2023年6月20日 日本代表 対 ペルー代表

2023/06/21(水)

2023/6/20(火)日本/大阪・パナソニックスタジアム吹田
日本代表4-1(2-0) ペルー代表


――このシリーズ2戦目は、ペルー代表が相手でした


賀川:カタールW杯には出場していませんが、強国がそろう南米でもまれている国です。サッカーを離れたところでいえば、日系人のアルベルト・フジモリ大統領が有名でした。

――エルサルバドル戦とかなりメンバーが入れ替わりましたが、攻撃力は維持されていました

賀川:右の伊東、左の三笘、1トップの古橋はスピードがあって、相手の脅威になっていましたね。一昔前ならば、南米と対戦となれば、身構えていたものですが、日本の選手が本当にうまくなりましたから、慌てるようなところはありません。ボール扱いも日本の選手の方が上でした。かなり長い距離のロングパスも足で正確にトラップして、次の展開に向かっていきます。

――先制点は前半22分、伊藤洋輝が決めました

賀川:ペナルティーエリアの外側、右サイドでのボール回しから中央でボールを受けた遠藤がフリーの伊藤洋輝を見つけて横パス、フリーの伊藤洋輝が低い弾道でゴール左に叩き込みました。左に三笘がフリーでいましたが、相手の注意も三笘にありましたから少しマークが手薄で、思い切ってゴールを狙って正解でしたね。大柄で足元の技術も高い伊藤洋輝は貴重な左利きなので、これから楽しみですね。

――追加点は前半37分、鮮やかなカウンターからでした

賀川:GKから右サイドでボールを受けた菅原が伊東に当てて、その伊東が右足のインサイドで菅原にうまく落として、一気にスピードアップしました。菅原は中央でフリーの鎌田に預け、左の三笘に展開、三笘は得意のゾーンで右に切れ込んで打ったシュートが相手に当たってコースが変わり、2点目となりました。

――左サイド、左45度は、三笘ゾーンと呼んでもいいのでは

賀川:左サイドが得意だったデル・ピエロや、右45度に絶対的な自信があった釜本邦茂のように、自分が得意とする角度があるのは大きな武器になります。相手も何をしてくるのか、人数をかけて守らなければならない。お客さんも、あのエリアで三笘にボールが渡れば期待感が膨らみます。釜本も高校時代から相当な練習量があって、あのシュート技術を身に着けました。三笘も少年時代から積み重ねた鍛錬があっての技量なんだと思います。

――後半も日本の勢いが止まりません。後半18分、今度は伊東が3点目を決めました
賀川:前田が競ってこぼれたボールを鎌田が左の三笘につなぎました。三笘は自分で勝負できる得意なゾーンまでボールを運びましたが、逆サイドでフリーの伊東を見つけていました。落ち着いていた伊東は大きく逆方向にトラップしてGKのバランスを崩して、ゴールに流し込みました。三笘はゴールの可能性が高いプレーを選択したということでしょう。

――後半30分前田がトドメのゴール

賀川:ペルーのバックパスのミスをさらった前田がそのままゴールまで運んで、決めました。一度右にドリブルのコースを変更して、シュートをコースをつくりましたね。GKの手に当たりましたが、うまくゴールに吸い込まれてくれました。

――ペルー代表は日本戦の前に、韓国代表に1-0で勝っていたそうです

賀川:最後1点奪われましたが、内容的には完勝でした。吉田麻也不在のセンターバックは板倉、谷口で安定感があります。遠藤が高い位置でボールを奪い返すことができるので、早く相手陣に攻め入るシーンが何度もありました。エルサルバドル戦と大きくメンバーを入れ替えても、チームとしてやろうとしている形が変わらず、クオリティーも保たれています。若い選手も多いですし、現在の日本代表は非常に高いレベルにあるといえるでしょう。

――秋にはW杯アジア2次予選が始まります

最初に現地で観戦した1974年の西ドイツ大会は16チーム、1982年に24チームになり日本が初出場した1998年に32チームになりました。チームが増えるたびに、大きな賛否両論が巻き起こりました。アジアの出場枠が増加するということですが、W杯予選が厳しい戦いになることは変わりないでしょう。出場の可能性が広がったということで、アジアの中堅国が張り切るでしょうから。ですが、このメンバーであれば、自信を持って臨むことができるでしょう。

――本稿がこの連載の最終回になります

賀川:20年間に渡り、代表が成長していく姿を見せてもらい、それを書くのは誠に楽しいことでした。日本でサッカーの人気がそれほど高まっていなかった時代からJFAを支えていただいたキリンカップ、キリンチャレンジカップの存在なしに、現在の日本代表を語ることはできません。長きに渡る支援、そして今後のサポート継続を願っております。

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2023年6月15日 日本代表 対 エルサルバドル代表

2023/06/17(土)

2023/6/15(木)日本/愛知・豊田スタジアム
日本代表6-0(4-0) エルサルバドル代表

――エルサルバドル代表が相手でした

賀川:メキシコの南、中央アメリカにある国ですね。グアテマラ、ホンジュラスと面しています。2度(1970、82年)ワールドカップに出場しています。カナダ、メキシコ、アメリカで開催される次回のワールドカップ(2026年)は出場国が48カ国に拡大されるので、久々の出場を目指して盛り上がっているでしょう。こういう国と対戦できるのがキリンカップ、キリンチャレンジ杯ならではで、これまでも数多くの強豪と対戦することができました。

――前半1分に先制しました

賀川:ドリブル突破を試みた三笘が倒されて得た左サイドでのFKからでした。久保の正確なキックに谷口が頭で合わせました。打点の高いヘディングでしたね。

――続けて3分にPKを得ました

賀川:相手のDFの選手がボール処理を誤ったところに上田がプレッシャーをかけて、奪いかけたところで倒されました。得点機会阻止ですから一発退場になります。上田も落ち着いて右スミに決めました。PKは課題ですから。落ち着いて決めることができたのはよかったです。

