1とがんばって、チュニジアに0-3。6月4連戦ということで疲労がたまっていたのかもしれません。W杯本番でいえば、4戦目はセカンドラウンドの1試合目になるわけで、ここで疲れて、いいプレーができないようでは、8強には進めないわけです。選手の体力を強化するのか、代わりに出てもチームのレベルが大きく落ちない選手を多く作るのか。上位まで勝ち進むチームは連戦への備えができています。

――チュニジアは強かったですね

賀川:体格もいいし、守備もしっかりしていました。なにより日本を研究していました。中盤は遠藤のところがカギになっていると思っていたのか、あまり自由にプレーさせませんでした。三笘が後半出てきましたが、人数をかけて対応していました。これまでの3試合、日本は中盤でボールを奪い返すところから、きちんとボールをつなぐことができていました。ところが、そこを相手に激しく来られて、守りから攻めへの切り替えがスムーズにできませんでした。敗戦は残念でしたが、W杯に向けての課題が明確になったでしょう。スペイン、ドイツがいるグループを突破しようとしているわけですから、まだまだやるべきことは多いわけです。

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2022年6月10日 日本代表 対 ガーナ代表

2022/06/13(月)

2022/6/10(金)日本/兵庫・ノエビアスタジアム神戸
日本代表4-1(2-1) ガーナ代表

――ガーナは今秋のカタールW杯出場を決めています。キリンカップ、ノックアウト形式の初戦、日本は立ち上がりから攻撃的にいきました


賀川:チーム全体が自分たちからシュートを打とうという気になっているのがよかったですね。6日のブラジル戦は善戦といえる内容でしたが、得点に関してはそこまでいけませんでしたから。とにかくどんどん打っていく。ゴールに近い位置にいる選手が、気負わずシュート動作に入っていました。チーム全体として、シュート意識のアップがうかがえます。前半最初、堂安が持ち込んでから放ったシュートにしても、思い切りがありました。シュートというのは打たないと入りません。頭で考えてじっとしていても入りません。ゴールに向かってどんどん蹴らないことには入りません。その気構えがよく出ていました。

――前線の選手がしっかりボールを追っているので、ガーナの選手は少し慌てながらボールを回していたようにみえました

賀川:日本の選手が激しくプレッシャーをかけるので、おのずと中盤でボールを奪い返す場面が増えました。だから、チャンスを多く作れました。遠藤のようにボールを奪い返すのが得意な選手だけでなく、久保なども必死で取り返そうとしていました。だから、試合のほとんどの時間帯で主導権を握れました。

――先制点は前半29分、右サイドでのパス回しから、右サイドバックの山根が決めました

賀川:この時間帯、両サイドで日本の選手が細かいパス交換で局面を打開するシーンが続きました。ダイレクトパスが入るとチャンスは広がります。右サイドの久保から堂安へのパスはややズレたようですが、堂安が伸ばした左足からのダイレクトパスがDFの裏に出て、そこに走りこんでいた山根につながった。このパスも山根が思っていたところとは違ったところに流れてきたようですが、体の向きを入れ替えて、左足でうまくゴール左スミに決めました。堂安と久保は東京五輪で一緒にプレーしていたので、あうんの呼吸のようなものがありますね。2002年の日韓W杯で監督を務めたフィリップ・トルシエはセレッソ大阪の森島寛晃、西澤明訓を評価していて、代表の試合でいい働きをしました。最終メンバーを考える上で2人1組セットという考え方もあります。

――その山根が前半43分、痛恨のミスパス。ロングパスを狙ったがミスキックになって、ゴール前にフリーだったガーナの選手へのパスになってしまった

賀川:シュートを決めた選手は右に打とうという構えを見せて、ゴール左へ突き刺しました。ブロックにきた吉田の動きを見ていたのでしょう。川島の読みも外されました。このあたりはさすがでした。ガーナもW杯に出るチームですから、見逃してくれません。

――前半終了間際に左サイドの三笘が切り込んで、クロスのようなボールを入れると、上田と堂安が走りこみました。合いませんでしたが、そのままゴールに吸い込まれました

賀川:右足のインフロントで鋭く回転をかけた見事なキックでした。ボールを受けた瞬間から余裕がありましたね。大きく右に持ち出してから、しっかりと足首を固定して鋭く蹴りました。誰かが触っても入るし、触らなくてもそのまま入る。GKが触れそうで触れないところを狙った、計算づくのプレーといえるでしょう。

――インサイドハーフを任された久保が後半28分、個人技で左サイドを突破した三笘のクロスに左足で合わせて、3点目。これが代表初ゴールでした

賀川:日本は久保にもっとボールを触らせる回数を増やした方がいいかもしれませんね。久保ばかりに触らせなくても、攻撃の形はあるというチームになっていますが、彼の能力を考えるとチームの大きな力になりますから。代表初ゴールが遅くなったことは、たまたまでしょう。本人は気にしていたかもしれませんが、これからいくらでも決めてくれると思います。彼がたくさんボールを触ったとき、チームの攻撃がどんな風にかわるか、まだ仲間があまりわかっていない、やってみないと分からないような感じなのかもしれません。この試合は相手のこともあるけれど、長友、南野ら大物はみんな休んでいる感じでした。日本は全体のレベルが上がっているから、そういうこともできるわけです。この6月シリーズ4連戦は、2戦目(6日)のブラジルと、最後(14日)のキリンカップ決勝に主力が出て、それ以外の2試合は2番手グループにチャンスが与えられた格好というところでしょうか。そういう意味では、久保はまだまだチャレンジする立場ということです。何度も相手に削られて、脚が痛そうにしていましたが、フル出場したということは、本人も今の立ち位置が分かっているでしょう。相手にぶつかられても倒れない選手が日本人の中でも増えてきているので、そのあたりが課題になります。シュートそのものは、三笘がゴールラインに近いところまで侵入してからクロスを上げているので、入れるだけでした。後ろに戻すということは、仲間のシュートのコースが広いわけだから、打ちやすい。久保の技術からすれば、難しいものではありませんでした。