――試合のかなり早い時間帯から数的優位に立ちました

賀川:エルサルバドルとしてはいろいろ日本を相手に試したいこともあったでしょうが、これもサッカーのうちです。

――前半25分、久保が3点目のゴール
賀川:左サイドでボールを受けた三笘がいったんボールを失うのですが、奪い返して、フリーの久保へ横パス。打ってくれといわんばかりにやさしいパスでした。久保は左足のインフロントで鋭くボールを回転させて、ゴールの右ネットに蹴り込みました。サイドキックでなく、インフロントでボールをひっかけて蹴ったのがよかった。そういう工夫ができる選手。そういうアイデアがあるのが久保の良さですね。
――前半終了間際の44分、堂安の4点目が生まれました
賀川:GK大迫のクリアをハーフウエーライン付近の上田がうまく胸でトラップして、三笘につなぎました。三笘はタテにドリブルしていきましたが、上田が左前のスペースに走り込んだことで中央にできたスペースに三笘が方向転換、右足で放ったシュートのこぼれ球を堂安がゴールに流し込みました。上田と三笘の連携があってのゴールですが、こういうところにいる堂安の運の強さというものも、勝負の世界では大切になります。あそこにいる、あそこできめることの大切さを彼はよくわかっています。
――このシリーズは堂安が背番号10をつけている
賀川:自己主張の強そうな選手ですから、自分が着けたいといったのかもしれませんね。ペレも10番でした。マラドーナも10番でした。いつの時代もエースナンバーは10番です。
――久保も10番をつけたいと試合後話していたそうです

賀川:結構なことです。若い選手が刺激し合って高いレベルで争うことは望ましいこと。

一昔前はそういうことをいう代表選手はいませんでした。欧州でプレーすることが当たり前になって、自分の考えをストレートに発信できるようになってきたのでしょう。

――後半2得点を奪って、6-0。力の差があったように感じます

賀川:日本の選手は本当に技術が上がって、ボールを持つことに自信を持っている選手が多いので、安心してみていられます。自信があるからパスにもドリブルにも余裕がある。受ける側の選手もボールを受けられる位置にいます。選手同士のコミュニケーションがこれまで以上にできているように感じます。普段から会話しているのか、選手がゲームを分かっているのか。とにかく日本の選手が生き生きと動いています。走ることをいとわないのがいい。修羅場をくぐった森保監督が自信をつけているようにみえます。それが安定した試合運びにつながっています。試合開始直後に相手に退場者が出て、10人になってしまったこともあり、相手のディフェンスの網ができていなかった。せっかくの試合がもったいないところがありました。

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2023年3月28日 日本代表 対 コロンビア代表

2023/03/29(水)

2023/3/28(火)日本/大阪・ヨドコウスタジアム

日本代表1-2(1-1) コロンビア代表

 

――3月24日のウルグアイ戦から先発メンバーが変わりました。1トップに町野修斗(湘南)、トップ下にウルグアイ戦でゴールを決めた西村拓真(横浜M)が名を連ねました

賀川:ずいぶんメンバーが様変わりして、新しいメンバーの名前と顔を覚えるのが大変です。どの選手をみてもずいぶん前に比べたら、ボール扱いがだいぶうまい。またうまくなった感じ。若い選手のレベルが上がっています。何度かヒールパスを繰り出す場面がありましたが、この連中がやると垢ぬけている。サラっと自然にやる。ぎこちなさがない。そこひとつを見ても、日本の選手がうまくなっているのがよくわかります。このレベルからさらに伸ばしていってほしいですね。

――前半3分、町野が踏ん張って起点となり、右サイドの守田英正が右足のインフロントでカーブをかけたクロスを入れて、三笘がジャンプ一番ヘディングシュートを決めました

賀川:打点の高いヘディングでしたね。相手のマークの選手よりも先に飛んで空中で踏ん張って、しっかりとゴールラインにたたきつけました。ヘディングで競り勝つには先にジャンプすることが大切になります。ドリブルが注目される選手ですが、ヘディングの技術も高いことがよくわかる得点シーンでした。守田のクロスも素晴らしいボールでした。

――前半33分、ハーウウエーライン付近でボールを奪われ、左サイドから崩されて同点にされました

賀川:コロンビアの14番(デュラン)は大柄な選手ですが、左足で落ち着いてGKの体が倒れた逆方向に決めました。19歳ですか。世界にはすごい選手がいるものです。

――後半、上田、遠藤が出てきました

賀川:森保監督は多くの選手にチャンスを与えようと考えているのでしょう。そのほかの選手の交代のタイミングもいつもよりも早い感じでした。

――後半16分、コロンビアに見事なオーバーヘッドを決められました

賀川:クリアボールが空中高く上がって、コロンビアの選手がチャレンジできる状況でした。なかなかあれだけ見事なオーバーヘッドシュートはお目にかかれません。遠藤も体を寄せにいってましたが、間に合いませんでした。早くボールに寄ることができ、頭でクリアしにいけば、相手がオーバーヘッドのシュートモーションに入ると、足が頭に当たりそうになるので、ファウルになることが多い。きれいにキックできたということは寄せが遅かったということになります。選手が交代したばかりで、そのスキをつかれました。

――後半33分浅野が出てきたタイミング、ベンチの森保監督から渡されてメモがピッチにいた選手に渡されました。4-4-2へのフォーメーション変更を紙で指示していたようです

賀川:あまり見たことがないシーンでしたね。慣れないシステムに変更したようです。野球のようにプレーごとにシーンが止まる競技ではありませんから、選手はアタマの中に入れておかないといけません。

――1-2で敗れました。2023年は2戦終えて1分け1敗です。

賀川:点が取れませんでしたね。ヘディングで競り勝つシーンはありましたが、脚でシュートを狙っていかないと勝てませんよね。中盤はうまい選手が出てきますが、やはりストライカーが出てこないと。それでも森保監督になってからちょっと前がみえるようにあってきました。攻撃の姿勢や点を取る形です。ここに釜本邦茂のような選手が出てくれば。今でいえば大谷翔平(大リーグ、エンゼルス)でしょうか。大谷翔平は大リーグの中に入っても体が大きいほう。サッカー界にもどんどんそういう選手が出てきたら、面白くなってきます。

――今年の秋からW杯予選が始まります

賀川:誰が中心になるのか。久保建英はカタール大会ではもうひとつで出番も少なかった。期するものはあるでしょう。サイドで起用されることがこれまで多かったですが、途中出場で中央でプレーしていました。中心になってほしい選手の一人であることには変わらないでしょう。森保監督の期待にどこまで近づけるか。見守っていきたいと思います。この2試合、非常に相手のレベルが高かった。これぐらいの相手と月2回ぐらい試合ができたら日本のレベルも上がっていくでしょうが、そうもいかないでしょうし。やはり所属チームで日々代表を意識してレベルアップを目指すしかありません。1-2で負けたのですが、お客さんは試合を通じて喜んでいる感じでしたね。なんやこれはというような声がサポーターから出るようになると、代表チームも危機感を持って、またレベルアップしていくようになるでしょう。

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2023年3月24日 日本代表 対 ウルグアイ代表

2023/03/29(水)

2023/3/24(金)日本/東京・国立競技場
日本代表1-1(0-1) ウルグアイ代表

――新しい選手を多く招集して、2026年大会に向けたスタートとなりました

賀川:チームの軸になりそうな遠藤、鎌田、堂安、浅野らはカタールW杯から引き続いて中心メンバーとしてスタメンに名前を連ねました。カタールでは切り札的存在だった三笘も先発しましたね。カタールで自信をつけた面々は堂々とプレーしていました。

――前半から効果的なカウンターがみられました

賀川:森保監督になってから、前に出たいときにはっきりと前に出るようになった。その特徴がさらに強くなった感じ。人数が少なくても頑張って前に出る。今までの日本の選手は周りに人が少なくてボールを受けたときは、あまり自信がなかったけど、この頃の日本の選手は数が少なくても、自分のところでボールを受けたらなんとかしようという気構えと技術があります。それだけ、個々のレベルアップが見てとれますね。そうでなかったら、サッカーはおもしろくない。若い選手は攻めたがるからおもしろい。昔と違って今の若い連中はずうずうしいからね(笑)

――三笘がボールを受けて、長い距離をドリブルするシーンが多くみられました

賀川:俺のところにボールをよこせと。俺のところにボールをよこしたら、これぐらいのことはやったるという自信に満ちてますね。そういうプレーを見せています。三笘に限らず前に出る意識がチーム全体にあって、勢いがある。森保監督のチームはそこが長所になっています。今の代表選手はみんなうまい上に、お互いの協力もできている。合宿などでコーチ連中がやかましく言ってるのでしょうね。チーム全体のポジションプレーもいいですよ。

――ウルグアイに先制されました

賀川:序盤から日本が攻め込んでいましたが、一瞬のスキをつかれました。20年ほど前なら、日本クラスを相手にしていれば、余裕をもってプレーしていましたが、余裕たっぷりというわけではありませんでした。日本を十分警戒していて立ち上がりから慎重に戦っていました。ウルグアイの試合に対する姿勢を見ても日本のレベルが上がっているということが、この試合をみてもよく分かります。その中でカウンターから先制点を奪ったウルグアイもさすがでした。

――後半途中出場の西村拓真(横浜M)が出てすぐに同点ゴール

賀川:後ろからゴール前まで駆け上がって左足で押し込みました。右サイドを破った伊東純也のクロスから。サイド攻撃はいつの時代も有効です。雨の中応援していたお客さんも留飲を下げたでしょう。新しい選手が結果を出して、ますます競争が激しくなります。

――森保監督の続投については

賀川:森保監督はなんといっても東洋工業の流れをくむサンフレッチェ広島育ちの監督ですから。負けるのが大嫌い。東洋工業というのは、東京や大阪に負けるのが嫌だから、勝ちを徹底してきた。練習試合でもそうだった。勝ちを目指す日本人監督は、このタイミングでは彼しかいなかったでしょう。

――ところで、野球のWBCで侍ジャパンが世界一になりました。見ていましたか? 大谷翔平はどうでした

賀川:大谷翔平ね。見てましたよ。ええねえ、彼。身体の大きさからして。大リーグの選手と比べても大谷の方が大きいでしょう。そういう意味からして、日本の野球選手も立派になったなあと思いますね。

――サッカーの日本代表がカタールW杯で国民を沸かせました。野球の日本代表には今度は俺たちが!という思いがあったようで、いい相乗効果があったように感じます

賀川:そういう気構えがないとね。やっぱり。日本のサッカー全体というよりも日本のスポーツ全体の課題で、外国人と対戦するときに、一人一人の選手で負けたらあかんわけです。個人でもチームワークとしても外国勢に対する気構えで対等にならないと。日本のスポーツ全体のレベルが上がっていますから、そのレベルに到達している選手が増えてきています。

――野球もサッカーも国際大会で結果を出して、子供たちに大きな夢を与えている

賀川:今の子供は野球にしろサッカーにしろ。外国人と対戦して負けるのが当たり前とは思っていないでしょう。それはスポーツで大事なことですよ。大谷はメジャーリーグにいっても対等、いやそれ以上にやっている。向こうでも大スターですからね、それが大きいですよ。日本のサッカーの連中も欧州で使ってもらっているというぐらいではだめですよね。向こうのリーグでそれぞれのチームで看板選手になって、大谷のようにリーグを代表する選手にならないと。いろんなスポーツで日本人が世界と対等以上に戦って、それを見た子供たちがスポーツをするきっかけになってくれたら、これ以上うれしいことはないですね。

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2022年6月14日 日本代表 対 チュニジア代表

2022/06/15(水)

2022/6/14(火)日本/大阪・パナソニックスタジアム吹田
日本代表0-3(0-0) チュニジア代表

――チリに勝ってキリン杯の決勝に進んできたチュニジアは、今秋のカタールW杯出場を決めています。20年前の6月14日、日本が2002年の日韓W杯、ファーストラウンド最終戦でチュニジアと対戦し、2-0で勝利。不思議な巡りあわせの対戦でした

賀川:あれから20年ですか。あの日、当時の自宅があった芦屋から電車に乗り、長居スタジアムに向かいました。家から電車でW杯を観に行ける日がくるとは…と思ったことを覚えています。後半から出場した森島寛晃がすぐにゴールを決めて、盛り上がりました。途中出場でしたが、所属していたセレッソ大阪のホームスタジアムだったので、違和感なくプレーできたのでしょう。スタジアムの形状が頭に入っているので、自分の位置、ゴールの位置が頭に入っていました。得意の角度からシュートを打つまで迷いがなく、思い切って右足を振りぬいたのをよく覚えていますよ。中田英寿がダイビングヘッドを決めて、追加点。試合が終わった後のスタジアムでサポーターから万歳三唱が起こり、まるで甲子園のような雰囲気でした。フィリップ・トルシエ監督に率いられたあのチームもうまい選手が多かったですが、いまの代表チームは技術的にさらにうまくなっていますね。ちなみにその28年前の1974年の6月14日、西ドイツW杯の西ドイツ―チリをベルリン・オリンピック・スタジアムで取材しました。当時はサンケイスポーツの局次長でしたが、上司の理解があって、初めてW杯を取材することができました。ベッケンバウアーのエレガントなふるまいや、ミュラーの迫力、ブライトナーのシュートに驚嘆した1日でした。6月14日という日は、私にとっても思い出深い日であります。