――前田もゴールを決めて、4-1。アフリカのW杯出場チームを圧倒しました

賀川:いまの日本はボールを持てるのが当たり前という感じになっています。自分たちの代表チームの試合を見るのが楽しくなってきました。

――三笘はどうでした。切り札として期待されているようなところもありますが

賀川:フルに出していい選手でしょう。これだけ個人で打破できるのですから。長い時間プレーすれば、それだけ多くのチャンスを作り出すでしょう。彼がフルに出ないと勝てない相手がW杯ではなんぼでもくるわけですよ。サッカーっておもしろいもので、うまい選手がボールを持つと取られないわけですよね。だから、相手も行きたくない。行って抜かれて恥をかきたくないから、どうしてもそこに余裕ができるわけです。三笘がボールを持ったときもそう。飛び込んだらやられるのは間違いない。うかつに飛び込めない。だから三笘は相手の動きを見ながら仕掛けることができます。ライバルは南野ですか。彼も素晴らしい選手ですから。タイプの違う2人ですが、高いレベルで争ってほしいですね。森保監督もうれしい悩みでしょう。いまの日本代表は本当にうまいし、強くなりました。日本がボールを持って、攻めるのが当たり前にという感じにこのチームはなっている。最初から最後まで自分たちでゲームを支配していました。
――賀川さんの地元神戸での代表戦でした

賀川:3年前はノエビアスタジアム神戸で取材しましたが、まだコロナ禍も続いているので、テレビで観戦しました。ノエビアスタジアム神戸は神戸御崎球技場を建て直して、2002年の日韓W杯のときに誕生したスタジアムです。御崎球技場は日本にまだ芝生の専用球技場がなかった時代に神戸のサッカー関係者が力を合わせてつくったスタジアムでした。1970年、来日したベンフィカ・リスボンの一員として、エウゼビオがプレーしました。彼の機知にとんだプレー、シュートのうまさには感服したものです。日本サッカーの歴史の中で神戸の関係者が果たしてきた役割は決して小さなものではありません。日本代表の試合が継続的に神戸で行われることをうれしく思っています。

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2022年6月6日 日本代表 対 ブラジル代表

2022/06/07(火)

2022/6/6(月)日本/東京・国立競技場
日本代表 0-1(0-0) ブラジル代表

――東京五輪2020のために建て直した新国立競技場で初めての日本代表戦でした。国立競技場での代表の試合は8年ぶり、ブラジル代表の来日は優勝した2002年日韓W杯以来、20年ぶりのことでした

賀川:日本代表はブラジルを相手に後半途中まで点を取らせないで、頑張れるところまできましたね。日本は確かに上達し、実力もついていますが、試合の中でシュートをいくつか打てる形をつくらないとブラジルに勝とうということにはなりません。それが今の日本の実力というところでしょうか。向こうは本気というか、ここというところでもう一押しすればいいシーンでもしないというか、そこでシュートして入ったらええというやり方でした。やっぱりまだまだそういう点では差があります。だけども、ブラジルとここまでの試合ができるというところまで日本の実力が上がっているということです。これからもうひとつ上にいこうと思ったら、もっと自分の方から点を取りに行けるようなサッカーをせんといかんわけですね。それはまだまだこれからですね。

――前半はがんばった

賀川:これだけの試合を生で観ていたお客さんは楽しいでしょうね。いまの国立競技場は前の国立競技場の跡地に建て直したんですよね。あそこでのサッカーの試合は1975年の第3回アジア大会からずっと見ています。いつも一番いい場所で観ていたわけではないですが、国立での試合は一種独特の雰囲気がありました。陸上競技用のトラックがあるのですが、スタンドの傾斜が割合きつい構造になっていて、サッカーも見やすかった。非常にいい雰囲気でした。あのスタジアムできょうの試合のようなゲームを観ることができたらいいですね。

――日本の前にブラジルと対戦した韓国代表は1-5で敗れました

賀川:ブラジルを相手に何も準備しなかったら、それぐらいやられますよ。日本はこの試合に対して十分、いろいろ勉強してきたことがうかがえます。ある程度シュートを打たれることは織り込み済みで、シュートを打たれそうになったら、人数をかけて、密集して、ブロックしていました。前半で3点ぐらい入れられていてもおかしくありませんでした。後半いい時間帯まで0-0で来て、中盤にスペースもできて、日本がカウンターをしかけるシーンも出てきた。両翼に堂安、三笘を入れて、森保監督は勝負に出ました。しかし、前がかりになったときに堂安がボールを失って、そこでブラジルは一気に人数をかけて、日本ゴールに攻め込み、PKを得ました。日本に勝利への色気が出たところに生まれたスキを、見逃しませんね。

――いい試合をしても、勝つところまではなかなか遠い

賀川:こういう相手に対しても勝とうと思ったら、チャンスをつくらないといけません。ブラジルに押し込まれたらズルズルと下がりながらも、それでもボールを持ち直して再び前に出ていくということはできるようになりましたが、そこまでで。そこから攻撃に移るわけですが、相手の守備の外からシュートを打っているわけで、守備を崩して中に割り込んでいくということはできていない。このクラスを相手にするとそれはなかなか難しい。相手が強くても弱くても、自分から攻め込むというサッカーをできないといけません。向こうは前半から決定的な攻撃を何度か作っていて、そこから最後ゴールに押し込めないだけだった。日本は相手の防御網の外からシュートを打っている感じでした。それでも、森保監督になってから、試合全体が締まってくるようになった。ひとつ新しい日本のサッカーの形ができるようになりましたね。

――ブラジルはどうでした

賀川:ネイマールは大きくみえましたね。きょうの試合なんかみたら、やっぱりブラジル代表は世界にそういくつもないチームのひとつだということが、試合が始まって10分ほどで分かります。試合の楽しさを見てもね。選手一人一人の実力といい、うまさといい。こういうチームがすぐ作れるというのがすごい。パッと集まってこれだけのプレーができる。ブラジル代表はそれぞれのときの代表のうまさがあります。日本代表もずいぶん経験を積んだから、これだけの試合になっていますね。いつの大会でもブラジル代表が一番強いチームで、一番うまいチームですよ。だからといって、必ずその大会で勝てるとは限らない。それがサッカーのおもしろいところですね。いつみてもブラジルの試合はワクワクします。親善試合でブラジルと対戦できるのですから、日本のサッカーにとっては、結構なことです。観ている人にとっては面白い試合でした。この試合をみて、やっぱり日本とブラジルのこの差をどう埋めるかということを、サッカーのファンの人が自分たちで考えるようになれば、もっと日本のサッカーがレベルアップしてくるわけですよ。僕らにとっては非常に楽しいし、面白い試合でした。

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2022年6月2日 日本代表 対 パラグアイ代表

2022/06/04(土)

2022/6/2(木)日本/北海道・札幌ドーム
日本代表 4-1(2-0) パラグアイ代表

――今秋のカタールW杯に向けて、メンバー選考が本格化します。6月シリーズの第1戦でした。パラグアイはカタールW杯出場を逃していますが、2010年の南アフリカW杯、ラウンドオブ16で対戦しPK戦で敗れた実力国です

賀川:日本の選手は本当にうまくなっていますね。南米のこのクラスを相手にしても、自信をもってプレーしていた。ほとんどの代表選手が海外でプレーしているので、うまい選手とやり慣れている。若い時から欧州にいっているので、レベルの高い相手と試合をすることが当たり前になっていますからね。とにかく彼らは相当なスピードでボールを扱いながら、正確に味方に渡したり、受け取ったりするのにミスがない。1964年の東京五輪前の日本代表と比べればまるで違います。

ーー先制点はカウンターで裏に抜け出した浅野がうまくボールを浮かせて決めました。2点目は堂安の左足で鋭く曲がってくるクロスに鎌田が頭で合わせました

賀川:どちらのゴールも個人の技術が高いですよね。外国の同年齢の代表選手と比べても引けを取ることはないでしょう。子供のときからうまい選手同士で競争してきていますから。手を抜けませんよね。18―22歳ぐらいになるまでのトップクラスに入ってくる日本の選手の練習量やボールを蹴ってきた数が違いますからね、この年代の選手の練習量は相当なものがあります。初めてみるような選手も多いですが、みんなうまいですね。吉田麻也がスタメンにいるとホッとしますが。今の選手は子供のころから競争のレベルが違う。ちょっと下手なことをしたら、置いていかれます。一昔前なら南米のパラグアイが来日するとなったら、国は豊かではないが、サッカーが盛んなところで、子供たちは小さいころからやっているので、一人一人個人的には日本の選手に比べればうまいということになっていましたが、この試合をみてそう思いますか? パラグアイの選手は、どこが日本の選手より勝っていますか? と聞いてみたいぐらい、日本の選手はうまくなりました。選手も自信があるから、これだけの試合ができるわけです。ここまで来るのに時間がかかりましたが、ここまでくれば日本のサッカーもさらに高いレベルまで積み上げていくことができます。

――右サイドに張り出していた堂安がヒールパスを織り交ぜたり、アイデアも遊び心もありました

賀川:日本の選手のいいところは、ほとんど自然体でやっていたところでしたね。堂安はヒールパスでも当たり前のようにやります。子供の時の遊び心がプレーに入っています。立ち上げた当時の神戸フットボールクラブでも同じようなプレーをやっていました。古い先輩方や若い連中に練習を観てもらったとき、「そんなに遊んでばっかりでええんですか」と言われましたが、遊びながら練習しているから、だんだんうまくなるわけです。日本代表が高いレベルを保つことになると子供たちはJFAのユニホームを着ることに憧れます。願わくは、この日本代表レベルのプレーをするJクラブが出てきてくれれば。そうすればJリーグがさらに魅力的になると思います。

――選手の力強さも目につきました

賀川:谷口なんかはいい身体つきをしていますね。みんな胸板が厚くなって、フィジカルで海外勢と見劣りしない。計画的にトレーニングできているのでしょう。突破力のある堂安、三笘に対してパラグアイの選手は手を使って止めにいってましたが、2人とも簡単に倒れず、ボールをもったまま、どんどんゴールに向かっていった。ファウルをもらいにいく気配すらない。頼もしい限りです。これだけうまくなったら倒れてファウルをもらう必要がないわけですよ。

――言い忘れたことないですか

賀川:後半途中から出てきた久保にリーダーの資質を感じました。年齢的には一番若いのに周りに堂々と指示を出している。いいチームになってきましたね。W杯本番に向けては超ノッポ対策ができるか。長身選手に対してどう対応するか、パラグアイはそこまで大きな選手がいませんでした。背の高さで脅しをかけられることもありますから。チーム全体の能力も高いし、運動量もありますし、こぼれ球へのアプローチもしっかりしています。うまくプレーするだけでなく、球際の争いにも強くなってきました。6日のブラジル戦が楽しみですね。楽しい試合を見ることができました。

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2021年7月17日 U-24日本代表 対 U-24スペイン代表

2021/07/18(日)

2021/7/17(土)日本/神戸市・ノエビアスタジアム

U-24日本代表 1-1(1-0) U-24スペイン代表

 

――東京五輪2020に向けた最終調整の相手が優勝候補のスペインでした。最近の日本代表はどこと対戦してもボールを保持する展開が多かったのですが、スペインが相手ではそうはいきませんでした

賀川:日本の選手もうまくなっているし、お互いのレベルが高いので、ミスも少ない。非常にレベルの高い試合になりましたが、さすがにこれぐらいのレベルを相手にしては、思うようにはいきません。前半日本がボールを保持する時間は短かったのですが、自分のところのボールになって攻めに出たとき、スペインもさすがで守備に入る動きが早かったですね。すぐに攻撃に出れば有利になるのは間違いないのですが、相手の守備陣形が整うので、マイボールにしてからちょっとゆっくりしているようなところもありました。そこから1人でいくのか、2人がかりでいくのか、人数のかけ方がはっきりせず、一気に優位になる可能性があった局面がそうでなくなったケースもありました。自分の方に危険性があっても、人数をかけて攻めに出るとか、そういうシーンが増えれば、どうなったのかなとは思います。互いに中盤で自分たちのペースにもっていく駆け引きは非常におもしろかった。これぐらいの攻防を見せてもらえると見応えのある試合になりますね。