――前半は0-0。右サイドの伊東から何度もいいクロスが入りました。絶好機だった鎌田はミスショットになりました。あれが決まっていれば…というシーンでした

賀川:雨が降っていたので思っていたより球足が速かったのか、空振りになりました。強く蹴らなくてもいい、ボールに合わせればいいシュートでした。右サイドからチャンスを作っていましたが、中で待ち受ける人数が少ない気がしました。サイド攻撃から人数をかけてゴール前になだれ込んでいくような形をつくることができれば、得点の可能性が高まります。

――ところが、後半3失点。吉田がPKを献上してしまいました

賀川:相手のカウンターに対応した吉田が引っ掛けてしまいました。VTRを見ると吉田が抜かれても、裏を板倉がカバーしていたので、対応できていたかもしれません。焦りがあったのか、声の連携がどこまでできていたのか。課題が残りました。

――2失点目は敵陣深くから相手GKが蹴りこんだロングボールを吉田、板倉、シュミット・ダニエルがお見合いした感じになりました

賀川:吉田と板倉からすれば、GKが出てきて処理すると思ったのかもしれませんね。スキを見逃さなかったチュニジアはさすがでした。ボールを奪い返されたところで、シュミット・ダニエルが前に出てきましたが、ゴール前にはもう味方が来ていて、パスをつながれて、がら空きのゴールに決められました。これも声の連携がどこまでできていたのかというシーンですね。

――3失点目はカウンターから。豪快にけりこまれました
賀川:得点を奪いに行った日本は人数をかけていたので、ボールを失った瞬間、守りの人数が足りませんでした。こういうときはまず誰かが行って、止められなくても、相手の攻撃を遅らせるような手立てをするのですが、それができず、左右に振られて、豪快に決められました。

――ホームで3失点です

賀川:守備が崩壊したというか、声や連携といった割と理由がはっきりしているミスからの失点でした。改善の余地はあるでしょう。ブラジルに0-1とがんばって、チュニジアに0-3。6月4連戦ということで疲労がたまっていたのかもしれません。W杯本番でいえば、4戦目はセカンドラウンドの1試合目になるわけで、ここで疲れて、いいプレーができないようでは、8強には進めないわけです。選手の体力を強化するのか、代わりに出てもチームのレベルが大きく落ちない選手を多く作るのか。上位まで勝ち進むチームは連戦への備えができています。

――チュニジアは強かったですね

賀川:体格もいいし、守備もしっかりしていました。なにより日本を研究していました。中盤は遠藤のところがカギになっていると思っていたのか、あまり自由にプレーさせませんでした。三笘が後半出てきましたが、人数をかけて対応していました。これまでの3試合、日本は中盤でボールを奪い返すところから、きちんとボールをつなぐことができていました。ところが、そこを相手に激しく来られて、守りから攻めへの切り替えがスムーズにできませんでした。敗戦は残念でしたが、W杯に向けての課題が明確になったでしょう。スペイン、ドイツがいるグループを突破しようとしているわけですから、まだまだやるべきことは多いわけです。

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2022年6月10日 日本代表 対 ガーナ代表

2022/06/13(月)

2022/6/10(金)日本/兵庫・ノエビアスタジアム神戸
日本代表4-1(2-1) ガーナ代表

――ガーナは今秋のカタールW杯出場を決めています。キリンカップ、ノックアウト形式の初戦、日本は立ち上がりから攻撃的にいきました


賀川:チーム全体が自分たちからシュートを打とうという気になっているのがよかったですね。6日のブラジル戦は善戦といえる内容でしたが、得点に関してはそこまでいけませんでしたから。とにかくどんどん打っていく。ゴールに近い位置にいる選手が、気負わずシュート動作に入っていました。チーム全体として、シュート意識のアップがうかがえます。前半最初、堂安が持ち込んでから放ったシュートにしても、思い切りがありました。シュートというのは打たないと入りません。頭で考えてじっとしていても入りません。ゴールに向かってどんどん蹴らないことには入りません。その気構えがよく出ていました。

――前線の選手がしっかりボールを追っているので、ガーナの選手は少し慌てながらボールを回していたようにみえました

賀川:日本の選手が激しくプレッシャーをかけるので、おのずと中盤でボールを奪い返す場面が増えました。だから、チャンスを多く作れました。遠藤のようにボールを奪い返すのが得意な選手だけでなく、久保なども必死で取り返そうとしていました。だから、試合のほとんどの時間帯で主導権を握れました。

――先制点は前半29分、右サイドでのパス回しから、右サイドバックの山根が決めました

賀川:この時間帯、両サイドで日本の選手が細かいパス交換で局面を打開するシーンが続きました。ダイレクトパスが入るとチャンスは広がります。右サイドの久保から堂安へのパスはややズレたようですが、堂安が伸ばした左足からのダイレクトパスがDFの裏に出て、そこに走りこんでいた山根につながった。このパスも山根が思っていたところとは違ったところに流れてきたようですが、体の向きを入れ替えて、左足でうまくゴール左スミに決めました。堂安と久保は東京五輪で一緒にプレーしていたので、あうんの呼吸のようなものがありますね。2002年の日韓W杯で監督を務めたフィリップ・トルシエはセレッソ大阪の森島寛晃、西澤明訓を評価していて、代表の試合でいい働きをしました。最終メンバーを考える上で2人1組セットという考え方もあります。

――その山根が前半43分、痛恨のミスパス。ロングパスを狙ったがミスキックになって、ゴール前にフリーだったガーナの選手へのパスになってしまった

賀川:シュートを決めた選手は右に打とうという構えを見せて、ゴール左へ突き刺しました。ブロックにきた吉田の動きを見ていたのでしょう。川島の読みも外されました。このあたりはさすがでした。ガーナもW杯に出るチームですから、見逃してくれません。