――先制点は日本でした。前半42分、久保が左サイドから崩して、堂安が左足で決めました

賀川:左サイドのスローインを受けた久保が左足でドリブルに出て、右腕で相手を抑えるような形で前に出ました。相手も体を寄せてきましたが、久保が右腕をうまく使って押さえるような形になり、体勢を崩したマーカーは、空を見上げるような形でゴロンと転びました。フリーになって余裕ができた久保は左サイドに侵入してから、スペースに張り込んだ堂安にピッタリと合わせて、先制点になりました。堂安は動きの量としては多くないですが、ここぞという場面をきっちりと決める選手ですね。ダイレクトで左足のインフロント部分でボールを巻き込むように蹴り、ゴール左上、GKの頭上を抜きました。決めて当たり前みたいな顔をしていました。ファーストシュートをしっかり決めるというのは簡単なことではありません。堂安にしても久保にしてもボール扱いが達者で、欧州の選手と試合をするのも慣れていますから。最終調整で最高の結果が出ました。

――久保のドリブルは大きな武器になる

賀川:これぐらいの相手に勝とうとするなら、どこかで無理をする必要があります。守備も堅いわけですから、ボールを回しているだけでは守備網を破れません。そういうときは個人の突破、久保のような強引なドリブルが、有効になります。久保は幼い頃からスペインでプレーしていたので、よく知っている相手ばかりなのでしょう。気後れすることもなかった。やってやろうとずいぶん意識もしていたようです。左足でボールを持ったときに、マークを外しにかかるときでも、わざと余分に時間を使うときがあります。そうすることによって、後ろから上がっていく選手が前線に到着するまでの時間を数秒稼ぐとか、チーム全体の攻撃の時間を調整する役割を自然と果たしています。スペインは強国のひとつですが、久保にとっては、いつもやっている連中なので、普通にできていた。いろんなことができる久保が危険な選手なのは明らかで、おのずと相手が引きつけられます。だから、堂安が割合楽にプレーでき、得点を取ることに集中できています。この左利きコンビは本番でも大いに期待しています。

――後半、スペインが意地を見せて、ドローに終わりました。スペインは欧州選手権に参加していたメンバーが加わったばかりで、チームとしての調整はこれからのようでしたが、後半主力を出してきてからの攻撃はさすがでした

賀川:彼らにとっては完全な調整試合だったのでしょう。とはいえ、さすがに日本に負ければバツが悪いので、引き分けならばスペインにとっても上出来だったのでは。格が上の相手に、試合開始からボールを支配されることになっても、数少ない得点機を決めて、ゲームは負けないというような試合をしょっちゅう見せてもらえるようになれば、日本も欧州レベルに近づいたということになるのでしょうね。ただスペインは日本が守備ラインでボールを持っているときの、前の選手のつぶしがそれほど激しくありませんでした。本番のように前の選手が死にものぐるいでガリガリとつぶしに来ていれば、スコアも違っていたかもしれません。この試合はそういう試合ではありませんでした。

――いよいよ開会式の前日の22日、南アフリカとの初戦を迎えます、25日にメキシコ、28日にフランスと対戦します。

賀川:ワールドカップでも五輪でもそうですが、大きな国際大会は何においても最初の試合がもっとも大切になります。強豪国であっても、初戦に負けて、そこから勝ち上がるというのは本当に難しいことになります。勝ち点うんぬんでなく、結果、引き分けになっても初戦で勢いづくゲームをすることが、勝ち上がるための絶対条件です。1964年の東京五輪は駒沢競技場でアルゼンチンと対戦し、32で勝ちました。デッドマール・クラマーをコーチに迎え、強化を図って臨んだオリンピックでしたが、当時のサッカーの関係者にはお祭り気分はありませんでした。サッカーは世界で最も人気があるスポーツですが、日本国内ではまだまだマイナースポーツの域を出ておらず、自国開催の五輪で結果を出さないと置いていかれるのではという悲壮感でいっぱいでした。五輪は陸上、水泳がメジャーですが、実はほとんどの競技がマイナーで、普段はあまり関心を持ってもらえません。プロが参加しているとの疑惑が持ち上がったイタリアの辞退で2試合となったファーストラウンドは初戦のアルゼンチンに32で逆転勝ち。2試合目は負けたのですが、初戦の奮闘があり、2位で準々決勝に進みました。4年後の1968年メキシコ五輪も初戦で釜本邦茂がハットトリックを決めて、ナイジェリアに勝ち、大いに自信をつかんで、銅メダルまで駆け上がりました。ワールドカップや五輪で優勝経験はまだない日本ですが、この20数年は欠かさず両大会に出場しており、経験を積んできました。初戦の重要性は森保監督も熟知しているでしょう。だから、このままいけば番狂わせの可能性があったこの試合でも、後半7人もメンバーを入れ替えて、調整を優先させました。1年延期されたことで、選手は大変だったと思いますが、このチームに関してはしっかりとした準備ができたのではないでしょうか。大会が無観客になったのは非常に残念ですが、このコロナ禍の状況下で、五輪の開催そのものについても、さまざまな声が寄せられる中、自分たちができることに向き合い、取り組み、まさにコロナと戦ってきた1年間だったと思います。今回の五輪では、サッカーに限らず、アスリートのみなさんが持つ、本当の人間の強さを見せてもらえるような予感がしています。

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2021年7月11日 U-24日本代表 対 U-24ホンジュラス代表

2021/07/13(火)

2021/7/11(月)日本/大阪市・ヨドコウ桜スタジアム

U-24日本代表 3-1(2-0) U-24ホンジュラス代表

――東京五輪初戦の南アフリカ戦の10日前。B組で出場するホンジュラスとの対戦でした。第1ラウンドA組の第2戦で対戦するメキシコを想定したゲームだったようですが、結果も内容もいい試合でしたね

賀川:これだけの技量を持ったチーム同士が戦うと、見ていて面白い試合になりますね。キックオフから6分間ぐらいは、両チームをあわせて、3つぐらいしかミスらしいものはありませんでした。その間、何十回とボールを触っているのに。それぐらいレベルが高かった。日本は無理して攻撃を仕掛けるわけでなく、全体でボールを回して、散らして、つないで、最後に誰かがノーマークになって、点を取っていました。強引にならなくても、ボールを回しているうちにスペースをつくって、危険なエリアに侵入していました。パス交換だけでなく、時には個人の技術と判断で、瞬時に相手のマークを外して、守備陣を破って一気に優位な場面を作るシーンが何度もありました。常に相手ゴールに向かっていく姿勢がありました。だから、見ていて面白かった。こういうトライを続けながら、得点も取れるようになると、期待が持てます。日本のサッカーファンは目が肥えているのですが、そういったみなさんも満足できる内容だったのではないでしょうか。森保監督としても、チームとしてもいい調整ができているようです。ホンジュラスも技術の高い選手が揃っていました。本番が楽しみですね。

――先制点はセットプレーから。田中がフェイクをした後、久保が左足でやや緩め、大きく弧を描いて落ちるボールをDFラインとGKの間にうまく入れ、吉田が合わせました

賀川:セットプレーということはキッカーがフリーになるので、思ったところに蹴ることができます。それに対して、チームメートも想定したところに入っていけます。田中が蹴るフリをしたのでホンジュラスの守備陣がいったん前に出たところ、後ろから走り込んだ吉田に久保がピタリと合わせました。吉田は右足のアウトサイドで流し込むだけでしたね。CKではショートコーナーを多用していました。あらかじめ決めていたのではなく、相手の守備陣形が整わないと判断して、やっていたように感じました。五輪では大柄な相手選手と対戦するので、いろんなバリエーションを準備しているのでしょう。

――2点目は前半40分、堂安が利き足とは逆の右足で追加点

 

賀川:日本の攻撃が弾き返されて、相手ボールになりそうになったのですが、冨安が激しくプレッシャーを掛けて、すぐに奪い返しました。相手が前がかりになっている局面で攻守が入れ替わると、攻撃側にとっては大きなチャンスになります。冨安は久保に預けたあと、さらに左サイドを駆け上がっていきました。オーバーラップする選手に対するマーカーはいないので、なかなか捕まえられません。久保から再びボールを受けた冨安が左サイドで右足に持ちかえて低いクロスを入れ、三好がスルー、中央でゴールを背にして受けた林が、前を向いて準備万端、文句無しでノーマークだった堂安の前に落としました。丁寧なラストパスを堂安は落ち着いて、GKの逆を狙ってゴール左へ。ダイレクトプレーの連続にGKは対応できませんでしたね。遠藤も田中も中盤で思い切りよく激しくチャージして、相手ボールを奪い返していたので、そこからチャンスをつくるシーンがありました。森保監督が目指すスタイルのひとつなのでしょう。

――堂安は背番号10を背負っています。同じ左利きの久保も注目されています。やはり意識しているのでしょうか

賀川:どうなんでしょうね。久保は同じ左利きですが、堂安の方が年上ですし。後半40分の3点目もうまく、左からのクロスに飛び出し、GKの前で少しだけ触ってコースを変えて、ゴールに流し込みました。チームとしては、つないで、つないで、走って、走って、そして最後に一番いい場面を持っていくのが堂安なのかもしれません。2点目も落ち着いて、サイドキックで狙ったところに蹴っていました。そういう選手はチームに必要です。この日のスタメンには堂安、久保、三好、中山と左利きの選手が多かった。得点を取るには、サイド攻撃が重要になりますし、左利きで正確なキックを蹴ることができる選手が複数いるというのは、日本にとって大きな強みになりますね。

 

――仕上がり具合はどうですか

賀川:守備陣はオーバーエイジ組が入って安定していますし、コンディションもよさそう。もう少し緊張感があった方がいいかとも思いますが、今の選手は大舞台慣れしていますから、心配していません。ましてや東京五輪はホームですから、移動も時差もありません。17日のスペイン戦も楽しみです。

――男子の五輪代表は大阪で合宿を行い、最終調整しています

賀川:ヨドコウ桜スタジアムは、長居スタジアムのとなりにあり、改修前は人工芝でアメリカンフットボールやホッケーが行われていた球技場でした。トラックがないので、スタンドが近く、臨場感があります。長居スタジアムは2002年日韓W杯など、数々の国際試合を行ってきた立派な器なのですが、陸上競技場なのでピッチとスタンドの間に距離があります。ヨドコウ桜スタジアムを新しくホームスタジアムにしたセレッソ大阪はいいところに目をつけましたね。1964年の東京五輪では、FIFA(国際サッカー連盟)と日本サッカー協会(JFA)が協力し、準々決勝で敗退したチームを大阪、京都に招く、5〜8位決定戦が開催されました。五輪の熱気を東京以外の都市にも広げ、競技の普及につなげるために関西サッカー連盟の関係者が尽力して実現した大会で、「大阪トーナメント」と呼ばれました。その会場のひとつが、長居陸上競技場でした。ユーゴ代表にはのちに日本代表の監督になるイビチャ・オシムがいて、FWで出場した日本戦で2得点しました。そういった経緯を考えると、長い年月を経ても、前回から今回の東京五輪へ、受け継がれているものがあるように感じます。

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2021年6月11日 日本代表 対 セルビア代表

2021/06/12(土)

2021/6/11(金)日本/兵庫県神戸市・ノエビアスタジアム
日本代表 1-0(0-0) セルビア代表

――2年ぶりに開催されたキリンチャレンジカップでした。セルビアはFIFAランク25位で28位の日本よりも上。最近のA代表としては、久々に力が拮抗したゲームとなりました

賀川:セルビアという国は旧ユーゴスラビア時代から、技術に秀でた選手が多く、個人でも組織でもボールをキープできるチームでした。今回来日したチームは若手主体のようでしたが、技術も高く、それでいて大柄な選手もいて、フィジカルも強い。一昔前ならば、このクラスの相手には優位に試合を進められていたものですが、この試合は日本がボールをしっかりと保持して、ゲームを支配する時間が多かった。ホームという利点はありますが、欧州の人が日本の戦いぶりをみれば、「ほほう」と思ったでしょうね。セルビア相手にこれだけアジアのチームがボールを持てるということは、それだけ日本のレベルが上がったということ。日本がW杯で8強、4強を目指すということになれば、チームとしてここからどうやって攻めて、点を取るかという、手順が必要になってきます。