――前半終了間際に左サイドの三笘が切り込んで、クロスのようなボールを入れると、上田と堂安が走りこみました。合いませんでしたが、そのままゴールに吸い込まれました

賀川:右足のインフロントで鋭く回転をかけた見事なキックでした。ボールを受けた瞬間から余裕がありましたね。大きく右に持ち出してから、しっかりと足首を固定して鋭く蹴りました。誰かが触っても入るし、触らなくてもそのまま入る。GKが触れそうで触れないところを狙った、計算づくのプレーといえるでしょう。

――インサイドハーフを任された久保が後半28分、個人技で左サイドを突破した三笘のクロスに左足で合わせて、3点目。これが代表初ゴールでした

賀川:日本は久保にもっとボールを触らせる回数を増やした方がいいかもしれませんね。久保ばかりに触らせなくても、攻撃の形はあるというチームになっていますが、彼の能力を考えるとチームの大きな力になりますから。代表初ゴールが遅くなったことは、たまたまでしょう。本人は気にしていたかもしれませんが、これからいくらでも決めてくれると思います。彼がたくさんボールを触ったとき、チームの攻撃がどんな風にかわるか、まだ仲間があまりわかっていない、やってみないと分からないような感じなのかもしれません。この試合は相手のこともあるけれど、長友、南野ら大物はみんな休んでいる感じでした。日本は全体のレベルが上がっているから、そういうこともできるわけです。この6月シリーズ4連戦は、2戦目(6日)のブラジルと、最後(14日)のキリンカップ決勝に主力が出て、それ以外の2試合は2番手グループにチャンスが与えられた格好というところでしょうか。そういう意味では、久保はまだまだチャレンジする立場ということです。何度も相手に削られて、脚が痛そうにしていましたが、フル出場したということは、本人も今の立ち位置が分かっているでしょう。相手にぶつかられても倒れない選手が日本人の中でも増えてきているので、そのあたりが課題になります。シュートそのものは、三笘がゴールラインに近いところまで侵入してからクロスを上げているので、入れるだけでした。後ろに戻すということは、仲間のシュートのコースが広いわけだから、打ちやすい。久保の技術からすれば、難しいものではありませんでした。

――前田もゴールを決めて、4-1。アフリカのW杯出場チームを圧倒しました

賀川:いまの日本はボールを持てるのが当たり前という感じになっています。自分たちの代表チームの試合を見るのが楽しくなってきました。

――三笘はどうでした。切り札として期待されているようなところもありますが

賀川:フルに出していい選手でしょう。これだけ個人で打破できるのですから。長い時間プレーすれば、それだけ多くのチャンスを作り出すでしょう。彼がフルに出ないと勝てない相手がW杯ではなんぼでもくるわけですよ。サッカーっておもしろいもので、うまい選手がボールを持つと取られないわけですよね。だから、相手も行きたくない。行って抜かれて恥をかきたくないから、どうしてもそこに余裕ができるわけです。三笘がボールを持ったときもそう。飛び込んだらやられるのは間違いない。うかつに飛び込めない。だから三笘は相手の動きを見ながら仕掛けることができます。ライバルは南野ですか。彼も素晴らしい選手ですから。タイプの違う2人ですが、高いレベルで争ってほしいですね。森保監督もうれしい悩みでしょう。いまの日本代表は本当にうまいし、強くなりました。日本がボールを持って、攻めるのが当たり前にという感じにこのチームはなっている。最初から最後まで自分たちでゲームを支配していました。
――賀川さんの地元神戸での代表戦でした

賀川:3年前はノエビアスタジアム神戸で取材しましたが、まだコロナ禍も続いているので、テレビで観戦しました。ノエビアスタジアム神戸は神戸御崎球技場を建て直して、2002年の日韓W杯のときに誕生したスタジアムです。御崎球技場は日本にまだ芝生の専用球技場がなかった時代に神戸のサッカー関係者が力を合わせてつくったスタジアムでした。1970年、来日したベンフィカ・リスボンの一員として、エウゼビオがプレーしました。彼の機知にとんだプレー、シュートのうまさには感服したものです。日本サッカーの歴史の中で神戸の関係者が果たしてきた役割は決して小さなものではありません。日本代表の試合が継続的に神戸で行われることをうれしく思っています。

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2022年6月6日 日本代表 対 ブラジル代表

2022/06/07(火)

2022/6/6(月)日本/東京・国立競技場
日本代表 0-1(0-0) ブラジル代表

――東京五輪2020のために建て直した新国立競技場で初めての日本代表戦でした。国立競技場での代表の試合は8年ぶり、ブラジル代表の来日は優勝した2002年日韓W杯以来、20年ぶりのことでした

賀川:日本代表はブラジルを相手に後半途中まで点を取らせないで、頑張れるところまできましたね。日本は確かに上達し、実力もついていますが、試合の中でシュートをいくつか打てる形をつくらないとブラジルに勝とうということにはなりません。それが今の日本の実力というところでしょうか。向こうは本気というか、ここというところでもう一押しすればいいシーンでもしないというか、そこでシュートして入ったらええというやり方でした。やっぱりまだまだそういう点では差があります。だけども、ブラジルとここまでの試合ができるというところまで日本の実力が上がっているということです。これからもうひとつ上にいこうと思ったら、もっと自分の方から点を取りに行けるようなサッカーをせんといかんわけですね。それはまだまだこれからですね。

――前半はがんばった

賀川:これだけの試合を生で観ていたお客さんは楽しいでしょうね。いまの国立競技場は前の国立競技場の跡地に建て直したんですよね。あそこでのサッカーの試合は1975年の第3回アジア大会からずっと見ています。いつも一番いい場所で観ていたわけではないですが、国立での試合は一種独特の雰囲気がありました。陸上競技用のトラックがあるのですが、スタンドの傾斜が割合きつい構造になっていて、サッカーも見やすかった。非常にいい雰囲気でした。あのスタジアムできょうの試合のようなゲームを観ることができたらいいですね。

――日本の前にブラジルと対戦した韓国代表は1-5で敗れました

賀川:ブラジルを相手に何も準備しなかったら、それぐらいやられますよ。日本はこの試合に対して十分、いろいろ勉強してきたことがうかがえます。ある程度シュートを打たれることは織り込み済みで、シュートを打たれそうになったら、人数をかけて、密集して、ブロックしていました。前半で3点ぐらい入れられていてもおかしくありませんでした。後半いい時間帯まで0-0で来て、中盤にスペースもできて、日本がカウンターをしかけるシーンも出てきた。両翼に堂安、三笘を入れて、森保監督は勝負に出ました。しかし、前がかりになったときに堂安がボールを失って、そこでブラジルは一気に人数をかけて、日本ゴールに攻め込み、PKを得ました。日本に勝利への色気が出たところに生まれたスキを、見逃しませんね。