――前半はスコアレスでした

賀川:日本が攻撃するエリアが狭かったように感じました。両サイドを目いっぱい使って、幅を広げないと、ゴール前に入っていくスペースをつくることができません。最後にノーマークになって入っていく場所がなくなります。セルビアのように守りが堅いチームが相手ならなおさらです。これはどこと対戦しても同じですが。ピッチを広く使って攻めれば、守備側の選手もゴール前から引っ張り出されるので、侵入するスペースが生まれやすくなります。

――先制点は後半3分、鎌田の右CKからでした

賀川:ニアに走り込んだ谷口がうまく頭で方向を変え、ファーポストにいた伊東が走りこんで右足のインサイドで押し込みました。谷口が方向を変えたところで勝負ありの、きれいなゴールシーンでした。セットプレーは置いてあるボールを蹴るわけで、蹴り終わるまでは、相手にマークされません。日本のように個人技が高いチームは、正確に狙ったところにボールを蹴ることができるわけですから、セットプレーそのものが大きなチャンスになります。自分たちの計算通りにできるわけですから。セルビアのように背の高い選手が多い相手に対して、よく練られ、非常に有効なアイデアでした。ニアに2人いくとか、いろんなやり方があるでしょうね。

――そのまま1-0でした

得点がもっと多く入れば、テレビでみていた人は楽しめたでしょうが、1-0でも、非常に面白い試合でしたね。欧州勢と試合をするのは久しぶりですし、このレベルの相手と試合をすると、このような展開になります。お互いの守備もしっかりとしていました。日本はボールを保持しながら、なかなか前半は決定機を作れなくて、後半になるとダイレクトパスをつないで相手の守備ラインの裏に抜け出すチャンスを狙ったり、あえて相手にボールを持たせて、ショートカウンターを狙ったり、得点を生み出すために、いろんな策を講じていました。親善試合であっても、セルビアは勝負にこだわって、粘り強く戦っていました。最後まで気合が入っていました。得点はたくさん入りませんでしたが、1点差ゲームというのは、緊張感が最後まで保たれて、それはそれで見ごたえがあるものです。

――セルビアの監督は名古屋でプレーし、監督としても名古屋をJリーグ制覇に導いたドラガン・ストイコビッチでした

賀川:昔から好きな選手でした。顔つきは変わらず精悍なままでしたね。彼が19歳でユーゴスラビア代表として出場した1984年の欧州選手権(フランス)で初めてみました。欧州の記者にはすでに情報が入っていたようで、ストイコビッチが途中出場すると、何やら小声で語り合っていたのを覚えています。ドリブルもボールキープもパスもうまい。プレーは知的でエレガントですが、すぐ怒る(笑)。チャンスを創造し、最後にゴール前に現れて、攻撃を完了させるフィニッシャーでもありました。本当に負けず嫌いで魅力的な選手。名古屋の試合もたくさん見に行きました。彼のように本来、高い報酬を得て欧州でプレーを続けることができた選手が、日本で長くプレーしてくれたおかげで、ここ数年、日本では顔なじみの監督や指導者が欧州や南米で増えてきました。今回、コロナ禍の中、セルビアが来日してくれたのも、日本のことをよく知っているストイコビッチ監督の存在があってのことでしょう。以前のように代表チームの往来が簡単でなくなり、日本代表は最近強い相手と試合をする機会がなかったので、本当にありがたいことです。親日家のサッカー関係者が世界中に増えれば、日本サッカーの発展に間違いなくつながるでしょうし、今回のような楽しみも増えていくでしょうね。セルビアは残念ながら、まもなく開幕する欧州選手権の出場は予選で敗退して逃したそうですが、前半反転して左足で惜しいシュートを放った9番(FWデヤン・ヨベリッチ)のような楽しみな若手も多くいました。代々技術も高く、手を変え、品を変え、いろんなことができる国です。現役時代のピクシーのように、ゴール前で変化をつけたり、相手の裏にズバッと抜けたり、決定的な仕事ができる選手が出てくれば、楽しみです。これから本格化するW杯の欧州予選で、どんなチームに仕上げてくるのか、興味深いです。W杯でピクシーが率いるセルビア代表の戦いぶりを見るのが、今から楽しみです。

 

 

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2019年12月28日 U-22日本代表 対 U-22ジャマイカ代表

2019/12/31(火)

2019/12/28(土)日本/長崎県・トランスコスモススタジアム長崎
U-22日本代表 9-0(5-0) U-22ジャマイカ代表

――お誕生日おめでとうございます。この試合の翌日の12月29日は賀川さんの95歳の誕生日でした

賀川:ありがとうございます。忘年会を兼ねて神戸FCの友人や古いサッカー仲間に集まってもらい、お祝いをしてもらいました。この年齢までサッカーに関わることができて、本当にありがたいことです。

――若い選手が奮起して、最近では珍しいゴールラッシュでした

賀川:選手の顔にシワが全然ありませんね(笑)代表で多くのゴールが決まる試合を観るのは、お客さんにとっても楽しいものです。やっている選手も自信をつけることができます。試合の最中に思い切ったプレーをして、成功すれば、試合中に上達することができます。U-‐22日本代表は前回のコロンビアとの試合で納得のいかない試合をしていました。アジア選手権(タイ)のメンバー発表を翌日に控えていたこともあり、選手はそれぞれ、この試合に懸ける強い思いがあったのでしょう。個人的な競り合いでも、グループでのボールキープでも日本の方が上でした。すべての選手がアジア選手権にいくわけではありませんが、大会に向けて調子を上げていく上で、いいゲームになりました。

――中山の直接FKが前半6分に決まり、ゴールラッシュの幕が上がりました

賀川:FKはチームにとって大事な武器ですから。こういう試合で決めると大きな自信になります。スピードにしてもコースにしても素晴らしいゴールでした。前半から前の選手の動きに対して、中盤からきっちりとボールが出ていました。前の選手もしっかりと競り勝っていました。FW前田大然が試合開始から前線で走り回って、プレッシャーをかけたこともあり、主導権を握ることができました。彼は足も速いし、ボールキープを見ても体が強い。得点は9点ですか。前半に5点も取ると、後半は選手の気持ちが緩むときもありますが、そういうこともなく、同じように攻めました。ひとつひとつの競り合いも取って、終始攻撃的でした。森保監督の性格やチームづくりに対する考え方が表れていましたね。どんな相手に対しても、全力でやるということが徹底されていました。攻撃はサイドに開いて、逆サイドにスペースをつくるということを意識しているようでした。どうやって得点を取るかということを選手が自然とやっているように感じました。選手は動く量も質も落とさずプレーしたのがよかったのではないでしょうか。今回チャンスをもらった選手がこれだけ結果を残すと選手層が厚くなりますね。五輪はトップの11人、ベストメンバーの11人だけで戦うわけではありませんから、実りの多い試合になりました。相手がもうすこし歯ごたえのあるチームでしたら、なおよかったでしょうが。

――いよいよ2020年東京五輪イヤーがやってきます

賀川:東京五輪はホームですから、大きな後押しをもらえますが、逆に選手が硬くなることもあります。選手の力を上げることは当然ですが、いろんな交代の策を持っておくことが大切になるでしょう。1964年の東京五輪はサッカーの取材にいきました。閉会式の原稿も書きました。記者席に巨人の長嶋茂雄と王貞治を連れて観戦記を書かせていた新聞社もありましたね。私は当時サンケイスポーツでデスクをしていましたが、会社を抜け出して、会場の駒沢陸上競技場にいきました。顔なじみの記者から「賀川さん、えらいもんですな。五輪でデスクしないといけないのに、会社を抜け出して自分の好きな種目だけ見に来るなんて、大記者やないとできませんよ」と冷やかされました。「サッカーのええ試合ぐらい見させてもらわないと、何のために新聞記者やってるか、分からへんやないか」とこたえましたけどね(笑)。会場は日程の都合で、国立競技場ではありませんでした。組織委は当時のサッカー人気ではお客さんが満杯にならないと思ったのかもしれません。駒沢は満員でした。長沼健さんが監督で、初戦にアルゼンチンに3-2で勝ちしました。逆転勝ちでした。ノックアウトステージには進出できませんでしたが、あの逆転勝ちがあったので、翌年始まった日本サッカーリーグの第1戦に2400人ぐらいのお客さんが入り、俊さん(故岡野俊一郎氏=元日本サッカー協会会長)が「こんなにたくさんのお客さんが来てくれた」と喜んでいました。サッカー界の最初の盛り上がりをつくったのは、1964年の東京五輪で、1968年のメキシコ五輪の銅メダルにつながったわけです。当時を思えば、東京五輪が終わった後、あらゆるスポーツが盛んになったわけではありません。野球人気一本のところに迫っていこうという存在になったのがサッカーでした。2020年の東京五輪でも、日本のサッカーがもう一段上の厚みをつけるために、代表チームには頑張ってもらいたいですね。

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2019年11月19日 日本代表 対 ベネズエラ代表

2019/11/21(木)

2019/11/19(火)日本/大阪府・パナソニックスタジアム吹田
日本代表 1-4(0-4) ベネズエラ代表

――昨年11月16日の対戦では1-1のドローでしたが、今回は今風に言えばボコられた感じでしょうか。特に前半は一方的にやられました。前半で4失点は1954年のアジア大会以来、65年ぶりだそうです。当時の監督は竹腰重丸さんでした

賀川:65年ぶりですか。ホームでここまでやられるのは最近の日本代表ではありませんね。ベネズエラというのは南米でいえば、中堅クラスですが、ボールを処理するテクニックが上手でした。ボールを止めて次の動作に移るのが、日本よりちょっとだけ早いわけですよ。試合が始まり攻め合っているうちに、そのちょっとの差が広がってきた。ベネズエラはこれはいけると踏んで、どんどん攻めてきました。日本はこれではアカンと感じただろうし、そう感じたならば、しっかり引いて人数をかけて守るとか、試合をやりながら何か手立てを考えなければいけませんでした。相手と同じように広いところに攻めていっていったので、ボールを取られた瞬間から、前に大きなスペースがあるので、相手がずいぶん有利になりました。ホームですから初めから守るつもりでやるわけにはいかないでしょうが、試合を進めながら、自分たちと相手との力の差がちょっとずつ分かってきたでしょう。その差を埋めるにはいつも言っているように、相手より余計に走るしかありません。それを試合の初めからできなかったら、しんどい展開になります。日本のサッカーは進歩していますが、南米も進歩しているわけです。進歩している相手に勝つためには、日本は運動量で勝ることです。しんどいことですが、それをやることで、戦いの土俵に上がることができます。そのやり方で勝つ味を覚えると、選手の気持ちも変わってきます。相手が日本もよくやるじゃないかと思えば、こちらは気分的に楽になります。相手に、日本はたいしたことないと思われると楽に試合を進められるわけで。そこがスポーツの面白いところです。

――W杯予選では吉田、長友、南野らが抜けて、先発は8人入れ替わりました。前線には浅野、鈴木武蔵ら守備ラインには植田ら、試したい選手が並んでいました

賀川:W杯予選でいきなり新しい選手を試すのは難しいでしょうから、キリンチャレンジはいつも貴重な機会になります。鈴木武蔵はJリーグで結果を出していますが、硬さがあったのかもしれません。

――後半、森保監督は今季神戸で頑張っている古橋、このスタジアムが本拠地の三浦(G大阪)を投入しました

賀川:古橋が入って後半開始すぐにいいカウンターが生まれました。初代表らしく意欲的にゴールを狙っていきました。裏への飛び出しとか、積極的で、ムードを変える存在になりました。中島とうまく連係して、チャンスが多く生まれるキッカケになりました。日本は2列目の選手はタレントが豊富ですね。Jリーグでも目を引く選手が多いです。

――代表復帰の山口が一矢を報いました

賀川:後半18分、左サイドでの起点から、永井がグラウンダーの速いパスを逆サイドに攻め上がった山口に通し、ダイレクトで放ったシュートが相手選手の足に当たって入りました。山口はミドルシュートが上手ですね。後半から投入された永井が足の速さを生かして、前線から相手ボールを目いっぱい追いかけ回したおかげで、中盤でボールを奪い返すことができるようになりました。日本はやっぱり長い距離を走らないといけません。後半の内容を試合開始からできていれば、もっと拮抗した試合になっていたかもしれません。経験のある選手が抜けているからこそ、立ち上がりからフルスロットルでいかないとこのレベルの試合では簡単にはいきません。