――いい試合をしても、勝つところまではなかなか遠い

賀川:こういう相手に対しても勝とうと思ったら、チャンスをつくらないといけません。ブラジルに押し込まれたらズルズルと下がりながらも、それでもボールを持ち直して再び前に出ていくということはできるようになりましたが、そこまでで。そこから攻撃に移るわけですが、相手の守備の外からシュートを打っているわけで、守備を崩して中に割り込んでいくということはできていない。このクラスを相手にするとそれはなかなか難しい。相手が強くても弱くても、自分から攻め込むというサッカーをできないといけません。向こうは前半から決定的な攻撃を何度か作っていて、そこから最後ゴールに押し込めないだけだった。日本は相手の防御網の外からシュートを打っている感じでした。それでも、森保監督になってから、試合全体が締まってくるようになった。ひとつ新しい日本のサッカーの形ができるようになりましたね。

――ブラジルはどうでした

賀川:ネイマールは大きくみえましたね。きょうの試合なんかみたら、やっぱりブラジル代表は世界にそういくつもないチームのひとつだということが、試合が始まって10分ほどで分かります。試合の楽しさを見てもね。選手一人一人の実力といい、うまさといい。こういうチームがすぐ作れるというのがすごい。パッと集まってこれだけのプレーができる。ブラジル代表はそれぞれのときの代表のうまさがあります。日本代表もずいぶん経験を積んだから、これだけの試合になっていますね。いつの大会でもブラジル代表が一番強いチームで、一番うまいチームですよ。だからといって、必ずその大会で勝てるとは限らない。それがサッカーのおもしろいところですね。いつみてもブラジルの試合はワクワクします。親善試合でブラジルと対戦できるのですから、日本のサッカーにとっては、結構なことです。観ている人にとっては面白い試合でした。この試合をみて、やっぱり日本とブラジルのこの差をどう埋めるかということを、サッカーのファンの人が自分たちで考えるようになれば、もっと日本のサッカーがレベルアップしてくるわけですよ。僕らにとっては非常に楽しいし、面白い試合でした。

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2022年6月2日 日本代表 対 パラグアイ代表

2022/06/04(土)

2022/6/2(木)日本/北海道・札幌ドーム
日本代表 4-1(2-0) パラグアイ代表

――今秋のカタールW杯に向けて、メンバー選考が本格化します。6月シリーズの第1戦でした。パラグアイはカタールW杯出場を逃していますが、2010年の南アフリカW杯、ラウンドオブ16で対戦しPK戦で敗れた実力国です

賀川:日本の選手は本当にうまくなっていますね。南米のこのクラスを相手にしても、自信をもってプレーしていた。ほとんどの代表選手が海外でプレーしているので、うまい選手とやり慣れている。若い時から欧州にいっているので、レベルの高い相手と試合をすることが当たり前になっていますからね。とにかく彼らは相当なスピードでボールを扱いながら、正確に味方に渡したり、受け取ったりするのにミスがない。1964年の東京五輪前の日本代表と比べればまるで違います。

ーー先制点はカウンターで裏に抜け出した浅野がうまくボールを浮かせて決めました。2点目は堂安の左足で鋭く曲がってくるクロスに鎌田が頭で合わせました

賀川:どちらのゴールも個人の技術が高いですよね。外国の同年齢の代表選手と比べても引けを取ることはないでしょう。子供のときからうまい選手同士で競争してきていますから。手を抜けませんよね。18―22歳ぐらいになるまでのトップクラスに入ってくる日本の選手の練習量やボールを蹴ってきた数が違いますからね、この年代の選手の練習量は相当なものがあります。初めてみるような選手も多いですが、みんなうまいですね。吉田麻也がスタメンにいるとホッとしますが。今の選手は子供のころから競争のレベルが違う。ちょっと下手なことをしたら、置いていかれます。一昔前なら南米のパラグアイが来日するとなったら、国は豊かではないが、サッカーが盛んなところで、子供たちは小さいころからやっているので、一人一人個人的には日本の選手に比べればうまいということになっていましたが、この試合をみてそう思いますか? パラグアイの選手は、どこが日本の選手より勝っていますか? と聞いてみたいぐらい、日本の選手はうまくなりました。選手も自信があるから、これだけの試合ができるわけです。ここまで来るのに時間がかかりましたが、ここまでくれば日本のサッカーもさらに高いレベルまで積み上げていくことができます。

――右サイドに張り出していた堂安がヒールパスを織り交ぜたり、アイデアも遊び心もありました

賀川:日本の選手のいいところは、ほとんど自然体でやっていたところでしたね。堂安はヒールパスでも当たり前のようにやります。子供の時の遊び心がプレーに入っています。立ち上げた当時の神戸フットボールクラブでも同じようなプレーをやっていました。古い先輩方や若い連中に練習を観てもらったとき、「そんなに遊んでばっかりでええんですか」と言われましたが、遊びながら練習しているから、だんだんうまくなるわけです。日本代表が高いレベルを保つことになると子供たちはJFAのユニホームを着ることに憧れます。願わくは、この日本代表レベルのプレーをするJクラブが出てきてくれれば。そうすればJリーグがさらに魅力的になると思います。

――選手の力強さも目につきました

賀川:谷口なんかはいい身体つきをしていますね。みんな胸板が厚くなって、フィジカルで海外勢と見劣りしない。計画的にトレーニングできているのでしょう。突破力のある堂安、三笘に対してパラグアイの選手は手を使って止めにいってましたが、2人とも簡単に倒れず、ボールをもったまま、どんどんゴールに向かっていった。ファウルをもらいにいく気配すらない。頼もしい限りです。これだけうまくなったら倒れてファウルをもらう必要がないわけですよ。

――言い忘れたことないですか

賀川:後半途中から出てきた久保にリーダーの資質を感じました。年齢的には一番若いのに周りに堂々と指示を出している。いいチームになってきましたね。W杯本番に向けては超ノッポ対策ができるか。長身選手に対してどう対応するか、パラグアイはそこまで大きな選手がいませんでした。背の高さで脅しをかけられることもありますから。チーム全体の能力も高いし、運動量もありますし、こぼれ球へのアプローチもしっかりしています。うまくプレーするだけでなく、球際の争いにも強くなってきました。6日のブラジル戦が楽しみですね。楽しい試合を見ることができました。

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2021年7月17日 U-24日本代表 対 U-24スペイン代表

2021/07/18(日)

2021/7/17(土)日本/神戸市・ノエビアスタジアム

U-24日本代表 1-1(1-0) U-24スペイン代表

 

――東京五輪2020に向けた最終調整の相手が優勝候補のスペインでした。最近の日本代表はどこと対戦してもボールを保持する展開が多かったのですが、スペインが相手ではそうはいきませんでした

賀川:日本の選手もうまくなっているし、お互いのレベルが高いので、ミスも少ない。非常にレベルの高い試合になりましたが、さすがにこれぐらいのレベルを相手にしては、思うようにはいきません。前半日本がボールを保持する時間は短かったのですが、自分のところのボールになって攻めに出たとき、スペインもさすがで守備に入る動きが早かったですね。すぐに攻撃に出れば有利になるのは間違いないのですが、相手の守備陣形が整うので、マイボールにしてからちょっとゆっくりしているようなところもありました。そこから1人でいくのか、2人がかりでいくのか、人数のかけ方がはっきりせず、一気に優位になる可能性があった局面がそうでなくなったケースもありました。自分の方に危険性があっても、人数をかけて攻めに出るとか、そういうシーンが増えれば、どうなったのかなとは思います。互いに中盤で自分たちのペースにもっていく駆け引きは非常におもしろかった。これぐらいの攻防を見せてもらえると見応えのある試合になりますね。

――先制点は日本でした。前半42分、久保が左サイドから崩して、堂安が左足で決めました

賀川:左サイドのスローインを受けた久保が左足でドリブルに出て、右腕で相手を抑えるような形で前に出ました。相手も体を寄せてきましたが、久保が右腕をうまく使って押さえるような形になり、体勢を崩したマーカーは、空を見上げるような形でゴロンと転びました。フリーになって余裕ができた久保は左サイドに侵入してから、スペースに張り込んだ堂安にピッタリと合わせて、先制点になりました。堂安は動きの量としては多くないですが、ここぞという場面をきっちりと決める選手ですね。ダイレクトで左足のインフロント部分でボールを巻き込むように蹴り、ゴール左上、GKの頭上を抜きました。決めて当たり前みたいな顔をしていました。ファーストシュートをしっかり決めるというのは簡単なことではありません。堂安にしても久保にしてもボール扱いが達者で、欧州の選手と試合をするのも慣れていますから。最終調整で最高の結果が出ました。

――久保のドリブルは大きな武器になる

賀川:これぐらいの相手に勝とうとするなら、どこかで無理をする必要があります。守備も堅いわけですから、ボールを回しているだけでは守備網を破れません。そういうときは個人の突破、久保のような強引なドリブルが、有効になります。久保は幼い頃からスペインでプレーしていたので、よく知っている相手ばかりなのでしょう。気後れすることもなかった。やってやろうとずいぶん意識もしていたようです。左足でボールを持ったときに、マークを外しにかかるときでも、わざと余分に時間を使うときがあります。そうすることによって、後ろから上がっていく選手が前線に到着するまでの時間を数秒稼ぐとか、チーム全体の攻撃の時間を調整する役割を自然と果たしています。スペインは強国のひとつですが、久保にとっては、いつもやっている連中なので、普通にできていた。いろんなことができる久保が危険な選手なのは明らかで、おのずと相手が引きつけられます。だから、堂安が割合楽にプレーでき、得点を取ることに集中できています。この左利きコンビは本番でも大いに期待しています。

――後半、スペインが意地を見せて、ドローに終わりました。スペインは欧州選手権に参加していたメンバーが加わったばかりで、チームとしての調整はこれからのようでしたが、後半主力を出してきてからの攻撃はさすがでした

賀川:彼らにとっては完全な調整試合だったのでしょう。とはいえ、さすがに日本に負ければバツが悪いので、引き分けならばスペインにとっても上出来だったのでは。格が上の相手に、試合開始からボールを支配されることになっても、数少ない得点機を決めて、ゲームは負けないというような試合をしょっちゅう見せてもらえるようになれば、日本も欧州レベルに近づいたということになるのでしょうね。ただスペインは日本が守備ラインでボールを持っているときの、前の選手のつぶしがそれほど激しくありませんでした。本番のように前の選手が死にものぐるいでガリガリとつぶしに来ていれば、スコアも違っていたかもしれません。この試合はそういう試合ではありませんでした。

――いよいよ開会式の前日の22日、南アフリカとの初戦を迎えます、25日にメキシコ、28日にフランスと対戦します。

賀川:ワールドカップでも五輪でもそうですが、大きな国際大会は何においても最初の試合がもっとも大切になります。強豪国であっても、初戦に負けて、そこから勝ち上がるというのは本当に難しいことになります。勝ち点うんぬんでなく、結果、引き分けになっても初戦で勢いづくゲームをすることが、勝ち上がるための絶対条件です。1964年の東京五輪は駒沢競技場でアルゼンチンと対戦し、32で勝ちました。デッドマール・クラマーをコーチに迎え、強化を図って臨んだオリンピックでしたが、当時のサッカーの関係者にはお祭り気分はありませんでした。サッカーは世界で最も人気があるスポーツですが、日本国内ではまだまだマイナースポーツの域を出ておらず、自国開催の五輪で結果を出さないと置いていかれるのではという悲壮感でいっぱいでした。五輪は陸上、水泳がメジャーですが、実はほとんどの競技がマイナーで、普段はあまり関心を持ってもらえません。プロが参加しているとの疑惑が持ち上がったイタリアの辞退で2試合となったファーストラウンドは初戦のアルゼンチンに32で逆転勝ち。2試合目は負けたのですが、初戦の奮闘があり、2位で準々決勝に進みました。4年後の1968年メキシコ五輪も初戦で釜本邦茂がハットトリックを決めて、ナイジェリアに勝ち、大いに自信をつかんで、銅メダルまで駆け上がりました。ワールドカップや五輪で優勝経験はまだない日本ですが、この20数年は欠かさず両大会に出場しており、経験を積んできました。初戦の重要性は森保監督も熟知しているでしょう。だから、このままいけば番狂わせの可能性があったこの試合でも、後半7人もメンバーを入れ替えて、調整を優先させました。1年延期されたことで、選手は大変だったと思いますが、このチームに関してはしっかりとした準備ができたのではないでしょうか。大会が無観客になったのは非常に残念ですが、このコロナ禍の状況下で、五輪の開催そのものについても、さまざまな声が寄せられる中、自分たちができることに向き合い、取り組み、まさにコロナと戦ってきた1年間だったと思います。今回の五輪では、サッカーに限らず、アスリートのみなさんが持つ、本当の人間の強さを見せてもらえるような予感がしています。