――前半が終わったときにサポーターからブーイングが起きましたが、後半は見せ場が何度かありました。

賀川:かなりの回数、攻め込みましたが、結局シュートまでいかないことも多かった。シュートを打たないと、ゴールに入らないわけですよ。こういう試合もいい経験です。何事も教訓にして、それぞれのクラブに戻って、日々の練習で個人個人がレベルアップをしてもらいたいですね。

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2019年11月17日 U-22日本代表 対 U-22コロンビア代表

2019/11/20(水)

2019/11/17(日)日本/広島県・エディオンスタジアム広島
U-22日本代表 0-2(0-0) U-22コロンビア代表

――U-22日本代表は先月アウェーでU-22ブラジル代表に勝ちました。フル代表に定着している堂安と久保が加わったことで、サポーターの期待は大きかったようですね

賀川:いよいよ来年の東京五輪に向けて臨戦態勢に入りました。このスタジアムは愛称「広島ビッグアーチ」の名の通り、山の中にある大きな会場ですが、お客さんはほぼ満員。期待の高さが表れていましたが、チームとしては、課題が多かったようです。

――前半はスコアレス。堂安、久保が合流して日が浅く、まだまだチームにフィットしていないようにも見えました

賀川:攻撃の形をつくろうとしていましたが、相手のプレッシャーが強くて、中盤や最終ラインの選手が孤立して、ボールを失ったり、つなげそうな場面で蹴ってしまったり、どこか落ち着かない展開でした。日本の場合は、サイドに重点を置くなら、どちらかのサイドに人数を集めてボールをキープするとか、試合中に自分たちのプラスになるところをみつけて、攻撃の形をつくれればよかったのですが、まだチームとしての形ができあがっていない部分がありました。チームの中心になる選手がいるはずなんですけれど、それがまだはっきりしなくて、機能していない感じでした。だから見ていても、チームとしてボールをどこに運ぶか、よく分からなかった。日本の場合は伝統的にフルバックも攻撃に参加して、サイドからある程度の時間、ボールを持って攻めるという形にしないと、いい攻撃の形はつくれません。早く中央にボールを回してという形では、なかなかうまくいかない。中央に、早い、強い、うまい選手がいれば、そのやり方でもいいし、いるときは強いのですが、センターフォワードも前半と後半で変わりました。実際にやってみて、この選手を中心にやるんやというところまでいってないですよね。ただ日本は五輪開催国なので、予選が免除されます。予選敗退の可能性がないので、じっくりとチームをつくることができます。コンビネーションは練習だけではなかなかできあがりません。実戦を重ねてお互いの特長が分かってきて、熟成されるものです。

――コロンビアは出足が早く、日本は中盤でボールを失ったり、ミスパスもあったりして、苦しい時間帯が長かった

賀川:コロンビアには昔はバルデラマ、最近ではハメス・ロドリゲスらズバ抜けた選手がいましたが、ブラジルのように毎年スーパースターが出るような国ではありません。南米の上位クラスと対戦する場合は、日本特有の動きの量を増やして、人数をかけて相手のボールを取らないといけないのに、この日は動きの量が少なかった。フィジカルが強い欧州、個人のうまさやずるさがある南米に勝とうと思ったら、チーム全体で動きの量を増やさないといけません。相手よりも余計に1・3倍、いや1・5倍ぐらい動くつもりでないと勝てないわけですよ。

――後半に2失点。修正できませんでした

賀川:後半2分に相手が先制。相手が普通に左からクロスをあげて、こぼれたところを詰める、難しいことをやられているわけじゃないのに、失点してしまった。ひとつひとつのプレーを相手に先にやられているから、こうなってしまいます。そうならないためには人数をかけて、相手がボールを回しはじめたり、左右にボールを振られる前に止めてしまわないといけません。1人ずつでやっていては止められないので、どこかで1人半、余計に動かないといけない。日本のレベルは確かに上がりましたが、自分たちがうまくなったと思わないで、心の奥では自分たちは下手なんやと思ってやらんといけませんね。攻撃でも、いけると思ったらバックでもどんどん上がっていくとか、危ないと持ったらフォワードでもゴール前まで戻ってくるとか、長い距離を走る場面が少なかった。長い距離を走ることで数的有利が生まれ、おのずと道がひらけてくるわけです。日本はなんやかんやいうても、相手よりも走りまわる、そのやり方で今まで戦ってきたわけですから。それは何十年前から決まっているわけです。その原則を忘れたら、強い日本はできません。個人的な技術が上がっているといっても、そろってズバ抜けてうまくなっているわけではないですから。実際、この試合でコロンビアは少ない人数の局面でも余裕たっぷりでプレーしていました。

――堂安、久保はいかがでした?

賀川;堂安は相手のボールを取りにいったり、よくやっていました。球際も強い。A代表の中でもうまい方なのだから、相手の並の選手よりも、ひとつ上に出ないといけない存在です。それぐらいの気構えでやってほしいですね。中心選手ですから、自分の中でこれぐらい動いたからエエかと思ってはいけません。もっともっと動いてボールに絡めば、もっと展開が開けてきますよ。堂安が21歳で久保が18歳ですか。すでに能力が高く、欧州のトップリーグでプレーしている、いうなれば、このアンダーエイジ2人を森保監督がどう使いこなすか。オーバーエイジの起用も重要ですが、こちらも注目していきたいですね。森保監督はキルギスから帰ってきて広島で五輪世代を指揮し、終わったら今度はすぐに大阪に移動して、再びA代表を指揮ですか。このわずかな期間に何が足らなくて、今後何を植え付けていくか。A代表と五輪代表の兼務は本当に大変ですが、がんばってほしいです。

――新しい日本代表のユニホームはいかがですか

賀川:上下ともに青ですね。今回のユニホームはちょっとくすんだ感じカラーでしょうか。サポーターの評判はどうなんでしょう。1989年から91年まで、日の丸の赤にした時期もありましたが、それ以降はブルーに統一されていました。ユニホームというのは派手なものが多いですが、どちらかというと地味な感じでしょうか。サポーターは東京五輪に向けて、買い直さないといけませんね。

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