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2021年7月11日 U-24日本代表 対 U-24ホンジュラス代表

2021/07/13(火)

2021/7/11(月)日本/大阪市・ヨドコウ桜スタジアム

U-24日本代表 3-1(2-0) U-24ホンジュラス代表

――東京五輪初戦の南アフリカ戦の10日前。B組で出場するホンジュラスとの対戦でした。第1ラウンドA組の第2戦で対戦するメキシコを想定したゲームだったようですが、結果も内容もいい試合でしたね

賀川:これだけの技量を持ったチーム同士が戦うと、見ていて面白い試合になりますね。キックオフから6分間ぐらいは、両チームをあわせて、3つぐらいしかミスらしいものはありませんでした。その間、何十回とボールを触っているのに。それぐらいレベルが高かった。日本は無理して攻撃を仕掛けるわけでなく、全体でボールを回して、散らして、つないで、最後に誰かがノーマークになって、点を取っていました。強引にならなくても、ボールを回しているうちにスペースをつくって、危険なエリアに侵入していました。パス交換だけでなく、時には個人の技術と判断で、瞬時に相手のマークを外して、守備陣を破って一気に優位な場面を作るシーンが何度もありました。常に相手ゴールに向かっていく姿勢がありました。だから、見ていて面白かった。こういうトライを続けながら、得点も取れるようになると、期待が持てます。日本のサッカーファンは目が肥えているのですが、そういったみなさんも満足できる内容だったのではないでしょうか。森保監督としても、チームとしてもいい調整ができているようです。ホンジュラスも技術の高い選手が揃っていました。本番が楽しみですね。

――先制点はセットプレーから。田中がフェイクをした後、久保が左足でやや緩め、大きく弧を描いて落ちるボールをDFラインとGKの間にうまく入れ、吉田が合わせました

賀川:セットプレーということはキッカーがフリーになるので、思ったところに蹴ることができます。それに対して、チームメートも想定したところに入っていけます。田中が蹴るフリをしたのでホンジュラスの守備陣がいったん前に出たところ、後ろから走り込んだ吉田に久保がピタリと合わせました。吉田は右足のアウトサイドで流し込むだけでしたね。CKではショートコーナーを多用していました。あらかじめ決めていたのではなく、相手の守備陣形が整わないと判断して、やっていたように感じました。五輪では大柄な相手選手と対戦するので、いろんなバリエーションを準備しているのでしょう。

――2点目は前半40分、堂安が利き足とは逆の右足で追加点

 

賀川:日本の攻撃が弾き返されて、相手ボールになりそうになったのですが、冨安が激しくプレッシャーを掛けて、すぐに奪い返しました。相手が前がかりになっている局面で攻守が入れ替わると、攻撃側にとっては大きなチャンスになります。冨安は久保に預けたあと、さらに左サイドを駆け上がっていきました。オーバーラップする選手に対するマーカーはいないので、なかなか捕まえられません。久保から再びボールを受けた冨安が左サイドで右足に持ちかえて低いクロスを入れ、三好がスルー、中央でゴールを背にして受けた林が、前を向いて準備万端、文句無しでノーマークだった堂安の前に落としました。丁寧なラストパスを堂安は落ち着いて、GKの逆を狙ってゴール左へ。ダイレクトプレーの連続にGKは対応できませんでしたね。遠藤も田中も中盤で思い切りよく激しくチャージして、相手ボールを奪い返していたので、そこからチャンスをつくるシーンがありました。森保監督が目指すスタイルのひとつなのでしょう。

――堂安は背番号10を背負っています。同じ左利きの久保も注目されています。やはり意識しているのでしょうか

賀川:どうなんでしょうね。久保は同じ左利きですが、堂安の方が年上ですし。後半40分の3点目もうまく、左からのクロスに飛び出し、GKの前で少しだけ触ってコースを変えて、ゴールに流し込みました。チームとしては、つないで、つないで、走って、走って、そして最後に一番いい場面を持っていくのが堂安なのかもしれません。2点目も落ち着いて、サイドキックで狙ったところに蹴っていました。そういう選手はチームに必要です。この日のスタメンには堂安、久保、三好、中山と左利きの選手が多かった。得点を取るには、サイド攻撃が重要になりますし、左利きで正確なキックを蹴ることができる選手が複数いるというのは、日本にとって大きな強みになりますね。

 

――仕上がり具合はどうですか

賀川:守備陣はオーバーエイジ組が入って安定していますし、コンディションもよさそう。もう少し緊張感があった方がいいかとも思いますが、今の選手は大舞台慣れしていますから、心配していません。ましてや東京五輪はホームですから、移動も時差もありません。17日のスペイン戦も楽しみです。

――男子の五輪代表は大阪で合宿を行い、最終調整しています

賀川:ヨドコウ桜スタジアムは、長居スタジアムのとなりにあり、改修前は人工芝でアメリカンフットボールやホッケーが行われていた球技場でした。トラックがないので、スタンドが近く、臨場感があります。長居スタジアムは2002年日韓W杯など、数々の国際試合を行ってきた立派な器なのですが、陸上競技場なのでピッチとスタンドの間に距離があります。ヨドコウ桜スタジアムを新しくホームスタジアムにしたセレッソ大阪はいいところに目をつけましたね。1964年の東京五輪では、FIFA(国際サッカー連盟)と日本サッカー協会(JFA)が協力し、準々決勝で敗退したチームを大阪、京都に招く、5〜8位決定戦が開催されました。五輪の熱気を東京以外の都市にも広げ、競技の普及につなげるために関西サッカー連盟の関係者が尽力して実現した大会で、「大阪トーナメント」と呼ばれました。その会場のひとつが、長居陸上競技場でした。ユーゴ代表にはのちに日本代表の監督になるイビチャ・オシムがいて、FWで出場した日本戦で2得点しました。そういった経緯を考えると、長い年月を経ても、前回から今回の東京五輪へ、受け継がれているものがあるように感じます。

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